第2話「調査はマシンに乗って」
2-1
それから、連絡先を交換して浪川と垣内は帰った。
隼人達はそれぞれ準備を進める。
皐月は影狩りをまとめる影狩り協会のサイトから情報を集める。
悠馬は狩りの装備を点検。
隼人は協力関係にある警察に連絡して情報交換する。
「ああ、そうだ。こっちで依頼があった。クモ怪人の事件はこっちで追う。俺達が持ってる情報を渡すから、警察で把握している情報が欲しい」
電話の相手は
『分かった。お前らが動くなら全面的にバックアップする。他の狩人共に先を越されるなよ』
「あん? てことは協会から正式に討伐依頼が出たか」
協会からの情報を探している皐月の方を見た。
「はい。今日の昼頃、正式に協会から討伐依頼が出されてます。報酬から見て、二流三流やアマチュアが参入してくる可能性がありますよ」
彼女の説明を聞いて電話に戻る。
「他の連中に狩場荒らされるのは勘弁願いてぇな」
『俺達、警察も管轄を荒らされるのは困る。お互い協力して迅速に解決といこう』
「だな。今、こっちの情報をメールで送る」
電話片手にパソコンを操作してメールを送信。
『お、来た来た。えーっと何々。依頼人は浪川真樹。内容は彼女の兄、
驚いた声で叫ぶ。
「近藤さん。知ってんのか?」
『知っているも何も、こいつ最近、街で台頭してきた悪ガキだ。ウチの課で要注意人物として足取りを追ってる最中だ』
興味深い情報が飛んできた。
隼人は詳しく聞く。
「どういうことだ?」
『去年の十二月ごろに急に悪ガキ共の間で台頭してきた男だよ。初めはどこかの集団の下っ端だったようだが、下克上したのか集団のリーダーに収まって、街にいる暴走族やら不良集団を潰して傘下において集団を急成長させた。今、それ関連の情報をメールで送った』
パソコンにメールが届く。
中を開けて確認。
写真データに浪川司郎の顔写真があった。
光を映さない目に痩せた頬。とてもリーダー格には見えない。
「チーム名は『ブラックウェブ』ねぇ」
『あまりの急成長ぶりと、被害にあった悪ガキ共の証言から悪喰関連の疑いがあってウチにお鉢が回ってきた。任意同行させようにもなかなか姿を見せず、家にも帰っていないようだ。唯一、妹の浪川真樹に接触してきたことはこちらでも掴んでいる。街中で見かけても姿を見失うことが多い。謎が多い人物だ』
「なるほどな」
隼人は送られてきた情報と近藤の話を聞いて一人頷く。
悪喰は成長段階に応じてレベル分けされる。浪川真樹の話から考えて、浪川司郎のレベルは3。自分の怪人体の容姿、能力をコピーして他の人間に与えられる段階だと考えられた。
通常、悪喰の成長がレベル3に達するのが三ヵ月前後。浪川司郎が力を手にしたのが十二月ごろと仮定した場合、三月の時点で達していた可能性は十分にありえた。そして今まで倒したクモ怪人の成長具合から見てクモ男事件の発端はおそらく一ヶ月前の三月。つまり時期が一致する。
「台頭してきた時期と照らし合わせると、一連のクモ男事件と繋がる。悪喰の種をばら撒いたのはこいつで間違いないだろう。街の不良共がクモ怪人の宿主になってたからな」
近藤も送られてきた情報から同じ推理に至った。
『なるほど。確かにその通りだな。よし、捜査員を増やして浪川の行方を追う。お前達も何か分かったら連絡してくれ』
「ああ、こっちも【チェイサー】で行方を追ってみる。それじゃ」
電話を切った。
近藤とのやり取りを悠馬と皐月に伝える。
「ふむ。ターゲットは行方知れずか。警察の方でも追っているのなら、見つかるのは時間の問題だと思うが」
悠馬が腕を組んで言う。
「それより、他の狩人の参入がヤバイですよ。ターゲットってレベル3ですよね。一流ならともかく二流三流の狩人だと、宿主ごと殺してしまいますよ」
皐月は焦ったように顔を曇らせる。
