難しくないことも「難しい…。」

 その日のアルバイトはとても充実していた。

 特に失敗をすることもなく、お客さんからのクレームが来るわけでもなく、さまよう霊が来るわけでもなく、強盗が来るわけでもなく、隕石が降ってくるわけでもなく。充実と言うよりかは、


「平和ですね~。」

「そうっすね。そういや、ロアンちゃん。最近いろいろなことがあったそうっすけど、大丈夫でしたか?」

「いえいえ、お気遣いなく。大丈夫でしたよ。」


 今、レジで私の横にいるこの人は、


 永田元浩ながたもとひろさん。16歳の現役高校生。かなりチャラそうに見えますが、中身はかなりいい人で、よく一緒に話しています。彼女はいないそうです。(明さん情報)


「そういえば、ロアンちゃんって、武さんのことが好きだったんっすよね?」

「…」


 は?は?は?なんでもとくん(あだ名)がこの事知ってるの!?あれは、私と武さん以外知らないはず…


「あっ、裏口の近くで見てたんっすよ。」

「ちょっと今から裏口に来てくれますか?」

「なんっすか?」


 トコトコトコ。


 ゲシッ


 テクテクテク


「あ、いらっしゃいませー。」

「いやいや、普通に仕事に戻らないでくださいよー!俺、ほったらかしにされて、すっごく悲しいんっすから~!」

「うるせぇ。来んな。ゴミ。」(小声)

「はぁぅ。ちょ、ひどいっすよ!」


 ん?今、こいつの反応に何か…。


「あの、ロアンちゃん。聞いてほしいことがあるんすけど…。仕事が終わったら、時間、あるっすか?」

「ない訳じゃないですけど…。」

「じゃあ、待ってるっす!」


 そう言って、商品の補充に入った。胸の鼓動がうるさい。ドキドキしっぱなしだ。


 仕事終わりに、裏口から出てくると、元くんがいた。


「で、話はなんですか?元くん。」

「あの、ロアンちゃん…。」


「俺と、付き合ってくださいっす!」


「……」


「ロアンちゃんが武さんを好きなことは、嫌なくらい、わかってるつもりっす。でも、俺は、ロアンちゃんのことがマジで好きなんっすよ!」


「……」


「俺じゃ、ダメっすか?」


 涙目で、しかも上目遣いでそんな告白されたら、私…。


「……うん。ありがとう。」

「じゃあ…!」

「でも、ごめんなさい。」


 深々と頭を下げてそう言った。


「……。やっぱり、そうっすか。」


 頭をかきながら元くんが呟く。


「…。やっぱり、ロアンちゃんは、武さんのことが好きなんっすよね?」

「……うん。」


 少し落ち込んだようすの元くん。


「いきなりこんなこと言ってすみませんでした。じゃあ」


 そう言って、顔をあげた元くんはいつも通りの笑顔で…


「また明日っす!」


 明るくそう言って、走り去っていった。



「うう。……。」


 柄にもなく涙がこぼれる元浩。


「やっぱり俺じゃ、ダメだったんっすね。」


空には、満点の星がちりばめられていた。

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