第3話 鳥の仲間・獣の仲間

「はぁ、はぁ、はぁっ…」

 次々と襲ってくるヴィランを全て打ち倒すと、コウモリは荒い息をついていた。

「大丈夫?」

 武器をしまったエクスが声をかけると、しんどそうに頷く。

「あぁ…悪いが、ちょっと休ませてくれ」

 コウモリはフラフラと木に寄りかかり、目を閉じて呼吸を整えた。

「くっそ…次から次へと…アイツら、ほんと何なんだよっ…!」

(大丈夫かな…それに…)

 先ほどのヴィランとの戦い、ずっとコウモリのそばで戦っていたエクスには、一つ気になることがあった。悪態をつくコウモリにそれを確認すべきか迷っていると、

「どうした?どこかやられちまったのか?」

同じようにコネクトを解いたタオが近づいてくる。

「タオ。僕は大丈夫なんだけど、コウモリがちょっと辛そうなんだ」

「ん?あぁ…まぁ、本来であればヴィランと戦うことなんて無いだろうからな。コツを掴めばすぐ慣れんだろ」

「あんなの慣れてたまるかっつーの…」

 ぐったりと項垂れるコウモリの様子に、エクスはタオの水筒を見た。

「まだ水は残ってる?残ってたら…」

「いや、残念ながら、さっきので最後だったんだ。お嬢たちも飲み切っちまったらしいし、どこかに湧き水でもあればいいんだが…」

 弱り切ったタオが頭をかくと、コウモリがだるそうに指さした。

「あるぜ…」

「え?」

「あの丘になってるところを越えて少し行ったところに泉がある…お前らが飲んでも大丈夫なはずだ…」

「ホントか!?よしっ、じゃあ少し休憩したら、まずはそこに行こうぜ」

「うん。頑張ろう、コウモリ」

「あぁ…」

 コウモリが頷くのを確認すると、タオとエクスはレイナたちに泉の存在を伝えに行った。

「ちっきしょ…アイツ、どこ行っちまったんだよ……まさか、あの化け物にやられたんじゃねぇだろうな…」

 人知れず仲間を心配するコウモリの呟きは、エクスたちの耳には届かなかった。


******************


 ようやく落ち着いたコウモリに先導されて丘を越えると、そこには大きな泉が目の前に広がっていた。

「わぁ…きれいなところね」

「あぁ。あの岩肌のところから湧き水が出てる。そこから水を汲めるはずだ」

「こんなにデカいのに、干ばつが来たらここも干上がっちまうのか?」

「いや、ここはあの湧き水のおかげでどうにか保つはずだ。だから余計、獣族が必死に占拠しようとするんだが…」


「きゃああっ!誰かっ、助けてぇーっ!!」


 突然響いた悲鳴に、一行は動きを止めた。


「ちょっ、今のなに!?」

「おい、もしかして…」

「行くぞっ!」

 泉をぐるりと回って駆けつけると、反対岸でヴィランに襲われるカワサギの親子を見つけた。

「いたっ!あそこ!」

「ちっ、やっぱりアイツらかよ!」

「やるしかありませんよ、今度はへばらないように気を付けてくださいね!」

「るっせぇ!」

 舌打ちするコウモリに発破をかけ、シェインがヒーローにコネクトする。エクスも『空白の書』を開くと、コウモリに指示を出した。

「ヴィランは僕たちが引き受ける!コウモリ、君はあの親子を安全な場所まで連れて逃げて!」

「分かった!」

 四人は抱きしめ合って震える親子をコウモリに任せ、ヒーローにコネクトすると武器を握った。エクスたちの登場に気づいたヴィランたちも、矛先を変えて次々と襲ってくる。

(やっぱり…!)

 その攻撃を躱しながらエクスが見やると、背後に親子を庇いながらコウモリが必死に戦っていた。だが、おかしいのはヴィランのほうである。問答無用で襲ってくるはずのヴィランたちが、なぜかコウモリには進んで攻撃してこない。近づくとコウモリが攻撃するので反撃はするのだが、明らかに狙っているのはカワサギの親子だった。

(この想区で鍵を握っているのは鳥族でも獣族でもない…あのコウモリなんだ!早くレイナたちにも伝えなきゃ…!)

