黒の狂信者



てっこてっこと街の中を歩く。垂れ下がる蜘蛛の糸はその尽くが炎に消えた。白い生物やらを黒い異形がムシャムシャとしている。美味いのだろうか。わからん。

空は紅く染まり、火の粉とも燐とも付かない青白い光が立ち上っている。大地は黒く染まり、神獣とやらも路傍に力なく横たわるのみだ。

さっきはルイスを見かけたし、メロウダリアも元気に暴れていた。あとは知らん奴らがちらほら居たがおっかないし関わりたくないし。あと興味ないのでどうでもいい。何が悲しくて嬉々としてほにゃららな行為に励む異形を眺めねばならん。

ふむ、これぞまさに蹂躙と言えよう、わははは。まぁ私の力ではないがそう見たっていいだろう、何せやってるのは悪魔どもであるからして。


「暗黒神様」


「お」


声の方向を向けばもじゃもじゃのウールを蓄えた角の生えた羊である。ん、アスタレルか。ちらと腕を見やれば、ちゃんと真っ黒な手がくっついている。

ふむ、ならばいい。

恩が返せたのか聞こうかと思っていたが、本人も何も言わないし気にした様子もないので言わないでおくことにした。全然足りませんネとか言われたら面倒なので。

……しかし、腕をまるで動かさないな。ピクリとも動かない、動くのか?

多少心配になってきた。まさか動かないとかあるまいな。それは困る。それでは意味がない。よいせと腕下に手を突っ込んで持ち上げてみた。ボヨンと揺れるウールがもったりしていい感じだ。

たぷたぷと撫で回しておいた。レッサーパンダかカピバラのような真っ黒な手がウールに押されて手前に上がる。手先は蹄かと思ったらそうでもないらしい。足は蹄のようだが。

しかしルイスといいこいつときいい省エネ姿だとあざとすぎるな。

絶対わかっててやっているのだから益々憎らしいものである。ブラブラと左右に揺らしてみた。羊の足がなすがまま慣性に従いブラブラと揺れ動く。

耳が服に擦れるのが気になったらしく両腕でバサバサと払われた。ん、何だ動くのか。変な心配させやがって。だったらいいや。

上に引っ張られて反り返る羊をぽいと降ろして視線を巡らす。さて、目的の人物は何処に居るのやら。


「フィリアはどこかなー」


あのビッチビチ聖女め。手間をかけさせおってからに。戻ってきたら美味しい物の一つや二つ奢らせねばなるまいて。そうだ、クルコのパイでも作らせるか。

いや、料理が出来るかは定かではないが。この東大陸の様子を見るに料理の腕など壊滅的な気がしないでもない。出来なかったらやはりなんか奢らせよう。うむ。

考えているとウールの塊が心底感心というか、驚嘆したような声音で呟くのが耳に届いた。


「それにしても……面白いデスネ。驚きましたヨ」


「何がさ?」


「暗黒神様が、デスヨ。随分とお変わりになられた」


「そう?」


別に変わったような気がしないが。

いや、この世界に来てから色々あったし、私にはわからないが傍から見れば変わったのかもしれないな。進化する事はいいことだぞ。


「正直に申し上げますとワタクシ、暗黒神様と初めてお会いになった時にまず思ったのは昆虫が人間の真似事をしている、でございましたノデ。

 まぁ、そもそもまがりなりにも人の真似事をしている、という事自体が信じがたいものだったのですがネ」


「なんだそりゃ」


微妙に失礼な事を抜かしあそばされておられないだろうか。

昆虫て。

この可愛いむっちり幼女を捕まえて昆虫とはなんだ昆虫とは。

この野郎私をそんな眼で見ていたというのか。小虫が喋って動いたから驚いたとかではあるまいな。

あれか、私の弱さはまさに虫けらとでもいうのか。……間違ってないな。否定できる要素がない。暗黒街の店主にも赤ん坊レベルと太鼓判を押されたので。

逆にいとけない小虫ちゃんであるからしてもっと大事にして欲しいのだが。


「昆虫がご不満というのならば別に名状しがたい腐肉の塊でも構いませんヨ」


益々もって失礼な事を言い出した。生き物ですらなくなってしまった。三角コーナーの生ゴミというわけか。失礼な!プンスコ。


「何を言うのだ!愛くるしくて可愛らしいぷりちークーヤちゃんだぞ!

 このもりもり溢れ出る色気がわからんというのか!」


「どこが愛くるして可愛らしいんデス?

