第29話「会議」

 あの後、翔さんにもハンバーグを食べてもらった結果、俺は美奈に料理を教えることとなった。ただ、急にというわけにもいかず、美奈が来週担当する時に付き添いながら教えるという流れになった。なのでそれまではこれまで通り美花が美奈に付き添うことになった。

 そして翌日の放課後。部員全員が集まった部室にて、昨日話し合っていた旅行についての会議が始まろうとしていた。

「はーいみんな揃ったわね。それじゃあ昨日話した件だけど。冬香ちゃんどうなった?」

「え、ああ、はい。お父様に確認しましたところ別荘を使うことに関しては大丈夫だそうです~。ただ子供達じゃ危ないし、行き方もわからないだろうから、使用人を同伴させると。その条件なら1泊のみ使っていいよだそうです。ただ…」

「ただ?」

「あ、いえ…大丈夫です」

 そう言いながら冬香ちゃんは琴美の方をちらっと見てから、美花の方を見る。

 俺は冬香ちゃんの視線につられて琴美の方を見るが、明らかに以前のような明るさは感じられなかった。何かあったのかと疑うレベルだ。

「そう?なら別にいいんだけど…。それじゃあ行き先も決まったことですし、後は日程だけね!そしたらそうねーゴールデンウィークの初日にしましょ!早い方がいいと思うし!」

「お、いいんじゃないか?な、玲?」

 普段と変わらない口調で琴美が俺に同意を促してきた。その表情はいつもと変わらないように見えた。いや、さっきの表情を見てしまっているからわかるのだが、これは明らかに。俺にはそう見えた。でもここは事がうまく進むように合わせておく。

「そうだなー。俺はいいと思うぞ早い方が行くのだるくなくていいからなー」

「うんうん。香奈枝ちゃんは?」

「私は別にみんながそれでいいなら」

「よし!それじゃあ決まりね!後は冬香ちゃんに最終的な確認を取ってもらって、必要なものがあったら連絡をするって感じで。それでいいかな冬香ちゃん?」

「はい大丈夫です!そしたらわかり次第皆さんに連絡いたしますねー」

「はい。それじゃあ今日の部活は一旦おしまい!後は各自自由行動ってことで!」

 そう美花が言うと、香奈枝が自分の荷物を片付けて席を立った。その間に冬香ちゃんも帰る準備をしている。

「それじゃあ私ちょっと用事あるので、また明日」

 そして香奈枝は部室から出ていこうとすると、それに続くかのように冬香ちゃんも立ち上がって部室から出ていこうとする。

「私もこの後用事があるのでこの辺りで失礼しますねー」

「うんお疲れ様!香奈枝ちゃん!冬香ちゃん!」

「おうーお疲れ様ー」

 琴美を除く俺達二人が声をかけると二人は部室から出ていった。そして部室に残ったのは美花、琴美、俺の三人だけとなった。

「さて、私達だけになっちゃったかー。二人はこの後何かある?」

「俺は特に何も」

「自分も特には」

「じゃあゲームをしましょ!」

「「ゲーム?」」

 俺と琴美は美花の発言の意味がわからなくて二人して美花の方を見ながら、首をかしげ反応した。

「そ、ゲーム。すごく面白いと思うよ。まあとりあえずやってみよ!」

 そう言う美花はメモ帳とペンを机の上に出すと、メモ帳の紙を三枚づつ剥ぎ取って俺と琴美に渡す。

「それじゃあみんなまずその紙になんでもいいから、yesかnoで答えられる質問を書いてー。そしてその紙に誰が質問したのか名前書いといて」

「ん。おっけー」

 そう言われた俺達は各々質問を書き始める。俺が書いたのはこの三つにすることにした。

・出身はこの町?

・軽井沢に行きたい?

・今の学校生活楽しい?

 最初のやつはまあ二人ともyesって答えられるものにして、他の二つはなんとなく琴美のことが心配でちょっと聞いてみたくなったから、これにしてみた。

 俺は書き終わったので顔を上げて美花の方を見ると目が合った。そして二人して琴美の方を見ると丁度書き終わったみたいで、目が合った。

「よし、それじゃあ二人とも書き終わったみたいだから机の真ん中にその紙を四つ折りにしてから出してー」

 そう言われた俺達は美花の言うとおりに紙を四つ折りにして、机の真ん中に置く。

 そしてそれを美花がシャッフルをし終わると鞄に手を突っ込んでサイコロを二つ取り出した。なんで持っているのか気になったがあえてここは突っ込まないようにする。

「さて、それじゃあ簡単なルール説明ね。今からこのサイコロを振ってもらいます。それで出た目が一番小さい人がその紙の中から一枚取って質問にyesかnoで答えてもらいます。その答えはその紙に書いてね。それでその質問者にその紙を渡して。で、質問者はその回答がnoだったら追加で質問をしてもOK。そこは任意でいいよ。それでその質問をしていいのは3回までで、最後まで回答者がnoと言い続けたら質問者は回答者に対してyesかno以外で答えてもいい質問を一つだけしてよくて、それでその回答者は絶対その質問に解答しなくちゃいけない。で、余った一人なんだけど、その余った一人が数字が一番高かった場合、質問内容とその回答が2回見れる。それで二番目に高かった場合1回だけ回答が見れるって感じ。だいたいわかった?」

 美花の説明の問いかけに俺達二人は首を傾げた。なんとなくは分かったのだが、やはり実際やってみないとわからないところもあると考えたからだ。

「そうね、じゃあ一回例でやってみましょっか」

 美花はそう言うともう一枚メモ用紙を取り出して俺に渡してきた。

「玲、この紙に簡単な質問書いてもらっていい?」

「おっけー」

 そう言われた俺は簡単に、今日の天気は好き?という質問を書いた。

「それじゃあ書き終わったわね。じゃあ今回は琴美が負けて私が勝った場合にしよっか。じゃあ玲はその紙を琴美に渡して」

 そう言われた俺は質問を書いた紙を琴美に渡した。

「ほい、簡単な質問にしたから気にせず答えてくれ」

「おっけー了解っ」

 琴美が俺の紙を受け取って答えを書いてから、俺にその紙を返してきた。そして俺はその紙を見る。答えはyesだった。

「で?一連の流れは終わったけど?」

「そうね、それじゃあその答えはyesだった?」

「そうだけど?」

「じゃあこの一連の流れは終わりで、次のゲームの開始となるわね」

「美花はこの質問見なくていいのか?」

「まあねー任意って言ったからそれは個人の自由。私は今回見ない、見てもどうでもいいことって判断したから見なかった。ただそれだけのことよ。それでこのゲームの面白いところはここで、その質問を他人に見られる可能性があるってところなのよね。まあやってみればわかると思うけど」

 美花はそう言うと、サイコロを手に取る。

「さ、チュートリアルは終わり。二人とも準備OK?」

「俺はいいぞ」

 俺はさっきので大体わかったから大丈夫だけど、琴美はどうなんだろうとそっちの方を見てみると琴美は美花の方を見ていて軽く頷いたので、大丈夫なんだろうと判断した。

「うん。じゃあ二人とも大丈夫みたいだから始めよっか」

 そう言うと美花が軽く笑った。その顔がどこか企んでいるように見えたのは気のせいだと思いたい。そしてこのゲーム、俺の解釈が正しかったらきっとお互いの内を探るゲームになるのではないかと思ったのだった。

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