 エクスがレイナに視線を向けると、それに気づいたレイナがコクンと頷いた。レイナも薄々感づいていたのだろう。だからライオンと別れ、コウモリについてきたのだ。

(そうと決まれば…!)

 まずはこの場を切り抜けるのみ。

「たぁぁあああっ!!」

 エクスは気合いを入れて武器を振り下ろした。


 それからしばらくして。

「ふー、どうにか終わったわね」

 レイナがホッとため息をつき、三人もコネクトを解除する。揃ってコウモリの元に向かうと、怖がってピーピーと泣くカワサギの子供を、母親と一緒にあやしていた。

「ほら、もうアイツらはいねぇぞ。そんなに泣くなって」

「意外と子煩悩なんですね」

「お前の顔が怖ぇんじゃねぇか?」

「むっ、なんだと?」

 シェインとタオのツッコミにコウモリがむくれると、母親が子供を抱いたまま頭を下げた。

「先ほどはありがとうございました!あなた方のおかげで助かりました…!ほら、お前もお礼を言いなさい」

 母親に促され、まだ涙目の子供は鼻をすすりながらしゃくりあげる。

「ひっく…ひっ…ぁ、ありが、と…っ…」

「いいのよ、そんな」

「無事でよかったな」

 レイナが謙遜し、コウモリが満足そうに子供をなでると、母親は安心しきった表情でコウモリに聞いた。

「本当に…噂には聞いていたんですけど、この子がお腹がすいたって言うもんですから、どうしようもなくて。獣族には気をつけていたんですけど、あの化け物が出てきた時はもうどうなることかと…。あの、あまり見かけない種ですけど、あなたは鳥族の方ですよね?」

「………」

 コウモリの手がピタリと止まる。

「え」

「あ」

「やべ…」

「え、えーっと、彼はその~~っ…!」

 母親の質問にエクスたちが焦り、レイナがどうにかごまかそうとすると、無言になっていたコウモリがにっこりと微笑んだ。

「あぁ。そうだ」

「「「「!?」」」」

「おいお前、嘘つ…ぐふぅっ!!」

 コウモリの発言に驚いた一行だが、否定しようとしたタオの口をシェインが塞ぎ、レイナの手刀が脇腹を襲う。悶絶したタオはそのままエクスの足元に転がった。

「…あ、あはは…」

「口は災いの元ですよ、タオ兄」

「ホンっっト、バカなんだから。空気読みなさいよね!」

「ぐっ…だってよぉ…」

 小声で罵られるタオをよそに、コウモリと母親は会話を続ける。

「あんたらみたいに柔らかなそうな羽毛じゃねぇが、俺にも翼があるだろ。だから味方だ。安心していい」

「ですよね…よかった…」

「それより、腹が減ってんだろ。獣族やさっきの奴らが来ないよう、俺たちが見張っててやるよ。ゆっくり休めばいい」

「えっ、いいんですか?」

「あぁ、これも何かの縁だ。…いいだろ?」

 コウモリに話を振られたレイナは、腰に手をついて頷いた。

「えぇ、そうね。それぐらいなら構わないわ。シェイン、その間に、タオと一緒に水を汲んできてくれる?」

「了解です、姉御」

 シェインは全員分の水筒を集めると、タオと一緒に湧き水が出ているという岩肌へ向かった。

 カワサギの親子はぺこりと頭を下げ、嬉しそうに泉へ入る。

「楽しそうだね」

 はしゃいで魚を追いかける子供の様子は微笑ましく、エクスとレイナはコウモリと一緒にその様子を見つめた。

「あぁ。ガキは元気なのが一番だ。ま、うるさ過ぎても面倒だけどな」

「さっきも思ったけど、子供好きなのね」

「ん?まぁ好きってほどでもねぇが、これでも一応、コウモリ族の王だからな。ガキの面倒見るのも仕事のうちだ」

「ガキの面倒って…そういうのは普通、あの親子みたいに母親が見るもんでしょ?」

「あぁ、生きていればな。ライオンから聞いてんだろ。この森ではずっと戦争が繰り返されてるんだ。親を失って、孤児になった奴も多いんだよ。そういう奴らの面倒は、大体俺が見てやってる。まぁ、俺一人じゃさすがに限界があるから、他の奴らにもいろいろ協力してもらってるんだけどな」