 貧相極まりない人間の幼児じゃないデスカ。ドラム缶体系に加えてイカ腹。

 暗黒神様の色仕掛けが通用するなぞ特殊な趣味か悪魔くらいなもんデショ」


ぐぬぬ、否定できない。確かにペドしか引っかかりそうもない。

唸った。唸りを上げてついでに威嚇とばかりに歯を鳴らす。


「いつの日にか必ずや絶世の美女になって女子力と乙女さでぎゃふんと言わせてくれる……」


「期待せずに待っておりますヨ。どうせ口だけでしょうガ。

 ……人間などどれも同じとは貴女のお言葉だったでしょうに……魂の位階を昇ったわけでもない人間の為に動かれるなどと何の気まぐれかと思いましたガ。

 ま、貴女がお望みとあらば我々もやりますがネ」


妙なことを言い出したなりにアスタレルもなんだかやる気を出したようだ。ま、良いことである。


「私は探索はあまり得意とするところではありませんのでネ。人間などという塵の如き生き物なぞ気付くのにも一苦労デス。

 虫眼鏡で地面を這って虱潰しに探し回るなんぞしたくありませんノデ。

 というわけで神族が一匹、そちらを片付けると致しまショウ」


「おー。……あ、ちょっと待つのだ」


見送ろうとして思い出した。よくやった我が暗黒脳よ。

そうだった、もうちょっと賄賂を渡しとくつもりなのであった。更にやる気を出してくれたら万々歳と言ったところであろうか。


「ほれ」


ぽいと人魚の涙を放った。危なげなく両手ではしっとキャッチした羊は不思議そうにピアスを眺めている。


「……何デス?」


「お土産」


「……………ま、頂いておきますがネ」


言うなりぶちっと羊の耳にそのままピアスをねじ込んだ。いてぇ、見てるだけでいてぇ。あいたーと思わず目を覆った。

が、本人には痛覚はないのか平然と具合を確かめるようにしてさわさわとしている。ろまんちっくな感じで恋が実っちゃうのか。プフー。

うっしっしと笑ってからハンカチを取り出してひらひらと見送った。胡散臭そうな顔をした悪魔ではあったが、特に何を言うでもなく私に背を向けると無言で歩き出すとそのまま見えなくなった。

さて、私もフィリアを探すとしよう。フィリアは今肉体だけの状態なので多少探しにくいが。まあなんとかなるであろう。さっさとこの魂を元に戻して美味しいものを奢らせねば。

木の枝を倒して指し示された方向に歩きだしてきっちり二分後、背後で爆炎が吹き上がった。髪の毛が爆風に煽られて口の中に入る。最悪である。

……………まあ、やる気を出してくれたようで万々歳とみなしておくか。うむ。

若さとは振り返らないことであるからして振り返ることなくさささっと歩く。

さて、フィリアの肉体のある場所には神族も居るのであろうが……アスタレルがなんとかしてくると言っていたし、私が辿り着く頃にはなんとかなっているであろう。

蒼い燐が舞い上がる中、一歩踏み出す。私の道を阻むものは存在しない。

うむ、行くとするか。

キョロキョロと周囲を眺め回しつ街を練り歩く。お、食い物屋らしきものを発見。飛びついてガサガサと漁りまくる。


「むむ!」


なんか同じものしかないな。やはりガチでレーション食ってやがったか。フィルムをバリバリと剥いで食らいついてみた。

うーむ、味がしないな。パキンと砕けて噛めば噛むほどに粉のように崩れていく。粉吹く硬い食感、苦くもなく甘くもなくひやりとしたものだけが口内に残る無味無臭の味。無味の小麦粉を水で固めて乾燥させたものを食っている、という表現が一番近い。

食い物屋には所狭しとこれが並んでいるだけだ。七日分、三日分、一日分、日数によってパック詰めされている物には完全食と印字されたシールが貼られ、説明書のようなものには成分表と一日三個食べる事、そして名前が書いてある。配給制らしい。

それにしてもこんなのが東大陸の日常食だというのか。やっぱりという感じだがこれでは何を楽しみに生きているのかわからん。奴隷の街ではでっぷりデブった親父も居たが。絶対にこの食生活の揺り戻しだ。

そりゃあ他大陸に出たらガツガツムシャムシャするわ。バリバリと五本目を食い終わったところで奥の間に住人発見。特に何を言うこともなくぼんやりと教会を見ている。

ふむ、そういや神獣やら天使は悪魔に食われているが人間は見かけていない。家に引きこもっているのか。戦闘で壊れた家屋や火が付いた家もあったが、まぁ確かに崩れるほどのものではない。

悪魔は教会のような建物を中心に集っているし、その辺の家には興味を向ける様子もない。家に引きこもるのが確かに一番賢いかもしらん。

住人がなんで襲われる教会を眺めているのかは知らんが。何か思う所でもあるのであろうか。まあいいや。こちらに注目を向ける様子もないし、今のうちにこの完全食とやらをくすねるだけくすねてやろう。

何せ引越し先は地下だからな。食べ物があるかどうかは怪しいところだ。手頃なサイズで栄養満点なら繋ぎにはいいだろう。一頻りくすねてから金貨をぽいと置いておいた。この大陸で使えるかは知らんがこれでよし。

パンパンになったリュックは若干苦しげなうめき声をあげている。前々から思っていたがまさかこのリュック生き物なのか?

