あっくる隊とパチンコ邪運化
マウムが商店街の福引きを引き当てたので、ゲンドロウ家族は温泉一泊旅行に出かけた。
運のいい事に邪運化(じゃうんか)にも遭遇せず、充実した旅行だった。
“ブロロロロ……”
帰りの国道は混んでいた。
「マウムねえちゃん、ありがとう!」
「うん、マウムちゃんのおかげで楽しかったわ」
「マウムねえちゃんが福引きで当たったから来れたんだもんね」
「へへへ、ワタシってけっこうクジ運いいんだあ」
「ボクなんかいつもはずれだもんなあ」
「おまえはそうだろうな、ゲンドロウ」
「ホントにマウムは口が悪いなあ」
ゲンドロウが運転しながら口をとがらせる。
「ゲンドロウは心配性だからクジ運が悪いんだよ」
「うるさいよマウム。
ボクは用心深いだけなんだ」
みんなの会話を聞いていたペンペロはいつものように分析をしていた。
(ゲンちゃんは用心深いのが過ぎてマイナスなんだよなあ。
マイナス過ぎて、ゼロ。
《ゼロのチカラ》があっくる隊の妨げになっているんだけどなあ)
「ゲンちゃんのその用心深さがいつかみんなの役に立つかもね」
ミドルはいい方に考えるようにしている。
「お腹すいたー」
「ボクも!」
「わかったよユラオラ、ショッピングモールが見えてきたから入ろうか」
「わーい!」
「おしっこしたい」
「ボクも!」
“ブロロロロロ……”
“すいすうてんしいぱんぽくしい……”
ゲンドロウのミニバンはゆっくり駐車場に入っていった。
「霜霧山盆地もこんな大型のショッピングモールが出来たのねえ」
「うああ、人がいっぱいだよ」
「駐車場もいっぱいだな」
「あそこ空いてる」
「よし、遠いけど、あそこに入ろう」
駐車場の脇に屋台が並んでにぎわっている。
「今日は盆地祭りか、いろんな屋台が出てるね」
酒まんじゅう、芋ケンピ、さつま揚げ、黒豚コロッケ、、地元特産の旗やのれんが華やかだ。
「ああ、トイレ、トイレ」
「先に行ってきまーす」
“タッタッタッタッタ……”
「この匂いはたまらんなあ」
ゲンドロウは屋台の誘惑にかられて、次から次にほおばっている。
“もぐぁもぐぁ”
「おまたせー」
ユーラとオーラも戻ってきて、みんなで屋台巡りを楽しむ。
「お兄さんこれあげる」
ゲンドロウは屋台のオジさんから一枚のチケットのようなものをもらった。
「そのシールを剥がすんだよ」
「はあん、クジか」
“ベリ”
「おっ!」
「何?ゲンドロウ」
「お、マウム、オレも当たったぞ!」
ゲンドロウは満腹のお腹をなでながらみんなに見せた。
ゲンドロウが手にしたものは薄っぺらい紙に書いてあった。
「占いの館?」
「マジックで《無料》と書いてあるだけか、手作り感たっぷりだな」
「地図が書いてあるわ、あの一番端の屋台よ」
「そうか、この辺の店の無料券だな。
せっかくだから行ってみようぜ、ゲンドロウ」
“すいとろめんしりくるくじくー……”
ゲンドロウ達がその場所に行ってみると、リヤカーに屋根とカーテンをつけた粗末な屋台があった。
「ゲンちゃん、あそこだよ」
「占いの館だって」
「リヤカーかよ。
貧乏ったらしいなあ、カーテンもぺらっぺらだし」
「人が集まれば商売になるのよ。見上げた根性だわ」
狭いリヤカーの中にベールをかぶった女性が座っている。
若い男の客が何人かやって来ていた。
「いらっしゃい!」
占い師はさっとベールをとって顔を出した。
花を並べたレースの帽子をかぶって、娘さん風に若作りした小さいおばちゃん。
運に恵まれない人生のおばちゃんだがへこたれない。
いつも前向きに歩いている。
その顔は以前コンビニの店員をしていた あのおばちゃんだった。
急ごしらえの小さなテーブルの上に巨大な水晶玉をおいて占いをはじめた。
「いらっしゃい!何でも当てるよー」
「ゲンドロウ、ほら占ってもらえよ」
「せかすなよ、マウム」
ゲンドロウはチケットをポケットに押し込んで観察する。
「はいはい順番ねー」
先の若い男の一人が冷やかし気味で尋ねている。
「おばちゃん、当たるの?
