第36話「車内にて」
車に乗り込んでから約一時間。今、高速道路を走っている最中なのだが…。
「やった!また1位ーっ!」
「なああんでえ!?部長つよすぎっすよー」
「美花ちゃんつよいね~」
「えへへっ。ほら玲!頑張りなさいよ!」
俺達は車に乗り込んだ後雑談をしていたのだが、最初のサービスエリアで休憩を取った後からゲーム機で遊び始めていた。
そこから3戦ほどしたのだが、美花がここまで三連勝と圧倒的な強さを見せつけている。こ、こいつ強すぎる…。どんだけこのゲームやりこんでたんだ。
ちなみに席順なのだが、ワゴン車のため後ろの席に俺と美花が隣同士で座り、前に三人が車の後ろから見て右から冬香ちゃん、香奈枝、琴美っという順になっている。ちなみに俺は琴美の後ろだ。
それで冬香ちゃんの前に運転しているメイドさんがいるのだが、さっき休憩中にチラッとだけ見たのだが見た目はすんごい可愛かった。まだ20代ぐらいじゃないのだろうか。
「玲!また最下位じゃないの!あんたどんだけ弱いの?」
「い、いや。これでもちゃんとやってるんだぞ?」
さっきからどうもみんなに勝てない…。結構昔に友達とかとやったことがあるのだが、久しぶりにやるとここまで操作ができないとは思わなかった。
「にしても弱すぎ!さっきから4連続最下位じゃないの!」
「い、いやぁ…。つ、次は勝つ!」
「じゃあ次勝たなかったら罰ゲームなー」
「おっ!いいこと言うじゃーん琴美っ!」
「おい!割り込んでくんなよ!」
「いやー。だって絶対っていったじゃん?」
「くっ…。やってやろうじゃねーの?」
「よっし!決まりだなっ!じゃあ、負けたらある食べ物を完食してもらうからっ」
「なにを食べさせるつもりだ」
「まあ、それはお楽しみってことで…」
琴美の声的に何か仕組んでいるのは明らかではあるが、決まってしまったものはしょうがない。なんかすんごい嫌な予感しかしてないが、全力で負けないように頑張るしかない。最下位にさえならなければいいのだから…!
「よし!行くぞぉぉ!」
俺の罰ゲームをかけた戦いが始まった。
「はい!じゃあこれ食べてねっ!」
案の定俺は最下位になったのだが…。
「おい待て!この試合どう考えてもフェアプレイじゃねーだろ!」
「えー?気のせいじゃん?」
俺がさっきの試合の4人のプレイングに納得いかずに声を少し荒げると、琴美がはぐらかしてきた。
「だってお前ら俺の妨害しかしねえじゃねえか!アイテム使って狙い撃ちしやがって!」
「それはたまたま玲に当たっちゃっただけだよー」
うんうんっと俺以外の全員がうなずく。
「おい美花。明らかな棒読みはやめろ。ばれてるぞ」
「な、なんのことかなー?」
「なんであんな断トツで1位を取り続けていたのに今回は4位で、しかも最後の半周前まで俺と並走していたんだ…?」
「いやあ…今回だけ操作ミスっちゃって」
「明らかな嘘はやめていただけませんか!?」
「まあまあ…落ち着きなって玲~。負けたものは負けたもんだし!約束、守ってよね?」
「くっ…琴美の言う通り、約束してしまったものはしょうがない。みんなのプレイングの件については後にして罰を受けるよ…」
「じゃあ玲、これ食べてねっ」
はいっと言って、オレンジ色をしたアイス棒を渡してくる琴美。
「これを食えばいいんだな?」
「うんっ!ちゃ・ん・と完食してねっ」
「おう、わかってるよ。罰ゲームだしな」
なんか琴美がにやにやしてるのが少し気になるが、まあ色的にはオレンジっぽいし、多分大丈夫だろう…うん。
そう思いながらまず一口。
ん?あんまり味が広が…うわああああああああああああああ。
「まっず!なんでこんなに口の中にナポリタンの味が広がってくるんだよ!」
「え?ナポリタン?琴美何買ったの?」
「えへへっ。こんなこともあろうかと…じゃーん!」
琴美はこの地獄のようなアイスの正体をばらした。
「キンキン君のナポリタン味!さっき降りたサービスエリアで買っておいたんだー!」
「あ、それまずいって有名…」
ここでさっきからあまりしゃべらなかった香奈枝が言ってきた。
「え、これ有名なの?香奈枝ちゃん」
「まあ、友達から聞いた話だったんだけど…」
「そっか。じゃあ玲、完食がんばっ!」
「おい待て。こんなの全部食えっていうのか?」
「うん!約束はちゃんと守ってね!」
そういう美花の言葉にみんながうなずいた。
「し、仕方ない。罰ゲームだもんな。食ってやるよ!」
そこから約5分間の地獄が待っていたのはその時の俺にはわからなかった。
……っ。あれ…寝ちゃってたのか…。
「あ、起きた?」
「…んっ。今、どの辺だ?」
