2-3

 学園のガレージに着くと、悠馬が待っていた。

「おう。お疲れさん。皐月はまだか」

「お疲れ。まだだな。学園に一番近い場所を調査していたはずなんだが」

「まぁそのうち着くだろう。それより、キーワード。そっちも手に入れたのかよ」

 悠馬は頷く。

「ああ。お前から来た位置情報から、末端の構成員を見つけて聞き出した。どうやら幹部がばら撒いているようだ」

「ちなみに、俺が集めた言葉はこれだ」

 隼人は聞き出したワードを書き留めたメモを見せる。

「ふむ。俺が手に入れたワードと違うな。俺のは『更待月』『採石場』『半夜』だな」

 悠馬は自分のメモを見せた。

「月の言葉と場所らしきワードがダブってんな」

「敵はバカではない。ダミーを幾つか混ぜているな。恐らく正解はチーム内の事情に通じている人間にしか、分からないようにしているはずだ」

「ばら撒いている幹部を取っ捕まえるか?」

 隼人の提案に悠馬は首を振る。

「いや、それは簡単じゃないだろう。キーワード自体がメールで流れてくるだけで、受け取った本人と面識が無いようだった」

「本気で化け物になりたい連中だけが、たどり着けるってわけだな」

 隼人はため息を吐いた。

 化け物になりたい気持ちなどサッパリ分からなかった。

 そんなことを言っていると、マシン音がした。

 皐月のオーガルーレッターの音だった。

 姿が見えてくるが、乗っているマシンが出て行った時と違っていた。

「あん? なんでアイツ、キャリーモードなんだ?」

 輸送用のモード。三輪バギー型に変形して、後ろに大きめのコンテナをけん引している。

 ガレージに入ってくると、バギーの車体がスライムのように崩れて、元のバイクに変形した。

「たっだいまーです」

 皐月はVサインで挨拶する。

「お疲れさん。んで、このコンテナはなんだ」

 隼人は謎のコンテナを指さす。

「じゃじゃーん。ブラックウェブの幹部さん達です!」

 ばーんとコンテナが開いて、拘束されたボロボロの男達が三人、転がり出てきた。しかも何故かパンツしか身に着けていなかった。

「ぐぐぐぐぐ」

 何か呻いているが、猿ぐつわを咬まされていて、喋ることが出来ないようだった。

「え……?」

「は……?」

 隼人と悠馬は言葉を失った。

 皐月は得意げに話す。

「いやー。調査していたら、私を尾行するこの人達がいまして。それで襲い掛かって身ぐるみ剥がしたら、なんとブラックウェブの関係者! しかも持っていたメモ見たら幹部さんじゃないですか。それでここまで連れてきました」

 ドヤ顔で小さな胸を張る。

「「何いいいいいいいいいいいいいいい!?」」

 隼人と悠馬は驚いて叫んだ。

「幹部ってマジか。どんだけ豪運なんだよ」

 先ほど捕まえるのは難しいと言っていた矢先。

 あっさり三人も捕まえた事実に混乱した。

「なぜ尾行していたか、理由はこいつらに聞いたほうが早いな」

 悠馬は転がっている男達の猿ぐつわを取った。

「この、アバズレ! ぶっ殺してやる!!」

「死ね。死ね。死ね!」

「放しやがれこの野郎!!」

 口が自由になって暴言を吐きまくる。

 皐月はにこやかに男達に近づくと、高速の拳で三人をぶん殴った。

「え? 何? 死にたいの? 次、暴言吐いたら首の骨を折りますよ」

 冷たい殺気と共に言い放つ。

 あまりの圧力に男達は黙った。

「なぜコイツを尾行していた?」

 悠馬がしゃがみ込み、静かに尋ねる。

 隣ではいまだに殺気を放つ皐月がいる。

 観念して一人、白状した。

「影狩りが動き出したって連絡が入って、それで俺達の事を調べている女がいたから、後をつけたんだよ」

 尾行の理由は分かった。

 悠馬は気の毒そうな顔をする。

「それで、つけたのがこの狂犬も真っ青の皐月だったのか。不運だったな」

「コイツ、いきなり襲い掛かってきたぞ。なんて凶暴なんだ」

 三人はブルブルと震えていた。

 よほど怖い目にあったのだろう。悠馬は心中を察して肩を優しく叩いた。

 隼人がキーワードを書いた二つのメモを見せる。

「捕まったのは不運だったな。で、集会の日時と場所は? この中に正解は? それとも全部ダミーか?」

「それは……」

 三人とも黙る。

 簡単に喋るつもりは無いようだった。

 見かねて皐月が言う。

「隼人先輩。この人達の骨全部、砕きましょう。クラゲのように柔らかくなったら、少しは喋るはずです」

「いや待て待て。お前、鬼か。そういう物騒な話は無しだ」

 隼人もキーワード聞き出す際に不良共をボコったが、流石に全身の骨を砕くオーバーキルはしない。

 隼人は男達に向き直る。

「頼む。教えてくれ。情報を漏らしても、お前達の身の安全は保障する」

 彼の後ろからは、さらに強くなった無言の圧力。皐月はすでに拳をバキバキと鳴らして準備体操していた。

 襲われた時のことを思い出して、敵わないと思い至って語り始めた。

「その中じゃ、正解は『卯月』と『廃工場』だけだ」

「詳しい時間と場所は?」

「今から三日後。時間は正午。来雫市と八手市の境にある廃工場で、チームのメンバーに種を配る」

 隼人は自分の記憶と、地図を思い浮かべる。

「つまり、村雨町のオバケ工場だな」

 男達は頷いた。

 悠馬がスマホを起動させる。

「ハウンドとラプターを向かわせる」

 遠隔で命令を送った。

 隼人は質問を続ける。

「浪川司郎はどんな人物だ?」

「詳しくは知らないが、恐ろしい人だ。平気で人を殺して化け物に変える。影狩りも気にしない。尾行は俺達が心配してやったことだ」

「なら、ここで情報が洩れても、集会に変更は無いな」

「たぶん。そうだと思う」

 あいまいな返事だったが、隼人は信じることにした。

「悪喰に、化け物になれる連中は何人いる?」

「十人だ。それと化け物から戻らない奴は六人いる。あと、種を持つ奴らが三十人ほどいる」

 合計四十六人ほどが大なり小なり、悪喰の力を使用できるということだった。

「お前達は種を持っているのか?」

「今は持ってない。そこの女に取られた」

 隼人と悠馬は皐月を見る。

「これです。身ぐるみ剥いだ時、没収しました」

 小袋に入れた種を見せた。

「化け物にならなくて良かったな」

 隼人は男達に笑いかけた。

「お前達の身柄は警察が保護する。そこでたっぷりと説教されて来い」

 男達は無言で頷く。

 それから三十分後。男達はやって来た警察に連行されていった。

 それを見送りつつ隼人は悠馬と皐月に言う。

「三日後、オバケ工場に強襲を掛ける。準備しろ」

「ああ、ターゲットだけじゃなく四十人以上、悪喰とはな。助けないといけない数が増えた」

 悠馬は不敵に笑う。

 皐月は拳を鳴らす。

「全員、ボコり砕きます。悪い子はお仕置きです」

 全員が頷いて、動き出した。

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