不気味な見た目といい嫌な生き物だな。まあいい。ずっしりと重いリュックを背負ってすたこらさっさと見つかる前に逃亡である。

大きく開けた広場の中央に石造りの展望台。上の方で悪魔が何やらムシャムシャしているようだが、逆に言えば安全圏だ。階段を登ってから柵に乗り上げてぐるりと街を見回す。

一際大きな建物。そこに神族の気配と異界人の気配。あちらにフィリアの肉体もあるであろう。さっさと取り返すに限る。

目的地は定まった。いざゆかーん!!







顔を上げる。主の意識がこちらの方向を向いた。

適当に暴れながらも主より先んじて辿り着いた先には神族が一匹、他に何匹か人間も居るのであろうが……認識は出来ない。

居ても居なくとも変わらぬ故に気にすることはない。

ただ、ここで神族を齧り取れば主が探しているという恐らくはこの空間のどこぞに転がっていると思われる人間の肉体も消し飛ぶであろうことは想像に難くはない。

望まれるのならば塵芥が如き人間であろうが保護すべきもの足り得る故に多少は融通するとも。

唯一認知出来るものは八本足の蜘蛛。幼い女の形を取っているようだが己の視界ではただの虫なれば。

同じ街中である。主の足でもさほどの時間はかかるまい。さっさと引き離すが良かろうほどに。魂無き人間は床に転がっているであろうと見做し、地に近き所を避けて乱雑とも言える適当さで空間を削ぐ。

いくらか人間に当たったか、悲鳴と怒号。次いで血臭が漂いて静かになった。残った者達が生きているか死んでいるかは知らぬが、少なくとも手を出してくる愚者はおらぬようではある。よろしい。興味の向かぬ物事にはわかりやすく、手間が掛からぬ事を悪魔は好む。

神前での凶行に聊か魂を荒ぶらせたらしく荒れた所作で立ち上がりたる神族は、やはり小さいようだ。

童を模した姿を取る神族は少なくはない。神秘性の問題である。成熟した女や盛の男より老人や童の方がよりらしい、という事である。

しばし考えつ、先程のやり取りを思い出す。

美しくなりたい、可愛らしくなりたい、それはつまり周囲から愛されたいという事だ。

誰かの愛を望むという事だ。全く信じがたい。

愛、喜び、怒り、悲しみ、苦しみ。感情というものをそもそも理解しておらぬであろうに、前提からおかしいだろう。

どうせ口だけであろうとも。既に言った事を忘れていても驚かぬ自信がある。どうせ直ぐに放り投げるのだ。本気などではない故に。言ってみただけ、まさしく。

人間の女の真似事、それ以上の意味は無いのだろう。

そも、主に関して言えば幼児の姿をとっているのもあの姿が本質に合っているからだろう。

知識欲も顕示欲も名誉欲も嫉妬も性欲も愛も無い。根本的に興味が無い。あるのはただただ人の子と同じ、快か不快か。それだけだ。

食事を好み、睡眠も好む。人の子の遊びを好んで真似をする。気分が良ければそれで満足であり、それ以外はどうでもいいのだ。

ああして曲がりなりにもそれなりに見れる人の姿を取っているのが悪魔にすれば奇跡にしか思えぬ程に。

それにしてもレガノアや人を真似てみたというだけに過ぎまい。

何が乙女だ。馬鹿馬鹿しい。

言うほどに生命体としてまともな感情を持った分かりやすい生き物ならばこれ程苦労はしていないという話だ。

だが、あの呆れる程に混沌としている神を心の底から愛し、信じているのだからそれもまた、仕方が無い。

深き闇の深淵の中に石を投げ入れ続ける無為な生き方、返ってくるものは何も無いと知っていながらもそれに殉ずる事を選び取りたるが悪魔である。どれほどの献身を捧げても神から返ってくるものは何も無いと知っていた。それが信仰というものだ。故に、それでよかったのだ。