通常、宿主を殺さず悪喰だけ倒せるのはレベル2まで。それ以降は特殊な装置を使うか、特殊技術を用いて対処する必要がある。その技術があると認められるのは一部の例外を除いて、一流の証、A級ライセンス以上の狩人のみ。
すなわち、B級以下ではどうにもならない。
「時間との勝負になるぜ。何か妙案があれば出してくれ」
隼人が意見を促す。
三人がうーんと唸って押し黙る。
皐月が「はいっ」と手を上げた。
「根本的なことなんですけど、【チェイサー】が見つけた場所ってハズレじゃないですか? 集まりやすい場所は警察も目を光らせているはずですし」
悠馬は顎に手を当てる。
「ふむ。確かに言われてみればそうか。ならば、見つからないのなら街の外か? 隼人、チームの規模はどのくらいだ?」
隼人は送られてきた資料を調べる。
「大体、百人規模だな。市外の不良も集めているらしいから、全体の規模はもっと多いかも知れねぇ」
悠馬は思案する。
「その規模だと、馬鹿でないなら組織を幾つかの組に分けているかもな。文字通りの意味で、蜘蛛の子を散らすみたいに」
「指示を出している連中の情報網を捕まえれば取っ掛かりになるか?」
隼人は独り言のように問いかける。
皐月が応えた。
「その可能性あるんじゃないですか。ただ、優秀な警察が見失うほどです。慎重なヤツでしょうね。電話やメールなんかは使わないかも」
隼人がニヤリと笑う。
「頭に近い連中には徹底できても、末端まで出来てるか怪しいよな」
「ふむ。そこがクモの糸口か」
捜査の方向性が見えてきた。
隼人は指示を出す。
「よし、三手に分かれて手がかりを探す。丁度、不良共の溜まり場は判明してるからな」
「了解だ」
「はーい。悪い子をシバキ倒してやります」
二人が了承する。
そして全員で地下に向かう。
そこにはガレージがあり、三台のバイクがあった。
一台目は真っ赤なボディで獅子のデザイン。フロントはまるで獅子が咆哮しているように見える。これこそ隼人のマシン「マッハボルケイダー」。最高速度マッハ三。あらゆる物質をエネルギーに転換する気力伝導エンジン搭載。悪路も難なく走破することが出来る。
二台目は青いボディ。翼竜のデザイン。全体が空を飛ぶ竜のように見える。これが悠馬のマシン「エアロワイバーン」。最高時速五〇〇キロ。大気掌握システムを搭載していて、空を飛ぶことが出来る。
三台目は黄色のボディ。鬼の意匠が取り込まれたデザイン。正面から見ると鬼面になっている。このマシンこそ皐月の「オーガルーレッター」。最高時速三〇〇キロ。車体が大容量記憶合で作られているため、様々な形態に変形する。
それぞれがヘルメットを被り、マシンに跨る。
ガレージにマシンのエンジン音が響く。
隼人は計器のスイッチを押した。
すると正面のシャッターが開き、道が現れる。
彼は皐月に告げる。
「皐月、免許取り立てだから、安全運転を心がけ……」
「ぶっ飛ばすぜ、ベイベー!」
皐月はアクセル全開でカッ飛んでいった。
「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!」
叫んでも時すでに遅し。遥か彼方に走り去った後だった。
「まぁ、ああ見えて結構、慎重で真面目だ。大丈夫だろう」
悠馬が呆れたように首を振る。
「アイツ特例免許だからって、スピード出して良いと思ってんじゃねぇか」
影狩りのC級ライセンス以上は、特例として年齢に関係なくあらゆる車両の免許を取得できる。またその免許を持つ狩人は、普通の道路交通法ではなく特別道路交通法が適用される。
特定の条件下で速度制限を受けないという条文が有名である。
隼人と悠馬はアクセルを回す。
「俺は本郷町に行ってみるぜ」
「なら、俺は風見町だな」
二人は頷き合うと出撃した。
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