第5話 「部室掃除」
次の日の朝。俺は一人で通学路の道を歩いていた。
あーあ…美花には会いたくないな。もし会ったらどうしようか。結局昨日あんなこと言ってたけど、今日になって不安になってきた…。せめて部活までには考えとかないと…
「よぉ、玲!」
「うわっ!なんだ亮介か、びっくりしたなー」
「いやぁ今日たまたま朝練なくてさー。だからこんな時間に登校してるって訳」
あ、なるほどね。昨日の夜中に雨が降ってたらしいからな。グラウンドがぬかるんでたりでもしているのだろう。
ちなみに、こいつはサッカー部でスポーツ万能。俺と同じクラスメートで中学からの親友。なんか時々チャラいけど、いいやつなんだよな。
「へぇー。そういえば練習ついていけてるのか?」
「まぁ、なんとかな…。やっぱ体力は必要だって気づいたよ。お前も少しは走っといた方がいいぞ?」
「そうだな……っておいおいおい!!またそうやって一緒に走らせようとしてるだろ!?」
「(ちっ)いや?本当に心配したんだぞ?」
「おいおい!今、舌打ちしたろ!ぜっっっっったいに嫌だからな!!」
「なんだよぉー、いいじゃないかよー!」
「いやだね!俺は疲れることが好きじゃないんだ!!」
あ、これは冗談で亮介の誘いを断るために言ってるだけであって、本当は別に走ることもスポーツをすることも全然好きなんだよねー。
「お、言ったな?だったら体育の時間絶対に休めよ?ちゃんと『自分疲れるの好きじゃないからやりませーん』って言って休めよ?」
「…や、やるわけないだろ!」
「あれ?疲れるの嫌いじゃなかったっけ?あれあれ?おっかしいなぁ」
「…すいませんでした!運動大好きです、だから体育はしっかりやらせてください!」
「あれ?それで十分だと思ってるの?ちゃんと形で示してもらわないとー」
こ、こいつ調子に乗りやがって。たまに、こういうことさせるから嫌なんだよなあ…。仕方ない…やるか!
「すいませんでした」
…路上で土下座っておかしくね!?やってみてから超恥ずかしくなってきた…。しかも、路地が濡れているから冷たいし…。
ほら、横を通っていく生徒たちが冷たい目線でこっちみてるよ…。本当にこいつはいやな奴だ。
「よし、仕方ないなぁー許してあげるよ」
「ありがとうございます」
「んで、俺と一緒に走らないか?」
「断じて断る!」
っと、なんやかんやあったがどうにか一緒に走ることは諦めたらしい。本当にしつこかった…。
そして、学校生活は平穏に過ぎていった…。授業が終わるまでは…な。
放課後…。ついにこの時が来てしまったのか、美花と会う時が。
俺はなんとか何を話そうか決めることができ、後は美花と話して気まずさをなくすだけだった。
部室のドアを開けるとまだ誰もいなかった。
なんだ俺が一番かよ。まあ確かに、少しだけ俺たちのクラスの方が他のクラスよりも早く終わったからな。とりあえず、俺は自分の席に座って部員が来るのを待った。
そういえば本当に殺風景だよな。今度なんか家から持ってこようかな。
っと思っていると、部室のドアが開いたかと思ってそっちのほうを見たら、今井さんが部屋の中に入ってきた。
「こんにちは。琴美ちゃんだっけ?」
なぜか今、自然と琴美ちゃんと読んでしまったが、そこは気にしないことにしようかな。思い出すだけで恥ずかしくなってきた。
「あ、斉藤さんかー。びっくりしましたよ…」
琴美ちゃんは名前を呼ばれたとき一瞬体をびくっとさせたが、俺の存在に気がつくとほっと安心したような顔になった。
「ごめんね、びっくりさせるつもりはなかったんだけど」
「いえいえ、勝手に自分がびっくりしちゃっただけですから。気にしないでくださいよ!」
