第21話「夕食と感想」

 三人揃って挨拶した後にまず俺が美花特製のカレーを頬張り始める。その様子を美花は固唾を呑んで見守っていた。それだけに自分の料理の評価が気になったのだろう。

 そして俺はカレーを口の中に入れしっかりと味わってから美花の目を見る。

「うん。すごく美味しいよ!」

 俺がそういうと美花は安堵した後、すごく嬉しかったのか顔がにやけ始めていた。そしてにやけ顔のままこっちを見る。

「ほんと?それならよかった…」

「うん。ほんとお世辞抜きで美味しいよ」

「そ、そう?ありがと」

 そういうと美花は俺から視線を外して顔を伏せてしまった。そしてその様子をにやにやしながらこっちを見ていた美奈と目があってしまった。

「な、なんだよ」

「いやー。べっつにー?なんでもないですよー?」

「なんだその言い方…。なーんか含みある言い方だなあ」

「いやいや本当になんでもないですよ?」

「ふーん。まあいいけど」

 そう言うと美奈は俺から視線を外してカレーを食べ始めた。そして一口頬張ってよく噛みしめて味を確認した後、顔を上げて美花の方を見た。

「お姉ちゃん、このカレーおいしいよ!」

「ま、まあね!自信作だもん!」

「そういえば昔からよくカレー作ってたもんねー。それにしてもさっきも少し思ったんだけどなんか今日のはいつものやつとちょっと味が違うような?」

 美奈は昔作ってくれた美花のカレーではない何かの異変を感じたのか、カレーを見ながら首をかしげて美花に聞いていた。

「うん。実はチョコレートを入れてみたの」

「「チョコレート??」」

「そうチョコレート。なんか調べたらコクが深くなってほんのりとした甘みが加わるって書いてあったからやってみたんだけど……」

 そう言いながら美花はこっちをちらちら見てきた。どうやらそれこみでの評価も欲しいようだった。

 なのでもう一回カレーを頬張ってよく味わってみる。確かにほんのり甘さがあるように感じる。ただ美食家とか舌がいいわけでもないので、そこまでの変化は感じなかった。が、美味しいのには変わりないので素直な感想を言うことにした。

「うん。確かにほんのり甘さがあるように思うよ。普通に美味しいと思う」

「ほんと?それならよかった」

 美花は総合的な評価でも美味しいと言ってもらえたことで完全に安心したのか、やっと自分のカレーを食べ始めた。

「なっるほどねえ…どうりで味が違ったのかー」

「ほうよ。ん…っ。そういえばよく変化に気が付いたね美奈」

 その美花の横でカレーをまじまじと見ながらそう言っていた美奈に対して、美花はカレーを口に含んでいた状態で答え、飲み込んだ後に美奈の方を見て少し驚いたようにそう言った。

「まあねー。昔からよくお姉ちゃんのカレーは食べてたからさ!」

 美花の言葉を受けて美奈はふふんっとどや顔をしながらそう答えた。

 へえ…昔から美花は料理してたのか。どうりで料理が普通に美味しいわけだ。しかもアレンジも加えられるレベルなわけだし。

 そこでふと疑問が起こった。

「そういえば美奈はこのチョコレート入りのカレーを食べるのは初めてだったのか?」

「そうですよ。ていうか食べたことあったならこんなに驚きませんよー」

「まあそりゃそうか。それじゃあ美花はこれ作って誰かに出すのは初めてだったりするのか?」

「いやあ実は最近お父さんに試食がてら食べてもらってねー。その時にかなり評価良くてね。だから今日はこれにしたの。それに美奈には黙ってたけど、まずはお父さんに試食してもらってから美奈に出してたの」

「え、えー!そうだったの!?なんかお父さんだけずるい!!」

「いや、私が言うのもなんだけどやめといた方がいいよ…。たまにお父さん食べてすぐトイレ行ってた時とかあったから…」

 美花はどこか遠くを見ながら軽く棒読みでそう言っていた。

 今更だけど翔さん南無…。っと思いながら俺は心の中で手を合わせてお辞儀をしといた。

「あーそれなら私は遠慮しとくかなーあはは」

「そ、そんなに嫌がらなくても…」

 美奈の顔は引きつっていて本当に嫌そうなのが伝わってきた。それを見た美花は軽くショックを受けたのかしょぼんっとしてしまった。

 だが逆に俺はというと興味をそそられたので今度美花にでも実験台を名乗り出ようかなっと考えていた。

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