第19話「三人での夕飯前(1)」
あの後の帰り道、世間話をしてる途中昨日の夜のことについての話を切り出してみることにした。
「そういえば昨日の夜の話なんだけど…」
「あー、あの話したら家から追い出すから」
俺がまだ言い終える前に美花はこっちを睨みながらそう言ってきた。
ええ…こんな美花さん見たことないんだけど…。昔はこんな表情したことなかった気がするんだけどなあ…。
「そんなになの?」
「そんなに」
「ええ…」
「本当に家追い出すし、口きかなくなるから」
「ま、まじかよ…」
この間美花の声のトーンは低く、心の底からそう思ってるのがわかった。それがわかったからこそ、俺は引いたような反応しかできなかった。
「でも」
そう言うと美花は一瞬俯いてから俺の方をもう一度見つめ直すと。
「いつかちゃんと話す時が来るから。その時まで待ってて」
その言葉を言った美花の表情は真剣そのもので、嘘を言っているとはとても思えなかった。だから俺はこの美花の言葉を信じることにした。
「わかった。じゃあその時を待つよ」
「うん、ありがと」
俺が頷くと美花は微笑むと俺の反対側を向いてしまった。
「けどもしそんな日が来たら……………かもね」
「ん?なんか言ったか?」
「いやー、なんでもないよー」
美花が呟いたところは丁度車が通りがかったのでよく聞こえなかった。なんとなく気にしないといけないことなのかもしれないが、さっきこの件については聞かないと約束したので聞かないことにした。
その後は他愛無い世間話をして家に帰った。
「「ただいまー」」
「あ、二人ともお帰りー」
美奈が階段を下りてきながらやってきた。多分部活から丁度帰ってきたのだろうか
、学校のジャージを着ていた。
「あれ、美奈帰ってたんだ」
そんな美奈に美花が話しかけた。
「うん。丁度今、部活から帰ってきたところー」
「そっか。んじゃ夕飯の支度手伝ってよ」
「えー、今からお風呂入ってこようと思ったのにー」
「うーん…わかった。こっちで用意しとく」
「りょうかーい」
そう言って美奈は階段を登って行ってしまった。多分着替えなどを取りに行ったのだろう。
「それじゃあ美奈の代わりに玲が手伝ってよ」
その言葉を聞いて美花の方を向くと、にこにこしながらこっちを見ていた。その顔を見てすぐにOKを出したくなったが、俺は一つだけ疑問を抱いた。
「うーん。まあいいんだけど」
「うん?どうかしたの?」
「いやあ…せっかく、つくろうとしたものをばらさないように買ってきたのに、俺と一緒に料理しちゃっていいのか?」
「…!もう諦めたわ」
美花は一瞬だけ驚いたような表情をしたが、すぐに落ち着いた表情になって呆れた風にそう言った。
「なんで?」
「だって、荷物持ってたから大体何つくるかぐらい気付いてたでしょ?」
俺が疑問を吹きかけると美花は勘ぐるように俺の目をちらっと見ながら疑問を疑問で返してきた。
確かに荷物を運んだ時にうすうす気が付いてはいたけど…ここはごまかすべきかな。美花が一人でつくった料理も食べてみたいし。
「いや、全てを把握してるわけじゃないし。だいたい俺、あんまり材料見ても料理できるわけじゃないからそこまでわからないし。だから、美花一人でつくった料理が食べたいな」
「うう…。わ、わかったわよっ」
思っていたことを口にすると、美花は俺から顔を背けて俯きながらそう言った。なんとなく耳が赤くなっているように見えるのは気のせいだと思いたい。
美花が了承したところで、俺は適当な理由をつけてその場を去ることにした。
「それじゃ、俺は部屋いって宿題とか終わらせてくるわ。用意できたら呼んでな」
「う、うん」
美花は顔を背けながら頷いた。
「それと、この荷物はどうする?」
そして俺は頷いたのを確認してから下に置きっぱなしになっていたレジ袋を掲げる。美花はその言葉に反応して顔をあげてレジ袋の方を見る。
「ああ、それは冷蔵庫の前にでも置いておいて」
「んー。りょうかーい」
その言葉を聞いてから靴を脱いで、レジ袋を冷蔵庫の前へと運ぶ。
「ん。ありがと」
「いえいえ。それじゃあ楽しみにしてる」
「うん。超楽しみのしといて」
荷物を運んだあと、一旦自分の部屋へと戻っていっていた美花と階段ですれ違い、そんな会話をした。すれ違いざまに見た美花の顔は気合に満ちていて、期待に胸を躍らせた。
さあ、美花はどんな料理を作ってくれるのだろうか…?今からすごく楽しみになってきた!
自分の部屋で料理が出来るのを待って数十分してから、部屋のドアを叩く音が聞こえた。俺は料理ができたのだろうと思いながらドアを開けると、そこにはお風呂あがりの美奈が立っていた。そんなに近づいたわけではないのにいい匂いがした。
「はーい。どうしたの?」
「なんかお姉ちゃんにお風呂どうするのか聞いたら、料理作ってるから先にお風呂どうぞーって伝えといてって」
「あ、なるほどね。わかった先に入らせてもらうよ」
「あ、あの!」
俺が返事をして部屋のドアを閉めようとしたら背中越しに美奈に呼び止められた。
その声に振り返ると、美奈はこっちを見上げていた。
「ん?どうしたの?」
「え、えーっと…。これかられ、玲さんのことどう呼べばいいのかなーって…あはは」
美奈の目を見ながら問いかけると、美奈は視線を逸らして時折こっちをちらっと見ながらそう答えた。
よくよく考えれば二人きりで話すのは初めてだった気がする。大抵話すときは美花がいたし、三人だったからなあ…。それと別に呼び方なんて気にしないし、自由に呼んでもらって構わないし…。
結局俺は呼び方などは特に定めず、自由にしていいという旨を伝えることにした。
「うーん…。別に特にこれっていうのはないから自由でいいよ」
「じゃあお兄さんって呼んでもいいですか!」
美奈は勢いよく顔をあげると元々考えていたかのように即答で答えてきた。
「お、おう…別に構わないよ」
俺はその勢いに圧倒されて、答えに多少詰まってしまった。
「本当ですか!?ありがとうございます!これからよろしくお願いしますねお兄さんっ」
美奈はすごく幸せそうな笑顔を見せてから、部屋の方へと戻っていった。
俺はその笑顔がすごく可愛いな…っと呆けてしまったが、すぐに風呂に入らないといけないことを思い出して、パジャマなどを用意してから洗面台へと向かった。
簡単にシャワーを済ませた後、もう料理が出来てるのか気になったので、リビングによって一声かけてみることにしたのだが、せっかく秘密にしてるものを覗くのは野暮だと思い、とりあえず美奈に確認をとることにした。
階段を登って美奈の部屋のドアをノックする。
「美奈ー。まだ部屋にいるか?」
美奈に呼びかけてみたが中からの反応は一切なかった。寝ているのかなと思いもう一度部屋をノックするが反応はなかった。
その後仕方なく自室に戻ったのだが、よくよく考えれば美花は帰ってきた時に美奈に手伝ってと言っていたので、あの後美奈が手伝いに行った可能性が1番高いんじゃないかという結論に至った。なので、とりあえず今は料理が出来るまではゆっくり自室にいることにした。
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