なあ、おばちゃん」
「おばちゃんじゃない、お姉さんよ。
恋愛、金運、出世運、便秘運。
なんでも占うわよ」
「へえー!そんなに?
なんでもわかるんか?」
「ワタシには何でもわかるのよ!」
「じゃあ、オレの職業当ててみてよ」
「えっ?」
「オレの職業だよ」
「い、いいわよ」
占いおばちゃんは水晶玉に大げさに何度か手をかざして覗き込んだ。
「アンタラコンタラチンチンパンチラ……」
水晶玉をあおるような仕草をする。
「おばちゃん、でっかいガラス玉だな、それ」
「話しかけないでよ、気が散るじゃない」
「パンチラチラチラパンツマルミエ……」
占いおばさんは軽く両手を合わせて終了のサインを出す。
「わかったか?」
「うーん、あなたは物を作る仕事だわね」
「おう、いい線いってるね。ずばり当ててもらおうか」
「ケーキ屋さん」
「ブーッ!はずれー
オレは大工だよ!ケーキ屋じゃねえよ!」
「ちょっと待って、ワタシは景気っていったのよ。
景気のいい大工さんって言いたかったのよ。
アナタが途中で口はさむから全部言いそびれたじゃない。
ね、ワタシの占いは当たったでしょ」
「なるほど、景気のいい大工か」
「はい千円ください!」
「ちょっと待ってくれよ!まだ相談に乗ってないじゃないか!
オレの恋愛運を占ってくれ」
占いおばちゃんは面倒くさそうにもう一度水晶をのぞく。
「メンタラコンタラクロメンタラボケメンタラ……」
「あなたの恋愛はものすごく前向きにいってるわよ!前に前に進みなさい」
「はい!千円!」
「えー!そんだけー!
何かうまくごまかせているみたいだな」
若い男は仕方なくお金を払う。
「ふう、バカな客でよかったわ……」
占いおばさんはそっとつぶやいた。
「はい、次の人!」
ゲンドロウが次に占ってもらおうと歩み寄ろうとすると、後ろから緊迫した足音が聞こえてきた。
“タッタッタッタッタ……!”
「いたあー!見つけたぞ」
大汗かいてズボンからワイシャツのはみ出た男が現れる。
かなり怒った様子をみせていた。
「あんたにギャンブルに勝つと言われてオレはパチンコに行ったんだぞ!」
屋台の《占い》という看板を指差しながら怒鳴る。
「だけど大負けしちまったじゃねーか!どうしてくれる」
占いおばちゃんは慌てずにっこりして答える。
「えー?
ワタシ、キャンドルって言ったのにー」
「キャンドル?
ふざけんな!」
「大丈夫よ!
もう千円でちゃんと教えてあげる」
「うるせー!こんな屋台こうしてやる」
“がたがたがったーん”
男は占い師のテーブルをひっくり返した。
「きゃあー!
やめてよー!」
そばにいたゲンドロウは思わず仲にはいる。
「おい、乱暴はよせよ!」
「なんだあ!?おまえはこのばばあの親戚か?
おまえが弁償するのか?」
「ちがうよ、オレは客で、客と言ってもあっちの店で……
クジが当たって、当たったといっても……」
「ごちゃごちゃうるせいー」
“どん!”
ゲンドロウは男に突かれてしまった。
“ころってん!”
「あら、転んじゃったよ。
まったく、ゲンドロウは仲裁ヘタだなあ。
一発、ごつんってやればいいだよ」
マウムは手を出したくてうずうずしている。
百戦錬磨のミドルはこの程度の騒動には少しも動じない。
「パチンコに負けたにしては怒り方が普通じゃないわね。
ペンペロ、どう?あの人、邪運化がからんでいない?」
「くうん」
しかしペンペロは無反応。
「ママ!ペンペロが普通の犬のまんまだよ」
「ユラオラは?どこかに邪運化が見えてない?」
「ううん、何にも……」
「先生、ペンペロのワタボウシも変化なしですよ」
マウムがペンペロのワタボウシを触っている。
「ワンワン!」
ペンペロが何か盛んに訴えている。
ゲンドロウに視線を向けながら……
「あ、分かった!」
ユーラがやっと気付く。
「ペンペロ!ゲンちゃんだね!」
「ママ、ゲンちゃんの《ゼロのチカラ》が邪魔してるんだよ!」
「え、ゲンちゃんがあっくる隊を邪魔しているの?」
「ワン、ワンワン」
(どっか行ってほしいよーゲンちゃん)
「どうした、どうした……」
騒ぎを察して人も集まりだした。
ゲンドロウは起き上がって、お尻を払いながらミドル達を振り返る。
大丈夫だと合図しながら再び男に詰め寄った。
「ボクには、伝説のファイター、《ミドルズ・キンクメイト》がついているからな」
後ろに頼もしい格闘家がいるので今日のゲンドロウは強気だった。 「ちょっとおじさんよお。運の悪さを人のせいにするんじゃないよ」
「オマエ、また来たのかよ!
