第31話「結末」
あの後三回行って、これまた運よく全員の質問をそれぞれ一回ずつ引いて、残るは後三回となった。
この三回の間に俺が分かった情報は、琴美はこの町出身ではなく隣の町出身だったことだけだった。ちなみに美花が引き、琴美に渡した時はなんか美花の方から見るなというような視線を感じたので見ないようにした。そして俺が引いた時は『私はこの部の部長にふさわしいと思う? 美花』と書かれていたので、すぐに『yes』と書いて、ちょっと恥ずかしかったので、美花の方を見ないように渡した。
「じゃあ、ラスト三回。始めましょうか!」
美花の元気な声と共に、サイコロが振られた。その数値の合計は8だった。そして次に琴美が振り2、俺が振って9となり、琴美が紙を掴む。その内容を見てしばらく考えてから解答を書くと俺に回ってきた。
「美花はどうするの?」
「スルーで」
「だって、玲」
「おう」
紙を琴美から受け取る。内容はわかってるから、答えだけ見る。すると答えは『yes』だった。琴美が今の学校生活を楽しめているようで俺は心からほっとした。
「答えはyesだったぞ」
「なっ!?やらかしたかー!みとけばよかったー」
美花が権利を使わなかったことを後悔しながらサイコロを振る。すると、美花が7、続く琴美が9、俺が10と出た。
「えー。私そんなに低くない数値だったのになー」
美花がぶつくさ文句をいいながら残り二枚となった紙を拾い、中身を見る。
「あら?自分の質問を引いてしまったわね」
「この場合どうするんだ?」
「元に戻してやり直しね」
そう言って美花は紙を折り直して机の上に戻してシャッフルし直す。
ふと俺はある疑問が思い浮かんだので美花に質問し直すことにした。
「これさよくよく考えたら、後二枚って俺以外の二人のだから、どっちかが自分のを引き続けたら永遠に終わらなくないか…?」
「……あっ」
俺が疑問をぶつけると、美花はシャッフルする手を止めて固まった。どうやらそのことに気が付いてなかったらしい。
「い、いやあー。ぱっと思いついたゲームじゃ駄目ねー。全くもって考えてなかったわー」
「おいおい…これどうするんだ?」
「そうね…。一応サイコロ振ってどちらかの質問が他者に行くまでやりましょ!どうにかなるでしょ!」
「お、おう…」
「な、なによー…何も考えてなくて悪かったわよ」
「べ、別にそこまでは言ってないけど…」
「はいはい。さっさとやっちゃいましょー」
そういうと美花がサイコロを振る。合計の目は7だった。次の琴美が9、俺が4だった。
「やーい、馬鹿にした罰よ」
「馬鹿にはしてなかったろ…」
「目が馬鹿にしてましたー」
「あーはいはい…よいしょっと」
美花のウザ絡みを軽くあしらいつつ、紙を引く。その手紙の内容は『パセリは好き? 琴美』だった。俺は大嫌いだったので答えは『no』とした。パセリなんてこの世に好きな人いるんか?俺は全くもってあれの良さがわからん…。
「美花は見るか?」
「もち」
「琴美おーけー?」
「おーけー」
「じゃあほい」
俺は書いた紙を美花に渡す。紙を受け取った美花はつまらなさそうな顔をして俺に返してきた。そりゃそうだ、いざ楽しみにしてみようとしたらあんな内容なんだったのだから。
「じゃあ琴美これを、ついでに美花紙を琴美に渡してやってくれ」
「もう用意してるよー」
「さんきゅ。はい琴美、追加の紙」
「お、おう。さんきゅ」
琴美は俺から白紙のメモ紙をもらうと次の質問を書き始めた。
「ちぇーさっき後悔したから権利使ったらあんな内容だったよー」
「まあこればっかしは運も絡んでくるからなー。今回はどんまいってことで」
「いや、さすがに欠点がひど過ぎたからもうやらないよ…」
そういうと美花は机に両手を伸ばしながら突っ伏した。それから数秒して、琴美の文字を書く音が止まった。
「はい、玲」
「ん」
俺は琴美から紙を受け取って内容を確認する。その中身は『約束、覚えてる?』だった。俺は琴美と約束を交わした記憶がなかったので、『no』と答えた。それに約束があったとしてもどの約束なのかわかりにくい質問ではあるなと思った。
俺は紙を琴美に差し出す。もう美花は権利を使い切ったので、机に突っ伏したままだ。
無言で渡したからか、琴美も無言で紙を受け取る。そして紙の内容を見ようとしてるのを確認できたところで、美花の方を見て、紙の追加を頼もうとする。
「美花、追加の紙ー」
「えーまたnoだったのー。早くしてよー」
美花はゆっくりと体を上げてぶつぶつ何かを呟きながらメモ紙を取り出し、一枚俺に渡すと、また机に同じ体勢で突っ伏した。
俺は受け取った紙を渡そうと琴美の方を見ると、少し寂しそうで悲しい顔をしていた。
「琴美?大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
琴美は俺が差し出した紙を受け取りながら、少し消え入りそうな声で答えた。そして受け取った紙にペンを走らせ、すぐに紙が俺に渡される。
内容は『今度買い物付き合ってくれる?』だった。俺は即答でyesと書いて紙を送った。その紙を受け取り、中を確認した琴美はすごく嬉しそうな顔をしてくれた。機嫌が戻ってくれたようでよかった。
「美花ー終わったぞー」
「おーやっと終わったのねー」
美花は先ほどと同様にゆっくりと体を起き上がらせ、サイコロを手に取り琴美の方に突き出した。
