第2話 パロネタリウムのふたご

「東中出身、しゃふと。

 ただの小説には興味ありません。この中に推理小説、SF小説、学園小説、クトゥルフ神話がいたら、私のところへ来なさい。以上!」


 はてさて、前回日本が大変なことになったのをスッキリ綺麗になかったことにして始まりました第2回。

 しゃふとが腕を組み、ドヤ顔で謎の挨拶をかます。当然、他の作家仲間は困惑しきりだ。


「えっと……『涼宮ハ〇ヒ』、ですよね?」


 遠慮がちに言ったのは、OL兼カクヨム作家の『浅葱(以下浅葱)』。


「そう。今の挨拶は『涼宮〇ルヒ』冒頭でのハ〇ヒの自己紹介をパロディしたものなのです」

「数々のオタクが、高校の自己紹介でこれをやって死んでいったらしいですね」

「ああ、うちにもそういうのいたなぁ……ハ〇ヒじゃないけど、『好きな女性のタイプは?』って聞かれて、『金〇の闇』って答えたヤツ……」

「自らをマイノリティーと自覚することが必要ですねぇ」

「……ま、まぁその話は置いといて。今回の議題はこれです」


 しゃふとは水性ペンを持ち、素早くホワイトボードに走り書きする。


「『パロネタ』は、どこまでセーフでどこからアウトなのか?」


 他の人間が口を挟む前に、しゃふとは慌てて説明不足の部分に解説をくわえた。


「あー、この『セーフかアウトか?』というのは、何も著作権的にセーフかアウトか、という意味に限りません。例えば、どこまでコアなネタなら出してもいいのかとか、そういったことも含めてです」

「コアなネタ……。す、すいません、ちょっとよく分からないので例を出していただけると……」

「そうですね、浅葱さんの言う通りです。分かりやすく例を上げるなら……」


 しゃふとはしばし俯いて考え、やがて手を打った。


「『このマンガ、ヒロアカみたいだな』って言えば伝わるけど、『このマンガ、オーマガみたいだな』って言っても伝わらないでしょう?」

「きゃあああ!!て、撤回してください!!」

「ありとあらゆる方面から叩かれるわ!堀越先生の人望と人気なめんな!?」

「す、すいません!えっと、じゃあアレだ。『お前スト2のリュウみたいな顔してんな』って言うと伝わるけど、『お前スト3のアレックスみたいだな』って言うと伝わらないでしょう?」

「あ、あれっくす…………?すいません、リュウは分かるんですけど……」

「それもやめてください!マジで!!」

「ストリート〇ァイターといい逆〇裁判といい、カ〇コンさんはいっつも主人公交代に失敗してますよねぇ」

「アイリス余計なこと言うな!!」

「逆裁5と6は面白かったでしょうに!」


 1~3までが神すぎて、なかなか最新作がそのハードルを越えられないという状態にある逆〇裁判については置いておいて。


「そう……パロネタを使う上でもっとも恐るべきなのは、権利者削除でもなんでもなく、読者に伝わらないことなのです!!」

「まぁ分かる気もするな……パロネタかどうか分からないけど、俺もこの前、新入社員と話してた時に、『火曜サ〇ペンス劇場みたいな話だな』って言ったら伝わらなくて、ものすごい悲しい思いをした」

『うわあ………………』

「今は土曜ワ〇ド劇場ですからね。……そこらへんの年齢層のみなさんは若い方と会話をするとき、気を付けてくださいね」

「『家〇婦のミタ』ってドラマあったじゃないですか。あれ、いったいどれだけの若者が、元ネタの『家〇婦は見た』を知ってたんですかね……」

「私も同級生と話してて、伝わりませんでしたぁ」


「と、このように、パロネタが伝わるか伝わらないかといった判断は、小説以外の日常生活でも、頻繁に求められるのです!みなさんパロネタや固有名詞を使う前に一度考えてください……『そのネタ、伝わりますか』!?」


 中学校の時の友達に対して、高校の先生のモノマネをして全くウケなかったこととかありませんか!?


