牛乳娘のせいでうちのギルドがおかしいんだが
「たのもー!!」
ガランガランと古典的な音と共にドアを開け放つ。
「牛乳娘じゃねぇか!!」
「バナナミルクくれーっ!!」
カウンターに飛びつく。程なくしてドンと置かれた巨大グラスのバナナミルク。うほほーいとうまうまと飲んでやった。
「死んだかと思ったぜ牛乳娘!!元気そうで何よりだ!!
ブルードラゴン支部で大活躍だったそうだな!!」
ガッシガッシとえらい勢いで頭をぐしゃぐしゃにされてしまった。
ブルードラゴン支部……?はて……?一向に覚えがない。
「グラブニル鉱山攻略の立役者だってな?
それになんかよ、安眠枕の制作依頼がこっちに来てるぜ。
あとは……まぁ、変な指名依頼がな……」
「あー」
あそこか。ブルードラゴン支部というギルドだったらしい。
ごにょごにょと親父は黙ってしまったがまぁ変な依頼は確かに何故か私に回されていたからな。しかも変態的な人目をはばかるような依頼が。
親父は意外にも良心を持ち合わせていたようだ。
刺青スキンヘッドだというのに。
「さて、役者もそろったようね?
では会合を始めましょう。時間は待ってはくれなくてよ」
「お……?」
マリーさんがパンパンと手を叩いて呼びかける。そういやギルドにたむろっていた荒くれ者共は居ない。何やら話し合いを始めるようだ。
ガタガタと机が並べられ、皆さん思い思いの場所に座っている。
見たことのない人も居るな。誰だろ。
「クーヤ、そこに座っているのが情報屋のルナドよ。いざとなったらブラドの名を出しなさいな」
「初めましてクーヤちゃん。アタシはルナドよ。
ルナドお姉さんって呼んで欲しいわぁ」
オカマだな。美人だが私の目はごまかせんぞ。クネクネとシナを作っているが服で隠しきれない筋肉美が覗いている。
しかし、どうみても人間だが。何故この街に住み着いているのだろう。
「人間なのになんでこの街に?」
聞いてみる。
人間ならば東に住んでいたほうが良さそうなものだ。
この街はたまに来るぐらいが丁度いいのではなかろうか。
「それは……」
ルナドさんは僅かに、顔を伏せた。
睫毛が微かに震える。何かあったのであろうか。思えば今まで会った人も色々な事情を持っていた。
ふむ、安易に聞くべきではなかったのかもしれない。人間にも色々あるものなのだ。
「やっぱなんでも――――」
「足りないのよ」
「む」
ブルブルと震える上腕二頭筋。
みしりと繊維が軋む音がした。
クワッと見開かれた目。血走ったそれがこちらを射抜く。
「愛がっ!!足りないのよおおぉおぉおぉおぉおおお!!!」
「ひいいぃいいぃぃいいいぃぃぃ!!!」
目を剥いて叫ぶオカマ、その破壊力は推して知るべし。
「レガノア教は同性愛を認めてないの!!アタシは女だけど!!