関係ないだろ!
引っ込んでろよ!」
「さっきは油断して転んだけど、オレが本気出したら怖いぞぉ」
そう言いながらゲンドロウはクールに拳を握って見せた。
ずんぐりむっくりで足の短いゲンドロウじゃ様にならない。
ポーズがあまりにもヘタクソだった。
ユラオラは顔を赤らめ、マウムはため息、ミドルは苦笑している。
「ゲンドロウ、見ていられないよ!」
マウムが出て行こうとした時、あばれていた男のポケットからパチンコ玉が無数にこぼれだした。
“パランパランジャラジャラ……”
そのパチンコ玉は駐車場一面に転がり、次々に人々が踏んづけて転びだした。
“ジャラジャラコロコロ”
ポケットからこぼれたにしてはあきらかに多すぎる量だ。
ミドル達も危なく転ぶところだった。
「やっぱり怪しいわ」
「先生、ゲンドロウを見て!」
ゲンドロウは無理に格闘技のポーズをとっていたので転んで気絶していた。
「だらしないないなあ、ゲンドロウ」
「マウムちゃん、これでいいのよ」
「えっ?あ、そうか!
ゲンドロウが気絶すると、ゼロのチカラもなくなりますね!」
“あっくる、あっくる……”
「ワターオ!」
ペンペロが邪運化を感じて吠えた。
“シュルシュル……”
頭のワタボウシがふくらんで回りだした。
“プシュー”
出てきたメアワータをペンペロはコントロールする。
“ぱっ”
三つに別れてユーラとオーラ、そしてペンペロの口に入る。
『あっくっく!』
あっくる隊のアックリング開始。
ワタ我士の姿になったペンペロは二本足で立ち上がって、話もできる。
「ユラオラ!
邪運化(じゃうんか)だよ!」
「うん、わかった!」
「来たわね あっくる隊!」
ミドルも戦闘モードになっている。
「あっ!邪運化がいた」
「ペンペロ!どんな邪運化なの?」
「はい!パチンコ台に同化しています!パチンコ邪運化です」
「そうか、あの男を操っていたのね」
パチンコ邪運化は体がパチンコ台のユニットパネルになっている。
怒っている男の後ろでパチンコ台のランプをチカチカさせながら笑っていた。
「こら!邪運化 悪さは止めろ」
ユーラが叫んだ。
「パッチン?オイラがわかったんか?」
「わかったに決まってる!」
オーラが答える。
「パチパチー!
オマエらにもパチンコ大放出をお見舞いしてやる」
“ぐい”
パチンコ邪運化は腰についているレバーを回す。
すると両肩口から銃口が突き出た。
銃口の先はチューリップの形をして、ターゲットを定めてる。
“ドパンパラパッパッパッパッパッパッパ……”
機関銃のようにパチンコ玉が飛び出して来た。
「うあああ!」
あっくる隊は間一髪かわす。
「ちょっとここは、一時撤退しましょ」
あっくる隊は車の影に隠れた。
“パラポロパラポロポロパラポロ……”
その威力はすさまじく、人や車に当たりまくる。
「痛て!」
「あいた!」
「痛い!」
何も知らない人々が大勢不運な目にあっていた。
「先生、パチンコ玉がめちゃくちゃ飛んでますよ!」
「あの辺から飛ばしているのよねえ」
ミドルにはシルエットらしきものはどうにか見えている。
「ペンペロ!パチンコ邪運化の弱点は?」
「まだ分析中です!」
“ダッ!”
“ドカッ!”
「えい!」
「やー!」
ユーラとオーラはがむしゃらにつっこんでいく。
“ドパンパラパッパッパッパッパッパッパ……”
「うああああ!」
だが、するどいパチンコ玉を当てられて逃げてきた。
「痛いんだよ!あれ」
「パパッチー!ざまあみろ!」
パチンコ邪運化はどうだとばかりに、体の中心のチューリップをパカパカしながら笑っている。
「玉はちっちゃいけど、あんなにいっぱい飛んでくるとかなわないよ」
「それだ!」
ペンペロがひらめいた。
「こっちは大きい玉で一発でしとめればいいんだ!」
大きい玉って?
