第15話「夕飯前に(1)」

 美花に呼ばれリビングに行くと、俺の母さん以外は座っていて、母さんは丁度飲み物を手に持ってテーブルの方へと歩いてきていた。そしてそのテーブルにはどこかで買ってきたのであろう高そうな寿司が並んでいた。俺はそれをチラ見しながら残っている席へと向かって歩いていく。

「あ、玲はそこの席ね」

 母さんが飲み物を持っていないほうの手で空いている席を指差した。

「んー。それにしてもすごいねこれ」

「まあねえ。今日がみんなと顔を合わせる最初の日だし奮発しちゃった。それに…」

「俺の知り合いに寿司屋をやっている奴がいてなあ…そいつに頼んどいたのさ」

「あ、そうなんだ…」

 そう言いながら席に座ると、逆に翔さんが席を立って俺の母さんの隣に立つ。そして母さんは持っていた飲み物をテーブルの上に置いて翔さんと二人顔を見合してから、こっちを見る。

 その顔はどこか緊張感に溢れていて、肩に力が入っていた。

「えーっと…この度はご縁あって…」

「お父さんそんな型苦しくなくていいって」

「お、そうか…。それじゃあ」

 間に割って入った美花の言葉のおかげで緊張が解けたのか、肩の力が抜けたように見えた。

「俺はつい先日、香織さんと結婚しました。これからみんなには迷惑ばかり掛けるかもしれないけど、俺なりにみんなをしっかりサポートするつもりだから、何か困ったことがあったらいつでも相談にのるからどんどん相談して欲しい。そして今はまだ難しいだろうけど、少しづつ『家族』になっていけたらなと思ってるので、よろしく」

 翔さんの言葉に俺達子供三人は拍手をした。すると、翔さんは左手を頭の後ろに持っていって照れくさそうに笑い、母さんはそんな翔さんをくすくすっと笑いながら見守っていた。

 俺はそんな二人を見て幸せそうだなっと思いつつ、父さんのことを思い出して、少し泣きそうになってしまった。それと同時にあの出来事から五年経ったのだということを改めて思い知らされた気がした。

 そんなことを思っていると、今度は母さんが真剣な顔をしてこっちの方を見る。

「それじゃあ次は私ね。さっき翔さんが言ってくれたように私達はこのたび結婚しました。私もみんなに色々と迷惑かけると思うけれども、その時はみんなと相談しながらみんなで乗り越えていければなと思います。美花ちゃんと美奈ちゃんは昔あったことあるからこれから私が二人のお母さんになるのは違和感があるかもしれないけど、少しづつ慣れていって、いずれは『お母さん』って呼んでくれるようになってくれれば嬉しいです。それに私も少しづつみんなが『家族』になっていけるような努力はしたいと思ってるので、よろしくお願いします」

 そう言って母さんは頭を下げ、その言葉を聞いた俺達は拍手をした。まだ緊張が取り切れてなかったのか、少し声を震わせていたが、姉妹の二人にはしっかりと伝わったと思う。多分それが伝わったことによる拍手なんだと俺は解釈した。

 拍手がやみ母さんが顔を上げると、翔さんが優しく母さんの肩に手をおいた。それに気が付いた母さんは翔さんの方を振り向くとニコッと笑い、翔さんはそれに微笑み返す。さっきも感じたことだったが、この光景を見て二人は夫婦になったんだな、と思えた。

 「それじゃあ、今度は子供たちの番だな」

 翔さんはこっちを向きながらそう言ってきた。まあ、流れ的にはそうなることが読めてはいたのだが…。っと思いながら美花の方を見ると目があった。

「玲、先にどうぞ」

 そう言って、親たちのいたほうに手を差し出してそう言ってきた。もちろん先頭は嫌なので反論する。

「いやいや、ここは公平にじゃんけんでしょ」

「そうだよーお姉ちゃん。さすがにこういう時はじゃんけんで決めなきゃ」

 俺の提案に美奈も乗ってくれた。今回はこっちの味方になってくれるらしい。

「あーわかったわかった。それじゃあじゃんけんにしましょ」

 二対一になった美花は観念したようで、右手を出してきた。それにつられて俺と美奈も右手を出す。

「それじゃあ。じゃーんけーん、ぽい」

 美花の掛け声で始まったじゃんけんの結果は、姉妹二人ともグーで、俺だけがチョキという結果となった。

「やったー!」

「いえーい!!」

「な…なんでこうなった…」

 この結果に対して俺はがっくりと肩を落とし、二人は両手を挙げてばんざーいをした後、ハイタッチをしていた。

 こういうのは大抵言い出しっぺが負けるとよく言われるものだが、まさか本当にそうなるとはなあ…。

「まあでもしょーがない、負けたものは負けたものだし」

 そう言って俺は席を立って親達がいたところへと向かっていく。それと交代するように二人の親がそれぞれの席へと戻っていった。

 そして二人が席についたのを見てから、俺は自分の自己紹介を始めたのだった。

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