「そう…そうだったの…」

「なのに、ちょっと目離した隙にどっか行っちまいやがって…あの鉄砲玉…無茶してなければいいんだけどよ…」

 カワサギの子供に誰かの面影を重ねているのか、遠い眼差しでぶつぶつと呟くコウモリに、エクスは首を傾げた。

「そういえば、仲間を探してるって言ってたよね。もしかして、その中の一人なの?」

「あぁ。ソイツも生まれてすぐの戦争で、二親とも亡くしてな。俺が親代わりっつーか、弟みたいな感じで面倒見てたんだ。それが、一か月くらい前から姿が見えなくなって、住処にも戻ってきやしねぇ。その後すぐあの化け物がうろつくようになったから、どっかでやられちまったんじゃねぇかって探してみたんだが…」

「見つからなかったのね」

「あぁ」

「何か心当たりはないの?喧嘩して家出中とか」

「一本気っつーか、無鉄砲なところがある奴だからな。アイツが何かやらかす度にふんづかまえて、説教してやることはしょっちゅうだったんだ。だが、それも日常茶飯事だったし、今さら家出までするとは考えらんねぇよ」

「そう。だったら何があったのかしら…心配ね」

「ただ…」

「ただ?」

「アイツがいなくなる前、少し元気がなかったのは気になってたんだ。俺や仲間の前では空元気出して平気そうに装ってたんだが…聞いたところで素直に答える奴じゃねぇからな。今までも本当にしんどい時には話に来たし、今回もその時までほっとこうって思ってたんだけどよ…」

「……」

 なぜあの時、無理やりにでも話を聞かなかったのか。それを後悔している様子のコウモリに、エクスは何も言うことができなかった。脳裏に嫌な予感が広がるが、口に出すと現実になってしまいそうな気がする。あくまで可能性とはいえど、一見粗野に見えても気性が優しいこのコウモリに、これ以上不安を与えたくはなかった。

「レイナ、あの…」

「…えぇ、分かってるわ。ひとまず、シェインたちが戻ってきたらまた探しに行きましょう。あの親子にも一応聞いてみてもいいかもね」

「あぁ、そうだな」

 頷いたコウモリは再び泉の中でくつろぐカワサギの親子を見た。不安、焦り、後悔。無邪気にはしゃぐ子供を見ていると、様々な思いが胸をよぎる。だが、寄り添い合う親子の姿に、少しだけ勇気をもらったのも事実だった。


*************


 シェインとタオが汲んできた水は、よく冷えていてとても美味しかった。全員で喉を潤し休憩した後、カワサギの親子と別れて森に戻る。

 親子もコウモリの子供は見かけていないと言った。情報も手がかりもなく、結局振り出しに戻ってしまう。

「どこか行きそうな場所に心当たりはねぇのか?よく遊んでた場所とかよ」

 レイナから話を聞いたタオが確認すると、シェインが頷きながら同意した。

「そうですね。この森がどこまで広がっているのかは分かりませんが、このまま闇雲に歩き回っても限界があります」

 ライオンたちと別れ、カワサギの親子と別れ。今日一日だけでだいぶ歩いたはずだが、どこまでも続く森の景色が途切れる気配はない。

「大体のところは回ったんだ。ただ、一か所だけまだ行ってない場所がある」

「そうなの?どうして?」

「この森のずっと奥にある洞窟なんだが、古いうえに広すぎてな。それに…」


ガサガサガサッ


「うわぁあああああっ!」


「「「「「!!」」」」」

「なんっ…ぶぁっ!!」

「危ない!」

 突然頭上の木々が揺れだしたかと思うと、悲鳴と共に黒い物体が落ちてきた。それはちょうど上を見上げたタオの顔面に直撃し、そのはずみでポーンと一回宙に浮く。そのまま地面に転がる寸前にエクスがキャッチすると、

