第11話「引っ越し前日」
夢…ねぇ…。そんなん考えたことないなぁー…。なんでこんなことを思っているのかというと、いきなり美花が
「今日は夢について語り合おう!」
とかいうのでただいま俺は、夢について考えている最中である。
そんな中美花が席を立ちながら冬香ちゃんの方を指差す。
「それじゃ…、まずは冬香ちゃんから!」
「ふぇぇぇ!?わ、私はそんなすぐに考えきれませんよ~!」
「うるさい!そんなごちゃごちゃ言わずに早く言った言った!!」
「む、むりですよ~!少し時間をください~!」
「むぅ…。仕方ないわね。少しだけ時間をあげるわ。んじゃ玲!冬香ちゃんの為にも時間を稼いであげなさい!」
「え!?いきなりすぎるって!」
「ほーらー、早くしないと冬香ちゃんが泣いちゃうよ?」
「なぜそうなる!?」
「だって、そうでしょ冬香ちゃん?」
「はい、そのとおりです!私泣いちゃいます!」
「え!?何いきなり強気になっちゃってるの!?」
「え?そんなことないですよ~」
さっきは俺の目を真っすぐに見て言ってきた冬香ちゃんだったのに、視線を逸らした。
「いや!さっき明らかに強気になってたはずだ!おかしいぞ!」
「もう玲くんたら~。気にしないでよ~。ね?」
「はい、気にしなかったことにします」
冬香ちゃんは小首を傾げてそういってきた。いや、それは反則だから。世の男性諸君はそれでイチコロだから。
にしても、夢なんかないのに俺語らなくちゃいけないのかよ…。なんでよりによって俺なんだ?他の二人でも…。あ!そうだ!
「ごめん急にトイレ行きたくなったから、二人のどっちかに俺の代わりやってもらってほしいんだけど…」
「「「だめ!」」」
「え!?三人して否定っすか!?」
「そうやって逃げるんじゃないわよ玲」
「そうだそうだ!部長さんの言うとおりだ!」
「人に任すだなんて最低ね」
美花、琴美、香奈枝は三者三様言い方は違えど、俺を罵倒してきた。
「いや、ガチでトイレいきたいんすけど…」
「わかった。じゃあ行ってきなさい」
「おぉ!んじゃその間二人のどっちかに…」
「いや。玲がトイレから帰ってきたら再開するわ。それまで休憩してるから、早く戻ってきなさいよ。じゃないと、やることいっぱいあるのに予定が狂うじゃない」
「…わかったよ。早めに帰ってくるさ」
「よろしい。じゃあ早く行ってきなさい」
「へいへーい」
はぁー…。この数十分で考えないといけないのか…かなりきついな。だけど冬香ちゃんのためだし、頑張って考えないと…。まぁでたらめ言えば大丈夫だな!
俺はトイレからの帰り、とある重要なことを思いだしていた。ついさっきまですっかり忘れていたのだが、今から帰らないと今日中には間に合わないだろう。ただ、あの流れをどう断ち切って家に帰るかだな…。どうするか…。
そう考えてるうちに部室のドアの前についてしまった。
「まあ、どうにかなるか」
そう呟いてからドアを開く。
「お、玲おかえり~」
ドアを開くと琴美が声をかけてくれる。その琴美に軽く手をあげてから、俺は帰宅するということをみんなに伝えることにした。
「あー、そういえば俺今日用事あったから先に帰るわ」
「なっ…。に、逃げる気なの!?」
「違う、ちょっと家庭の事情でな」
「そ、そんなこと言っても無駄よ!ばればれだわ!」
「いや、本当に用事があるんだって」
「…じゃあ今日は帰っていいわ。また来週にしましょう」
美花は何かを察したかのように俺が帰宅することを認めてくれた。
「え!?部長!?」
「仕方ないわ、今日はこれで解散にしましょう」
「なんで?俺が帰るからって別に今日は解散にしなくても…」
「いや、今日は解散にしましょう」
「そうね。美花が解散と言っているのだからみんな帰りましょう」
「そうですね~帰りましょうか~」
「んじゃ、今日はこれにて解散!」
結局美花の独断で今日は解散することとなった。他の三人が荷物の整理を済ませ、俺達に挨拶をしてから帰っていった。そういえば、この用事の件は美花も関りがあるんだけど、美花忘れてるんかな?それとも美花の家は今日じゃないんかな?帰りに聞いてみるか。
「みんな帰ったわね」
「そうだな、行くか」
「ええ、それじゃあいつも通り校門で」
「わかった」