ちょっと邪魔な棒と袋が付いてるせいで愛を育む事が出来ないのよおおおぉおぉぉおお!!!」
ドォン、ドォン!と机を殴りながら叫ぶオカマ。
ダン、ダンなどという可愛らしいものではない。
あの見た目だけはそれなりに見えていた腕の筋肉が見る間に盛り上がり血管が浮かびあがる。
その太さといったら。
握り込んだ拳を振り上げ机を殴る姿は鬼人の如し。
そこらの冒険者とは迫力が違う。これは勝てない。完全に勝負あり。
愛を育めないのはオカマだけが理由ではあるまい。
こりゃあいかん。関わってはいけない。
それにしても、そうだ。あの犬耳おっさんと青いネジ頭の姿が見えない。
机をへし折りそれでも足りないのか片腕でその辺のチンピラを振り回すオカマをスルーしてマリーさんに問いかけた。
「ブラドさんとクロノア君はどうしたんですか?」
「レッドキャップの討伐ね。直に戻ってくるとは思うけれど」
なるほど。あの二人ならばレッドキャップもどうにかなるというわけか。あんまり減らしすぎても良くない気がするが。
見境ないようであるし、この街付近に居られては困るのだろう。
「で、そちらに居るのはローズベリー支部のギルドマスター、カイジョウソウシ。異界人らしいわ。ギルド創立メンバーの一人ね。
あとはまぁ、この街の主だたる連中ね。覚えなくてもいいわ」
このギルドにもそんなのが居たのか。マリーさんに紹介されたおっさんは髪の毛も既に白い髭がチクチクのじいさんだ。五十、六十ほどか。
面白みは特にない。強いて言えば無駄に分厚い胸筋ぐらいであろうか。多分ルナドさんの方がすごいな。
ちなみにその他扱いされた人達からはブーイングが上がった。
じいさんはぴっと指を立ててから年に見合わぬ笑顔でにっと笑った。
「儂は海上総司だ。
マリーベルさんはいつまで経っても発音が治りゃせん」
「直す気が無いもの」
「これだよ」
へぇ、異界人か。綾音さんと同郷っぽいな。聞いてみよう。
「綾音さんと同郷なんですか?」
「あー、綾音か。あいつとは同郷と言えなくもないな。話に聞く限りかなり似てる。けど儂の世界じゃ超能力なんか無かったし。
あいつの世界ほど切羽詰まってもなかった。多分だけど平行世界って奴じゃあないかね。
それを抜いてもあいつ変人だけど。若いもんの考えは儂わかんないわー」
「へぇ……」
色々あるようだ。よし、これだけ聞けば十分だ。
「じゃあ私はこれで」
話し合いとやらを始めるのに居てもしょうがない。帰って寝よ。
魔物達の様子も気になるし。
「何を言っているのクーヤ。貴女も参加するに決まっているでしょう?」
「えー……」
ギルドマスターやらが参加する話し合いに何故私が。
「なんじゃ小娘。余らを連れてきたお主が参加せぬ道理がなかろうが」
「そうですよー。こんなめんどくさいんですから」
「クーヤ殿はこの街でも十分に有力者と呼べる存在だろう。我々もクーヤ殿なくしてここには居ない」
ぬぅ。カルガモ部隊まで何を言うのか。私なんか参加させてもしょうがないだろ。
私は今すぐ帰ってゴロゴロしたいのである。
「クーヤ、改めてこの街の住人達に彼らを紹介して貰えるかしら?」
マリーさんに頼まれたなら仕方がない。ゴロゴロへの欲求を抑えてこの暗黒神、一肌脱ぐしかあるまいて。
「えーと、そこに居るのが銀雪纏う暗黒竜の魔王ウルトディアス、そっちが花吹雪く妖精王カミナギリヤさん、むこうのが悪魔と踊る娼婦の魔王クロウディアさん。
こっちのがアーガレストアの元聖女フィリアフィルでー…あっちに居るのが吸血鬼の真祖のアルカード。
こいつがパンプキンハートでこの上のが元美の女神リレイディアです」
さらさらと言っているが何の事はない。暗黒神ならではのアンチョコである。
名前ヅラの良さにどよめいている。まぁ確かに名だけ連ねれば錚々たるメンバーに聞こえなくもないのはわかる。
でもウルトはペドだしカミナギリヤさんは忘れてくれと懇願していたが海が怖すぎて幼児化するしクロウディアさんは肉奴隷作ってたし。
フィリアはビッチビチだしおじさんはおじさんだし。パンプキンハートはスライムだしリレイディアは首である。良いことないぞ。
残念なことである。
「まあそういうわけなのだけれど。先程異議を唱えた者はもう一度言ってくれるかしら?