 日常生活でネットスラング使って、「え、何それ?」と真顔で説明を求められたこととかありませんか!?


 友達に『攻めの反対は?』とか聞いちゃってたりしませんか!?

 それで「え?守りじゃないの?」って答えた友達に内心ニヤリとしてたりしませんか!?それで何を得たんですかあなたは!?


 ラノベ主人公に影響されて、常日頃から別になんでもないような局面でも「やれやれ」とか言ってたりしませんか!?


 ジョ〇ョ立ちしたのに伝わらなくて、「何それウケる」って普通に一発ギャグだと思われたりしてませんか!?


 ニュース見てて、まだ犯人が分かっていない殺人事件のニュースが読まれたら、とりあえず「犯人はヤス」とか言ってたりしませんか!?


 ヴェ〇タースオリジナルを食べるときいちいち「私のお爺さんがくれた特別なキャンディ」とか言って、友達をポカンとさせたりしてませんか!?


 あと貧乳をネタにできるのは二次元だけだからな!三次元の女子に「貧乳萌え」とかゼッタイ安易に言っちゃダメだからな!

 こないだ、オタクこじらせてる作者の友達が、ギャルっぽい女子とのファーストコンタクトでそれ言って…………その子に彼氏がいて…………………不良で……ボコボコにされてて…………………………………………………………。


「途中からなにか脱線してる感じもしますが、上記のうち3つ当てはまったあなたは要注意です。普段から『私はマイノリティ私はマイノリティ』と自分に暗示をかけておくことをオススメします」

「勝手に作った心理学療法みたいなのを教えるな!」

「し、しゃふとさん。恐れ多いのですが、この議題、線引きは難しいのでは……?」

「難しいからこそ、みなさんのお力を拝借したいのです」

「お力って?」


「すなわち、どんどん例を出していってください、ということです!」


 ガラケーは伝わるけど、ポケベルは伝わらない!


 バズーカと言えば伝わるけど、RPGと言えば伝わらない!


 ポケ〇ン不思〇のダンジョンは伝わるけど、風来のシ○ンは伝わらない!


 お婆ちゃんには『アニメ』のことは『まんが』と言わないと伝わらない!(最近はもうこういうケースはないのかな)


 岸〇斉史は伝わるけど、岸〇聖史は伝わらない!


 生〇会役員共は伝わるけど、濱〇アイは伝わらない!


 乃木〇春香の秘密は伝わるけど、はにトラは伝わらない!


 カクヨムと小〇家になろうは伝わるけど、ハー〇ルンと魔法のi〇んどとあそことあそことあそこはちょっと伝わらないんじゃないかな……。


「……ってな感じで」

「嫌だよ!なんでわざわざ自分を危ない方向に持ってかなきゃいけないんだよ!」

「666読んでました!聖史先生大好きです!悪意なんかないんですぅぅ!!」

「『絶〇先生の作者』って言っても伝わらないけど、『じょ〇らくの原作』って言えば伝わ……」

「言わせねぇよ!?」

「この小説の構成自体、久〇田先生のマンガ様式を小説でパロディしてるようなものなんですよ!?」

「ほうら、みなさんパロネタがどこまでいけば怒られるかのラインがまったく分かってない。こんなネットの片隅で一生埋もれてるだけの小説を読む人間なんてわずかなんだから、伏字にしときゃあ怒られる心配ないんですよ!」

「え!?そうなんですか!?」

「ええもちろん!自分の好きなキャラクターの名前を叫んでいいんです、あとで伏字処理をすれば済む話ですからね!」

「じゃあお言葉に甘えて……」


 すぅー、っと深呼吸をして、アイリスは『自分の好きなキャラクター』を叫ぶ。



「ミッ〇ーマウス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『アウトォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!』