俺達は部室を出て、鍵を閉める。そして美花は職員室へ鍵を返しに、俺は美花を待つために靴置き場の方へと向かった。
俺は校門で美花のことを待ちながら、これからのことについて考えていた。
確か…、引っ越しって明日だったよな?だから来週の月曜には一緒に学校から登校することになるのか…。他の生徒に変な勘違いしてほしくないな。それに、一緒に暮らしていることもばれたら大変だな。その時どうやってかわすかはあとで考えればいいんかな。美花の意見もちゃんと聞いてな。
「玲、行くわよ」
「お、おう」
考え込んでいたため返事がぎこちなくなってしまった。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもないさ、行こう」
そして俺達は帰り道を歩き始める。
歩き始めて少し学校生活などの雑談をしていたのだが、それが終わり区切りがいいところで引っ越しの件について尋ねることにした。
「美花、引越しの件知ってるよな?」
「えぇ、知ってるわよ」
「今日荷造りとかじゃないのか?」
「あ!そうだったわ!」
「…おい。だめだろそれ…」
「まあいいじゃん。それにしてもよく覚えてたね」
「まあ、俺もさっきトイレ行ったときにたまたま思い出しただけだし」
「なーんだ、そういえばもうすぐだね」
「何が?」
「話の流れ的にわかりなさいよ!」
ああ、顔真っ赤にして…。そんなに言うのが恥ずかしいんかな?
「ごめんって。もう明日か…」
「わかってるんなら聞くなし!」
「まあまあ。だけど引越しする必要あったんかな?」
「うーん。なんかぴったしな物件でもあったんじゃないかな?」
「あー。そうなんかもな。そういえば明日、もう一緒に暮らすんだぜ?」
「そうだね。なんか一緒に住むって感覚がないや」
「うん。俺も全くないや」
「これから兄妹なんだよね?」
「そうだな。まあ、義理…だけどな」
「それは、仕方ないことだよ」
「まあね」
引っ越しの件についての話に花を咲かせていると、もう分かれ道の場所へとついてしまった。
「んじゃまた明日の午前かな。新しい家で」
「うん、また明日」
お互い手を振りながら帰路へと着く。
いつも通りの、そしてこれが最後の帰り道での『またな』となった。
次の日の朝方、引っ越し先が近くではあるのだが、量があるため業者の力を借りるらしい。なので朝から我が家は大忙しである。
もうこの家も今日で最後か…なんか少し寂しい気持ちになる。まあ、ずっと生まれたときからここに住んでたからな。
てゆうか俺生まれてから初めての引越しになるんか…、新鮮だな。
「母さーん!」
「どうしたの?」
「荷物、もう玄関に置いといたほうがいい?」
「うん。だけどちゃんと別々にまとめておいといてねー」
「わかったー」
さて、いよいよか。そういえばこの部屋、この間琴美がきたんだよな。あの時はかなり緊張してたのを今でも覚えてるなー。まあ、結構最近だったからってこともあったけどね。
この部屋に入れたのは琴美と、美花だけだったな。美花はよく昔から家にいれてた記憶しかないな。まあ学校で会ってるからいいんかもしれないけど。
そういえば荷物整理してたらずーっと昔に好きだった、多分初恋だった女の子が引っ越してしまう時に、別れ際に渡されたものが大切なもの入れの中から出てきた。その時、その子は今どこで何をしているのだろうか…っとふと思ってしまったけれど、どうせもう会うことはないだろうと思いながら、その渡されたものを元の場所に戻した。
それが昨日の出来事である。ただ今になって思う。もし仮にその女の子が俺の前に現れたとしたら?俺は…
「玲ー!早く荷物持ってきなさーい!」
感傷に浸っていると、玄関の方から母さんの声が聞こえてきて思考を遮られる。
「今行くー!」
俺は返事をして最後の荷物を玄関へと運ぼうとする。さっきのことは忘れよう。可能性としてほとんどないことだし。それにしてももうこの部屋を見るのは最後か…。なんとなく別れは告げた方がいいのかなと思い、最後につぶやくように別れの言葉を告げて俺はこの部屋を立ち去った。
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