あいつの天秤

風音蒼生

序幕

 一面に赤黒い世界が広がっていた。

 いつも黒く星が綺麗に見れるはずの空は夕焼けのように赤く染まる。しかし今は日没ではない。残り五分で新年を迎える時間だ。親から貰った腕時計を確認して、もう一度自分の町を見下ろす。

 平和だったはずの町は炎に焼かれ、火の粉が舞っている。走ったせいで火照った体と熱風のせいで汗が滝のように流れる。

 まだ火の手が回っていない山に逃げ込めた僕は、燃え盛る町を見ていることしかできなかった。ここももうすぐ火に飲み込まれることになるだろう。逃げたくても、もう何処も逃げ場は無い。

 他にも炎から逃げてきた人がいるが、みんな顔に不安の色が宿っている。親と一緒にくっついている少女は目に涙を溜めて、赤色の世界を見ていた。泣いても良いはずなのに泣いてない。

 辺りを見回して気がつく。見知った顔が無い。携帯で連絡を取ろうにも繋がらず、家族や友達の安否を確認することができない。わかっているのはこの災厄が世界中で起こっていること、この災厄を阻止しようと神が降りてきた優しい神様がいるということだけだ。

「ひ、火が!回ってきたぞ!」

 ビクリと体が震えた。静かだったこの場所にも恐怖に叫ぶ声が、鳴き声が響き始めた。悲鳴が死が迫っていることを知らせていた。

 この状況に僕は目を強く瞑ることしかできなかった。臆病な自分が情けないとは思う。でも、怖い。

 誰でもいい。大丈夫だと、これは悪夢なんだと言ってくれ……

「少年!!」

 懐かしい声が聞こえ、僕は目を開いた。

「奏っ…!」

 宙に浮かぶ奏の腕を引き寄せ抱きしめる。奏も抱きしめ返してくれた。

「ごめ、だめ…だった。間に合わなかった」

 奏が力を無して体重が重くなる。落とさないようにゆっくりと地に下した。

「大丈夫!?」

 そういうと奏は無理やり笑顔を作った。

「大丈夫…じゃない、かな。力がもう…残ってない。もうすぐで消える」

 消える?奏の言っている意味が理解できなかった。

「何言ってるの?あんたは神だから消えるはずないだろ」

「こういったほうが、わかりやすいかな。少年が死ぬ前に私が死ぬの」


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