第40話「ケーキ争奪戦…?」
昼食や夕食を食べたテーブルの上に1ホールサイズのショートケーキが置いてあり、俺と琴美以外の三人は今すぐにでもかぶりついて食べようかというぐらい目をキラキラさせていた。なぜかあの大人しい香奈枝もそんな状態だったので少し驚いてしまった。
そんなことを思っていると後から入ってきた琴美が『うおっ…』っとテーブルの上に置いてあるモンブランを見たのか唸った。そして俺を追い抜いて自分の席に向かっていく。
「めっちゃうまそうじゃん!」
「だよねだよね!早く食べたいな~」
そう言ってちらっとこっちを見てくる美花。んだよ、早くしろってか?って、他のみんなもこっち見てきてるし…。女子のスイーツに対するこの思いはなんなんだろうか。
俺はやれやれっという気持ちで自分の席へと座る。
「それじゃあ、玲も座ったところで、みなさん手を合わせて」
妙に俺の名前のところだけ強調して、美花が手を合わせる。それに続いて、他のみんなも手を合わせる。そして一斉にお辞儀をして
「「「「「いただきまーっす」」」」」
っと言うと、すでに八等分にカットされたケーキから一人一つずつ取って、食べ始める。
「んー!おいしい~!さすが冬香ちゃんのメイドさんね!!」
「本当本当!こりゃいくらでもいけるわ~」
「……!美味しい…」
「美味しい~!彼女を連れてきて正解だったみたいだね~」
みんながみんなべた褒めだったため、少しだけメイドさんの顔が赤くなる。
「い、いえ…一番得意だったのがモンブランだったので…。それにみなさんに喜んでいただけてこちらも嬉しいです…。それにお嬢様もお褒めの言葉をいただき、ありがとうございます」
「いやいや~。本当に美味しいよ~。いつもより気合いれたんじゃない?ちょっとだけ美味しさが違うような?」
「い、いえ!私はいつでも本気で作っております!」
「わかってるよ~。冗談だって~」
「そ、そうですか」
メイドさんがホッと胸をなでおろす。なんかちょっと冬香ちゃんが怖かったなんていえない。これは決して言葉にしてはいけない気がした。
みんなが食べ終えると一つの事件が発生した。
「さて、残るは三ピースね…」
そう、おかわりだ。もちろんみんな1ピースでは足りず、おかわりがほしいところなのだが、あいにく残りは三ピースしか残っていない。そこで誰が食べるかを相談しようとしているところだった。
「どうやって決めるんだ?」
俺は一応この部の部長でもある美花に問う。
「そうね…。どうせならさっき大富豪やってたんだし、それの順位でいんじゃない?ちなみに総合順位ね」
「あー、それはいいアイディ「ちょっと待ったー!」…なんだよ琴美」
「それは不公平じゃないかな!?」
「なんでだよ、丁度いいじゃねえか」
「いや、さすがにこのショートケーキがかかってるなら本気度が変わるよ!」
「ほう…。っと言うことは?」
「再戦を申し込む!!」
「そうきたか…。俺は別にいいが、みんなは?」
「私は面白そうだしいいですよ~」
「うん。冬香と同じ」
「う~っ」
二人は同意してくれたのだが、美花が一人で唸っていた。
「どうした美花?」
「うーっ」
「だから、どうしたんだって」
「よし!負けた二人は罰ゲームね!」
「え?」
「いや、そうした方が面白いかなーって」
「なるほどな…っていってもどんな罰ゲームなんだ?」
「それは後で考えることにして…それでどうかな?」
「俺はいいけど…?」
「二人は?」
冬香ちゃんと香奈枝も頷いて同意してくれた。普通は反論するところなのに、同意してきたって事はよっぽどの自信があるのだろう。
「だってよ琴美」
「再戦してくれるだけでも全然OKっすよ!早くやろうぜ!」
