第22話「夕食後(1)」
その後世間話をしながら飯を食べ終え、洗い物などの片づけを済ませた後、美花が一番最初に風呂に入りに行ったためリビングには俺と美奈だけが残った。そして今はそれぞれアイスを食べてのんびりとテレビを見ているところだった。
「そういえばお兄さんって私のことどれくらい覚えてるんですか?」
「え…?」
俺は突然美奈にそんなことを聞かれて食べかけていたアイスより先に美奈の方を見て固まってしまった。ただ美奈は体ごとテレビの方を向いていたため目は合わなかった。
その後数秒の沈黙が流れたため美奈は俺が答えるのを待っているのだなと感じたので、本当のことをことにした。
「ごめん。実は全く覚えていないんだ。あの頃の記憶だけがうまく抜かれているような感覚で…」
そう言ったが多少嘘をついている。本当は美奈とだけの記憶がほとんどなく、美花と過ごした記憶は残っているという自分でもよくわからない状態だった。
「そうですか…。でも最初家の前で会った時、お姉ちゃんが写真見せたら思い出したような発言しましたよね?あれはなんだったんですか?」
美奈は体はまだあっちを向いたままだが、顔だけこちらに向けて俺の目を見てそう言ってきた。
「ああ、あれは写真を見せてもらった瞬間にあの時の出来事が一瞬だけフラッシュバックしたんだ。だから思い出したってわけじゃなくて…」
「そうですか。まあそれならいいです」
美奈はそう言うと顔をテレビの方へと向きなおした。ただその横顔は少し寂しそうな表情をしているように見えてしまった。
「それじゃあこれから私のことを知ってくださればいいです」
「え、うんそれはもちろん」
足をぶらぶらさせながらこっちを見ないでそういう美奈の言葉に俺が頷くと、美奈は足をぶらつかせるのをやめ、体をこっちに向けて俯いてしまった。
「正直昔の自分はあまり好きじゃなかったんです。人前に出れば何も喋らない、発表とかになっても固まって喋れなくなっちゃう。そんな自分が嫌だったんです。考え方もネガティブで、臆病な性格でした。なので頑張ってここ数年間かけて克服してきました。それで克服し終わって人前に出ても堂々と喋れるようになって、ポジティブに明るく振舞える様になったのが今の私です」
ここまで俯きながら言っていた美奈だったが、言い終えた後に顔を勢いよく上げて俺の目をしっかりと見る。
「なので!昔の私なんて忘れたままで大丈夫です!お兄さんには今、これからの私を知ってもらっていきたいです!」
美奈の迫力は凄まじく、それだけに昔の自分が嫌だったんだなと思わされ、また今の自分に自信を持っているのだなと感じた。
「おうわかった。それじゃあ過去のことはあまり詮索せずに今の美奈をこれからもずっと見守っていくよ」
「み、見守ってって…なんか」
美奈が俺の発言に顔を赤くしていきながら、最後何かを言いかけたところでリビングのドアが勢いよく開いた。
「ちょっと!人の妹何勝手に口説いてるのよおおおおおお!!」
その主は美花で、鬼の形相をしながらこっちに向かって早歩きで向かってきていた。
「え、ちょ…俺は美奈の兄さんとしてこれから見守っていくとだな…!?っていった!!」
俺が美花に弁明の言葉を言っている最中に頭を叩かれた。しかもさっきと同じところだったので少しさっきより痛く感じた。
くっそーなんで今日は二回も美花に叩かれなくてはならないんだ…。しかも両方美花の早とちりによる勘違いだし。なんか今日は災難だな。
「玲!さっきの夕飯時には美奈に変なこと言わせたり、今は口説いていたりさあ…ちょっとひどすぎ!確かに可愛いし自慢の妹だけど…ちょっと節度というものをね、考えて欲しいんだけど?」
「は、はい…。ん?ってことは節度を守ればいいってことか?」
「~~~!!!!そういうことじゃなくて!!」
「あははは!!面白いね二人とも!」
美花が顔を真っ赤にして怒っているので場が険悪ムードになりかけていたのだが、美奈が大笑いしてくれたことによって場が和んでくれた。
「いやあ…二人の会話ほんと面白いね…ふふっ。なんか漫才の一部みたいに見えちゃって…ふっ…ご、ごめ…っ、ごめんな、さい」
「え?」
「ちょっと美奈!それってどういう意味!?」
美奈に漫才みたいと言われ俺はそんな言葉がでてくるとは思ってもいなかったので、どういう意味?っという意味を込めながら返事をした。対して美花もそう言われた意味が分からなかったようで、強い口調のまま美奈に聞き返していた。
ふう…なんとか怒りの矛先が変わってよかった。美奈ナイスだ。
逆に美奈は美花の怒りの矛先がこちらに向いてしまったことに少し驚きつつも、こういう時の対処法を知っているのか表情は落ち着いていた。
「えーお姉ちゃんそのままの意味だよー。普通に二人の会話が面白いなーって」
「どこがよー!これでも私心配して…」
「大丈夫だってー。別に口説かれてないし、夕飯の時にも言ったけどあれ言わされたわけじゃなくて自分から言ったんだってばー」
「本当なの…?」
「ほんとほんと。それにしてもお姉ちゃんって、私のことになると心配症になるんだからー」
「だってー…。んまあ美奈が大丈夫っていうのならまあいいけどっ」
そう美花は言い終えると最後に俺の方を睨んできた。
あれだけ微笑ましい姉妹の会話が繰り広げられていたのに、最後の最後でこっちを睨むことを忘れない美花さん本当にこえー。
「それじゃあ私は先に部屋戻るねー。宿題終わらせないと」
「おう、また明日なー」
「うん。おやすみなさーい」
そう言って俺が美奈に対して軽く手を振ると、美奈は椅子から立って、アイスのごみとスプーンを持って台所にいって処理を済ませてからリビングを出ていった。
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