第3話 「自己紹介」

 次の日、登校中たまたま美花と遭遇した。

「おはよー!」

 ビクッて少しだけなったけど、ここで異変を感じ取られたらやばいから、平然を装って後ろを振り向いた。

「おぉ、美花じゃないか。おはよ」

「そういえば、昨日の電話どうしたの?いきなりでびっくりしちゃった」

「いや、気にすんな。今日初めての部活じゃないっけ?」

「あぁー!そうだった!今日メンバーがわかるから楽しみにしててね!」

「あぁ。楽しみにしてるよ」

 その後もいろんな世間話で盛り上がって校舎についてしまった。

「じゃあ放課後部室でね!」

「うんわかったー」

 といいながら別れたのだが…、美花が振り返って

「玲ー!そういえば部室知ってたっけ?」

「あっ、知らないや。どこにあるの?」

「もう…。私がー迎えにいくから待ってて!」

「わかった!」

 玄関先でこの会話をしたのだが、運がいいことに誰も人が通らなかったため、誰にも聞かれずに済んだ。まぁ、ラッキーだったな。

 その後、美花と俺のクラスの前で別れて(俺のクラスの方が、階段に近いためだ。)美花は、小走りでクラスの中へと消えていった…。


「玲~、部活決まったんか?」

 朝っぱらからうるさいやつだな…。ちなみに亮介は結局サッカー部に決めたらしく、なんかこの頃夜に一緒にランニングしようぜ~とうるさくて困っている。こいつ俺が部活決まったか知らないくせに、一緒にランニングしようとかいってきたんかよ!なにが目的なんだかさっぱりだ。

「決まったさ。美花と一緒に部を立ち上げるんだよ」

「まじか!いいなぁー俺もそっちに行きたかったな~」

「お前はサッカー部で頑張るんだろ?」

「まぁそうだけどよ…体力が足らないんだよ…」

「だからってまた俺をランニングに誘うつもりじゃないだろうな?」

「なっ、お前俺の考えてることがよくわかったな…」

「いや、この件だといつもこれじゃん」

「あ、確かにそうだなー」

「お前、バカだな」

 などと、いつものように朝のホームルーム前にくだらない話でいつも盛り上がってしまうんだがたまに…

「白仁田くーんっ。前を向きましょうねぇ~」

「はーい、すいませーん」

 こうやってホームルーム中までしゃべってしまうことがあるところがあるんだよね…。ただ、担任の先生がさっきみたいに、ほんわかって感じの先生なので、クラスのみんなも逆にうるさくなることもなく、ほわわーんとしたクラスとなっている。とてつもなく楽で良いクラスだ。

 ちなみに俺が寝込んでいる間に席替えをしたらしく、俺の席の前に亮介が来ていて、香奈枝が後ろにいるのは変わらずだった。運がいいんだか悪いんだか。

 放課後になり、教室で美花を待っているのだが…。あーあ…美花こねー…。

 その後5分ほどして、教室の前のほうのドアが開くと、美花が現れた。

「ごっめーん遅れちゃった!」

「結構待ってたんだぞー。…まぁいいや早くいこうぜ!」

「ごめんねーっ。こっちだよー!」

 と、美花につれられ部室に向かっていった。


 …教室まで遠いな!こんなかかるとは思わなかったよっ!

 俺達は部室の前までやってきたのだが、自分の教室から階段を降りて、左に行って…っとかして、やっとここまでついたのだ。だいたい十五分ぐらいだろうか。

「もう、みんな揃ってるはずだからまず私から入って、ちょっとしたら入ってきてね!」

 とか言って、美花は先に部室の中に入っていってしまった。「いやぁみんな早いね!」っという美花の声が部屋の中から聞こえてきた。…よしっいくか!

 扉を開いて俺は衝撃を受けた。まず、中央に長テーブルが二つくっついておいてあって、少しだけ高級そうなイス、そしてそれ以外はほとんど何も置いてない殺風景な部屋…。ここが俺たちの部室なのか?

 メンバーを見渡してみると、…な、なぜここに香奈枝がいるんだ!?しかも女子しかいねぇ!

「なにしてるの?早く座りなさいよ!」

 美花がなんかうるさいので空いている席へと座った。

「じゃ、最後の一人が席に着いたところで、自己紹介始めましょっか」

 という美花の掛け声と共にまず美花から自己紹介が始まった。

「まずは私から。皆さん知ってのとおり部長の鯨井美花。この部の設立者で1年。まぁこれから約3年間よろしくね!」

 と、まず美花の自己紹介が終わり、次は俺の番だということなので、さらりと終わらせてしまった。

「はい、次ー」

 次に席を立った子は、どこかやんちゃっぽく見え、運動部系な女子って感じをだしている。髪はショートで、軽く茶色がかっている。スタイルはいいし、普通に可愛い思う。

「えー私は今井琴美。1年4組です。なんか美花に誘われてきたけど、まぁ楽しく過ごせればなーと思ってるからみんなよろしく!」

「うんうん、琴美ちゃんよろしくねー!はい次ー」

 予想通り、ボーイッシュって感じな子だったなー。美花となんか繋がりがあるのだろうか…。

 次に席を立った子は、いかにもドジっ子って感じで、巨乳で、髪は長めで茜色をしている。なぜか、立った瞬間から涙目だし…。

「うぅ…自己紹介とか苦手ですー。美花ぁー私の分は飛ばしてぇー!」

「ダメよ!しっかり自分の仕事をはたしなさい!」

 おいおい、この子にだけは強く言うな…。しかも自己紹介って仕事なのか?

