第12話「引っ越し。そして……」
ここが新しい家か…。見た感じ二階建てだな。まぁ、案外広そうでよかったや。
「おはよー玲」
「おはよーって、え!?」
「え?どうしたの?」
「み、美花、妹いたの!?」
「え?覚えてないの?」
「え…思い出せん」
美花の後ろには俺の記憶にはない少女が立っていた。
確か美花に妹なんかいなかった…はず。もしかして俺が忘れているだけなんかな。
そう思っていると、美花が後ろに立っていた少女を俺の前に立たせる。
「それじゃあ紹介するわ「別に自分で言うって!」…そう。」
「えーっと、名前は鯨井美奈です。中学2年で、お姉ちゃんが通ってた中学校に通ってまーす。よろしくおねがいしまーす。…本当におぼえてないんですか?」
その少女はそう言って、俺の顔を覗き込むようにしてみてきた。
俺はそう言われてもその少女が誰なのかわからず、彼女の問いに頷くしかなかった。
「うん。ごめん、思い出せないや。なんかきっかけがあれば思い出せると思うんだけど…」
「きっかけ、きっかけですか…」
妹さんは俯いて黙り込んでしまった。
そして数秒間の沈黙の後、こう言ってきた。
「ないです」
「はぁ!?」
てっきり何かあるものだと思っていた俺は、少し威圧的に聞き返してしまった。
「いや、だって本当にないんですもん。仕方ないですよね!そもそも忘れたほうがわるいんですしっ」
ふんっ。っと言ってそっぽを向いてしまった。
妹さんが言っていたことは一理あるがなんかカチンっとくる言い方だな。
「私は……てたのに…」
「ん?なんか言ったか?」
「あ、いやなんでもないですよっ!」
つぶやいたように言っていたため、途切れ途切れにしか聞こえず何を言ってたのか俺にはわからなかった。
「玲、何ー?会ってそうそう何かあったの?」
俺の母さんと、美花の家の父さんが新築の家の方から、俺たちの方に寄ってきた。
「え、あ、いや!別に大丈夫だから!心配しないでいいよ!」
「そ、そう…。いきなり喧嘩なんかしないでね」
「へいへーい」
心配そうな母さんだったが、美花のお父さんに肩を叩かれて少し話し込んだ後、新築の家の方へと歩いていった。そして、二人は家の方に入っていった。
「そういえば玲さ、小学校六年の夏休みの時私の家に遊びに来たときさ。もう一人女の子がいたの覚えてる?」
視線を美花へと戻す。俺はそのとき美花の他にもう一人女の子がいたことを思い出していた。
「ああ、あの親がいなくて遊んでた日だろ?」
「そうそう。あの時いたもう一人の女の子が、この美奈なの」
美花がそう言って妹さんの肩に手を置く。
そういわれましても、そこまで思い出せるわけがない…。だってあの時は俺、昼寝しちゃってたし。しかも次に起きた時には俺と美花しか部屋にいなかったしな。
「ごめん。思い出せないや」
「それもそっか。あの時玲寝ちゃってて、寝てる間に美奈はお父さんが帰ってきて、その後すぐに習い事にいっちゃったしね…。んー…仕方ない。こんなこともあろうかと奥の手を持ってきといたわ」
「奥の手って何よお姉ちゃん!」
妹さんは声を荒げて美花に突っかかっていた。
奥の手か…。す、すごく気になる。
「大丈夫よ美奈。三人で撮った写真よ。ほらっ」
後ろを振り向いて、俺に見えないようにして美奈にその写真とやらを妹さんに見せた。
「えっ…お姉ちゃんこれは…」
「大丈夫よ。安心しなさいって」
「う、うん…」
妹さんは観念したのか、軽くうなずいて俺に見せる許可をしたようだった。
え、大丈夫なんだよな!?俺が見ても大丈夫なやつなんだよな!?
「ほら玲、この写真よ」
美花は振り向きなおして俺にその写真を見せてきた。そこに写っていたのは…。
森の中にあるどっかの川で、川遊びし終わった後に撮った写真のようだった。
そして、真ん中で隣を見ながら照れてる俺。その視線の先に、抱きついている一人の少女。その後ろにやれやれっとやっている少し茶髪が入った少女。が、写真の中に収められていた。まさか…。
「この、抱きついてるのが美奈か…?」
「そうよ。思い出した?」
そう美花に言われた俺はとあることを思い出していた。
あの時は確か、小学校最後の夏休みだからって俺たちの親たちがお互いの家族を連れて、軽井沢旅行に行こうと言ったのだ。そこまではよかったのだが、いざ当日となった時美花の父さんが風邪で倒れこんでしまった。けど、「せっかく楽しみにしてたんだから、いってきなさい」って美花の父さんが言ったため、美花と美奈も来ることになって…。
「あ、思い出した!」
「っちょ、いきなり大きな声出してどうしたのよ…」
「美奈を思い出したんだ!この抱きついてきてるほうだろ!?」
「まぁ、その通りだけど…ってさっきそう言ったじゃない…。それより、美奈が顔真っ赤になっちゃったわよ…」
そう言われて美奈の方を見ると俯いてしまっていた。
あ、やっちゃった。思い出した嬉しさでつい…。けどあの時のことは他にはうまく思い出せないな…うーん…。
「他はなんか思い出せないの?」
「う、うん。なんでかわかんないけど」
「まぁ、美奈のことを思い出してくれただけでもよしとしますか」
「そうだな。美奈」
「なん…ですか?」
「可愛くなったな」
俺の正直な感想だった。だってこの写真と比べると全然可愛さが違う。
髪は茶色で肩ぐらいまで伸びていて、体型は小柄だけどそれでも他のそこら辺にいる女の子よりはかわいく見える。
「あ、ありがとうございます…」
美奈はそう言って俯いてしまった。
「やるじゃん。もしかして私の妹狙ってるの?」
美花が肘で俺の横っ腹をにやにやしながらつついてそう言ってきた。
「ばっ…。普通に思ったこといっただけだって」
美奈には聞こえないぐらいの声で美花に抵抗する。
「ふーん」
そんな俺を美花はジト目をして見つめた後
「ま、玲に限ってそんなことないと思うけどねー。それじゃあ美奈、家に入ろっか」
っと言い家に向かって歩き出した。
「う、うん」
そしてその美花の後を美奈が追っていく。
一人取り残された俺は、その二人が家に入っていったのを確認してから、家の中へと入こうとすると玄関で美花の家族三人がしゃべっていた。
「おー玲君久しぶり。元気にしてたかい?」
俺にいち早く気づいた美花のお父さんである翔さんが俺に向かって手をあげながらそう言ってきた。
「お久しぶりです翔さん。はい、なんとか大きな病気もなくここまで生きてこれました」
「そうかそうか。って、そんなに固くしなくていいってば、前みたいに友達感覚で話しかけてきていいんだよ」
「いえいえ、お義父さんになる人なんですからこれぐらいは…」
「ストップ」
翔さんは右手の手のひらをこっちに突き出すように見せて俺の発言を遮らせる。
「私がいいって言ってるんだ。気にしなくていいんだよ」
「あ、はい。そうですね。次からはそうします」
翔さんはうなずくと俺たちを見渡した後
「荷物は昼に届くはずだからみんな家の中を確認してなさい」
っと言った後、家の中へと戻っていった。
「それじゃほら、玲と美奈。二人とも行くわよ」
「ああ、行くか」
「ちょっと待ってよ二人とも!」
美花、俺、美奈の順番で靴を脱いで、家の中へと入っていった。
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