 ビルの窓を、見覚えのある巨大なアイツが覗き込んできた。


「ハハッ、僕の名前を呼んだかい?それはちゃんと著作権の許可を取ったのかい?著作権の条文を読み上げるよ。この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。二  著作者 著作物を創作する者をいう。三  実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。四  実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう……」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!延々と著作権法の条文を読み上げておられるぅぅぅぅ!!」

「全部頭に叩き込んでるなんて、さすがはミッ〇ーマウスです!」

「復唱するなぁぁぁぁぁぁ!!」


 ミッk……いえ、きっとなにかの間違いです。

 巨大なネズミはビルの天井をとっぱらい、まるでおもちゃ箱に入った玩具を眺めるように、上からしゃふとたちを品定めし始めた。

 ネズミがドグマを指差す。


「うーん……君はなんとなくニャ〇メに似てるからパクリ!削除対象だね!ハハッ」

「えええええええ!?どのへん!?僕そんなに目つき悪くな……」


「ハハッ!!夢の国へいってらっしゃい!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「いやぁぁぁぁぁ!!ドグマさんがどこかへ消えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いま叫んだキミ!なんとなく声が斎〇千和に似てるから削除対象だね!ハハッ」

「そんな、助けてください!ていうかあの人基本どんな声でも出せ……」


「ハハッ!!パレードへようこそ!!」

「いいぃぃぃいぃやああぁぁああぁぁぁああぁぁぁあああ!!」


「次はサラリーマン風のキミだね!」

「お、俺はどこも何にも似てない!創作物にこんな普通のやつがいるか、見逃してくれよ!!」

「あ、今のそのセリフ、小泉〇日子の歌ってそうな歌の歌詞の一部っぽかったね!」

「そんな曖昧な削除理由で!!」


「ボッシュート!!ハハッ!!」

「ひぃぃいいいいぃいぃぃぃぃぃぃぃいいいぃぃいっ!!」


「ハルオまで消されてしまった!もうおしまいです、私たちの世界が全部権利者削除されてしまう!」

「パロディやパクリが消されるんですから、元来の既製品は大丈夫なのでは?」

「甘いですよアイリスさん。近年の小学生は、『ポ〇モンとか妖〇ウォッチのパクリじゃん』などと平気で言ってのけるのです!既製品でもパクリ扱いを受けて消されかねない!」

「こうなったらミッ〇ーを説得しましょう!」

「そ……それしかないですね。耳を貸してもらえるか分かりませんが……」


 しゃふとは見下ろしてくるミッキーの視線に真っ向から対峙した。


「ウォ〇トさんちのミッ〇ーさん!そんなにパクリパクリ言ってると、今度はご自分の身に危険が及びますよ!」

「ハハッ、僕をパクリ呼ばわりできるような古株はいないよ」

「ミッ〇ーマウスというキャラクターはパクリでないにしろ、ディ〇ニー社は他者のパクリに目を光らすあまり、自社へかけられたパクリ疑惑をなかなか払拭できないでいるのです!」

「なんだって?」


「あんなに大ヒットした『ア〇と雪の女王』は、聖〇士星矢やアニメーター自作動画をパクったものだとしてネット上で非難を受けています!

 『ライ〇ンキング』も『ジャン〇ル大帝』のパクリとの噂!

 『オリビ〇ちゃんの大冒険』も『カ〇オストロの城』のパクリとの噂!

 『ア〇ランティス』なんて、『マ〇ロス7』からも『機動戦艦ナ〇シコ』からもパクってるとか噂されてるじゃないですか!」


「ハ、ハハッ!どうせ日本のオタクのマイノリティ主義じゃないか!?」

「ていうかしゃふとさん、何スマホぽちぽちやりながら言ってるんですかぁ?」

「私はそんなディ〇ニーとか詳しくないので、テキトーにまとめサイトとかから大急ぎで情報を拾ってきているのです!」

「……それ、暗に責任逃れしてません?」

「察しがいいですね!」


 さっきのセリフに書かれてることが事実無根だったとしても、それは私たち、ひいては作者の責任ではありません!ぜーんぶまとめサイトが悪いんです!