何千、何万、永遠に近い時間繰り返し続けたその狂気に近しい無意味な行動の果てに、闇の中から無造作に石が投げ返された時の得も言われぬ感動たるや如何ばかりか。

石が投げ返されたその理由は知るところではなく、また知る必要もない。

―――――――神の御心はわからぬもの、それでもなおその御心を疑わぬは眷属というもの。

人魚の涙に触れる。ああして気まぐれに投げ与えられる褒美に心底から喜び勇みて命を投げ捨てる。それが悪魔というものだ。

目前のモドキに手を伸ばす。


「さぁ、愛し合いましょう。愉悦に身を任せるがままに貪りあい、互いの魂が擦り切れ果てるまで」


「黒の狂信者。黒貌の羊奴が。此の領域と人々は私の管理するモノたち。

 神の前でのその見るもおぞましい、許し難き狼藉。血などという汚穢なものを私の前に散らすなんて。

 かくて神罰は下される。神の怒りを買いたる者はその命を以って償わねばならぬと思い知るが良いわ」


「あ?知ったことか。神はこの世にただ一人きり、その名を騙る罪深さを地獄で万年掛けて学ばせてやる」





―――――――――何たる屈辱、何たる侮辱。何たる不遜。神たる己が身に未だ嘗て無き激情の炎。

永き生においてこれほど嘗められた事はない、ただの一度たりとてだ。

人は額づき祈りと共に乞うてくるもの、獣なれば畏れ逃げ惑うもの。神とはそういう存在であるからである。

知識生命体が創造しえる幻想の窮極、意識集合体たる神が侮られるなどとは、断じて赦される事ではない。赦されるものか。赦されていい筈もない。

神と人は対等ではない。万物の上に在るもの。神は不可侵、絶対にして不変。人が天を仰ぎ見る先に輝くものが神なれば。太陽の如く地を照らす信仰と祈りそのものである。

唾を吐きかけられるを許容するはそれ即ち神位の剥奪に応じたも同然也、地に落ちたる信仰なぞ、天上に在るべき神に非じ。

狂わんばかりの神の怒りに現し世の依代が煮崩れる寸前の有様にて、バシャバシャと液状化し蒸発する末端の四肢の尽くが大地に落ちる。

歴史にすれば千年あまり、神族としては古いとは言えぬまでもそれでも地を這う者とは天と地ほどの差がある。

ましてや雲上にて流星の如き糸を張り巡らせては天空を渡る、蝗と飢饉と旱魃を司りし蜘蛛、それが泡雲の君。古き太陽神の直系、神位で言えば天空神とも言える神格は言うに及ばず。

万、億の魂を刈り取り毎年のように人々が恐怖に身を震わせ手を合わせその顎から逃れ未来を恵まれたいと国をもあげて一心に祈らせたる大災害を神格化した存在が包括する畏れとは古さだけが取り柄の神とはその格が違う。

ぐるりとさかしまに孵りて冥界より引きずり出したるは神としての八肢。雲糸を手繰りて霧雨と共に禊の如く不浄の陰気を落として回る神蜘蛛の八肢である。

人間の男を模した無形の邪神、己の本性を曝け出したる八肢で握り締めれば容易くへし折れるとすら思えたのだ。

だというに。


「邪見」


蝗を司る一肢目。頭上より振り下ろされた一度触れれば蝗に食い荒らされ果てる肢、それに気付いた素振りすらなく抜けられた。


「邪思惟……」


飢饉を司るニ肢目。横合いから刈り取るが如き死鎌は逃れるを能わず、それが片手で跳ね除けられた。


「邪語!!」


旱魃を司る三肢目。近づけば一呼吸で千年超えるが如く時を吸い上げる肢は触れることすら叶わず毟り取られた。


「……邪業、邪命、邪精進、邪念正定……!」


乾季と雨季を司る四肢。四つの災害に揉まれたが如き屍を晒すが包容は正面から砕かれた。


「邪定、八天厄道……!!」


人の儚き祈りを無残に圧し折る天の理を司る最後の一肢。

魂核を貫き魂諸共に消滅させるそれは狂ったような哄笑と共に右手一本で止められた。

何たる、何たる悪夢。ただの眷属如きなれば最初の一撃で終わっている。

挙句の果てに。怒りのあまりに発狂寸前になりながら正視すらしたくもない事実を認識するしか無い。

砕かれた神の矜持、此処で引けば己は神の座から堕ちるだろう。

喉奥より血が吹き出る程に呻く。先ほどからこの悪魔、片腕で戦っているのだ。


「お前ぇ……何故、何故左腕を使わない!?

 この泡雲の君、空浪雲涅を前にして片腕だけで充分だとでも言うのかしらァ……!?