見た目も言動も魔力も子供だけれど、この街には必要なお方よ」
「有力者と言うに文句はねぇだろ」
ふむ、何やら私がここに来る前にも話し合いをしていたようだ。
と、親父が言ったところでガランガランとドアベルが鳴った。
「話は済んだかね?
おチビも無事のようだな」
「……………」
「おー!」
そこに立っていたのは懐かしい顔が二つ。犬耳おっさんのブラドさんに青ネジ頭のクロノア君だ。
レッドキャップ討伐とやらでだろう、多少煤けているが元気そうである。
飛び上がって走り出し、ブラドさんの目の前に来た所で直角に曲がっておっさんを避け、そのままクロノア君に飛びついておいた。
「……………」
「この美男子を避けて何故そっちに行くのかねおチビ!?」
「犬くさいです」
「失敬な!!ダンディといい給え!!」
ブラドさんは相変わらずブラドさんである。
懐かしいおっさんとくっちゃべっていると横でそれを見ていたクロウディアさんとウルトが天を仰いで信じがたいとでも言うかのような口調で言った。
「うっわ。本当にクロノアとブラドじゃ」
「なんで世界は滅んでないんですかね?」
「そう言いたくなる気持ちもわたくしもわからないではないけれど。
世の中はままならないものよ」
「クロノア=オルビス=ラクテウス、本物の勇者ではないか。
同名が居るだけじゃと思うておったというに」
「ブラッドロア=クルージュじゃないですか。
生粋のヴァンパイアハンターでマリーベルさん滅茶苦茶嫌ってたじゃないですか」
へぇ。この二人、もしやそれなりに有名なのか。勇者にヴァンパイアハンターとは。もしやこの三人、元々は仲が悪かったのかもしれないな。この反応を見るにそんな感じだ。
ふむ……それにしても。どっかで聞いたな。
なんだっけ。
「マリー。クロノアが紅薔薇を投擲してしまってな。剣が無くなってしまった」
「あら。クロノアがそんな事を?」
紅薔薇……そうだ。
あれは最後、そう、クロノア君の手にあったのだ。
それを投擲した。つまりはあの時の剣は。
「クロノア君クロノア君。アレを投げてくれたのはクロノア君ですな。
おかげで助かったのです」
「………………」
こっくりと頷いた。どうやら合っているようだ。
どうやって察知したのかは謎だがとにかく助かった。
「なんじゃ。あの剣はお主の物か。全く、人間というものは度し難いの。
……余らはアレクサンドライトと会うたぞ。アレが人間というものかの。ヴァステトの空中庭園を踏破しておった」
「……………」
「お」
クロウディアさんの言葉で思い出した。そうだ。あの時伝えてくれと言っていた名前だ。確かそうだった。
クロノア君の事だったのだろうか。よくわからんがクロウディアさんのお言葉を聞く限りでは正しそうだ。
ふむ…。
「クロノア君。アレクから伝言があるのです。よろしく伝えてくれと言われたのです」
「……………」
他にも色々言っていた気がするがキノコキノコと色々言いすぎていたせいで頭から消えてなくなってしまったが要約するとこんな感じだった気がする。
ぐいぐい引っ張りながら伝えると、クロノア君はほんの僅かだが、その口角を持ち上げて確かに笑ったようだった。
ガコガコと黒板に書かれたのは街の移転について、とある。議題はこれらしい。
まぁ此処に居てももう駄目だろうからな。それも引っ越せばどうにかなるってレベルじゃないぐらいに。気の所為であろうか、微かに地面が揺れている。
「…………」
周囲を見回すと幾人か虚空を見上げて伺うようにしている。残念、気の所為じゃなかった。
カグラめ。
ボソボソとまた来やがったとかなんとか聞こえてくる。こんな感じで襲撃が何度かあったようだ。
「このクソ忙しい時期に参ったな……」
「そうね、依頼も随分と溜まっているのではなくて?」
