あっくっく〜あっくる隊のチカラ〜

河野やし

あっくる隊誕生!

亜空界でワタ我士の修行をした天才犬ペンペロが現空界にやってきた

ユラオラの知恵袋となるために……



ゲンドロウ一家はミツさんの家から町の中心向かって、車で数分走った所にある。

“ドサ”

“ドン”

ミドルとマウムは車に荷物を積み込んでいる。

「じゃあ、ゲンちゃん行ってくるね!」

“チュッ!”

ミドルはいつものように投げキッスをする。

「じゃあな、ゲンドロウ。

ワタシのシーツ洗っといてねー」

「こら!マウム。

オマエは居候のくせに態度でかいんだよ!

ミドルちゃん!

トレーニング、あんまり厳しくしないでよー」

“タッタッタッタ”

「ママ、お待たせー」

ユーラがリュックを背負って乗り込んだ。

「ゲンちゃん行って来る!」

続けてオーラが乗り込もうとしていた。

「ユラオラ、ちょっとこっち来て」

ゲンドロウが子ども達を呼び戻す。

「なあにゲンちゃん」

ゲンドロウは早起きして仕事場で何か作っていた。

「ほら、これ。

ボクが作ったプロテクタースーツだよ。

前、ボクが作った《アクテクター》を覚えているでしょ」

「ああ、あれね。

ちょっとごつかった」

「そこだよ!

だから今度は改良した」

“どん!”

「軽くて丈夫だし、クールだろ?」

「犬用のハーネス?」

「ちがーう!

アクテクター改良版だよ!ヘッドギアもついているから」

それはユーラとオーラの胸と背中と頭を守るゲンドロウの愛のプロテクタースーツだった。

「この前の防弾チョッキよりかっこいいね……」

「あ、ありがとう……」

ユーラとオーラは気乗りしなかったが、ここはゲンドロウの顔をたてようと思った。

「いってらっしゃい!」

「さ、しゅっぱーつ!」

車の中でミドルが聞いた。

「ユラオラ、ゲンちゃん何だったの?」

「これなんだけど……」

「アクテクター改良版だって」

「こんなの着けたくないなあ」

「ゲンドロウ、あいつマメだなあ」

「ユラオラ、それはゲンちゃんの愛情の印なんだから、本当の戦いの時に使いなさい」

「わかった!」

ミドルはユラオラの並外れた能力の活かし方を考えていた。

それで思いついたのが野外トレーニング。

“ブルルルルル……”

「今日は自然の中で基礎体力作りよ!」

空は青く晴れてはいるがどことなくピリとした空気を感じるミドルだった。

霜霧渓谷にある森のキャンプ場にやってきた。

オートキャンプやバンガローが設備されていて、渓流釣りやテニスも楽しめる。

“チュンチュン”

“チチチチ”

鳥が鳴く中で家族や若い男女のグループが楽しんでいる。

「うああ!

気持ちいい」

ユーラとオーラは踊るように深呼吸する。

「先生、手続きしてきました。十八番です」

「サンキュー!マウム。

十八番は……見て!あのバンガローよ」

「うああ、アスレチックもあるんだ」

「荷物置いたら早速トレーニングするわよ!」

「はーい!」

「オーラ、早く行こ!」

「うん!」

「元気いいわねえ、ユラオラは。遊び気分じゃない?」

「いいのよ。今回の合宿は遊びながら鍛えるのが目的だから」

「ユラオラ、着替えてね」

「はーい!マウムねえちゃん」

ミドル達は渓流脇のキャンプファイヤー広場を練習場にした。

「エイヤ!」

「タアッ!」

「はあ、はあ、はあ……」

「今度はグローブを付けて、あのコースで遊びましょ!」

「はい!」

“たたたたたた……”

ミドルを先頭にしてアスレチックコースを全力で駆け抜ける。

“バシッビシッ” 