そんなのどこに?
“ドパンパラドドンパッパッパッパッパ……”
そう言っている間に大放出パチンコ玉は次々に飛んでくる。
「あれです!ミドルママ」
ペンペロが指差した。
それは占いおばちゃんののリヤカーに乗っている巨大な水晶玉。
「ユラオラ!水晶玉をリヤカーごと、持って来て!」
「わかった!持ってくる」
“だだだだ!”
日頃のトレーニングであっくる隊の動きは機敏だ。
「おばちゃん借りるね」
「えっ?
何?何?」
“しゃあああああーー!”
あっくる隊はおばちゃんを乗せたまま、リヤカーを持ちだしてきた。
「ちょっと、子ども達。
今はリヤカー引いて遊んであげられないのよ!」
占いおばちゃんは訳がわからずキョロキョロするばかり。
「違うよ、おばちゃん
今、事件が起きてるんだよ」
「占い師ならわかるでしょ」
「え、事件?
そうよワタシにはわかるのよー」
「ペンペロ!持ってきたよ」
「ありがとう!ユラオラ!」
「ペンペロ、水晶玉とリヤカーでどうするの?」
「そうかペンペロ、テコの要領ね」
「さすが天才犬だ!」
ミドルとマウムも戦術を理解した。
「そうです!ママ!マウム!」
「ユラオラ、そのリヤカーをグルッと回してパチンコ邪運化に向けて!」
“ぐるうーん!”
「わっ!
ここに乗ってちゃ、危険だわ」
“ささささ……”
占いおばちゃんはあわてて飛び降りて避難した。
“クキクキ……”
ミドルがジャンプのウオーミングアップをする。
「あっくる隊!チャンスは一回よ!」
「わかった!」
「マウム、ワタシのジャンプに合わせて!」
「はい!わかりました」
「あそこが一番高いわね」
ミドルとマウムは近くのトラックの荷台の屋根に乗る。
「行くわよ!マウム!」
「はい!」
ふたりは肩を組んで息を合わせる。
そしてリヤカーの持ち手めがけて飛び降りた。
“ひゅううう……”
“ドン!”
テコの原理で巨大な水晶玉は舞い上がる。
“ひゅううううう!”
パチンコ邪運化めがけて落ちてくる。
パチンコ台に同化した邪運化は構造上、上が見えにくい。
「パチンコ邪運化!
オマエはおしまいだ!」
「えっ!」
“ばっこおおおおおーーーん!”
見事にパチンコ邪運化に命中した。
「うあああ!
やられたあああああ……!
パッチンコーーーーー……!」
“ボン!”
パチンコ邪運化はパンクした。
アックリング終了。
“ふりあれほれふりりりーん”
邪運化がいなくなって人々が我に帰った。
占いおばちゃんにつっかかっていた男は盛んに謝っていた。
「あ、おばちゃんごめんな、オレ、おばちゃんの店、ひっくり返しちゃった」
「い、いいのよ。
あなたはホントはいい人だから。
わたしにはわかるのよ」
占いおばちゃんは手作りの占い館を失ってしまった。
いつも不運だが、人をうらんだりしない。
「ワタシは大丈夫!前を向いて歩いていくわ!」
「じゃあな。おばちゃん」
「ちょっと待って!」
「何?」
「アナタも前に、前に進みなさいね!」
そういって占いおばちゃんは自らも胸を張って歩いて行った。
それを見ていたミドル。
「いいわねえ、あの人の前向きなメンタル。
あっくる隊にもあのメンタル欲しいわ」
「ミドルちゃーん!」
「ゲンちゃん……」
「まいったよー
転んじゃってさー」
ゲンドロウもいつものゲンドロウに戻っていた。
「あーケツが痛い。
頭痛もするし。
もう家に帰りたいよー
しばらく出かけるのよそう」
「ゲンちゃんは後ろ向きだね、ママ」
「なにしろゼロのチカラですから」
マウムが付け加えた。
「はははは!」
マウムの言葉に笑うあっくる隊とミドル。
“あっくる、あっくる……”
あっくる隊と前向きおばちゃんの出会い。
ここにも《運つながり》の糸が一筋できた。
あっくっく〜あっくる隊のチカラ〜 河野やし @yashipro
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