「もう私の質問しかないから、二人のサイコロで負けたほうが私のやつ引いて。で、勝った方は1回見れるということで。二人ともおーけー?」
美花の問いに二人無言でうなづく。そして琴美が美花からサイコロを受け取り、サイコロを振る。その目は10だった。これ、俺の勝ち目なくね?と思いながらサイコロを振ると目は6で案の定俺の負けとなった。
残された紙を手に取って内容を確認するとそこには『チーズは嫌い?』という問いが書かれていた。美花は俺がチーズが好きだと知っているはずなので、明らかにnoと言わせるためだとわかったが、俺は美花の誘いに乗ることにした。
「琴美は見る?」
「見る」
「美花おーけー?」
「おーけー」
ということなので、琴美に紙を渡す。すると少し感心したような表情を見せて美花にその紙を渡した。そうか、琴美は俺がチーズ好きなこと知らなかったか。まあ、全く言ったことなかったからそりゃそうか。
そう思っていると、美花から新しく紙が渡された。内容は『琴美のことが恋愛的に好きか?』と記されていた。
琴美のこと…?そういや真剣に考えたことなかったな…。初めて部室で会ってから、元気いっぱいな子だなって思って、その後うちにきて雑談したり、ご飯食べに行ったり…。そういや、スーパーでも一回会ったな…あの時は家庭的な子なんだろうなーってのが見えて、ちょっと意外な一面も感じたっけか。そして最近の琴美の元気の良さが無くなって、ちょっと心配になって…。でも、恋愛的に好きかと問われるとどうだろう。琴美のことは確かにいい子だし、元気を分け与えてくれるし、好きっちゃあ好きなんだろうけど…。なんか恋愛的に好きってわけではない気がする。どちらかというとほっとけない友達って感じがする。今はまだ、恋愛対象としては見れない。
俺はそう結論に至り、美花への答えは『no』とした。この紙を美花に渡し、受け取り内容を見るとまた表情を変えずに次のメモ紙にペンを走らせ始めた。そしてまたすぐに俺へと差し出してきた。その内容は『好きな人はいる?』だった。
くそ…美花のやつ琴美にやったことと同じことをしてきやがった…。でも、今恋愛対象はいても好きというほどではないんだよな…。ここは素直に『no』と書いておこう。
俺は紙に答えを書いて美花に無言で渡す。紙を受け取り内容を確認した美花は一瞬表情が変わったように見えたが、特に取り乱すことなくすぐに新しいメモ紙を取り出しペンを走らせる。そして書き終わった紙を俺に渡す。
「玲。三回ノーっていったから次は言葉で答えてね」
「わかった」
そう言って美花からメモ紙を受け取る。その内容は『東雲美空を覚えている?』と書いてあった。
しのの…め?そういえば最近母さんからもこの名前を聞いた気がする…。でも美花の言うこの子がその母さんのいう子と同じなのかわからない。ということを少し短めにまとめて紙に書いた。確か母さんが言う東雲さんはかなり幼い頃に遊んでたみたいだということは書かないでおいた。単純に書くスペースがなかったという理由だけど。
書いた紙を美花に渡すと、美花は何かに納得したようにうなずいて紙を鞄の中にしまった。
「さて、ゲームはおしまい。二人共参加してくれてありがとね!」
「うん。まあそれなりに楽しかったから良かったよ」
「俺も。楽しめたわ」
「じゃあ、もう暗くなってきたし今日は解散!お疲れ様でしたー」
美花の号令と共にみんなが帰りの支度をし、部室の外に出る。
「ごめん、ちょっと寄るところ出来たから先に帰るわ。じゃっ」
「お、おう。琴美、気を付けてなー」
「うんーお疲れ様ー」
部室の外に全員が出た後に、琴美はそそくさと帰っていってしまった。すると、突然携帯の着信音が鳴った。俺は基本マナーモードにしているので、この主は美花だとわかった。
「わわっ!一体誰…?って美奈か」
美花は慌てて携帯の主を見て美奈だと気づくと、安心したようで落ち着いて電話に出た。
「どうしたの…?え、鍵を忘れた?あー…はいはい。わかった。すぐ帰るから待っててー。はい、はーい」
美花が電話を切ると、俺の方に鍵を渡してきた。まあ、電話の内容からしてなんとなく察しはついてた。
「なんか美奈が家の鍵忘れて今家に入れないみたいだから、玲部室の鍵よろしく」
「あいよ。急いで帰ってやれよ」
「わかってるー。鍵頼んだからねー」
廊下を小走りで去っていく美花の背中を角を曲がるまで見送った。そして、俺は部室の鍵を閉め、職員室に鍵を預けて、下駄箱へと向かう。
さて、今日の料理担当は美花だけど、何を作ってくれるのかなー。何作るかはわからないけど、明日俺が当番でその買い出しを今日行こうかなって思ってたから、帰ったら誘ってみるかー。
「あら?玲君じゃない」
そんなことを考えながら、下駄箱の扉に手をかけようとした時、校舎側から演劇部の先輩の声が聞こえた。
「あっ、あの時の先輩」
「お久しぶりね。って言ってもまだそこまでは経ってないけど」
「はは。そう言われればそうですね」
「今帰り?」
「そうですね、帰ろうとしてたところです」
「そう。じゃあ一緒にお話しして帰りましょう?」
「いいですけど、先輩はどっちに行きますか?」
俺はそういって校門を出て右に出るのか、左に出るのか指を差した。すると先輩は左を差した。
「こっちね」
「お、じゃあ同じ方面ですね」
「あら。じゃあ行きましょうか」
「はい」
俺達は靴に履き替えて校門を出た。
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