第16話「夕食前に(2)」

 俺は美奈以外は昔から仲良くはしてもらっていたので、それぞれには改めてよろしくと、美奈にはこれから少しずつ仲良くなって、兄妹になっていけたらっということを伝えた。っといっても全く面識がないわけではないので、すぐに打ち解けることはできると考えている。

 俺が自己紹介を終えてお辞儀すると、他のみんなは拍手をして讃えてくれた。そして顔を上げ、元の椅子へと戻ると美奈が先に椅子を立った。

「美奈の方が先なんだ」

「そうだよー」

 椅子を立った美奈に声をかけると、さっき俺が立っていたところに向かいながら美奈が返事してくれた。

「なんかトリは嫌らしくてね」

「あーなるほど」

 美奈の方を見ていたら、母さんが囁き声でそう言ってきた。まあ、こういう時のトリは気持ち的にも嫌だもんなあ…。ましてや一番年下じゃあな。

 そう思っていると美奈はこっちを振り向きなおして、気を付けの姿勢を取った。どうやら準備はできたみたいだ。

「えーっと、それじゃあまず名前から…かな。鯨井美奈。今年で中学三年生になりました。部活はソフトボール部で、キャプテンをしてます。去年はもう少しで全国にいけそうだったので、今年こそはいけるように日々努力をしています」

「これでも美奈セカンドのレギュラーで、リードオフマンなんだよ」

「へえ…そうなんだ。すごいな」

「いやいや…それほどでも」

 俺が感心して褒めると、美奈は照れくさそうに右手を出して左右に振った。

「えっと…話は変わるのですが、正直まだ二人が再婚したってことを実感できてないところはあります。まだ香織さんが私の…お……おかあ…さ…んになったっていうことも受け入れきれてないです。そ、その嫌悪してるとかじゃなくて!き、気持ち的にまだちょっと…ってのはあります。それに玲さんもまだ兄としては見れてなくて、昔の優しかったお兄さんっていうイメージしかもててないです…。ですが、これから私も少しずつお二人と仲良くなっていければなと思ってます!なのでよろしくお願いします」

 そういって美奈は頭を深々とこちらに向かって下げた。それに対してこちらは拍手をしながら

「いえいえ、こちらこそ」

「よろしくね美奈ちゃん」

 っとそれぞれが返すだけで済ませた。多分想いは俺達の自己紹介で伝えられたと思うから、今改めて言い直す必要まではないかなっと思った。

 美奈は顔を上げると自分の椅子へと戻っていき、美花は椅子を立ってあの場所へと歩いていく。

「お疲れ様」

「うん、ありがと」

 二人はすれ違いざまに一言だけ言葉を交わした。そして美奈が椅子に着いたのを確認してから、美花は自己紹介を始めた。

「鯨井美花です。えっと、玲と同い年で同じ部活に入ってます。というか作りました」

「そうなの!?」

「まあそうだね」

 美奈が驚いた表情をしながらこっちを見て言ってきたので、美花の方をちらっと見ながら答えた。

 母さんには前に話してあったし、翔さんもうなづいてるあたり美花が話してあったんだろう。

「えー…知らなかった…」

「まあ、その話は追々するとして」

 そう言うと美花は母さんの方を向いた。

「正直、申し訳ないですけど私はお母さんとは認めないです。あくまで他所からきた人、っという感覚です。でもそれでも香織さんには昔からよくしてもらったし、良い人だとは思ってますし、仲良くはなれると思ってます。でも今はまだ…無理です。なので、これから少しずつ慣れて、大丈夫だなって思った時には、お母さんっと呼ばせてください」

 そういうと美花は母さんに向かって頭を下げた。対する母さんは困惑しているのかうまく声が出せなかった。そして数秒間沈黙が続いた後、美花が顔を上げようとした時だった。

「うん…。私も頑張るから。そちらの事情もわかってる…。だから少しずつ…ね、少しずつでいいから…仲良くなっていきましょ?」

 母さんが精いっぱいの笑顔を美花に向けた。でもその顔は無理をしてるようにしか見えなかった。多分内心戸惑っていて気持ちの整理がついてないんだろうなと思う。

「はい。別に仲良くしたくないとかじゃないので…。むしろ仲良くしていきたいなとは思うんです。なので改めてよろしくお願いします」

 美花はそう言うとまた頭を下げ、顔を上げると自分の椅子へと戻っていった。

「母さん大丈夫?」

「ええ、私は大丈夫よ。わかってたことだから…」

 念のため声をかけておいたが、こりゃ相当心にきてるみたいだなあ…。多分翔さんから過去のことについて色々言われてたんだろうけど、実際に直接言われて結構きてるみたいだな。

