第2話

 よう。俺の名前はファイア。修練レベルは相変わらず1だ。


「オレ……すごいことに気がついたぞ……」


 勇者がいるのも相変わらず“はじまりのどうくつ”だ。

 ただこの日いつもと違うのは、なにやら勇者が興奮した様子であることだけだ。


「ロッドで! 殴れば! モンスターを倒せるッ!」


 ウオォッと雄叫びを上げながら、勇者は目の前のスライムにロッドで殴りかかった。


「ああああッ! 1ダメージ与えたぞ! 間違いない……ロッドで殴ればモンスターを倒せるんだあッ!」


 よっしゃあああと勇者はロッドを高く掲げた。おいおい、マジかよ。新たな道が切り開けたじゃないか。いや、殴り開けたじゃないか。俺も嬉しいぜ。


「アアッ」


 だが次の瞬間、勇者の雄叫びが悲鳴に変わった。忘れていたが勇者のターンが終われば次は敵のターンが来るんだった。勇者はスライムのこうげきを受けた。

 スライムから受けたダメージは10だ。おいおい、マジかよ、スライムのほうが攻撃力が高いぜ、おい。

 ともかくスライムのターンも終わったので、次は勇者のターンだ。カッコイイとこ見せろよ。


「たあっ」


 勇者はまたも1ダメージをスライムに与えた。そしてまたもや10ダメージ喰らった。


「いや……まてよ……」


 勇者のターンだからスライムからのこうげきは来ない。勇者はゼエゼエ言いながら何かを考えている。打たれ弱すぎだろ。まあ、初期装備だから仕方ないか。


「倒したことないからわからないんだけど……このスライム……HPはいくつあるんだ……?」


 勇者はゴクリと息を飲んだ。


「倒したことないから……本当にわからない……」


 俺もわからない。

 勇者はみるみる青ざめていく。なんだかスライムのニタニタ顔が般若に見えてきたんだが、それは勇者も同感のようだ。

 勇者がスライムに与えるダメージは1。スライムが勇者に与えるダメージは10。


「ハッキリわかっていることはただひとつ……」


 勇者の冷や汗が地に落ちた。


「オレのHPは……30だ……」


 この日、勇者は目の前が真っ暗になった。

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