琴美が素早く席を立ち上がってリビングへと戻る。他のみんなもそんな琴美を見て、やれやれっといった感じに席を立って琴美の後をついていく。
俺はそんなみんなを見送ってからメイドさんに声をかける。
「すいません。長引きそうなんでケーキを冷蔵庫かなんかで保存しておいてもらっていいですか?」
「はい、わかりました。では、その間にお風呂沸かしておきますね」
「あ、そうですね。お願いします」
メイドさんは俺に微笑みかけて暖簾をくぐってキッチンの方へ戻っていった。ラップでも取りに行ったのだろう。
「それじゃ、行きますか」
メイドさんの微笑みに少し癒されて、俺は決戦の場へと向かった。
全員にカードを配り終わった後、俺が追加試合のルールを確認する。
「勝負は一発勝負でルールはさっきと同じ。それで先にあがった三人がケーキ、残り二人は罰ゲームってことでいいんだな?」
俺のその問いかけに他の四人が頷く。
「さあ、始めようか」
「そうだね」
「今度こそ勝つ!!」
「わ~」
「……」
美花が答え、琴美は気合を入れ、冬香ちゃんは拍手をして、香奈枝は頷いて俺の掛け声に反応してくれた。そしてみんなが配られたカードを手に持つ。
さてっと…俺はそれなりにいいな。まあしくじらなければ圏内ではあるだろう。それと、一番大事なのはジョーカーだ。あれを誰が持っているかによって攻め方も変わるしな…。それに8とかスペ3とかも…いや、それは始まってからゆっくり考えよう。それからでも遅くないはずだ。
俺は顔を上げてみんなに問いかける。
「ダイヤの3を持っているのは?」
「あ、私だ」
「それじゃあ順番は美花から時計回りってことで。美花、もう始めていいぞ」
「うん」
そして美花がカードを場に出してゲームが始まった。
ゲームも中盤に差し掛かってきたところ…。各々いい感じに枚数が減って均衡している。ただこのゲームは枚数が全てではない。残りのカードの強さにもよってくる。
今は琴美の番で、場にはハートのAが出ている。琴美の残り枚数は5枚で、うまくいけばあがれるぐらいまで減っていた。
「くっ…ここでそのカードか…。仕方ないこれを出す!」
そういって場に出したカードは…ジョーカーだった。
「やっと出てきたか…」
俺は思わず心で思ったことが口に出てしまった。仕方ないじゃないか…こんな中盤になってまで誰も出してこないのだから、中々攻めることができなかったのだから。
そう思っていると、次の番である美花が不敵な笑みを浮かべる。
「またごめんね琴美。あなたの番にはさせてあげられない!」
そういいながら美花が場に出したカードはスペードの3だった。そのカードを見た琴美は少しだけ泣きそうになっていた。
「う、うそだ…ろ?美花!さっきからひどいよ!」
「い、いやあ…巡り会わせといいますか、なんか今日は琴美の敵みたいだね…あはは…」
「うっ…、これで流れが来ると思ったのに…」
そういう琴美は多分これがなかったら勝てるという確信があったのだろう。でも、それも遮られてしまったっというわけだ。
「ま、まあまだ終わったわけじゃないし、誰もあがってないんだから頑張ろう?な?」
「う、うん…」
一応フォローは入れてはおいたが…この勝負泣くほどだろうか?まあ、琴美にとったらそうなのかもしれないな…。
「玲!カード場にだしたよ!」
「あ、ごめん」
「もー。ぼーっとしないの!」
「わりいわりい」
そしてまたゲームは動き始める。
「わ~!一位であがれました~!ばんざ~い」
一番最初にあがったのは冬香ちゃんだった。そして…
「んー、もうちょっとだった」
次にあがったのは香奈枝だった。順番的な問題でまた冬香ちゃんより後になってしまった。それにさっきと同様に残り一枚で冬香ちゃんにあがられてしまったのだからまあ、仕方ないだろう。
「ラスト一枠…」