 翔さんはというと、俺が母さんに声をかけたから、声をかけるタイミングを失ってるようだった。というか割って入らないように気を使ってくれたみたいだった。それを見て、母さんのことは後で翔さんに任せようと思えた。

「それじゃあ、みんなの自己紹介が終わったところで飯にしようか」

「そうだよー。私お腹ぺこぺこー。っていうかこれご飯の後でよかったんじゃないの?」

 美奈は文句をいいながらお茶のペットボトルを持って自分のコップに注いでいた。

「あー、まあそれでもよかったんだけど、なんか雰囲気的にそうなっちゃって…」

「そういう雰囲気作ったのお父さんじゃん!」

「まあそうなんだけどさ…はは」

「もー!いつもそうやってお父さんは自分のペースにもってくんだからあ!」

「ごめんって」

 そんな親子の何気ない会話を母さんは羨ましそうに見ていた。…おかしい、母さんってこんな感じだったっけ?いつも本当はこんな感じじゃなくて、みんなを見守るようなそんな視線を向けてたはずなのに…。もしかして深雪のことでも思い出してたんかな…。なんかそんな気がした。

 それぞれがみんなコップに飲み物を注ぎ終わったところで、翔さんがコップを手に取って高々と掲げ上げる。

「それじゃあ、かんぱーい!」

「「「「かんぱーい!」」」」」

 それぞれがそれぞれのコップを叩き合い、良い音が部屋に鳴り響いた。

 その後は、美奈と美花のちっちゃな喧嘩や、対面同士でお酒を注ぎあいながら色んな話をしている翔さんと母さんを見たり、姉妹の喧嘩の飛び火を受けたりしていた。にしても、翔さん飲むペースすごい早いけど、この人お酒強いのか…。

 それぞれが飲み食いをし、お腹が満たされてきた頃には美奈から「部活のことについて知りたい!」っと言われてしまったので、二人してなんで作ろうと思ったのかというところから、ついこの間あった出来事までを色々と話していた。その間に翔さんは風呂に行き、母さんは食器などを片付け始め洗い物を終わらせてしまった。そして話が終わりかけの頃には、母さんも風呂から上がってしまい部屋へと戻っていった。

 そして話が一通り区切りがついた頃には22時を回っていた。

「おっともうこんな時間なのか」

「そうみたいだね。誰からお風呂入る?」

「あー、二人先に入っていいよ、俺は後からでも大丈夫だし」

「そう?じゃあお言葉に甘えて。美奈先と後どっちがいい?」

「じゃあ先で」

「わかった。それじゃあ私は部屋に戻って荷物の片づけしないとだから、お風呂あがったら呼んでね」

「りょーかーい」

 そう言って美奈は椅子から立ってリビングから出ていった。それを見てから俺も椅子を立って、コップをシンクに持って行ったり飲み物を冷蔵庫に片し始めた。

「それじゃあ私、先に部屋戻ってるから。また後で」

「おーう」

 美花は片付け終わると、冷蔵庫に飲み物を戻していた俺に一声かけてからリビングを出ていった。

「さてっと」

 俺は冷蔵庫を閉めると、一つ気合を入れ直した。先ほど夕飯を食べる前に見ていたアルバムの子について母さんに聞きにいくためだ。

 もしこれが重要な人で忘れてはいけなかった人だったとしたら…っと思うと少しだけ怖くなる。でもある程度の覚悟はできた。母さんが全てを知っているとは思えないけど、でも俺は言われた言葉を信じようと思う。もしかしたらそれで美奈の時みたいんい思い出せたら万々歳だし。

 俺はそう考えながら部屋に戻って、あの子が写っていたアルバムを持ち母さんの部屋へと向かった。

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