第28話「結果」

 ハンバーグの仕上げが終わり、盛り付けた皿を美奈の前に用意する。

「はい、どうぞ召し上がれ」

 俯いていた美奈は顔を上げて皿を見る。

「おお!これは美味しそう!」

 美奈はそれを見るなり目を輝かせる。どうやら見た目は期待に添えられたらしい。後は味がどうか…ってところか。

 そして美奈は目を輝かせたままこっちを見る。

「食べていい?」

「いいぞ」

「いただきまーす!」

 美奈はナイフとフォークを器用に使い、ハンバーグを一口サイズに切り口に咥えた。その動作をしている間に俺は自分の席の前に自分用に盛り付けた皿を置き、席に座る。

 美奈は無言でその後も一口サイズに切っては食べて、また切ってをしていた。本当に美味しい食べ進めていくその様は見ていてとても気持ち良かった。どうやらお気に召したらしい。

 安心した俺は食べ始めようと思ってナイフとフォークを手に取った。だがそれとは対照的に美奈はハンバーグを半分ぐらい食べたところでナイフとフォークを皿の上に置いた。そしてティッシュで口を拭いてから俺の顔を真顔で見たきた。

「お兄ちゃん」

「は、はい」

 俺はその顔を見てさっきの安心感はどこかに消え、このリビングには緊張感が走り始めた。

「このハンバーグですけど…」

「ただいまー」

 美奈が感想を言いかけたその時、タイミングよくリビングのドアが開けられ、それと同時に美花が入ってきた。

「お、もう食べてるの?玲、私の分は?」

「お、おねえ…」

「タイミング…!」

「え、ちょっどういうこと!?」

「「はあああ……」」

 俺と美奈はタイミングよく溜息をついたのだった。


 俺は帰ってきた美花に今まで何があったのか説明すると、美花は自分がやらかしてしまったのがわかったのか、素直に謝ってきた。

 そして制服を脱ぎに自室まで戻り、お風呂には入らずに部屋着のままリビングへと戻ってきた。

「それじゃあ玲、私の分のお願い」

「はいよ」

 俺は美花の分を作りに台所へと戻る。

「そういえばお姉ちゃんなんで琴美さんといたの?」

「あーその話ね」

 そんな姉妹の会話を耳にしながら、俺はIHの電源を入れハンバーグを温め直す。

「そうだ。俺も理由知りたい」

「えっと、私はあの後琴美を追いかけたのね。それにはちょっとだけ事情があったの。それでその件についてと、ちょっとした雑談してたらあんな時間になっちゃったってわけ」

「なるほどねえ…それで事情ってのは?」

「れーい?時には聞いて良いことと悪いことがあるんだよ?」

「ご、ごめんなさい」

 美花がちょっとだけ低く怒っている声出してきたので、若干ひるんでしまった。

「いや怒ってるわけじゃないけどさ、聞いて良いことと悪いことがあるってだけで」

「あ、うんごめん」

 俺は美花に謝るとハンバーグがそろそろ温まっただろうと思い、フライパンにしていた蓋を開ける。その姿を見て美花は美奈と雑談を始めた。

 俺はその会話を耳にしつつ盛り付けを始める。ただどこか二人の会話を聞いてるとどこか懐かしく心が和む感じがした。

「はい、できたぞ」

 盛り付けが終わった皿を美花の前に出す。すると、美奈と同じ反応を示した。やっぱりこういうところは姉妹似てるんだなあ…と思った。

「食べていい?」

「どうぞ?」

 そういうと美花はナイフとフォークを使い、一口サイズに切ってから口へと運ぶ。その間に席について美奈の方を見ると、もうすでに八割方食べ終わっていた。

「おいしーー!!すごく美味しいよ玲!!」

 満面の笑みを浮かべて美花は俺の方を見てきた。その顔を見て安堵する。

「ありがと。口に合ったようでよかった」

「うんうん!本当に美味しいよ!ねえ美奈!?」

「………」

 勢いよく美奈の方を向いてそう言う美花だったが、美奈は美花の言葉を無視して黙り込んでしまった。

「あっごめん。感想言う前だったんだっけ」

 美花はその姿を見てはっとしてから美奈に謝る。すると急に美奈は顔を上げると顔を少しだけ紅潮させて俺の方を見てきた。

「もう!参りました!お兄ちゃんのハンバーグは今まで食べた中で一番美味しかったですー!!」

 そう言うと美奈は頬を紅潮させて俺から目を逸らした。

「お、おお。おおお!?ってことは認めるってこと!?」

 そういうと美奈は無言で頷く。俺はそれを見て気持ちが高鳴るのがわかった。

「よっし。なんか嬉しいなほんと。俺、母さん以外に俺の料理食べさせたことなかったから…他の人から褒められるのってすごい嬉しいんだな」

「良かったね玲」

「うん本当に良かった。すごく嬉しい。美花もありがとな」

「う、うん。本当に美味しかった。お世辞じゃないよ?」

「わかってる。でももしその表情と態度でお世辞とかだったら俺流石に立ち直れないかも」

「あはは。さすがにないよー」

「ねえお兄ちゃんおかわりないの?」

「あーごめんな?人数分しか作ってないんだ」

「えーもっと食べたかったなー」

「まあまあ。そしたらその残りをよく味わって食べてくれ」

「はーい」

 美奈は大事そうに残りのハンバーグを食べ始めた。それを見て俺と美花も残りのハンバーグを食べ始めた。

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