ついこぼれてしまったであろう美花の言葉に、残された三人の間には張り詰めた空気が流れていた。
「それじゃあ、私からだね」
香奈枝が最後に出したカードはスペードのAだったのだが、もうすでにジョーカーも2も全て出てしまっているので場が流れる。
そして琴美がカードを出す。多分これが最後になるだろう。
「琴美…本当に学習しないなあ…」
「え?」
美花のその呟きに琴美が聞き返す。
「前も、そのカードで負けたのもう忘れちゃった?」
「あっ…」
琴美がだしたカードはハートの4だった。い、いやまさか…な。でもなんか嫌な予感がする。
「玲はわかっちゃったようね…。それじゃあ、このゲーム終わりにしましょっか」
「や、やめろ!罰ゲームなんて…!」
「ごめんね玲…。でもこれも勝負だから…」
「やめろおおおおおお」
美花は前のときと同じダイヤの8を場に出して流す。
「ごめんね二人とも」
そう申し訳なさそうにいって、最後のカードを出す。
「やったー!これでケーキだー!いえーい!」
美花は喜びを爆発させて香奈枝と冬香ちゃんの二人とハイタッチをしていた。その影では俺と琴美ががっくりと肩を落としていた。
「ま、負けた…」
「ぷぷっ、あんな自信ありげな顔してたのに負けてやんのー」
琴美が俺のことを嘲笑ってきたが、どこか元気がない。っというかほとんど棒読みだった。
「そういう琴美の方が連続で負けてるだろうが…。人のこといえねえぞ…」
「うっ……やめろ…惨めになってきて泣きそうになるだろうが」
「まあ、自分で勝負持ちかけて負けたんだから…なんかかわいそうだよな…」
「それを言うなよぉぉぉぉぉぉ」
琴美は叫びながら床に突っ伏してしまった。
その叫びに美花達三人がビクッとして振り返る。
「どうしたの?」
「今は話しかけてやるな…。とりあえずみんなケーキ食べてきたらどうだ?」
まあ、こうさせてしまったのは俺のせいでもあるんだけどな…。だから琴美が立ち直るまでは側にいてやらないといけないと思った。
「あ、う、うん。先に行ってるね」
こういった後、美花は『いこっか』っと二人に話しかけてから、三人一緒に食卓へと向かっていった。
そして広いリビングに残された敗者二人。まずはさっきのことを謝っておこう。
「ごめんって琴美。だから顔あげろって」
「う、うん。っていうかそこまで傷ついてないし。演技してただけだし」
「んな!?ちょっと感じてしまった罪悪感返してくれませんかねえ!?」
「い、いやあ…でも多少なりとは心にきたわけで…えぐられえたというか」
「あ、う、…ごめん」
二人の間にどことなく気まづい空気が流れ込む。
少しだけ経った後、沈黙を破ったのは琴美の方だった。
「あの…さ」
「ん?」
「みんなが寝た後くらいに…さ、ちょっと話したいことがあるんだけど…大丈夫?」
琴美は少しだけ顔を赤らめながらそう俺に尋ねてきた。
雰囲気からして凄く大事な話なのだというのは目に見えてわかった。まあ、俺もこの旅行前の態度とか心配してて理由とか気になってて聞きたいタイミング伺ってたから丁度いいかもしれない。
「大丈夫だぞ」
「あ、よかったー…」
そう俺が答えると琴美は安堵の表情を浮かべた。
「ただなんでだ?」
「い、いや、それはお楽しみってことで」
「ちょ…そんなんあ……「おーい二人ともー!お風呂沸いたってさー!」」
俺の反論の言葉は美花による言葉で遮られてしまった。
「わかったー!それじゃ、玲また後でね」
琴美は立ち上がって、俺に手を振って美花の声がした方へと行ってしまった。
リビングに一人取り残された俺は、琴美に呼び出された理由がわからず、次にもう一回美花に呼ばれるまで考え込んでいた。
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