「山の中だよ~。冬香ちゃん曰くもう少しらしいけど…」
姿勢を正して窓の外を見ると車は山の中を走っていた。山道ってのは道がくねくねしてるっていうか、回ってるんだな…。
みんなはどうしたんだろうと思って前を見ると、香奈枝の左肩に琴美、右肩に冬香ちゃんという感じに身を預けて寝ていた。
「そういえば、みんな寝ちゃったのか?」
「私は起きてるわよ」
香奈枝がそう返事をした。
「それは後ろから見てもわかったよ。本読んでるの見えたし。寝なくて大丈夫か?」
「私は眠くないからいい」
「そ、そうか…」
な、なんかまだ話しにくいな…。いつか普通に話せるようになりたいものだ。
「んで、美花は寝ないのか?」
「まあ私もそこまで眠くないし…。それにもう少しらしいし…。ね、メイドさん?」
「ええ。あと二、三十分程度ですかね」
そう運転しながらメイドさんは答えてくれた。
「ほらねっ。だからいまさら寝なくてもいいかな…的な」
「そっか。でも少しくらい寝とけば?多分ついてから寝る暇あるかわからないし」
「うーん…。じゃあ、お言葉に甘えて少しだけ寝ようかな…。そのかわり玲は絶対に寝ちゃだめだよ?」
「おう。任せとけって!」
「じゃあ、おやすみー」
美花が目を閉じて寝始めたので俺は俺で持ってきてある本を読みながら暇を潰そうと思う。
すると読書をしていた香奈枝が顔をあげて、鞄から本を取り出した俺と目が合った。
「…どうした?」
「別に…。なんでもない」
そういってまた前を向いて本を読み始めてしまった。…一体なんだったんだよ…。
少しすると山道を下り、有名なアウトレットモールが見えてきた。一瞬しか見えなかったがGWということもあり、人通りは多く見えた。
なるほど…雑誌でみたことがあるのだが、ここまでとは…。
「そろそろ着くのでみなさんを起こしてくれませんか?」
「あ、はい。わかりました」
俺が返事をすると、香奈枝は本から顔を上げて冬香ちゃんの方を起こし始めたので、俺はまず琴美から起こすことにした。
琴美はさっき見たときから体勢が変わり、今は窓のほうに体を預けている。寝顔が真正面から見れないのがちょっと悔しい。
俺は琴美の頭をかるーく叩いた。
「……っ!ありゃ?」
「起きたかー」
俺が声をかけると背筋がピンっと伸びた。そして、起こした主である俺のほうを振り返って言う。
「わ、私、もしかして寝てた?」
「おう。そりゃあもうぐっすりと」
「……寝顔みてないよね?」
シートベルトを外し体をこっちに向け、背もたれからひょこっと顔を出して、ジト目でこっちを見てくる琴美。
「見たかったけど、さすがにこっからじゃあなあ」
「そう…」
なぜか安心した表情を見せる琴美。そこまで他人に寝顔見られるのが嫌なのか…?
だが俺は琴美のある異変に気がついてしまった。
「琴美」
「なんだ?」
「さっき完全に女の子っぽい口調になってたぞ。それに、ここ」
そういって俺は自分の口のあたりを指差す。
琴美は頭の上に?マークを浮かべて、小首をかしげた。
「よだれ」
俺がそういうと、琴美は一気に顔を赤くして顔を引っ込めてしまった。
普段あまり見ない顔をする琴美も見れたことだし、次は美花を起こそうか…。
そう思って美花の方を見たのだが…。
「寝てるとでも思った?」
すでに起きていた。しかもすごくにっこにこでこっちを見ている。
「ちっ、もう起きてたか…」
「ごめんね~。もしかして何かしようとでも思ってた?」
「まあ、とりあえずこちょこちょで起こそうかなと」
「…っ!先に起きといてよかった~…」
美花の表情が安堵の表情へと変わる。なんでこんな反応するかというと、美花はこちょこちょが大の苦手なのだ。…小学生までの記憶だとな。けど、この反応を見る限り、今でも苦手らしい。今度不意にこちょこちょしてやろうかな。
そんな俺達を見ていたのか、メイドさんがくすっと笑いながら到着したことを告げる。
「はい、着きましたよ。荷物は後ろにある車からおろしてくださいね」
車は街から少し外れた山道を少し登った所にある一軒家の駐車場に止まった。
みんなが降りたことを確認した後、冬香ちゃんが説明してくる。
「それじゃあ、自分の荷物を持ったら玄関にきてくださいね~」
「おう」
「はーい」
「わかったぜ!」
「……(こくっ)」
各々がその言葉に対して返事をする。荷物を受け取り一軒家の方を見ると、普通の一軒家よりも一回り大きく、別荘と言われても欠損ないレベルに見える。
その後俺達は、短い距離ではあるが、自分の荷物を持って玄関へと向かった。
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