そういいながら彼女は俺とは机を挟んでドアに一番近い席に座った。
「あ、うん。そういえば、前集まった時に会ってるけど、ここで会話するのは初めましてかな?」
「はい、そうですね!これからよろしくです」
「いやいや、タメ口でいいよ全然!同級生なんだしさ。」
「そうですか!じゃあ早速、よろしくね玲!」
「え!?名前で呼ぶの!?」
「え?そっちがさっき名前で呼んでくれたから呼んだだけだけど…?」
た、確かに読んではいたが…。まぁ、俺的には名前で呼んでくれて嬉しいかったから、このままでいいかな。
「俺は全然名前で呼んでくれた方が嬉しいけど、そっちは?」
「あ、こっちも全然いいよ?名前で呼んでも」
「じゃあ改めてよろしく琴美!」
「うんよろしくね玲!」
琴美は笑顔で答えてくれた。うぅ…こんな可愛い子と同じ部活なんて…涙がでてきちまうぜ。
それに俺達は初めて話したにも関わらず、ここまで打ち解けてしまった。もしかすると、案外気が合うのかもしれないな。
それからすぐにまた、ドアが開かれた。
「あれ?部長じゃん!こんにちは!」
え?美花が来たのか?…やばい緊張してきた。
「おぉ!琴美ちゃんじゃん!今日は早いね!」
「いや、玲の方が早かったんだよ…。ちぇ、今日は一番だと思ってたのに」
「えっ?れ、玲いるの?」
はーい、ここにいますよー。っと、心の中で呟いておいた。というか俺の名前に対して動揺しすぎじゃあないだろうか…。
「うん、いるよ。ほら」
美花が部室の中に入ってきた。…目が合ってしまった。
「玲…、いたんだ」
「うん、まあな」
反応を見る限り知ってしまっているようだな…。ただすぐに落ち着いた表情になり、この間座っていた席に向かって歩いていった。
「あ、そういえば今日は冬香ちゃんは元々休みらしくて、香奈枝ちゃんは早退したから今日はこの三人だけよ」
え、まじかよ。そういや、3時間目辺りから香奈枝の席が空席だったような……そう言う事だったのか。
美花は鞄を机の上に置き、椅子の上に上履きを脱いで立ち始めた。と思っていると、手を腰に当てて威勢よくこういってきやがった。
「そこで今日は三人だけど、ここの部室の掃除するわよ!」
「えー!何で掃除なんすか部長!」
琴美は席を立ち、テーブルを思いっきり叩いて彼女に反論し始めた。俺も手を上げて、少し反論することにした。
「その意見には俺も賛成だ。なんで今日掃除するんだ?」
「いや、今日は部が設立されて2回目の部活動でしょ?だったらまず掃除をして、部室をきれいにしようかなって思ったんだけど…。だめ?」
「うーん。確かに部長の言う通りこの部屋をきれいにした方がいいよな…。うん、私は部長に賛成だ」
琴美はうんうんっとうなずいて、心変わりしやがった。
「それだけの理由で意見変わっちゃうのか!?早くねぇか!?」
「いや、なんでって聞いただけであって、別にやりたくないとは言ってないもん」
「…。あぁ、その通りだった。俺が悪かったよ、すまん」
「それじゃあ、今日は掃除で決まり!ちゃっちゃと始めて、ぱぱっと終わらせるわよー!」
張り切る美花。
「おー!」
それにのる琴美。
「お、おー…」
そして、一人だけやる気がない俺…。と、いう三人で部室の掃除を始めた。
俺達は掃除を始めたわけだが、一つだけ疑問があった。
この部屋は殺風景でほとんど家具なんか置いてないのに、掃除をする必要があるのか?ということだ。
なのに美花は掃除をしようというのだから驚きだ。まあそれでもやることはいっぱいあり、俺達は黙々と作業を進めた。
