第24話「次の日の朝」

 次の日の朝。スマートフォンのアラーム音に気が付き半覚醒状態の俺は、携帯をとりアラームを止める。

そして、あと五分だけ…っと思いながら眠りの淵へと落ちようとした時、部屋のドアが叩かれた。

「玲起きてる?」

 美花の声が聞こえた気がしたが、俺はあと五分だけでも寝ていたいと思い無視をした。

「本当に起きてないの?」

 ドアの向こうから少し疑っているのだろうか、勘ぐったような声でそう美花が問いかけてくる。だがその言葉にも俺は無視をする。しょうがないことなのだ、朝のこの五分の眠りが心地よいのだから。それには抗えないのだ。

「んーまあ起きてないならしょうがないか。それじゃあ叩き起こすしかないね」

 部屋の向こう側からその言葉が聞こえると部屋のドアが開かれ、俺のベッドの方へと足音がどんどん近づいてくる。

「玲ー起きなさーい!今起きないと学校間に合わないよー!」

 そう俺の方を揺さぶりながら言ってくる美花だが俺は知っている、まだそんな慌てるような時間ではないことを。なぜなら昨日と同じ時間に目覚ましをセットしておいたからだ。昨日あの時間で間に合ったのだから大丈夫なはずだ。

 なので俺は肩を揺さぶられ言葉をかけられても断固として目を開けるつもりはなかった。だが、定番のあの言葉だけ言っておくことにした。

「んー…後五分だけ……」

「もうー!本当に遅刻しても知らないんだからっ!」

 美花は怒った口調でそういうと部屋から出ていこうとする。ああ、やっとこれで寝れる…っと思った時ドアに向かっていた足音が止まる。

「今日の登校チェック坂本先生だけど、遅刻して説教受けても私知らないから」

 美花はそう捨て台詞のように吐いていくと俺の部屋から出ていった。

 ちなみにさっき美花が言っていた坂本先生というのは熱血的な体育教師で時間に関しては厳しい先生らしい。噂によるとつい1週間前が丁度坂本先生で、そのことを知らなかった新入生数名が犠牲者になったとか。ちなみに遅刻するとその場でクラスと出席番号を控えられ、放課後になったら呼び出しをくらい、小1時間ほど説教されるらしい。そしてその生徒たちはブラックリストに載り、坂本先生の中でではあるが色々とチェックが厳しくなるらしい。例えば学校全体でやる服装と頭髪チェックの時に坂本先生だと細かい所までチェックされるらしい。基本的にはリストに載ってない限りではそこまで細かくは見られず、特に何も言われないらしいのだが、そのリストに載るだけで今後の学生生活の肩身が狭くなるのだとか。

 そして俺は決してその美花の言葉に触発されたわけではないのだが、寝ることを諦めて起き上がり、パジャマから制服へと着替える。そして一旦下に降りて洗面台に行き顔を洗ってから部屋に戻り、昨日のうちに用意してあった学生鞄を持ってリビングへと向かう。ただもう一度言わせて欲しい。決して美花の言葉に触発されて起きたわけではないと。

 リビングのドアを開けると椅子に座って頬杖をついてテレビを見ていた美花がこっちを見る。そして美花は俺を視界にとらえると勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「あれえ?もう五分寝るんじゃなかったのー?」