「まあな。今は何処のギルドも依頼が山積みだな。メイデン支部とトリック支部の事もあるしな」
「あのギルドの処分は決まったのかしら?」
「潰すわけにもいかねぇしギルドマスターの首跳ね飛ばして終いだろうな。
……まぁ、レイディナは兎も角ガドイルの方は総裁が話をするかもしれん。山虎人らしく生粋の武人だ。こっちのギルドの存在を嗅ぎ取ったせいでやったってのがある。
あいつにとっちゃあこっちが裏切りに見えたんだろうよ。まぁだからと言って言われるがままにカグラの素性も録に調べねぇでレイディナに手を貸したのはチャラにゃならんだろうが。
とにかくあの二つのギルドは今まで通りだ。余計な仕事増やしたくねえのは何処も一緒だしな」
「まいったねこりゃ。儂も久しぶりに前線に出とるけどちっとも片付きゃせんわ」
ふーむ、何やら忙しいようである。まぁ確かに、クエストボードにはただでさえ隙間なく貼り付けられていた紙がその上更にぎゅうぎゅうに貼り付けられて最早一分の貼り場もなく人様の依頼の上に依頼が重ね貼りだ。
じーっと見てみるが、どうにもトレジャーハントの依頼のようであるが。はて、このギルドでまともな依頼とは。
トレジャーならなんでも良いようで状態、由来、希少度一切問わずとある。一番上の紙をベリッと剥いでムシャムシャと食べた。暗黒神ちゃんたらお手紙食べた。美味しくないな。
「クーヤ、そんな物を食べてはお腹を壊してよ?」
「もはー」
私の隣でクエストボードを見つめていたカミナギリヤさんがカクリと首をかしげる。毎度思っているのだがあれは狙っているのだろうか?
天然やも知れぬがだとしたらカミナギリヤさんにはアイドルとしてかなりの素質がある。
「トレジャーハント……?
何だこれは?」
それにスラスラと答えたのは頬杖付きながら手羽先を摘むカグラである。
「十年に一度の各大陸と東との取引の時期さ。貿易っつーか、一方的な搾取だけどな。
最初は東西大戦の終戦時に戦後処理で決められた講和条件の一つだったんだが。
レイ=アダンの人類救済宣言の時に西だけじゃなく北と南も対象になったのさ。もうどこの集落も差し出すもんがねえ。
だからこうしてギルドに依頼でもなんでも出して掻き集めてんだよ」
「そうね、ギルドがない頃は集落の女子供を流していたようだもの。
それを避けられるならばと言ったところかしら」
「なんじゃ。南北の奴ら共アレを黙って受け入れおったのかえ?
「そりゃな。人間の俺が言うのもなんだけどよ、東西大戦の後の東南北は戦いにすらなってなかったからな。南はある意味じゃあ西よりひでえ状況じゃねぇか?クソッタレなこったな。
ま、おかげでモンスター外認定やら準人間制度を引き出せたってのもあるけどな。時間稼ぎにしかならんでもマシってことじゃねえか。
未だに飲んでねぇのは北の一部くらいか?
妖精王の隠れ里も対象にすべきだっつって居住区を血眼になって探してたぜ。あと巨人族の聖域とか樹人の森とか、エルフの皇居とか……樹クラスの純神霊の長が居る場所な。
北の神霊族の連中は南西に不干渉で一定の場所に住んでねぇし規模を大きくもしねぇけど、人間様は神霊族の知識と技術と財宝が欲しくて堪らねぇのさ」
「ふん、勝手にやらせておけ。我らが人に傅く事はない。それに、数百、数千を生きる神に近い純神霊が治める場は得てして強力な
我らの手にも余るような代物もある。それを掘り出されては敵わん」
「そりゃすげぇ」
「とはいっても、今で言うならばこのギルドが尤も財宝を持っているのではないか?
ウルトディアスもクーヤ殿もこのギルドの所属ということになるのだろう?」
カミナギリヤさんの言葉にウルトが首を捻った。同じく私も首を捻った。何かあったっけ。
「僕ですか?何かありましたっけ。あ、鱗ですか?