「はっ、離せっ!!えぇいっ、離さんかっ、貴様らっ!」

 と、ジタバタ暴れだした。

「……お猿さん?」

「えぇ、そうですね。お猿さんのようです」

「くっ、首が…!」

 痛みに身もだえるタオをそのままに、目を丸くする一行。エクスに抱きかかえられたそれは、つばを飛ばして一喝した。

「誰が猿じゃ!ワシはチンパンジーじゃ!そこらの猿と一緒にするでない!」

「いやいやいや、だから猿でしょ?結局似たようなものでしょ?」

「お前ら知らねぇのか?類人猿の中でも、チンパンジーの知能は特に高ぇんだ。猿は猿でも、普通の猿とは比べものにならねぇぞ?」

「「「へぇ~」」」

 コウモリの解説に感心する三人に、年老いたチンパンジーはさらに怒って腕を振り上げた。

「だから猿猿と連呼するでないっ!貴様ら、褒めてるのか馬鹿にしてるのか、どっちなんじゃ!」

「く、首っ…俺の首がっ…」

 悶絶するタオだけが華麗にスルーされたまま、一行はしばらくチンパンジーのお説教を受けることとなった。


 それから10分後。

「まったくっ、近頃の若いもんはっ!」

 エクスの腕から柔らかい葉が敷き詰められた地面に下ろされたチンパンジーは、まだプリプリと怒っている。

「ほ、本当にごめんなさい…」

「いい加減、機嫌なおしてよー!」

「反省してますよ?これでも一応」

「痛って~……ムチウチになるかと思ったぜ…」

「悪かったな、じーさん」

「貴様ら、本当に反省してるのかっ!?あぁっ!?」

「「「「「ごめんなさい」」」」」

 誠意があるような無いような反省の弁に、さらに怒り出したチンパンジーだったが、全員できちんと頭を下げるとようやく許してくれた。

「ふんっ、初めからそう言えばいいんじゃっ!まったく!」

「はい、気をつけます…。でも、いきなり木の上から落ちてくるからビックリしました。ケガがなくてよかったです」

 エクスが苦笑して声をかけると、タオが遠い目をして首をさする。

「代わりに、俺の首が犠牲になったけどな…」

「む…それはワシも悪かった。すまんかったの。そろそろ戦争が始まるじゃろ?鳥族に見つかる前にと思って必死で餌を集めていたら、枝を掴み損ねての。あっという間に真っ逆さまじゃ」

「なるほど。これぞまさしく、猿も木からお……もごもご」

 ジロッとチンパンジーに睨まれて、シェインがさっと自分の口を抑える。

「…指さえ全部揃っていれば、木登りでも他のチンパンジーにも引けを取らないんじゃが、生まれつきでの」

 チンパンジーが開いてみせた右手を見て、全員がハッと息をのむ。本来5本あるはずの指が、そこには3本しか存在していなかった。

「失礼なことを言いました。ごめんなさい」

 シェインが鎮痛な面持ちですかさず謝ると、今度はその誠意が伝わったのか、チンパンジーは笑いながら首を振った。

「なんの、気にすることはない。若かった頃はそれなりに悩むことも多かったが、この指でもどうにかこうにか生きてこれたからの。今では逆に誇りに思っておるんじゃ」

「そう…たくましいのね。見習わなくちゃ」

 レイナがしみじみ言うと、チンパンジーはうんうんと頷いて上を向いた。

「しかし困ったのぅ…せっかく集めた餌を置いてきてしまった…。また登ってる間に鳥族に見つからなければいいんじゃが…」

 エクスも一緒になって見上げたが、この森の木々はどれも高く生い茂っていた。葉や枝が重なり合う場所はかなり上空にあり、エクスたちには手も足も出せそうにない。

「俺が持ってきてやるよ。どの辺りに集めたんだ?」

「あの辺りだが…しかしお主…」

「あそこだな。任せろ」

 コウモリは翼を広げて舞い上がると、チンパンジーが落ちてきた枝の密集地を目指して飛んだ。太めの枝が分かれている木の又部分に、果物や木の実が小さな山になって置かれているのを見つけると、腕に抱えて地上に戻る。