「るっせ。気が変わったんだよ」

「ふーーーーん。そっか、そっかあ…」

「何ずっとにやにやしてんだよ」

 俺はそう言うと美花の対面側の椅子へと向かう。

 美花は今の会話中もずっとにやにやしていて、言葉もやけに煽ってきているように感じた。それだけ俺の行動に苛立ちを感じたのだろうか。

「いやあ、べっつにー?」

「なんだよ気味悪いな」

 椅子を引き、座りながらそう美花に言う。すると美花は左手の手のひらを上に向け右手は握り拳を作り、ぽんっと一叩きする。

「あ、そういえば今日の登校チェック坂本先生らしいよ?知ってたー?」

「お前わざと言ってるだろ」

 俺は美花にジト目でそう言う。寝起きのせいなのかもしれないが、若干美花の言い方に苛立ってきた。

「そんなまさか。玲が知ってるか聞いただけだよ?」

「そう。まあいいや、今から飯食う時間ねえし先行ってるわ」

「ええええ!待ってよ!一緒に行こうよー!」

 俺が席から立とうとすると、美花は駄々をこねるように俺を呼び止めた。

 さすがに俺はそう言われて待ってないほど鬼畜ではないので、しょうがなく思いながらも待ってあげることにした。

「わかった。それなら少しだけ待ってる」

「やった。じゃあすぐ食べ終わるから飲み物飲んだりして待っててね」

「そのつもり」

 俺はそう言って席を立ち上がりコップを取りに行く。そしてコップを1つ取ってから席に戻って座り、美花が飲んでた野菜ジュースをもらう。その間に美花はあと少ししかなかった朝食を食べ終えていた。

「あれ、随分早いじゃん」

「まあ今日は遅刻するわけにはいかないし、早めに出ないとだしね」

「そりゃそうか。そのせいで俺は朝食抜きだし」

「あはは。そうだね。昼は大盛りのラーメンでも頼んだら?」

「うん。そうするつもり」

 美花はこの会話中に食器を台所に持っていって、会話が途切れると同時に洗い物を始めた。っといっても今の食器分しかないのですぐ終わって、こっちに戻ってくる。

「それじゃ歯磨いてくるから」

「うん。俺も美花と交代でそうするわ」

 リビングから出ていく美花の背中にそう言葉を返して、まだコップに残っていた野菜ジュースを飲み干す。そしてコップをシンクまで持っていって簡単に洗い、紙パックの野菜ジュースを冷蔵庫へしまう。

 そして少ししてから美花がリビングへと戻ってきた。

「玲行ってきていいよ」

「はいよ」

 そう言われて席を立ってリビングのドアの近くの壁に寄りかかっている美花を一瞥してから洗面台へと向かった。


 歯磨きを終わらせ、リビングへと戻ろうとしたら玄関にもう美花の姿があり、靴を履いている途中だった。そしてそのすぐ脇には鞄が二つあった。

 多分もう一つのは俺のだろうと思い美花の方へと近づく。すると足音に気が付いたのか美花は軽くこっちの方を振り向き俺だとわかったらまた顔を前に戻して靴を履き始めた。

「玲の鞄持ってきておいたよ。わざわざリビングに戻って取りに行くのも面倒でしょ?」

「ああ、ありがと。助かる」

 美花は靴を履きながらそう言い、履き終えるとその場で鞄を肩にかけて立ち上がる。俺は美花に感謝しつつ簡単に靴を履き終え、俺も美花と同時に鞄を肩にかけて立ち上がる。

「あーそうだ。一応家の鍵持っといて。もしかしたら玲の方が帰ってくるの先かもしれないし」

 そう言われて俺は昨晩のことを思い出していた。ああ、そういえばそんなことを言っていたなと。なので予備で置いてある鍵をポケットの中にしまう。

「おっけ。了解」

「それじゃあ行きましょっか」

 美花はそう言うと玄関のドアを開け、先に美花が出てその後を俺が出て鍵を閉める。そして戸締りの確認をしてから二人横に並んで歩き始める。

「そういえばなんだけど」

「ん?どうしたの?」

 俺は歩き始めてすぐに、さっき帰りの話がでたついでに思い出したことを美花に言うことにした。

「今日一応部活には出るよ。でも途中キリがいい所で帰らせてもらうわ」

「んーわかった。まあ今日の料理に関しては美奈のことを任せてもいいかの試験でもあるわけだから、そりゃあ頑張ってもらわないと困るしね。準備のためだったら機能も言ったけど全然早めに帰ってもらって大丈夫だよ。その後なんか言われても私がどうにかするから」

 美花は胸を張りながらそう言うが、俺には疑問しかなかった。

「そのどうにかするっていうのは具体的にはどういうことをしようとしてるんだ?」

「ふふーん。秘密」

「ええー!教えろよー!」

「嫌です。これ以上そのことについて聞いてきたら口きかなくなるから」

「またそれかよー!!」

 そう言い合うとお互い自然と笑いあった。なぜだろうか、この瞬間楽しさと幸せを少しだけ感じ取れた瞬間だった。

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