第7話 「ラッキー?」

 放課後ってつまらないよなー。みんな部活に行っちゃうし、部活ないやつはそそくさ帰っちゃうし。クラスにはほとんど俺しか残らないんだよなぁ。

 さーってと、そろそろ俺も部室へと向かいますか!

 思えば俺、琴美と約束事したんだっけな。美花に言わないとだなぁ。

「あ、玲!」

 おっと、噂をすれば美花じゃないか。本当に噂をすればその噂にしてた人が現れるんだな。っと心の中で関心しつつ美花に返事をする。

「よっ、美花じゃないか」

「何?今から部室向かおうとしてたの?」

「おう。そのつもりだけど、美花もそうじゃないのか?」

「え?そうだけど?」

「なんやねん!!」

「え!?ど、どうしたの!?」

「だって、…いやなんでもないさ」

「え!?超気になるんですけど!」

「いや本当に気にするなって」

「ちぇ…仕方ないなー。あ、そういえば今日は先に帰ってていいよ!」

「え!?なんで!?」

 美花から先に帰っていいよって言われるのはこっちにとってはありがたいのだが…。なんか、怪しいぞ?いつもならこんなことはないのに、今日に限ってこうなるだなんて、絶対に裏があるに違いないはずだ!

「え?いや、ただちょっと作業があってね」

「だったら今やってくればいいじゃん!」

「いやいやいや。私が部室に顔出さないといけないじゃない?」

「なんで?」

「そりゃ、部長だから?」

 何気に自慢されたー。

「だったら部室に持ってくればいいじゃん」

「いや、外での作業だからそれは無理だよ!」

 なんかこれ以上反発しても無駄な気がしてきたな。諦めるか。どうせ俺が一緒に帰るのもばれない訳だしな。

「わかったよ。じゃあ今日は先に帰ってるよ。」

「ごめんね。多分その作業が今日終われば明日は一緒に帰れるからさ。」

「そっか、わかったよ」

「うん。ほら、ついたわよ!」

 そんなことを話しているといつの間にか部室についていた。

 ドアを開けると、すでに琴美が席について待っていた。

「おぉ部長!待ちくたびれたぜーって玲も一緒か」

「なんだそのがっかりした顔は!俺が邪魔か!?」

「いやーそういうわけじゃないけどっさっ…」

 琴美は口を手で押さえて笑いをこらえていた。

「じゃあなんで笑いをこらえてるんだ?」

「い、いやそ…そういう…わけじゃ…ないんだけど…ぷっ」

 ついに笑い声が口から漏れていた。

「笑ってんじゃねえか!」

「いや気のせいだと思うよ…ぷぷっ」

「笑ってんじゃねぇか!気のせいじゃねぇよ!!」

「まあまあ、そう怒らない、怒らないっ。あははっ」

 ついには、口から手を離して笑い始めやがった。

「まだ笑うか!?」

 なぜ琴美は笑っていたのだ?帰りに聞いてみるとするか。

「はーい。二人ともちゅうもーく!」

「ちょっといいか?」

「何よ玲!」

「いや、他の二人はどうしたのかと…」

「えーとね、わかんないけど休みだってー」

「あ、そうなんだ」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」

 その確認がとれたところで琴美の正面の席に座る。そして俺が座ったところで美花が話を切り出す。

「んじゃ改めて。今日の部活は…」

 まあどうせ昨日の続きとかで、掃除の続きとかなんだろうな。結局途中までだったからまだ微妙に散らかってるし。

「解散!」

「「はいぃ!!!????」」

 突如美花の口から出た解散の言葉に俺と琴美は驚き、机を叩いて美花の方を見る。

「ふ、二人してどうしたの!?」

「いや私は部長が来ていきなり解散!って言ったのに驚いただけだ!!」

「俺も琴美と同じ意見だ!」

 俺と琴美は美花のほうを見続けながらそう答えた。なんでいきなり解散なんだか、わけがわからない。

「そうだったの!?」

「「うん!!」」

「そっか…。ごめんね、私これから作業しにいかないとなの。だから先にいくね!じゃあね!」

 そう言ってドアの近くにいた美花は、ドアを強めに閉めて行ってしまう。俺と琴美は机に手を置いたまま美花がでていったドアを見ていることしかできなかった。

「行っちゃったな」

「うん。行っちゃったね」

 そう琴美が返答してきたところで、再び勢いよく扉が開かれて美花が現れる。

「玲!部室の鍵閉めといてね!!」

