難しくないことも「難しい…。」
その日のアルバイトはとても充実していた。
特に失敗をすることもなく、お客さんからのクレームが来るわけでもなく、さまよう霊が来るわけでもなく、強盗が来るわけでもなく、隕石が降ってくるわけでもなく。充実と言うよりかは、
「平和ですね~。」
「そうっすね。そういや、ロアンちゃん。最近いろいろなことがあったそうっすけど、大丈夫でしたか?」
「いえいえ、お気遣いなく。大丈夫でしたよ。」
今、レジで私の横にいるこの人は、
「そういえば、ロアンちゃんって、武さんのことが好きだったんっすよね?」
「…」
は?は?は?なんで
「あっ、裏口の近くで見てたんっすよ。」
「ちょっと今から裏口に来てくれますか?」
「なんっすか?」
トコトコトコ。
ゲシッ
テクテクテク
「あ、いらっしゃいませー。」
「いやいや、普通に仕事に戻らないでくださいよー!俺、ほったらかしにされて、すっごく悲しいんっすから~!」
「うるせぇ。来んな。ゴミ。」(小声)
「はぁぅ。ちょ、ひどいっすよ!」
ん?今、こいつの反応に何か…。
「あの、ロアンちゃん。聞いてほしいことがあるんすけど…。仕事が終わったら、時間、あるっすか?」
「ない訳じゃないですけど…。」
「じゃあ、待ってるっす!」
そう言って、商品の補充に入った。胸の鼓動がうるさい。ドキドキしっぱなしだ。
仕事終わりに、裏口から出てくると、元くんがいた。
「で、話はなんですか?元くん。」
「あの、ロアンちゃん…。」
「俺と、付き合ってくださいっす!」
「……」
「ロアンちゃんが武さんを好きなことは、嫌なくらい、わかってるつもりっす。でも、俺は、ロアンちゃんのことがマジで好きなんっすよ!」
「……」
「俺じゃ、ダメっすか?」
涙目で、しかも上目遣いでそんな告白されたら、私…。
「……うん。ありがとう。」
「じゃあ…!」
「でも、ごめんなさい。」
深々と頭を下げてそう言った。
「……。やっぱり、そうっすか。」
頭をかきながら元くんが呟く。
「…。やっぱり、ロアンちゃんは、武さんのことが好きなんっすよね?」
「……うん。」
少し落ち込んだようすの元くん。
「いきなりこんなこと言ってすみませんでした。じゃあ」
そう言って、顔をあげた元くんはいつも通りの笑顔で…
「また明日っす!」
明るくそう言って、走り去っていった。
「うう。……。」
柄にもなく涙がこぼれる元浩。
「やっぱり俺じゃ、ダメだったんっすね。」
空には、満点の星がちりばめられていた。
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