合間、合間に柱や木にパンチやキックを織り交ぜながら。

「すげえな、あの連中」

遊びのグループが見つめる中、ミドル達のトレーニングは真剣にサーキットする。

「ちょっと休憩ね」

「はあ、はあ、はあ、結構キツいですね」

マウムがタオルで顔を拭きながら、息を切らしている。

「水分補給したら、もう一周いくわよ」

「ママ……キツいよー」

「ユラオラ!あなた達の前にどんな《邪運化(じゃうんか)》が現れても負けない体を作らないとね」

邪運化とは人に不運をもたらす悪さ生物。

「わかってるよママ!」

ユーラが元気に答えた。

「わかったに決まってる」

オーラはいつもの台詞。

「はい!いい返事ね、ふたり共」

ユーラがここでボソッとつぶやいた。

「でも最近ね、邪運化の姿が見えなくなったんだよ」

「えっ!ホントなの?オーラも?」

「うんボクも」

「そうなの?ユラオラの特別のチカラがなくなってきたのかしら……」

ユーラとオーラは邪運化が見える特別のチカラを持っていた。

「でも先生、そんなのってあるんですか?」

「ワタシ達にはわからない領域ね。

ユラオラのチカラの素ってあるのかもね」

「このところユラオラにキレがないのはそれがなくなったせいでしょうか」

ミドルとマウムがそんな話をしていると広場の向こう側で何人かの人が騒いでいる。

“ワラワラワラ”

「何かしら」

「ママ、犬がいるみたいだよ」

「ほら、あそこ」

白い犬がグループのひとつひとつを回りながら首をひねったり、ため息をついたりしている。

その仕草が面白くてみんなの注目を集めていた。

「本当だ、見に行ってきていい?」

「ダメよ、トレーニングに集中するんだよ。ほらほら」

マウムが立ち上がる。

「よし、もう一周するよ!ほら気合い入れて!」

「おー!」

返事はいいがユラオラは動作が鈍い。

二回目のサーキットはやる気がないのか、出遅れ気味。

「ユラオラ、どうしたの?

ちゃんとやろうよ!」

「やってるよ!

ねえオーラ」

「うん!」

「あっくるのチカラを持った子どもなんでしょ!

ねえ、先生」

「オッケー!気分変えようか。ちょっと早いけどランチにしましょ!」

「やったー!」

コーチ役のミドルはトレーニングのメニューを体調をみて変える。

「よし、じゃあみんなでカレーを作りましょ!」

「わーい!」

野外トレーニングの楽しみは食事。

“トントントン……”

“ふつふつふつふつ……”

持ってきた材料をみんなで調理する。

マウムは幼い頃、野外で生活していたので、こういう場所での食事は得意だった。

「さ、今日のカレーはマウムちゃんテイストのサバイバル風味よ」

「へへへ……ちょっと辛いかも」

「いただきまーす!」

“うんぐ、うんぐ”

「おいしい!

ね、オーラ」

「うん、ちょっと辛いけど……」

「ゆっくり食べてね」

そこに、

「ワン!」

おいしそうな匂いに誘われるように白い犬がやってきた。

それにオーラが気付いた。

「あ、ワンちゃん!

さっき騒いでいたワンちゃんだ」

ユラオラはスプーンを置いて駆け寄って行った。

「うわあああ、可愛い!」

「ワン!ワンワン!」

白い犬は異常に興奮してシッポを振っている。

まるでやっと飼い主に巡り会った迷い犬のように……

「おっと、飛びついてきたよ」

「あ、このワンちゃん、帽子かぶってるよ」

「ホントだ!」

「どれどれ」

マウムがスプーンを加えたまま、よって来た。

「おもしろいね、赤いベレー帽なんかかぶって。

飼い犬かな?」

帽子に触るとふわふわと柔らかい。

「あれ?このベレー帽とれない どうなってんの?」

「あ、マウムちゃん無理しないで!理由があるのかもよ」

ついにミドルもやってきて、おかしな犬を観察している。

「首輪がないわね、首輪の代わりにベレー帽をかぶっているのかしら」

「それにしてもずいぶん人懐っこいですね先生」

「なんか、ユーラ達を知ってるみたいだね」

「クーン……」

犬は何か言いたげに、ユラオラ達を愛おしくなめ始めた。

“ペロペロペロ……”

「ひゃははは、くすぐったいよ」

「ねえ、ママ!」

「なあに?」

「このワンちゃん、もし行く所ないんだったらウチで飼っていい?」

「ダメよ、ダメ!