 手を抜くだなんて、莫迦にして、天に唾を吐く所業、なんたる、言葉すら出ない、あぁぁあぁぁぁあああ!!!……この、……天上の神々の一柱に向かって!!」


叫んだ瞬間、ニタニタと嗤うだけであった悪魔の表情の一切合財が抜け落ちた。

空気が変わった。背筋が粟立つ。耳が痛いほどに張り詰めた静寂。

ゆっくりと掲げられた左腕。何故気付かなかったのか。

なんて、おぞましい。あれは、違う。

奴の左腕。あれは、生来のものではない。あまりにも、あまりにもおぞましい腕。何故己はこんなものの傍に居るのか。

逃げ出したかった、今すぐに。


「………は、アホかテメェ?冗談だろ?テメェ如きに使っていい左腕じゃねぇんだよ」


そうだとも。

この程度の女に使うなどあってはならない。

この左腕だけは。


「この左腕は私の愛、私の光。私が賜った、神の左腕。テメェみたいなクズの虫ケラに使うなどあるわけねぇだろ」


目に映る見た目も伝わってくる感覚も確かに元来の男の腕とまるで変わらない。

だが、それ故にこの腕こそが神の存在証明そのものたらん。そうとも、神は此処に居る。

狂信したる神の左腕。悪魔にとって何を置いても守るべき至宝だった。

それを穢すなど、あってはならない。


「万死に値しますヨ、虫ケラが。使え、だと抜かすその思想が既に罪です。伊達に黒の狂信者などという二つ名を与えられていませんよ。

 神に唾吐かれれば狂気と等量の信仰の炎を以って異端を火刑に処す可し。この左腕を穢すなど……楽に死ねると思うんじゃねェ。

 その魂、地獄に引きずり込んで万の微塵に刻んでジュデッカにバラまいてやる……」


「…………ぐぁ……っ!!」


蹴り抜かれた身体、神の身が他者から影響を受けるなどと信じがたい思いだった。蹴り飛ばされるがままに依代が吹き飛んだ。

土煙を上げて転がるようにして倒れ伏した大地に穿たれた深淵がその顎を開く。音を立ててその黒穴に沈み込む身体。

そこから漂う、この世で最も悍ましき気配。総毛立った。飲み込まれた手の先の感覚は無い。

触れるものもなく何も見えはしない。見えぬながら、この向こうは、想像を絶する狂気と混沌ばかりが詰まる世界であると確信する。

此処だけは嫌だった、此処だけは。例え神の位から引き下ろされ消滅するとしても構わないとすら思う。

広がる黒闇から舞い上がる虹色の不浄の光。鼻を刺す異様な匂い。微かに漏れ聞こえる狂気の声。闇に呑まれた身体には痛みも何もない。だからこそ恐ろしい。存在しているのかすらわからないのだから。

吹けば飛ぶ薄布のような空間一枚隔てた先に広がる無窮の闇に堕ちていくという気が狂いそうな恐怖の最中、垂らされる救済の蜘蛛の糸を求めて絡め取られた蝶のように必死に藻掻く。


「いや……いや、いやいやいやいや……!!

 ここには堕ちたくない、いや、いや……たすけ、いや、お願い……!!

 なんでもするから!ねぇ、お願いよ!!此処にだけは堕ちたくない!!

 嫌だ、いや、いやあぁぁああああああ!!!」


「馬鹿か?テメェの行き先は此処しかねェよ。深き混沌アヴィスに堕ちてそのまま朽ち果て失せろ」


ガコンと蹴り落とせば、その姿は直ぐに消え失せた。

後に残ったのは何事もなかったかのように広がる大地ばかりである。














「たのもー!!」


大門を開けてのしのしと歩く。い草の香りも芳しい建物だ。なんとなく靴は脱いでおいた。しかしこの大陸でこの建築様式は逆に大変そうだ。金かかってそうである。

うーむ、あちこち大穴が開いているな。つるりとした断面は熱で融解したようにも見えるが。

元からそんな形でしたよーとばかりの綺麗な開き方だ。これをまともに食らったらしき人間や神獣、天使の死体が転がってなければこういう形の建物だったんだろうと思えただろう。

神族の気配はもう無い。多分あの悪魔羊が殺ったんだろうな。ナンマンダブ。申し訳程度に手を合わせておいた。

神の炉に居た奴らと同じ服らしきものを身に着けたレガノア教の神官職であろう人間は悪魔に集中的に狩られたらしく生き残りは居なさそうだ。

この街に元から住んでいるらしい兵士達は力なく座り込み、完全に戦意もなくうなだれているばかりである。幾らなんでも士気に差がありすぎだろ。

ふむ。そう言えばこの街はなんか色とりどりの旗を掲げていたな。あんまレガノア教に熱心な街ではなかったのだろうか。端っこだし。よくわからんが。

木の枝倒して位置確認。この大穴多分アスタレルの仕業だな。壁も何もかも無視して一直線に進んだ感じがする。実に雑な仕事である。悪魔が芸術肌とか嘘だろう。雑さしか見えないぞ。

ま、私は優雅たれ暗黒神ちゃんなのでちゃんと廊下を道なりに進むが。あいつ背が高いんだな。穴の位置高いもんな。許さん。もっと下に開けとけ。そうすれば私もこの穴を跨いで進んで行けたというのに。

しかし、うむ。たいへんよろしい。楽ちんだ。時間かけても大丈夫な安心感があるという素晴らしさ。いつもこうだったらいいのだがいつもこのレベルで悪魔召喚とかしてたらなんか色々吸い取られそうだ。

まぁそれ以前に今の私はなんか絶好調だからな。こんなのはそうそうあるまい。

何枚目かのごうじゃすそうな襖を開く。光の届かない薄暗い室内は襖に描かれたキラキラとした塗料の手の込んだ絵を守る為だろう。

四方を飾る金糸飾りは間違いなくガチで金である。この襖一枚とっても高値で売れそうだ。

ウルトが見たら大喜びだな。血臭がしなければ更に良しだったが。まぁ文句は言うまい。

立ち止まる。襖一枚向こうに人の気配。異界人の男と剣聖。それならばここが目的地に間違いあるまいて。時間を掛ければ掛けるほどに状況は悪化する。急がねば。

すぱぁんと襖を勢い良く開け放つ。


「うわあ」


広々とした空間。しかしひっでぇ有様だな。アスタレルの奴暴れすぎだろう。あちこちに広がる血痕と臓物。上半身が消し飛んだ奴らがあちこちに転がっている。

周囲を見回してから、広大な広間の先にある上座に視線を向けた。

人間が三人。異界人と剣聖、そして好色そうな狒狒爺が上座にどっしと座っている。あとは控えているのか。気配はあるが姿は見えない。手を出してくる様子は、ない。

三人が立つ最上座の部屋の上部には、こりゃまたどでかい穴が開いている。お空がぽかりと覗いているレベルだ。あの三人が無事だったのは座ってたからか。どうにも上部ばかりを狙った攻撃ばかりをしていたようだ。

あいつあの三人に気づかなかったのか?

