勇者のレベルが上がらないのはいつだって魔法のせいだった

急式行子

第1話

 よう。俺の名前はファイア。修練レベルは1だ。


「ここだ! ファイア〜ッ!」


 俺はこの、駆け出しの勇者の初期魔法だ。駆け出しだから勇者のレベルもたったの1だ。勇者が駆け出してから、およそ一ヶ月だがそれでもレベル1だ。情けないことにレベル1なんだ。


「……ッまたスカしかよぉーッ! たのむよ、いいかげんモンスターに当たってくれよぉーッ!」


 いま勇者がいるのは初期ダンジョンの“はじまりのどうくつ”だ。駆け出してから一ヶ月だがまだ“はじまりのどうくつ”だ。

 俺はたったいま、勇者の前に現れたスライムに向かって放たれた。このスライムのレベルも1のようだが詳しい情報はわからない。なんてったってこの勇者、いままでスライム一匹さえ倒したことがないんだ。勇者が聞いて呆れるぜ。と思ったが、この世界に勇者はコイツひとりだけだから呆れるも何もクソもなかった。むしろスライムが呆れているに違いない。


 なんせ、俺はまだ、敵に命中したことがない。


「たのむよォ……オレ、こくおうに“魔王を倒してくれ”って言われたんだよ……それも一ヶ月前のことだよ……一ヶ月、オレはまだはじまりのどうくつさえクリアできていないんだよ……」


 勇者が勇者になったのはそういう経緯だ。


「ハア……こんなことなら、こくおうから“この武器の中から好きなものを選ぶがよい”って言われたときに、ロッドなんて選ぶんじゃなかった……」


 そう、この勇者は一ヶ月前からロッドを装備している。防具はレザーアーマーだ。


「せめてソードさえ選んでいればッ! オレはいまごろ、“しれんのもり”だってクリアできてたッ!」


 “しれんのもり”はこの次のダンジョンだ。


「はあ……MPもなくなったし、王都に帰ろ……」


 こうして勇者は今日も今日とて無料のベッドでMPを回復するのだ。スライム一匹倒せていないからお金もない。お金がないから城のベッドで回復している。こくおうが用意してくれた無料のベッドだ。これが一ヶ月だ、まったく情けない勇者だぜ。


「オレのレベルが上がらないのはいつだって魔法のせいなんだ!」


 勇者は迫りくるモンスターを避けながら、はじまりのどうくつの入り口へと戻っていった。


 勇者よ、言っとくが、おまえのレベルが上がらないのは俺の修練レベルを上げないのが悪い。

 俺の命中率も、たったの1なんだぜ。

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