毟られるのは嫌だなー」
「忘れたのか?
お前の財宝を掘り出しただろう。西のル・ミエルの氷窟の話だ」
「あー」
「丁度良い。此処で返そう。そこを空けてくれ。
かなりの量になる」
言いつつはち切れる胸元から取り出したのはベッドの下である。
そういやそんなものもあったな。
ガシャガシャガシャとベッドの下から出てくる出てくる金銀煌めく財宝の山。
唖然とした皆様は薄暗い酒場の中ながら尚眩しいほどに輝く宝の山に釘付けである。
「グラディエルの聖宝冠にアスカナ王国の国宝、グランドドラゴンの竜宝玉、麗稜后レイジィの玩具箱、目につくだけでもこれだけある。
価値は計り知れんだろう。クーヤ殿、この絵画と紅鞭もお返しする。貴女のものだ」
「おー」
渡されたのはルイスに貰った女の宝飾と飽食である。鞭のほうは……いつかの勇者のオリハルコンで作った武器だな。
私でいいのか?
ぼけーっと立っていると手にした絵画をひょいっとマリーさんがくすねた。いいけど。まじまじと興味深そうに眺めている。
マリーさんは絵画を暫し無言で眺め、さらさらと羊皮紙に書きつけるとぺしっと絵画に貼り付けて満足そうである。ふむ、どれどれ。
「えーと」
絵画の悪魔製作、鑑定者マリーベル=ブラッドベリー、流麗な文字が小躍りするように書かれている。
即席鑑定書を付けられてしまった。
うわーいとウルトと共に財宝に頭から突っ込んで喜びも顕にバタフライ。
「それにクーヤ殿はエキドナの小瓶とあの黒いペーパーナイフも持っているだろう。
小瓶はまだしもペーパーナイフはあれも価値など付けようもないぞ」
「……クーヤさんは少し前ならばヴィオラ=スーの絵巻の三章も持っておりましたわよ……」
「霊刃ラディアント=レイズも持っておったがの」
「ん?」
呼ばれた気がした。ウルトと一緒に頭から財宝に突っ込んで尻だけ出していたのを戻って転がり出る。
何故か皆さんに逃げられた。何故だ。
「カミナギリヤと言ったかしら。……それはベッドの下ではなくて?
「ああ。とは言ってもこれはただの復元品だ。それに
「その本も黒貌の製作と申しておったぞ。全くとんでもない小娘じゃ」
「クーヤだもの」
「………………」
黙っていた親父が無言でどこぞから持ってきた紙切れを押し付けてきた。
なんだ。取り敢えず受け取って眺めてみる。なになに……。
「クーヤちゃんレベル1。能力値全部F。種族クラス異界人の冒険者ランクF。戦闘面においては期待できず。
特殊能力として他人の能力の閲覧、位置の把握といった探索能力。備考に魔力を金銭として商品を購入できるという奇妙な本を所持。また、体内に何かしらの魔導生物を所持。
主な実績、ブラグニル鉱山攻略での多大な貢献、ブルードラゴン支部にて
読み終わった所でひったくられて親父は何かをがしがしと書き付けた。
再び押し付けられる。なになに。
「アイテム収集能力S。収集家ランクS。おー……」
何かわからんがSマークを付けられてしまった。よくわからんがいいことだ。
「実績に鬼ヶ島攻略も付け加えていいのではないですの?」
「ついでに勇者レイカードの討伐も付け加えておくがいい」
「僕を解放してくれたので青の祠攻略もつけていいんじゃないですか?」
親父は無言で言われるがままに付け加えるとそっと立ち去っていった。
「クーヤは随分と活躍したこと」
マリーさんが優雅に紅茶を啜りながら目を閉じて呟くのを私の暗黒神ちゃんイヤー、略してデビルイヤーは確かに聞いた。
これはつまりマリーさんに褒められてしまったと見て間違いあるまい。
この調子である。じゃんじゃん働かねば。テンションあがってきた。