でもあいつフィリアが目の前に居ても気づかなかったからな。悪魔は人間に気づきにくいのだろうか。

腕を組んで三人の様子を眺めてみる。異界人のおっさんはいかつい顔を崩すこともなくこちらを静かに見つめ、剣聖と狒狒爺は多少顔色が悪い。まぁこの凶行を目の前で見たのだろうし、それを思えば仕方がないところもあるだろう。

私だってアスタレルが全力で大暴れする姿なんて見たくない。確実にトラウマになる。目の前に浮かぶようだ。声を押し殺して吹き飛び続ける周囲に怯えながらじっと身を竦めるのが。きっとあの三人もそうだっただろう。可哀想に。

目的の人物は広間の真ん中辺りに転がっていた。周囲に色々削れた死体が転がっているのでちょっと心配したが、遠目に見ても傷はなさそうだ。

ふむ、ここは大胆に行くべき。てくてくと歩いてフィリアに近寄る。静止はない。


「……………」


フィリアの身体の傍にしゃがみこんで身体を検分。やはり怪我はなさそうだ。ぽかりと口を開けさせてからぐいぐいと結晶化した魂を押し込む。喉がごくりと動いたのを確認してからよしと頷いた。

目的は達したので用はもう無い。しかしここまで止められもしないとなると多少心配である。

聞いてみるか。目の前に居るんだしな。


「止めないの?」


私の問いに答えたのは異界人のおっさんである。顔の傷が歴戦の猛者って感じがして強そうである。悪魔一人くらいは引きずってくるべきだったかもしれん。


「止めても意味がないのだ。その身体は先程の衝撃で術式の全てが破壊された。セレスティアの器としてはもう使い物にならぬ。

 持ち帰るならば好きにする事だ。我々の目的は既に達成された」


「む。目的って何さ」


「幾つかある。先ずはアンジェラと言ったか、アルカ家の自律人形とノーブルガードの娘の肉体の奪取、あるいは破壊。あの街と暗黒神討伐の任を請ける事。

 金狐の勾玉のオリジナルの入手。そしてこの島国の頭領の依頼の遂行。もう一つあったがそちらは時期を見るつもりだったのだよ。

 思わぬ前倒しで全てを一気に片付けられたのは幸運と言えるだろう」


「ふーん」


気のない返事をしつつも目が泳いでいる事がバレませんよーに。

なんでこの場にアスタレルかルイスが居ない。私ではさっぱりわからん。入る傍から詰め込まれて結局全部出ていってしまったぞ。

震える声で話を継いだのは剣聖ジェダ。


「……我々は見るつもりだった。足るかどうかを。

 だが、答えはもう語るまでもない。豊臣の、構わんな」


その問は狒狒爺に対するものだったらしい。座ったままの爺は冷や汗を掻いているがそれでも声は震えては居なかった。


「おみゃーらの好きにするぎゃ。

 儂に文句はねぇがや。見るべきものは見たんに。

 流れは兎も角として、時が満ちた事に違いはないにゃあ。次が来る保証なぞ無し、刹那に命を懸けるが人間よ」


何やら話が進んでいる。いかん、話に置いて行かれていることがバレたら恥ずかしいどころではないぞ。

したり顔で頷いておくに限る。


「暗黒神アヴィス=クーヤ。四千年前にあった次元断裂というものを知っているかね?

 勇者が邪神の身体に剣を突き立てた瞬間、断末魔とともに世界が引き裂かれた、我々のような異邦人からすれば御伽噺に近いがこの世界でそれがあった事は純然たる事実なのだよ」


