第30話「ゲーム」
美花が俺達が書いたメモ用紙を机の上でシャッフルする。そして、シャッフルが終わるとサイコロを手に持った。
「それじゃあまず私から」
そう言いサイコロを振ると、2と4が出た。なので合計は6である。
「6かあ…なんか微妙なところが出ちゃったねー。じゃあ次琴美ね!」
美花がそう言うと、琴美は机の上に転がり落ちていた二つのサイコロを手に取り、サイコロを振る。少しだけ机の上を転がった後、出た目は3と7だった。
「おー琴美の数字は10ね!ちぇー負けちゃったかー」
「たまたまだよー運が良かっただけー。はい、次は玲だよ」
「はいよ。琴美強いなー」
琴美の出した数字に感心しながらサイコロを手に取る。
「さっきも言ったけどたまたまだよー。運が良かっただけ」
「まあそうだけど。運も実力のうちっていうだろ?」
そう言いながらサイコロを転がす。すると俺の目は1と3だった。…合計4ってことは俺が最下位じゃねえか!
「おっ!4ってことは玲の負けね!それじゃあその中から一枚引いて頂戴!」
「あいよ」
美花にそう言われて俺は紙の束の中から一枚取る。その中には『玲は小学校の時の記憶はある? 琴美』と書かれていた。
その質問の意図は全くもってわからなかったが、俺は小学校の記憶が残っているものもあるので、yesと答えて琴美に渡す。
「はい。これ琴美の質問だったから返すわ。美花はどうする?」
「ここはスルーで」
「だ、そうだ。中身開いて良いぞ」
そう俺が言うと琴美が紙の中身を開く。俺の解答を見た琴美は少しだけ口角が上がったように見えた。
「答えはyesだった。次やろっか」
「OK。それじゃあまた私からね」
そういい美花が机からサイコロを取る。合計は8だった。その次にさっきと同じ流れで琴美が6、俺が10だった。なので、琴美が一枚紙を取った。
琴美がその紙を見て、ボールペンを手に取り顎に添えて少し悩んだ後、紙にペンを走らせる。そしてその紙は美花へと差し出された。
「はい。玲はどうする?」
「見る」
「OK、じゃあ一旦玲に渡すね」
「はーい」
美花の返事を聞いてから、琴美は俺にその紙を渡してきた。その紙の中に書かれていたのは…。『あなたに今好きな人はいますか? 美花』と書かれていた。そして答えは『yes』と書かれていた。俺はその質問と返答に驚いて琴美の方にゆっくりと顔を上げる。すると少しだけ微笑んでこっちを見ている琴美と目が合った。
え…?琴美に好きな人がいる…?いったい誰なんだ?そしてその少し微笑んでる顔はなんだ?どういうことなんだ?
俺はひとまず冷静を装いながら美花に紙を渡し、顔を伏せる。あまりこの内容について悟られたくなかったというのもあるし、考えたかったからだ。
琴美はいったい誰のことが好きなんだろうか?同じクラスの人?昔からの知り合い…?琴美からはそう言う話を聞いたことなかったから、全くもって意識することはなかったけど、あの琴美に誰か好きな人がいる…?
「じゃあ次にいきましょうか」
先ほどよりも少し声が低くなった美花の声を聴いて顔をあげる。なんとなく美花が少しだけ不機嫌になってるように見えた。
そしてまたさっきのようにそれぞれがサイコロを振る。次は美花が3、琴美が4、俺が8となった。
「なんかたまたまなのか、全員一回ずつ回ってるわね」
「そうだなーなんか偶然ではあるんだろうけどな」
「ねー」
美花が相槌をうちながら紙を取る。そして内容を確認すると、ペンを走らせて俺の方へ渡してきた。
「はい玲。琴美はどうする?」
「見る」
「じゃあはい」
美花は紙を琴美の方へ流す。それを琴美が受け取って中身を見てから俺に渡してくる。琴美を見ている感じそこまで驚きの表情を見せた感じではなかったので、無難な質問の答えが返ってきたんだろうと思った。
そして琴美から紙を受け取って、開く。紙の中の内容は『軽井沢に行きたい? 玲』だった。もちろん美花は『yes』と書かれていた。
「玲、確認はおっけー?」
「おう、大丈夫だ」
「じゃあ次にいきましょうか」
「ちょっと待った。これ全部やる気か?」
俺はこの行動が後6回も行われるのか?ということに疑問を覚えたため美花に質問してみた。ただ、美花はやる気満々なようで、俺の質問を受けた上でサイコロを手に取った。
「もちろんそのつもりよ。琴美も大丈夫よね?」
「まあ、どうせこの後暇だったから大丈夫」
「そう。だってさ、玲」
「あ、そうすか」
琴美までやる気なのなら仕方ない…。俺は少しだけ時間が遅くなることを感じ、今日のスーパーの特売品を諦めるのだった。
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