 そして、そんなことをいうなり美花は扉を閉めて部室を出て行った。なんで俺が指名されたのかわけがわからんのだが。

 そして、残された俺と琴美は呆然と立ち尽くしていた。


 お互い座り直し、少ししてから俺は琴美に話しかけることにした

「ごめんな。昔もたまにあんな性格になることがあったんだが、まさか治ってなかったとはな…。迷惑かけちゃってるだろ?」

「いやいや。逆にあの性格のおかげで私もテンション上げさせてもらうことがあって嬉しいよ」

「そうなのか。ならよかった」

「うん。じゃあすることもないし帰ろっか」

「そうだな」

 そして俺と琴美はお互い椅子から立ち上がる。

「それじゃあ玲、家まで送って行ってねっ」

 琴美が微笑みながらそう俺に言ってきた。

「そうだな。約束したことだし一緒に帰るか」

「うん!」

 その時の琴美の笑顔に少しだけドキッとしたことは俺の心の中だけにしまっておこうと思った。

「あ、そだ。俺、鍵を職員室に持っていかないとだから玄関で待ってて」

「うんわかった。先に行ってるねー」

 琴美はそう言って鞄を肩にかけて部室を出て行った。それから少し経ってから、俺は部室に鍵を閉めて職員室へ向かった。


 職員室に鍵を返し、下駄箱へと向かう途中俺は琴美のことに関して少しだけ考え事をしていた。

 琴美は何故男口調なのだろうか。別にいつも男口調っというわけでもなく、たまに普通の女の子のような口調や態度、反応に戻ることもあるのだが、基本的には男口調だ。俺にはどうも無理しているように見えるのだが、多分それは気のせいだと思いたい。琴美が元々日常的には男口調で、二人になったときには基本的には女の子の口調に戻るのだと。そう思っていたい。

 そんなことを考えていると下駄箱についてしまった。俺は下駄箱の辺りに琴美がいないことを確認してから、靴に履き替え外に出ると琴美は簡単に見つかった。琴美は俺の存在にはまだ気が付いておらず、俺から声をかけることにする。

「ごめん、遅れちまった」

「遅いぞー」

「悪い悪い、んじゃ行くか」

「うん」

 そして、俺達は校門を出たのだがしばらく沈黙が続いていた。うっ、気まずい…。

「ねえ、そういえばさ」

「ん?どうした?」

 琴美もこの沈黙した空気が気まずかったのか話しかけてきた。

「今日さ、部活早く終わったじゃん?」

「うん、そうだな」

「だから今からどっか出かけない?時間もあるしさ!」

 それは俺にとっては思いがけない言葉であった。てっきり俺は『美花なんで先に帰ったんだろうねー』っとかその辺りを話題にしてくると思ったからである。

「そうだな。どこか行きたいところでもあるのか?」

「うん。で、できたらでいいんだけどさ!」

「ん?どこどこ?」

「れ、玲の家とか…無理かな?」

 顔を赤らめながら、こっちを見ないでそう言ってきた。え?は?え…?

 俺の脳内はパニックに陥っていて琴美の言葉が理解できずにいた。

 よし、ひとまず確認。話題ない→気まずい→一緒に出かけたいといわれる。よしここまではOKだ。その次。琴美が顔を真っ赤にして『家に行ってもいい…かな…?』だと?これは夢か?夢かもしれない。よし確認だ。

 俺は軽く頬をつねってみる

「痛い…」

 ここは紛れもなく現実であった。

「な、何してるの…?」

 まだ少しだけ顔が赤い琴美が問いかけてくる。

「いや、ここは夢の中なんじゃないかなっと思ってな」

「そんなわけないじゃん…。それでどうなの?だめなの…?」

 琴美さんその上目づかい反則です。これでだめって言う男がいたらそいつをぶっとばすな確実に。

「ああ、もちろん大丈夫だ」

「え、本当!?」

「うん。今日親コンサートに行くから出かけてるはず」

「そうなんだ。じゃあ今から行こうよ!」

「そうだな。じゃあ行くか」

「うん!」

 というわけで出かけるかと思いきや、俺の家で遊ぶことになってしまったわけなのだが…。

 なんか入学して、琴美に会って三週間で色々と発展しすぎじゃね!?こんなことってあるもんなの!?絶対にないはずだ!普通ならな。なのになんでこんなにもいきなり発展するんだ!?おかしいだろ!?まあ、俺にとっては全然嬉しいのだが。

 それに琴美とかなり仲良くなれるチャンスだから前向きに捉えるとしようかな。それじゃいきますか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る