「聞いたような……聞かなかったような……」


うっすらと記憶に残っているような……なんだっけ。


「何。大した話ではない。再現しようというだけだ。今この場で」


「…………む?」


「元最高神の太陽神とは言え当たり前だが邪神程とはいかぬのだよ。四千年前の規模には程遠い。精々がこの島が飲まれるぐらいになるだろう。

 そしてその程度が今の我々にとって最も都合が良い」


異界人ゲルトルート=ガントレットが取り出したるはあの黒の勾玉。


「ここが地獄と繋がるのは目的遂行に必要な事象の一つだった。こればかりは運試しと思っていた程だったのだが。

 存外に早く機会が訪れた」


放り投げられた勾玉、酷くゆっくりと見えるそれは黒い光を放ちながら宙を舞う。

同時に私の背後に降り立つ気配。


「暗黒神様」


がっしと私のイカ腹に左腕が回る。フィリアの身体が犬猫のように持ち上げられるのが視界の隅に見えた。

ゲルトルートが抜いたサーベルが一筋の光となって白銀の煌めきを放つ。

ギッ、硬質な音と共に勾玉がそれに触れた。黒い石に罅が入るのが確かに見えた。

カキン、軽い音と共に勾玉は二つに割れ、そこから狐の鳴き声が響き渡り勾玉から溢れた黒金の光を中心に、そこから空間に罅が入るのを私は見た。





「ブギィー!」


ブランとしながら眼下の圧倒的な光景を眺める。


「おや、豚のようにお鳴きになられる。辛うじてあった身体の凹凸もほぼ消えているようデスからね。

 少々食べ過ぎなのでは?

 どこが乙女でどこが女子力なのかレポートにして提出して頂きたいもんデス」


「うるさーい!」


女子力だとか乙女だとかどっから湧いて出たのか似合いもしない事を言いだした悪魔に叫んでから再び視線を戻す。凄まじい、これは最早災害と言っていいだろう。

雷を纏う粉塵が地響きとなって大気を震わせている。大きいとは言えない島ではあったが、跡形もない。無残な姿と成り果てた抉れた剥き出しの大地は煙を吹き上げながら過ぎた熱により蜃気楼のように暫く揺らいでいたが。

そこに流れ込んだ海が度が過ぎた熱量に蒸発しながらもその質量で大穴を押し潰し、やがて荒れ狂う大渦となって周囲に津波と言っていい波紋を吐き散らしはじめた。

灰色に濁った海は黒い罅のような空間の隙間にぶつかる度にその流れを変えては小さな渦を作ってはぶつかり合い最早世紀末過ぎる様相を晒している。


「ふむ、島ごと何処ぞに流れて行きましたネ。

 一か八かの運試しに国ごと乗るとは愉快な人間も居たもんデス。人間は等しく塵屑デスガ稀にああいう異形が産まれる。

 流れ着いた先がまともとも限らず地下だの空中だの人間の生存不可能な環境であればそれだけで詰んだでしょうに。

 駄狐の空間制御も間に合ったかどうか。ま、妖精王のような霞でさえ出来たのですからなんとかしてるでショ」


「む?」


「お気になさらず、こちらの話ですヨ。理解して頂こうとは思っておりませんしその必要もありませんノデ。

 ワタクシ、七大罪の悪魔が七度殺しても飽き足らない程度にはクソ嫌いなんですがネ。今回はまあまあというところでショウ。反吐が出ますネ」


まあまあと褒めている割に締めの言葉が反吐が出るに続く理由がわからん。

理解しなくていいというのでどうでもいいが。今日のご飯は何を食べよう。なんか美味いものを食べねばなるまいて。


「そうだ」


美味いもので思い出した。首をくるりと巡らせば。アスタレルに私とは反対の腕で抱えられているぐったりしたままのフィリアは未だ目覚める様子はない。

その内目覚めるとは思うのだが。手を伸ばしてブスブスと頬を突いてみるが反応はない。


「…………ああ、人間デス?

 壊れてないかどうかは知りませんが、暫くは会話可能領域に意識は戻りませんヨ。

 レガノアのクソッタレが刻まれた術式と身体を弄り回していったようデスし、抜かれていた魂が戻ったとしても馴染むには掛かりマス。

 精神の復元まで含めてこの人間に悪魔も驚きな根性があったと仮定して大体十日程は戻ってきませんヨ」


「む」


結構掛かりそうだな。

ぶにーと引っ張る頬はいい感じに伸びている。しかし動いて喋らないと面白くないな。いつものようにブーブー鳴けというのだ。面白くねぇ。


「起きろ―!!」


手を伸ばして重力に負けて垂れ下がる胸を引っ叩いてやった。


「キャイン!!」


豚ではなく犬のような声を上げながらビクンと跳ね上がったかと思うと暫く硬直し、ぼてっとそのまま力尽きた。

なんだ起きたじゃないか。


「……悪魔も心底驚きなクソが付くど根性の持ち主でしたカ。視界にも入らぬ塵芥デスガ今のは多少ビックリデス。

 起きたのならばとっとと自分で自立してくださいネ」


「……………?」


茫洋とした瞳が不思議そうに動く。こちらと目が合った。


「………………」


むにゅりと頬を抓っている。頻りと目を擦りもぞもぞと蠢きやがて結論を出したらしい。

うんうんとドヤ顔で頷きながら自慢げにおっぱいを反らした。腰を抱えられているのに器用な動きだ。


「クーヤさん、私、夢の中で沢山のクルコの実入りグラタンを頂いたのですわ!

 それにオレンジジュースまで付いておりましたのよ!!