「ほら、これで全部だろ」

「あぁ……」

 その様子を呆気に取られて見ていたチンパンジーは、腕を伸ばそうとして動きを止めた。

「その翼…お主、まさか鳥族か?」

「……」

 警戒したチンパンジーは伸ばしかけた腕を引っ込め、すぐにその餌を受け取ろうとしない。 

「あ…」

「待って、彼はちがっ…!」

 エクスが焦り、再び黙るコウモリに、仲介しようとしたレイナが声をかける。

「待て、お嬢」

「でもっ…!」

 その腕をタオが引き留め、振り返ったレイナに首を振った。

「…そうだな。俺には確かに翼がある。だけど、よく見てみろよ、じーさん。俺の翼は鳥族みたいに羽毛じゃねぇ。それに、身体もあんたらと同じ毛皮に覆われてる」

「……確かに…」

「俺は獣族の仲間だ。味方だよ」

 コウモリが安心させるように微笑むと、警戒したチンパンジーの肩から力が抜けるのが分かった。

「そうじゃな…信じよう。疑ってしまって悪かった」

「気にすんな。アンタじゃねぇが、俺もこんな身体だ。それに、いつ戦争が始まるかもしれねぇっていう、こんな状況だからな。どっちからもすぐに信用されねぇのは慣れてるさ」

 ニッと笑うコウモリに、チンパンジーは苦笑しながら餌を受け取る。そのやり取りを息をつめて見守っていたエクスたちはホッとため息をついた。

「調子のいい卑怯者、か…本当にそうなのかな…」

 ライオンやオオワシはそう彼を評して嫌っていた。だが、コウモリを知れば知るほど、それだけが全てとは思えない。思わず呟くエクスに、タオが肩を竦める。

「分からねぇ。俺たちには何とも言えねぇが…それがあいつの役割なら、それをずっと続けるしかないんだ。……こうやって考えてみると、因果なもんだな。予め決められた『運命』ってやつも」

「そうね…」

 思わず考え込む四人を余所に、コウモリとチンパンジーは会話を続けている。

「それより、じーさん。この辺で俺と同じ翼を持つガキを見なかったか」

「子供?お主の子か?」

「いや、血は繋がってねぇが…まぁ、弟みたいなもんだ」

「そうか…子供子供………ん?確か……」

「知ってんのか!?」

 何かを思い出したチンパンジーに思わず詰め寄ると、それに気づいたエクスたちもそばに駆け寄る。

「一週間くらい前じゃろうか…。確か、『始まりの洞窟』の近くでそのような子供を見かけたぞ」

「ホントか!?」

「あぁ。ほれ、あの辺は例の化け物どもが頻繁に現れるから、誰も近寄らんじゃろ?ワシも気をつけていたんじゃが、どうしてもあそこに生えている木の実が食いたくてのぅ。用心しながら向かった時に見かけたわい」

「マジかよ…なんであんなとこにっ…!」

 コウモリが舌打ちすると、チンパンジーも心配そうに頷いた。

「ワシもそれが気になったから覚えておったんじゃ。声をかけようかとも思ったんじゃが、子供一人でいるのもあまりに不自然。ましてや鳥族で、親が近くにいたらと思うと声もかけられんでのぅ。そうか…お主の身内じゃったか…。それは申し訳ないことをした」

 チンパンジーが頭を下げると、コウモリは首を振って礼を言った。

「いや、とんでもねぇ。むしろ感謝するぜ、じーさん。ありがとな。早く迎えに行ってやらねーと…」

 コウモリは急いで翼を広げると、再び宙を飛んだ。

「じゃあなっ、じーさん!今度は木から落ちねぇように気をつけろよ!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよー!!私たちも行くってばー!!」

 慌ててコウモリを追いかけるレイナにシェインとタオが続くと、エクスは急いで別れを告げた。

「ご、ごめんなさいっおじーさん!お元気で!」

「気をつけての~」

 チンパンジーは手を振って走り去る一行を見送り、辺りは再び森の静寂に包まれた。



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