ゲンちゃんが犬ダメなの!」

「ゲンドロウがどうかしたんですか?」

マウムが尋ねた。

「ゲンちゃんは犬にはトラウマがあるのよ」

「トラウマ?」

「うん、小さい頃ね 犬に噛まれたらしいの ワタシと出会った時も犬に追われていたのよ」

「ふーん」

「えーっ、じゃあ飼えないの?」

ユーラが犬を残念そうに撫でる。

「クーーーーン……」

言っている事がわかるのか、犬はうなだれている。

「とにかく、ユラオラ、ワンちゃんは預かっておくからスイカ持ってきて。

川で冷やしておいたやつ」

「はーい……」

ふたりはつまらなそうに返事をして、川への階段を降りていく。

“だっ!”

“たったったったっ……!”

「あっ!ちょっと!」

ミドル達がちょっと油断したスキにベレー帽の犬もユラオラ達を追いかけて走っていった。

「変な犬……」

つぶやくマウムを見て、ミドルは朝のピリッとした空気を再び感じていた。


「えーと、ここかな」

ユラオラはキャンプ場の横を流れている水路にやってきた。

柵でしきってあるエリアはキャンプ場の利用者が自由に果物や飲み物を冷やしている。

そこに人が集まり、ざわざわと騒々しい。

「あれ?また何かいるのかな」

ユーラは騒いでいる一人に聞いた。

「ねえ、おにいさん、どうしたの?」

「ここに冷やしておいたスイカがなくなっているんだよ」

「誰だよ、誰か盗んだのか!」

「ユーラ、ボクらのもないよ。

ネットに入れて印をしておいたのに……」

「ウチのスイカもないんですけど」

「オレのも」

どうやら他でも同じような事態にあっているらしい。

「アンタ知らない?」

「知らないねー

オレのビールもないし」

トラブルは広がっていた。

「あーあ、今日は運がないな」

誰かがつぶやいた。

その時を待っていたかのように突然、

「ワンワンワンワン!!!」

ユーラとオーラの後ろで犬が急に吠えだした。

あの赤い帽子をかぶった犬だった。

「ユーラ、あのワンちゃんだよ!」

「何か言いたそうだね」

“クルクルクルクル……”

赤い帽子の犬はユラオラにアピールするように吠えながら回っている。

「ワンちゃん!

どうしたの?」

ユラオラの注目を充分引きつけた所で

“むくむくむく”

「あっ!ベレー帽がふくらんでる!」

“シュルシュルシュル”

「今度は回ってる!」

「ワターオー!」

ベレー帽の犬が人吠えしたかと思うと

“ぷしゅー”

ふくらんだベレー帽から何かが飛び出した。

「何か出たよ!」

それは白いワタアメのような物だった。

ワタアメのようなものをじっと見つめるベレー帽の犬。

「あ、じっじんとシュロ所で見たのと一緒だ!」

“パッ、パッ、パッ”

ユラオラがそれに気付いたとき、メアワータは意志があるかのように三つに分かれた。

“しゅったん!”

ユラオラとベレー帽の犬のそれぞれの口に入った。

「ん、ぐぐっぐ」

「ううう、あまーい」

「うん、うまい!」

この甘い味には見覚えがあった。

シュロの木のある丘でクマさんと一緒に口にした物と同じだった。

“ぐういいいいん”

「うん?何かきた!きた!」

「効いてる!

何、これ」

“ムクムクムク……”

「うおおおお!!!」

ユラオラは全身にやる気がみなぎって来る。

“あっくる!あっくるるるるる……!”

薄まっていたあっくるのチカラがよみがえった。

「ユラオラ!」

ふたりを呼ぶ声がする。

「こっちだよ!」

声の主を見るとそれはさっきの赤いベレー帽子をかぶった犬だった。

「ボクはペンペロ!」

「ワンちゃんがしゃべった!」

「しかも立ってるし!」

「ユラオラと同じだよ メアワータで進化したんだ」

「ユーラ達を知ってるの?」

ユラオラはしばし呆然。

ペンペロはグウマ達と別れた後、《亜空のシバリ》の為に普通の犬の姿になっていた。

《ユラオラの知恵袋になる》という、グウマとの約束を果たしにユラオラを探しまわった。

そしてようやく巡り会って、この瞬間を待っていたのだった。

ワタボウシから飛び出したのは《メアワータ》だった。

メアワータを身体に取り入れて《あっくっく》のかけ声とともに、ユラオラに《特別のチカラ》が戻っていた。

メアワータを取り入れたユラオラは《あっくるのチカラ》が働いて、ゲンドロウの愛のプロテクターのアクテクターを身につけていた。

ペンペロは亜空のシバリがとれて、戦士ワタ我士の姿をしていた。

「ユラオラ!邪運化をやっつけるんだ!」

ユラオラはあまり理解できずにいるが、体から沸き上がってくるチカラを押さえられない。

「うおおおおおお……!!!“

戦いの気分でいっぱいになっていた。

「見て!邪運化だよ!」

ペンペロがキャンプベンチの屋根を指差す。

“シャク、シャク、シャク……”

そこにはスイカに同化した邪運化が無心でスイカやメロンを食べている。

「こら!邪運化!悪さをするなー!」

ユーラが叫んだ。

「スイ?オレがわかるのか?」

「わかったに決まってる!」

オーラが答える。

「このおー!」

ユラオラはやみくもに邪運化に向かっていく。

“ドガシャカーン!”

すごいスピードと破壊力だ。

“スイーッスイ”

しかし、スイカ邪運化は軽く避ける。

「おっと、案外やるねえスイッツ!」

ペンペロは作戦を練った。

「ユラオラ!あのスイカ邪運化は攻撃のポイントをずらすチカラがあるみたいだよ!」

天才犬は早くも戦術を分析していた。

邪運化は普通の人には見えにくい。

人々はユラオラ達の活躍がドタバタと暴れているようにしか見えない。

「なんだ、なんだ、子どもが屋根に乗っかってるぞ!」

「スイカとメロンがあんなところにある」

「でもかじられている」

「あの屋根の子どもがやったのか!」

周りの人は子どもがいたずらしたと大騒ぎになる。

“わいとわいとわいと……”

そんな川の方の騒ぎを聞きつけてミドルとマウムもやってきた。

「先生、ユラオラは屋根の上で何をやってんのかな。それにあの犬も」

「あの帽子の犬、さっきと雰囲気が違うわ!

何かあるわね」

ピリッとした感覚はこの予兆だったのか、ミドルはファイティングポーズをとって、意識を集中させた。

ファイターの目でこの光景を見る。

「ユラオラと赤いベレー帽の犬が何かと戦っているわ!」

カゲロウのようにその姿をとらえた。

「ユラオラ!

邪運化が現れたのね!」

「先生!わかるんですか?」

マウムはまだミドルのレベルまで達していない。

「スイスイ、スイっと!」

“ひゅっ!”

邪運化は持っていたスイカをユーラとオーラに投げつける。

“ボグシャ!”

「うああ!」

スイカが命中してユーラとオーラはひるむ。

スイカ邪運化は次の攻撃に移った。

“シャク、シャク、シャク……”

スイカを一気に口に入れる。

そして種を猛烈な勢いで飛ばす。

“プップップップップップ……!!!”

「うあ痛っ!」

マシンガンのような種の攻撃は意外と強烈だった。

ペンペロまでたまらずやり込まれてしまう。

「邪運化の破壊力はこの世界でも変わらないんだな……

ユラオラだいじょうぶ?」

ユーラとオーラが飛ばされたそこには、ミドルがいてふたりを受け止めていた。

「うん?

アナタ達、《チカラ》が戻ったのね!ビリビリ感じるわ!」

「ママー!邪運化だよ 強いんだ!」

「あの屋根の上に居るんでしょ!」

ミドル達は攻撃のポーズをとるが、日差しと重なって見えづらい。

「先生!どうなっているんですか?」

マウムには何が何だかわからない。

「またいくぞ!スイッ!」

“プップップップップップ……!!!”

「はあーっ!」

「い、いたっ!」

ミドルは種攻撃を察知して避けたが、マウムはまともにくらってしまう。

「なんか、すっごい痛いのがとんできた」

「見えづらいというのは、じれったいものね」

「先生、ワタシ全然見えないし……」

マウムも戦いに参加できない状態にいら立っている。

「そうか、邪運化は普通の人には見えづらいのか……」

少し離れて全体を見ていたペンペロは次の戦術を練っていた。

「ワタシも先生のようにせめて感じる事ができたらなあ」

「感じる?