 目の前でそれを恨みがましそうにクーヤさんが見ておりましたわ……!!これはきっと以前にクーヤさんにトーストを奪われた恨みですわね!!

 食べ物の恨みは恐ろしいのですわよ!!」


「夢の中から帰って来てくださいネ」


「あ」


「きゃあああぁぁぁあああ………………………」


ぱっと離された腕。当たり前だがフィリアは重力に引っ張られてあっという間に落ちていった。


「…………………」


暫く沈黙した後、叫んだ。


「あーーーーっ!!アホー!!アスタレルのバカ!!落とす奴があるかー!!

 フィリアー!!」


「別にいいじゃないデスカ。気付けデス気付け。

 それに魔神族も居るんでショ。拾って来ますヨ」


「気付けて!!」


んな気付けがあってたまるか!

バタバタしながら反論すると同時に、青白い炎がフィリアが落ちていった先にちらちらと見えた。む、さっきの馬か。

よくやった馬!!あとで人参をやろう。


「はひ………はひ……」


馬の背にしがみついて半泣きのフィリアが回収されてきた。プルプルしている。うむ、やはりフィリアはこうでなくては面白くない。


「クッ、クーヤさん……ッ!わ、わたし……」


どうやらガッツリ今ので目が覚めたらしい。まぁ今ので起きなかったら相当だ。

ペタペタと自分の体を触っては感覚を確かめるようにして、東大陸の遥か先をじっと見つめる横顔に浮かぶものは分かりやすい喜びでも憎しみでもなく戸惑いだろう。

ぽんと降って湧いた諦めていたのであろう自分の未来が信じられないらしい。そういうものか。よくわからんが。


「助けてやったんだから後で美味いものを奢るのだ。もしくはクルコの実入りグラタン作って来るのだ」


「えっ、あ、ふぇ……?!」


がくがくと頷くのを見届けてほくそ笑んだ。言質は取った。後で覚えとけよ。財布を空にしてくれるわ。


「…………クーヤ、さん、私に何もお聞きになりませんの………?」


あー、なんかめんどくさいこと言い出した。何やらうじうじ悩んでいる顔をしている。乙女か。幼女な暗黒神ちゃんに人間らしい大いなる悩みを相談してどうするというのだ。食って寝ろとしか言えないぞ。

確かに色々知っているんだろうけど。私が聞いてもしょうがないだろ。右から左にしか行かぬというのだ。これだけカルガモしていてそれがわからぬとは。

言いたければ後でマリーさんとかクロウディアさんに言うがいい。その間に私は美味しいものを食べているので。


「だって、わたし、私―――――――――」


「知らん。好きに生きろ。フィリアの好きにすればいいのだ」


めんどいし。

エルマイヤ=エードラム=アーガレストア、あの白い半人半獣のツラは覚えたし、神の炉も暫く使い物にならんだろう。

それに人生レベルでいじめられっ子だったらしいフィリアに根掘り葉掘り聞くようなことでもあるまいて。聖女から解放されたんならもう自由なのだろう。これから先、好きなとこに行って好きに生きろって話だ。


「………………………」


フィリアは無言のままに俯き、ブルブルと身を震わせている。

その表情を窺おうにも鼻先と震える唇しかこちらからは見えず、風に煽られる髪の毛の中を大きな水粒がボロボロと空に落ちていくのが見えただけだ。

夜明けの光に煌めくそれらは何処かへと吹き散らされて光のように消えていく。

フィリアの奴はとみに泣き虫ってやつだな。泣き虫毛虫挟んで捨てろって歌にもあるだろ。その内目玉が溶けるんじゃないか。


「……もう宜しいデス?人間の生き死になぞ私にはどうでもいい事デス。

 転移魔法でお送りいたしますのでさっさとお戻りになったほうが宜しいでショウ。

 我々はこの空域で多少暴れてから地獄へと帰還しておきマス。こちらに引きつける間に早々に塵屑共を連れてお隠れになってくださいネ」


珍しく気を利かせて送ってくれるらしい。時間の短縮にもなるしいいサービスである。まあ以前の時は召喚魔法を介したせいと言われたしな。正規の召喚ならばこれくらいはやってくれるらしい。イッヒッッヒ、暗黒神ちゃん大満足である。

その上にだ、神族を倒してもあちらに瘴気はもう無いのだ。こちらで天使やらを引きつけてくれるならばあちらがかなり楽になる筈だ。

こっちで時間を稼いでくれている間に尻尾をくるくるに巻いて逃げるべきであろう。


「おー」


返事してからふとメロウダリアを思い出した。

また同じことをされても困る。この死にたがり共は隙きあらば死ぬからな。


「死にそうになったらとっとと地獄に帰るのだぞ」


「………………自殺志願者扱いというのも面白くはありませんが、我々がこの程度のゴミ共に核を砕かれる程の致命傷を負わされるという認識も面白くありません。

 しかも単に困るから言ってるだけでショウ。

 後で後悔させてやりマス」


「むむ!!」


めっちゃ面白くなさそうに怒られた。残念なことである。



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