第27話「挑戦状」

 俺が家につくと同時に美花からメッセージが返ってきた。

『そのひき肉は練習用に使う予定だったから、別に今日の夕飯に使っちゃってもいいよー。あ、それと今日もしかすると帰り遅くなるかもだから、先に美奈と一緒に夕飯食べちゃってていいよー』

 っとのことだそうで、俺は冷蔵庫にしまってあるひき肉を使ってハンバーグを作ることにした。

 それから冷蔵庫の中を見てから足りなかった具材を買い足しに行くことにした。そして家に帰ってくると丁度風呂から出てきた美奈と玄関で鉢合わせになった。どうやら買い足しに行ってる間に帰ってきたらしい。

「ただいまー」

「おかえりなさいお兄ちゃん。夕飯の買い出し?」

「そうそう。ちょっと足りないものがあってさ」

 俺は買い物袋を置き、靴を脱いで靴箱の中へとしまう。すると美奈が駆け寄ってきて座り込んで買い物袋の中を覗く。その美奈が座り込む瞬間に、風呂上りだからだろうか、ふわっとシャンプーのいい香りが漂ってくる。

「…?お兄ちゃんこれだけだと何作るか私にはわからないんだけど、何作るつもりなの?」

 美奈はその場で立ち尽くしてる俺の方を見上げ、首をかしげながらそう聞いてきた。

 くっそ…いちいち仕草が可愛いな。多分本人は自覚なくやってるんだろうと思うけど…これが天然たらしというやつなんだろうか。

「ん?どうしたの?」

「あーいやごめん。ちょっとぼーっとしてた悪い。実は冷蔵庫の中にひき肉があるんだよ。だからハンバーグを作ろうって思って、足りないものを買い足してきたって訳」

「ハンバーグ!?私大好き!!」

 美奈は俺がそう言うと勢いよく立ち上がり、目を輝かせながらそう言ってきた。

 どうやら美奈はハンバーグが大好物らしい。それは全くもって知らなかった。

「本当か?それならよかった」

「ふふーん。私ハンバーグ大好きだけど、その分うるさいからねー。未だにお姉ちゃんは私が満足するハンバーグ作れたことないし!」

 そう美奈は鼻高々にそう言う。どうやらハンバーグについては相当口がうるさいらしい。

 ああ…通りで美花が練習用にひき肉を買ってきてた訳だ。てっきり新作を作るもんだと思ってたけどそう言うことだったのか。納得がいった。

「それでお兄ちゃんは私を満足させてくれるのかな?」

 そして美奈は続けざまに俺を煽るかのように挑戦状を叩きつけてきた。

 さすがにこう煽られてしまっては断ることもできないと感じ、俺はこの挑戦状を受けることにした。

「おう。超満足させてやるから覚悟しとけよ?」

「へえ~…お兄ちゃん随分自信あるみたいですね」

「もちろんだ。一番の得意料理だからな」

「ふーん。じゃあ期待してますねっ」

 美奈はそういうと満面の笑みを浮かべて階段を登って行ってしまった。その姿を見送ってから俺は買い物袋を手に取りリビングへと向かった。

 かなりハードルを上げてしまったとは思うが、俺はそれに応える自信があった。何せ一番最初に挑戦した料理がハンバーグであり、俺がずっと磨いてきた料理だ。なんでそうしてきたのかというと、俺の本当の妹である美雪が大好物で両親がいない日にはよく作ってあげていた。そして二人がいなくなってからも母さんがよくリクエストしてきたので俺のレシピの中では一番作ってきた料理といっても過言ではないのだ。

 俺はリビングを素通りし、台所に向かい準備を始める。それからだいたいの準備が終わったところで自前のエプロンをし気合をいれる。

「よっし作るか」

 そして俺は美奈を満足させるためのハンバーグを作り始めた。


 それから大分経ち、そろそろ仕上げに入ろうとしているのだが未だに美花が帰ってくる気配はなかった。心配になってメッセージを送ったのだが既読もつかず、一向に返事が返ってくる気配はなかった。

 すると俺が携帯を確認してポケットにしまうと同時に美奈が階段を降りてきた。

 美奈はそろそろ出来上がると察したのだろうか。もしそうなのだとしたらかなり勘がいいと思う。

 そして美奈がリビングのドアを開ける。

「おおー…いい匂いがしますね」

 美奈は開口一番俺の作っている料理に反応した。

「もうちょっとだから席に座って待っててくれ」

「はーい」

 美奈は返事をすると、自分の分と俺の分のコップをテーブルに持っていき、冷蔵庫からお茶を取り出し席に座る。

「そういえばお姉ちゃん遅いですね」

「そうだな。さっきからちょくちょく確認はしてるんだが、一向に反応ないんだよな」

「私もです。全く反応なくて…ちょっと心配」

 どうやらまだ美奈の方にも連絡がいってないらしい。美花のやつどこをほっつきあるってるんだか。

 するとポケットに入れてある携帯が震えている。手を拭きポケットから携帯を取り出し相手を確認する。そして俺はその名前を見てすぐに電話に出た。

「おい美花どこにいるんだ?美奈も心配してるんだぞ」

 俺がそういうと美奈が勢いよく席を立ち、こっちに来るのがわかった。

「いやあごめんごめん。まだこっちの用事が長引きそうだからさー。先に食べててくれない?」

「うん。それはわかったけど、今どこに誰といるんだ?」

「もう玲は私の親か何かなの?まあ教えてあげるけどさー」

 そういうと美花はテレビ電話に切り替えた。俺はその画面を美奈にも見せてやることにした。

「はいこれ」

 美花が見せてきた画面はどこかの公園で、画面内には誰もいなかった。

「公園…?」

「そういうこと。それで今は…」

 美花がカメラの位置を変える。そこにはブランコに乗って俯きながら座っている琴美がいた。

「琴美と一緒にいるってわけ」

「…!?なんで琴美と一緒にいるんだ?」

「え、お姉ちゃんなんでその人といるの…?」

「ごめん。理由は後で話すからそれぞれにちゃんと…ね。それじゃ」

 美花はそう言って電話を切ってしまった。俺は訳がわからなかったのですぐに電話を掛け直したのだが、美花がそれ以降出ることはなかった。ただ、メッセージに一言『帰るときに連絡する』とだけ書かれていて、俺が返信したところで既読されるだけだけだった。

「くっそ何考えてんだ美花は…」

 俺がそう呟くと、美奈は俯きがちに何も言わずに自分の席へと戻っていった。そして席に着くと机に突っ伏してしまった。

 その姿を見て俺は何か一言かけようかと思ったが、ハンバーグが焼きあがってしまったため声をかけることをやめ、俺と美奈の分だけ仕上げに入る。美花の分はしょうがないので親二人の分と一緒に冷蔵庫にしまって置くことにする。

 まあ変に話しかけて空気乱しても嫌だし一人で考える時間があってもいいだろう。

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