第9話 「翌日」
次の日の休み時間、俺は昨日のことを思い出しながら窓の外に広がる青空をぼーっと眺めていた。
あーそれにしても昨日は楽しかったなぁ…。あんな長い時間女の子といられるなんて、そうそうないよなー。
「玲どうしたの?ぼーとして…」
突然後ろの席に座っている香奈枝から声をかけられたので、俺は視線を窓の外から後ろに振り返って香奈枝に移した。
ちなみに香奈枝は二日間学校を休んでいたのだが、今日から復帰のご様子です。
「あ、いや。なんでもないよー」
「ふぅーん…。なんかありそうだから部活で聞かせて」
「無理だ!」
「なんで?」
「人には知られたくない事実とかあるだろ?」
「えー…。おし…あっ、そうだね知られたくない事実はあるわね」
「だろ?」
「うん。じゃあ仕方ない」
「はい、この件おしまい!」
香奈枝が納得をしてくれたみたいでそれ以上このことについては追及してくることはなく、会話が終わってしまった。
でもここで会話を終わらせたくなかった俺は、心配していたということもあって、体調について聞いてみることにした。
「あ、そういえば風邪で休んでたんだっけ?」
「まぁ、そうだけど?」
「もう大丈夫なんだよね?」
「うーんまだちょっと風邪気味だけど…」
「え!?うつすなよー…絶対にうつすなよー…」
「それは保障できない」
「ですよねー…」
会話が途切れた瞬間次の授業開始のチャイムが鳴る。まだ先生はきていないが変に今から新しい話題を出す必要はないだろう。ここは話を終わらせて前を向くことにする。
にしても、超珍しい香奈枝との会話だったのに。なんかもったいないような気がする。
「それじゃ、もう次の授業の時間だから」
「うん」
香奈枝との会話を終わらせて前を向く。ちなみについこの間席替えがあって、俺の前の席が亮介となり、後ろの席が香奈枝になった。俺と香奈枝の席は変わらずでそこに亮介が前の席に来た感じだ。運がいいというかなんというか。まあ、俺にとっては気楽に過ごせるからうれしいことだ。
放課後。授業が終わり鞄に教科書やらノートやらを詰めてから教室を出ると、後ろから声がかかる。
「玲ー!」
「おっ琴美!今から向かうのか?」
「ううん。ちょっち用事があるから後で行く」
「そうか。んじゃがんばってな!」
「うん!」
そういって琴美は俺を追い抜かして曲がり角を曲がっていった。あーあ…部室までの会話相手になると思ったのになー。まあ、仕方ないか。
そしてこれは昨日の話の後日談なのだが。
結局、琴美と別れた後、俺はくたくたになり風呂に入りくつろいでいた。その時にどうやら母さんが帰ってきたらしく、なんかどたばたしている音が聞こえてきて、何事だ?と思いすぐに風呂から出て、体を拭いてからパジャマに着替えてリビングに向かった。
すると母さんがすごくご満悦な顔をしていたから、どうしたん?って聞くと『実はね!タオル拾ったんだぁ!!』と、幸せそうな顔を向けながら俺に言ってきた。最初聞いたときは、え…タオルごときでどうした!?っと驚いたんだが、母さんから詳しく聞くと『あのね、歌をうたってる最中に使っていたタオルを観客に投げてきたのよねー!そしてその中の一人のタオルをキャッチしちゃってね!しかもその子、そのグループの中で私が一番好きな子のなのよねー!だからすごく嬉しかったのよー!』ということらしく、俺はその時母さんがなぜ帰ってきてどたばたしていた意味がわかったのだが…。やっぱりいきなり暴れられると驚くよ…。
てなわけで、昨日は琴美とも色々あったが、その後も色々とテンションの問題などで精神がちょっと、いや結構疲れたわけで…。昨日はすぐに眠れたな。
っと昨日のこと思い出してたら着いたか。にしてもやっぱ遠いなぁ…。毎日通うとなると、体力上がりそうだ。
ドアの前で少し立ち止まってから、部室のドアを開ける。
「こんにちはー」
「あ、玲。ちょっと遅いわよ!」
俺の挨拶に美花が返事をしてくれたのだが、いきなり軽く怒られてしまった。
「ご、ごめん。ちょっとね」
「私と同じクラスなのに?」
遅れた理由をはぐらかしていると、すでに椅子に座って本を読んでいた香奈枝が、顔をあげてこっちを見ながら突っかかってきた。
「うっ、香奈枝。早いな」
「あなたが遅いんじゃない。私はいつも通りきたわよ」
「玲ー。あなた何してたの?」
「いや、ちょっとぼーっとしてただけさ」
「またぼーっとしてたの?」
「しょうがないだろ。人間にはそうしたい時ってあるんだからさ」
「まあ、確かにそうだけども」
俺の発言に香奈枝は納得してくれたみたいなのだが、美花は納得いってないのか突っかかってきた。
「玲が考え事とは珍しいものね!」
「いや、考え事じゃないぞ!?」
「じゃあ、なんなのよ!」
「…気にしないでくれよ」
「いいや!気にするね!」
「そういわれても俺は何も言わないぞ」
「教えなさいよー!」
「やだね!絶対に言わない!」
「教えろー!!」
「美花。もういいんじゃないかしら?」
全く引く様子のない美花に香奈枝が止めに入ってくれた。
「え?どうして?香奈枝ちゃんも知りたいでしょ?」
「そりゃあ…まあそうだけれども。だけど本人が教えないって言うのなら別に追求しなくたっていいんじゃない?どうせ教えるつもりないんでしょう?」
「まあ、そうだな」
香奈枝は休み時間の時のことを再確認するようにこっちに問いかけてきた。俺はその言葉に同意する。
だって昨日琴美と夜まで二人で一緒にいただなんて言えるわけがないじゃないか!もしばれたら…ばれたら…。想像するだけでも寒気がする。
香奈枝の言葉に同意した俺の言葉を聞いてかわからないが、美花は肩をすくめる。
「はあ…。仕方ない香奈枝ちゃんが言うなら諦めましょうか」
「おお!香奈枝助かったよ!」
「これで貸し1だからね」
香奈枝が右手の人差し指だけを上げてこっちに言ってきた。
「さっ、今日はこの間の掃除の続きをするわよ!」
そして俺がその理由を聞こうとした瞬間に美花が遮って次の話を切り出してしまった。
「え?掃除?」
「あ、香奈枝ちゃんは休みだったわね。前に香奈枝ちゃんが休んでた時に、私と玲と琴美ちゃんとこの部室の掃除をしたのよね。それでその日に片付けきれなかったところがあるから、今日この後三人で残りをやりましょうってことよ!」
「あーなるほど。わかりました」
「ちょっと待て。三人ってことは他の二人は?」
琴美のことはなんでいないか知ってはいるが、ここは知らないフリをしておくのがベストだろうと思った。だって、言って怪しまれてまた美花に変な追及はされたくない。
「あー、まず冬香ちゃんは今日も休みで、琴美ちゃんはなんか用事があるみたいで遅れてくるって言ってたわ。…きてくれるのかしら」
「まあ、琴美がこなくとも俺達でできるところまでやろうよ」
「そうね。じゃあ始めましょっか!」
ということで部室掃除パート2が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます