あっくる隊とヤキトリ邪運化

「ただいまー!」

ユーラとオーラが学校から帰ってきた。

「おかえり!ちょうど良かった。

これからホームセンターに行くから一緒に行こう!」

ゲンドロウは買い物リストを書いている。

「よお、ペンペロ、お前も散歩がてら行くかい?」

「ワン!ワン!」

「そうか、行きたいか、シッポ降って喜んでらあ、やっぱ犬だなあ」

“ブルルルルル”

《やったがゲンちゃん》と書かれたミニバンが霜霧山のふもとに沿って快適に走る。



霜霧山盆地の郊外、シモキリホームセンターにやってきた。

広い駐車場から入り口横のイベントスペースに人が集まっている。

“♪ハチメヒコソロハロエーオロネイー♪“

「なんかにぎやかにやってるな」

「さっきヒーロー祭りって看板があったよ!」

「ペンキ売り場はあっちか」

「ねえゲンちゃん、あれ、見に行っていい?」

「ああ、いいよ、ボクはちょっと材料買ってくる」

「ペンペロも行こう!」

「ワン」

ユーラとオーラはヒーローものが好きだ。

ワクワクしながら広場に向かった。

ペンペロはお付き合い。

“♪スラトリメロハナシロメキーバリール♪”

「ぐあははは!オレ様は悪のワルマンだ。子供達をさらっていくぞ!」

ワルマンと名乗る悪の王様は黒い頭巾と黒い熊手を持った、実に地味な悪役だった。

「待てーい!」

そこへヒーローなるものが現れた。

「ワルマン!このヒーロー・ヨカマンがやっつけてやる」

出てきたのは太っちょで、白いヘルメットにゴーグルにゴム手袋というヒーローとはほど遠い姿。

「やだーっ、変なの」

「インチキ!」

「あんなのヒーローじゃない!」

「ただの農作業のおじさんだよ!」

“ぶーぶーぶー!”

子供達が騒ぎ始めた。

「ワ、ワルマンめ!オマエに教えてやる。

この建物の入り口には園芸用品だ!真ん中は日用品と食品。

そして左に行くと工具を売っている」

「工具は便利だな。

じゃあ、右に行くと何があるんだ?」

「よくぞ聞いたな、右に行くとペット用品を売っている

今、セールやってるぞ」

「よおし、早速買ってやる!」

「まだまだあるぞ!

二階はインテリアでな……」

ワルマンとヨカマンが店の宣伝の掛け合いをやっていた。

“シレシレシレシレ……”

「つまんなーい」

子ども達からヤジが飛び始めた。

「オーラ、出ようか」

「うん、期待はずれだったね」

ユーラとオーラが話してる横でペンペロは思った。

(平和な証拠だよ)

「くー、つまんねえヤツラだなあ……

客をいじったりして、アドリブ加えろよ……」

駐車場の脇ではヤキトリ屋が暇そうに愚痴っていた。

「もっと盛り上げろよ。客が帰っちゃうじゃねえか

こっちの売り上げまで落ちらあ……」

パラパラと他の客も引き上げ始めた。

「あーあ、今日はさっぱり売れないな、もう店じまいしようかな」

焼き鳥屋の店主は片付けようと屋台の裏に置いてあったヤキトリの入った箱をとりに行く。

「あれ?ここにあったヤキトリがない」

そのそばをあっくる隊が通りかかる。

「どこだろう、ああ、今日は運が悪いなあ」

その時、

「ワターオ!」

ペンペロが邪運化を感じて吠えた。

“シュルシュル……”

頭のワタボウシがふくらんで回りだす。

“プシュー”

回転してはじき出されたメアワータをペンペロはコントロールする。

“ふわふわふわ……”

“ぱっ”

メアワータは三つに別れてユーラとオーラそしてペンペロの口に入る。

“シュッタン!”

『あっくっく!』

あっくる隊のアックリング開始。

亜空の戦士ワタ我士の姿になったペンペロは二本足で立ち上がって、話もできる。

ユーラとオーラはゲンドロウの防護スーツ《アクテクター》を身に着けていた。

「ユラオラ!邪運化だよ!」

《邪運化(じゃうんか)》とは不運をもたらす悪さ生物。

ペンペロの指差す方にヤキトリに同化した邪運化がいた。

ヤキトリ邪運化は体の中心に串がささっていて、頭が肉団子、胴体がネギマとレバーで出来ていた。

「うまそう……」

「ちょっとユーラ、ヨダレたらしてんじゃないよ!」

「わ、わかった。

こら!邪運化!悪さをするなー!」

ユーラが叫ぶ。

「なんだー、オレがわかったんか?」

「わかったに決まってる!」

オーラが返す。

「ヤッキー生意気!ヤー!」

“ドドドド……!”

ヤキトリ邪運化が肉団子のてっぺんに突き出ている、とがった串の先を向けて突進してくる。

“ドタタタタタタ……!”

「はっ!」

ユラオラ達はとっさに避ける。

「あわわわわ!」

ヤキトリ邪運化は勢い余ってステージに飛び込んでしまった。

そこにいたのがヒーロー・ヨカマン。

“ドンガラッタン”

訳もわからず吹っ飛ぶヨカマン。

邪運化は普通の人には見えていない。

ヒーロー・ヨカマンがわざと派手に転んだように見えた。

「ハハハ、ヒーローのくせにかっこわるー!」

「ヒャハハハ……」

“フェロファロバローバ!”