それだ!」

ペンペロはひらめいた。

「ユラオラ!ママに目隠しと棒っきれを持ってもらって!」

「えっ?」

「つまり、スイカ割りしてもらうんだよ!」

「わかった!」

“だっだっだっだっ……!”

“ササッ!”

ユラオラは素早い動きでミドルに目隠しする。

「何?

どうしたの?」

「ママ!これ持って!」

「何、これ スイカ割り?

……なるほど!グッドアイデア」

戦術の意図を悟ったミドルは精神を集中させる。

棒を頭の上に持って来て、上段の構えをとった。

「スイスイー!」

“プップップップップ……”

「痛い!」

「痛て!」

「あいた!」

屋根の上ではスイカ邪運化が一般の人にまでマシンガン種を浴びせている。

「この悲鳴の元はこの辺か」

“シャク、シャク、シャク……”

「ママ!

今、邪運化が種を補充してる!」

「わかった、今がチャンスね」

ミドルは感覚だけで飛んだ。

「はあああ!」

“ボカッ”

電光石火の上段切りをジャストミートでスイカ邪運化に叩き込んだ。

「スイッチャーーーー!」

“ダン!”

“ドダン!”

ユーラとオーラも同じポイントに打ち込んでいく。

“ボカボカボカボカ”

これにはどんなものでもたまらない。

“ぱかっ”

スイカ邪運化は見事に割れた。

「命中〜」

“ボカン!”

“コロコロ”

パンクして、後に残った小さなカタマリ。

ペンペロは残骸をそっと拾ってワタボウシにいれた。

「やったー!」

「やったよ!

ママー!」

あたりは元の平和なキャンプ場に戻った。



バンガロー前、

「先生、今日の野外トレーニングは実戦をともなったすごいトレーニングになりましたね」

マウムが荷物をかたづけながら成果を語った。

「そうね、今回戦術がうまくいったしね」

「ユラオラのアクテクター姿もかっこよかったし」

「そうね、ゲンちゃんの愛の防護スーツだからね」

「でもあの不思議なワンちゃん、何でしょうね」

「ワタシもそれ、ずっと考えてた。

あの時、確かにユラオラにアドバイスしていたわ」

「どこから来たのかな」

「ユラオラの前に偶然現れたようには思えないのよね」

「ユラオラの為にやって来たとか?」

「うん」

「ママー、ママー」

ユラオラがキャンプ場をひとまわりして帰ってきた。

しっかりとベレー帽の犬を抱いている。

「ママ、このワンちゃんペンペロっていうんだよ」

ペンペロはメアワータの効き目がなくなると亜空のシバリによって普通の犬になっていた。

「ねえ、ペットにしていい?」

「ううん、

ペットにはしない」

「えーっ!

やっぱり、ゲンちゃんが反対するから?」

残念そうなユラオラ。

「くうううん……」

ペンペロも悲しそうな顔をした。

「違うのよ」

ミドルはユラオラとペンペロを見て人差し指を出した。

「ペンペロはウチの《ペット》じゃなくて《家族》になってもらうのよ!」

「うあああ!」

「嬉しい!」

ユラオラは飛び上がって喜ぶ。

その勢いでペンペロをくしゃくしゃに撫でた。

《家族》という言葉にペンペロはグッときて涙を流す。

「ワンワン!(ありがとう!ママ)」

「ワタシわかったの。ペンペロこそワタシが願っていた知恵袋よ。

ユラオラに戦術を教えてくれるブレーンだわ!」

「よかったね。ユラオラ!ペンペロ!」

“グイ”

マウムが親指を立てる。

「今日からあなた達はチームなのよ!邪運化と戦っていくの!」

ミドルは腰に手を当てて、拳をあげた。

「うん!」

「あっくる!あっくる!」

ユラオラが嬉しさで踊っている。

マウムがそれに加わって叫んだ。

「あっくる隊がんばれ!」

「なるほど《あっくる隊》ね、

ナイスネーミングね!」

「わああい!」

喜ぶあっくる隊を見ながらミドルは腕組みして宙を見つめた。

「ゲンちゃんをどうやって説得しようなかなあ」

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