なぜかは知らないが俺達の部室には元から本棚が置いてあり、昔から置いてあるのだろうか、ほこりがすごかった。俺はその本棚担当となり掃除してるわけだが…。汚すぎだろ!?ほこり以外にも蜘蛛の巣やなんかによるシミ。もう年代が古いことは一目瞭然だった。仕方ない…やるか…。
掃除を始めてから、一時間が経過した。
「うん!だいぶきれいになったわね!いったん休憩にしましょう!」
あぁ~疲れたぁー!だけどまだまだ片付いておらず、まだ色々とすることがあった。
「いやー、みんな頑張ってるみたいだね!結構片付いてきたじゃん!」
部室のドアの前に立ち、部屋を見渡した後に美花がそういってきた。
「そうだね部長。雑巾がけも結構疲れるもんだな…」
琴美は雑巾を右手に持ち、右肩を左手で支えながらぐるぐると回している。まあそれなりに部室は広いからな……しかも二周ぐらいしてたし。そりゃ疲れるよな、うん。
「琴美ちゃん結構がんばってたもんね!お疲れ様!」
「ありがとう部長!」
「ちょっと質問いいか?」
ん?っと二人とも俺の方に疑問の顔を向けてきた。
「お前らって、どこかで知り合ってたのか?」
「「いや、高校になるまで知らなかった(よ)」」
見事なまでにはもっていた。
「なんでそんなに長い言葉なのに、はもるの!?逆にすげえわ!」
なんか、変なところで関心してしまった俺は、それ以上追及することを忘れ、ただひたすらに、なんでなんだ…っと一人で考え込んでしまった。
「それじゃ、再開しますか!」
それから十分の休憩をはさんで、美花が唐突にこう言ってきた。
「…ちょっと待って部長!もう部活終了の時間ですよ!」
っと、琴美が自分の腕時計を見てそう言った。
「え!?まじで!?…仕方ないな~、じゃあ今日はこれにて解散!お疲れ様でしたー」
と、琴美がなんとか時間に気付いてくれて部活は終わったのだが…。部活が終わったってことは、ついに美花と話すときが来てしまったようだな。
「それじゃ私、先に帰りますね!お疲れ様でした」
「うん。じゃあね琴美ちゃん!」
「じゃ、また明日ー!玲もじゃあね」
「おう!また明日な」
と、琴美は帰っていった。まさか空気を読んでくれたのかな…?
そして琴美が部屋を出て少し経ってから美花に話しかける。
「それじゃ、俺達も帰りますか」
「う、うん。そうだね。あ、部室の鍵職員室においてこないとだから、先にいってて」
美花の言葉が少しだけ詰まっているように聞こえた。…気のせいかな。
「わかった。んじゃ校門の前にいるよ」
といって、俺達はそれぞれ別れていった。
ふぅー…。なんか結局このことばっかり考えてた気がする。美花がどういう反応をするか…とか、どういう気持ちなのかな…とか昨日の夜からずっと考えていた。なんでだろう。
それにいつからだろうか、こんな波乱万丈な高校生活を望んでいたのは。こんなことがあればいいなとずっと考えてきた。それが今まさに、起ころうといている。幼馴染との新しい生活が、そして新しい親との生活が。こんなにわくわくしてるのはいままででそうなかった。これから楽しい生活が始まると思う。多分いままでになかったような。
深雪には申し訳ないとは思ってるけど、俺は美花との生活も楽しいんじゃないかなと思っている。ごめんな深雪。お兄ちゃんこれからの新しい生活を受け入れるや。だけど、決して深雪のこと忘れないから。だからこれからもお兄ちゃんのことを見守っててくれ…。
「れ、玲!帰るわよ!」
そんなことを考えていたら、いつのまにかに美花がもう来ていた。
「おぉ、やっと来たかー。…んじゃ行きますか」
俺たちは上履きから靴に履き替え、気まずい空気を漂わせ始めながら校門をでた。
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