これも演出なのかと観客は盛り上がった。

邪運化が見えているのはあっくる隊だけだった。

「いくよ!

オーラ」

「うん!」

ユーラとオーラはオフェンスの構えをした。

いつも亜空道場でトレーニングしているその延長に過ぎない。

「おりゃ!」

“だだだ! ”

“ドガッ”

早いパンチに飛ばされる邪運化。

“ガチャンコチャンコ”

「すごい!ミドルママのトレーニングの成果だ!」

戦術のペンペロは驚く。

「うーん、ヤケる!

子どものくせにすごいパンチだヤッキー……」

“ぐ、ぐぐぐいー”

怒った邪運化は肉団子の上の串をおしりから頭の方にずらして長くする。

「うあ、さらに刺しやすくなってる」

「ペンペロ、やばいよこれ」

「ちょっと待って、今考えてる」

ペンペロはまだ戦術が浮かばない。

“ドドドド……!”

「うああ!」

“びりっ”

服一重でよけたオーラの服を刺して破ってしまった。

「ふう、あぶなかったー……」

「ヒヒヒ、どうだヤキヤキ」

ヤキトリ邪運化はターゲットをユーラに向けた。

「オマエも仲間かヤキー」

「ユーラ!狙われてるよ!」

「どうすればいい?ペンペロ」

「……串、串、そうだ!」

ペンペロに戦術が浮かんだ。

「ヤキトリ邪運化の武器のあの串は同時に弱点でもあるんだ!」

ペンペロは周囲を見渡す。

「ユーラ!

テントの中心の木の柱を背にして!」

「柱?

わかった!」

「さあ、こい!

邪運化!」

ユーラは柱の前に立ってディフェンスを構える。

「構えなくていいよ!邪運化をギリギリまで引きつけて寸前で避けるんだよ!」

「うーん、難しいな、でもやってみる」

ユーラの脇にはワルマンが居た。

「おい、子ども。

オマエを捕まえてやる」

邪運化との戦いを知らないワルマンはユーラをショーのアドリブとして使った。

ペンペロはさらに次を指示する。

「オーラ、そのワルマンの熊手を取り上げて準備してて!」

「うん!」

オーラはステージに上がってワルマンの熊手を強引に奪う。

「こら!なにするんだよお!」

「いくぞー!ヤキヤキ!!!」

“ドドドドド……!!!”

ヤキトリ邪運化がうユーラめがけて頭の串を刺しにきた。

“サッ!”

ユーラは寸前で避ける。

ヤキトリ邪運化の串はその勢いのまま、気の柱に突き刺さる。

“ずびょううううん!!!”

「うう、抜けない、ヤキー!」

ヤキトリ邪運化は柱に横向きに刺さったまま、浮いた状態になった。

「クソー。ヤキクソー!」

邪運化の見えない観客にはワルマンが熊手を放り投げて、横っ飛びに転んだように見えた。

「ワ、ワルマンめ!

ワタシのエアーパンチはどうだ……ハハハ……」

ヒーロー・ヨカマンもアドリブで叫んだ。

「いいぞー!ヨカマン!」

ペンペロは邪運化との戦いに集中する。

「オーラ、今だよ熊手で一個ずつ抜いちゃって」

「えい、えい、えい」

オーラはヤキトリ邪運化のパーツを一個一個はずしていった。

「こらっ!やめろ!うああ!」

ヤキトリ邪運化は叫んでいたが、とうとう最後の頭の肉団子を抜かれてフィニッシュ。 

「まいった、ヤキヤキ……」

“パン!”

ヤキトリ邪運化はパンクしてしまった。

普通の人にはオーラが熊手で変な仕草をしているとしか映っていなかった。

ヒーロー・ヨカマンはオーラの動きが面白いダンスに見えたのでマネをする。

「あ、それそれ勝利のダンス。ヨカマンダンスだ!」

「ハハハハハ……」

それがまた観客にウケる。

邪運化と戦うあっくる隊がヒーローショーを盛り上げる結果にもなっていた。

邪運化がいなくなって人々が落ち着きを取り戻した。

アックリング終了。



「ゲンちゃんとこに行かなくちゃ」

「ワン」

ペンペロは普通の犬に戻っている。

入り口に歩いていくと、ちょうど、ゲンドロウが買い物を終えてやって来た。

「ユラオラ、お待たせ。ペンキ買って来たよ」

「あれ、ふたり共、どうしたの?なんか息きらしてない?」

「ゲンちゃん、邪運化が出たんだ」

「えっ?どこだ、どこだ!」

ゲンドロウはペンキを投げる構えでキョロキョロする。

「でも大丈夫、もうやっつけた」

「へっ?」

「さあ、行こうゲンちゃん」

「やっつけたって?」

「いいから、いいから」

ユラオラに押されてゲンドロウは車に乗る。

“バタン”

“ブロロロロロロ……”

晴れやか気分のあっくる隊を乗せて帰っていく。



テントを片付けるスタッフ達。

「おーい、ヨカマンとワルマン。

今日のヒーローショー、良かったよ。

おかげでヤキトリ売れたよ」

「ありがとうございます」

ショーの終わったヨカマンとワルマンがヤキトリをごちそうになっていた。

脇には壊れた熊手と長い串が転がっていた。

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