 アフィカス死ねや!!!!!!!!


「つまり、なんでもかんでも『似てる』というだけでパクリと決め付けるのはよくないのです!ジャ〇ラックてめぇだよぶち転がすぞ!!」

「しゃふとさん、キャラ付けがブレてますよぉ」

「ハハッ!とにかくみんなパクリだ!削除だ!」

「だ、だいたいミッ〇ーマウスだってネズミのパクリじゃないですか!」

「えぇ!?そ、そんなこと言ったらダ〇ボはゾウのパクリだし〇ーさんはくまのパクリだし、ディズニー〇ャラどころか全作品の全キャラが全滅じゃないか!キミたちだって人間のパクリだよ!ハハッ!」


「そうです!みんなみんな、神様が作り出した創造物を模倣しているのです!人類みなパクリ品、オマージュ品なのです!!」


 アイリスが話をややこしくしてくる。


「い、いいえ逆です!全ては神様が作り出したものなのだから、この世に同じものなど1つとしてあるわけないのです!」

「おおっ、発想の転換ですね!!」

「ハハッ、そうだね!みんなちがってみんないいんだ!」

「ええそうです!今の言葉も、金子〇すゞのパクリなんかではないのです!全ての言葉は、作品は、事象は、キャラクターは、神様が作り出しているのですから!」


 「今回のオチを悩みに悩んだあげくに、結局お得意の宗教オチに持っていったんだよ」と、のちに作者は語ります。

 ミッ〇ーマウスはにこやかに手を振り、削除してしまったカクヨム作家たちを元に戻すと、夢の世界へと帰って行きました。


「ふぅ、一件落着ですねぇ」

「ひ、ひどい目に逢いました……作品削除より先に自分削除を経験することになるとは……」

「もう二度とこ〇ものせかいとか歌えねぇ……」


「ん?こ〇ものせかいですって?」


「え?」


 ビルの窓の外に見えたのは、今度はミッ〇ーではなく、金汚いオッサンでした。


「ディ〇ニーがパクリを許しても、ジャ〇ラックは許しませんよ!みんなみんな金を払うのですッ!!」

『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 こうして、一度世界は著作権の真っ暗闇に包まれたのだった……。



「いくぞ魔王イデ○ク!我が聖剣をくらえ!」

「フハハハハハハッ!その『聖剣』という設定もあの作品やあの作品と被っているぞ、削除だァァァァァッ!!」

「そ、そんな……!」

「その装備もどことなくド〇クエに似てるから削除ォォッ!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!女騎士のビキニアーマーを消すなんて……変態!」

「そのセリフも某ラブコメと似てるから削除だァァァァァッ!!」

「………………………!!」

「くっ……女騎士の声までも消すとは、どこまで汚い野郎なんだ!」


「俺たちは諦めねぇ、たとえ全てがパクリだとなじられ消されてもな!!」


 パクリだと判断したものを全て削除できる魔眼を持つ魔王イ〇ハクの容赦なき猛攻に、勇者しゃふとたちはどう立ち向かうのか……!?

 今宵の決戦の行方は全てを見守る月だけが知っている!


 俺たちの戦いはまだまだ続く!

 ご愛読ありがとうございました!



 ふぅ……1話完結ってけっこう辛いな。

 まぁでも、ムリヤリだったけどなんとかオチつけれたからいいか。


「打ち切りオチはすでに色んな漫画やアニメがやりつくしています!削除!」


 お、お前は魔王イデハ○!?全メディアの利権を握る旅に出て失踪したハズじゃなかったのか!?


「パロネタでしか笑いを取れない貴様の存在自体を削除ォォォ!!」


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

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