「うぅ…、仕方ありません…。平野冬香です!えぇーと1年2組です。これからよろしくおねがいしますぅー…」

「うんまぁ良しとしようじゃないか!はい次!」

 予想通りのドジっ子っぷり。こりゃ、扱いに疲れそうだな…。

 最後に席を立ったのは、先日俺のクラスにいてびっくりさせた、佐藤香奈枝であった。清楚キャラ感バリバリ出してるし…。まぁ、確かに周りから見たらそう見えなくもない…。

「佐藤香奈枝、1年3組。…よろしく」

「よし!みんな自己紹介はおわったわね。じゃあ今日はみんなで雑談でもしましょうか!」

 ということで、みんなそれぞれが雑談を始めてしまったので俺は隣にいる香奈枝に俺のことを覚えているかを確認してみることにした。

「こんにちは、佐藤さん」

「…こんにちは」

「えーと、話すのは自己紹介の時以来かな?」

「えぇ、そうね。それで何か用?」

 …あぁ、やっぱり覚えてないみたいだな。ちょっと遠まわしに覚えているか聞いてみるか。

「佐藤さんっていとこか、はとこっていた?」

 この結果次第で覚えているかわかるな。

「…なんでそんなこと聞くのかしら?」

 やばっ変な目で見られたっ!何?この変態、みたいな目で見てるよー…。決して俺はそういう訳じゃないのにっ!

「あの…ね、そういうわけじゃないからね!?」

「じゃあなによ。なんで聞いてきたのよ」

 本当のこというわけにもいかないしなー…。

「ちょっと家庭内事情を知りたかっただけさ!」

「…。あ、今井さんってどこ中だったの?」

 …ぐすん。ぐすん。

「玲、なんで泣いてるの?」

「…美花ー」

「え、ちょ、何!?どうしたの!?」

「うっ、うっ」

「ほら、泣かないのっ!みんな驚いてるでしょ!?」

「…だって、だってぇー」

「だってじゃないのっ!ほら、こっちきなー」

 美花が抱きしめてくれた。

「…部長!?何してるんですか!?」

「い、いやっ!べ、別に玲がかわいく見えたんじゃないいんだからねっ!」

 …これって、ツンデレっぽい言い方だよね。…気にしない、気にしない。

「部長…ある意味やばいですよ」

「え?何が!?」

「…わからないならいいですよ」

 今井さんはなんか、呆れたような顔をしていた…。

「それならそうと早く元の位置に戻ってください、そこの君」

「え!?あ、はいぃぃ!」

 なぜか知らんが、今井さんが急激に怒ってらっしゃった!

「こ、こら!琴美ー!」

「だ、だってこいつずっと美花にくっついてるんだもん!」

「まぁ、そうだけど…。ほら、離れなさい玲」

「あ、うん…」

 その後、今井さんはなぜか俺が席につくまで睨みつけてきた。…怖い怖い。

 結局、その騒動が落ち着いた頃、俺は平野さんと話していた。

「平野さんは中学どこだったの?」

「えーっとねぇ、大野江中なんだぁー。多分、斉藤くんはわからないと思うよぉ?」

「う、うん。知らないやっ」

 …な、なんだこのしゃべり方は。ほんわかっていうか、のほほんというか、なんかまったりできるなぁ、平野さんとしゃべってると。

「そういえば、変な話ですけど一つだけいいですか~?」

「え、あ、うん。いいよ」

「私、体が弱くて学校休みがちなんで、部活にでてこなくても気にしないでくださいね」

 このときの平野さんはさっきまでのほんわかな声ではなく、真剣で全く違う、なんか私は影のような人間なので、いてもいなくても気にしないでください。のように聞こえたような気がした。

「う、うん。わかったよ」

 そういった時、平野さんは優しく微笑んでくれた。

「あ、あともう一つ、斉藤君って言いにくいので、玲くんって呼ばせてもらってもいいですかぁ?」

「うん全然いいよ」

「それでは、私のことは冬香と呼び捨てでお願いします~」

「わかった、けどなんかあれだから、冬香ちゃんって呼ぶよ!」

「はいっ」

 そういうと、また優しく微笑んでくれた。…たださっきのあの言葉には裏がありそうだな。

 そして俺は気まずいながらも、香奈枝に話しかけてみた。我ながら、また話しかけるだなて馬鹿だなって思う。

「こ、こんばんわっ!」

「…こんばんわ?」

 …やらかしたぁぁぁ!!こんにちはだろうがぁ!しかもなんでさっき話してたのにまたこんば…じゃねえや、こんにちはからなんだよ!ばかだろ俺!普通、そういえばさぁ…。とかにしとけばよかったんじゃないかぁぁ!!

「何もがいてんの?…ばっかみたい」

「あ、あぁぁぁぁあぁああ!!」

 こいつは凶器だぁぁ!精神破壊機という名の凶器だぁぁぁ!!

 …俺の精神力は0になり、机につっぷ伏せて一人…泣いていた。


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