「やったーーーーーーーーっ!!」
飛び上がってテンションのままに中央のテーブルに駆け寄る。椅子によじ登って背の低さを誤魔化し机に齧りついた。
上に広げられている地図を覗き込んで、ん、イマイチな地図だな。ばばばばっと丸めて捨てた。
てめ何しやがるとかなんとか聞こえたが知ったこっちゃねぇ。
ばっと暗黒神ちゃん地図を開いてテーブルを占拠してやった。こっちの方がどう考えてもよさげである。
マリーさんに見せてもらった教会の地図を思い出す。テーブルの上に投げられまくっているペンを引っ掴んで教会地図に書いてあった地名やらをうろ覚えのまま書きだしてあとは勘で適当に色々書いておいた。
これでよし、次だ次。
移転先である。確かそう、ウナギが言っていたぞ。私にしてはしっかり覚えているのだ。
「マリーさんマリーさん!!暗黒神ちゃんたら役に立つお耳寄り情報を持ってきましたわーい!!」
「果て無き泉、翡翠の滝。ユグドラシルの神泉が北北西にあるそうですわよ」
「ギャー!」
フィリアがあっさりと私より先に言ってしまった。なんだ私に恨みでもあるというのか!
顎に手をあてたブラドさんが考え込むようにしながら視線を彷徨わせつつ口を出した。
「……ユグドラシルの神泉かね?
確かに土地としてはこれ以上ない特上品だが。あの霊地は未だ発見ならずと聞くがね」
「青の龍からの言葉じゃ。龍なれば、言葉に偽りは申せぬじゃろ」
「ふむ……」
「…………」
「んな神代遺跡レベルの土地がありゃあ確かに文句はねぇが」
「クーヤ、詳しい場所はわかって?」
「む」
詳しい場所などもちろん聞いていない。しかし、私の勘がびびびときた。またしても電波受信である。
枝を取り出して地図のこの場所より北北西の適当なところをしゅばっと突いた。
「ここです!!私の勘がここだと言ってますよマリーさん!!」
「…………マリー、その子大丈夫なのぉ?」
パンプアップで服がはじけ飛んだままのルナドさんが胡散臭そうにこちらを見ている。
「ふふ、勘だなんて事があるわけ無いでしょう。
勘がいいのでは無くてよ。可能性の拡散と収束、未来は今この時にこそ決定されるの。
クーヤがここと言えばここにあるわ」
「ふむ……この場はマリーベルさんが言うなら、と言ったモンじゃな。クーぼん、マリーベルさんの信頼と名誉を裏切るんじゃあねぇぞォ。
儂が後で総裁にも連絡いれとくわ。
ほれほれ、あの腕は処理したっつーからレッドキャップはもう生まれてこねーぞ。とっととここを更地にして出発だ。
高天原に天竺、ニライカナイにアヴァロン、カダス、長く誰もがこぞってその地の在処を求めた神話の大地。その内の一つに数えるユグドラシルの神泉、条件としては完璧も完璧。
誰に悟られる事もなく一秒でも速く移転を済まさにゃならん。
時間との勝負だぞォ」
「こんな時ばっか偉そうにしやがるなうちのギルドマスターは」
「これだからわたくしの信頼を得られないのだけれど」
「えっ」
爺は心外そうに口を開けてマリーさん達を見つめているがマリーさん達はそれを完全にスルーしてスタスタとギルドの出口へと向かった。
うむ、私も準備せねばなるまいて。魔物共も首を長くしているに違いないのだ。コウモリを連れて歩くマリーさんに続くブラドさんとクロノア君の後を追う。
皆さんもそれぞれ準備をするのであろう、ガタガタと音を立てつつ文句を言いながら散っていった。
しかし、クーぼんとかいうのはもしかしなくても私か?
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