第3話 全てを見渡せし無力なる者

 ラプラス=デモンと共に、ヴィランたちを撃退した一行

 彼らはラプラスの導きで、カオステラーのもとへと順調に近づいていた。

ラプラス「ああ、レイナ君。今食事が出来る場所へと向かっているから、もう少し我慢してくれないか」

レイナ「ええ、そんなお腹が空いているようにしてた?」

タオ「いや……お嬢は別にそこまで腹が減っているようには見えなかったぞ、珍しく」

レイナ「珍しくってなによ! 私はいつもお腹を空かせているっていうの!?」

エクス(でも、大抵お腹を一番に空かせているのは、レイナだと思う)

レイナ「エクス、なにか言いたそうな顔ね」

エクス「いや、別になんでもないよ」

ラプラス「あと、シェイン君。ここには、確かに君にとって興味深い本なんかも多いだろうが、散策している余裕はないからね」

シェイン「さすが、ラプラスの悪魔さんは違いますね」

タオ「いや……お前の方は目の輝かせ方で、大体何をしたいか分かってたけどな」

ラプラス「言わなかったかい? 私はこの想区で起こることの全てを演算することが出来ると」

主人公「本当に、この想区内では分からないことは、何もないんですか?」

ラプラス「そういうことになるね。ただ、この能力はあくまでこの想区限定だ。他の想区の事情までは、流石に能力の範疇にはないよ」

タオ「だから戦闘中にときどき、やけにあっさり敵の背後に回って、必殺の一撃を見舞ってたのか」

エクス「たしかに……まるで本当に相手の動きが事前に分かっていたように見えてたけど……本当に分かっていたからなんですね」

レイナ「凄い能力よね」

シェイン「さすが、ラプラスが提唱した『ラプラスの悪魔』なだけのことはありますね、感激です」


 ラプラスは苦笑した。あまりに買いかぶられては困る、という風に


ラプラス「そう言ってもらえるのは実に光栄なのだが。私自身は、身体能力に限界のある、人間でもあるんだ」

ラプラス「だから、自ずと分かっていても出来ることには限りもあるんだ。私の必殺技についても、そうなんだよ」

ラプラス「あれは、私の十八番おはこというやつさ。とはいえ、戦闘中ともなると、自ずと使用出来る機会には限りがある」

ラプラス「君たちには分かるんじゃないか? たとえ相手の動きが予測出来ていても、身体能力がついてこなければ、意味がないだろう?」

エクス「それは確かに……でも、未来が見えているのに、出来ないことがあるんですか?」

ラプラス「それこそ買いかぶり過ぎだ。厳密には私の未来を視る能力は、今の事象からの演算によるものだ」

ラプラス「だから、あまりにも先の未来は見えない。それに、戦闘は互いの応酬による状況の変化が複雑でね」

ラプラス「戦闘前から戦闘内容の全てを完全に把握するのは、流石に不可能に近いし……」

ラプラス「未来が見えていることと、それに対応できるかどうかは、実は全くの別物なのさ。今回の件も、まさしくそうだ」

ラプラス「現に、カオステラーが発生して以降は、手をこまねいているだけだったしね」

巫女一行「「……」」

ラプラス「まあ、後はそうだな。例えばこれから地盤沈下が起こるとする。百メートルを1秒で走れれば、それから逃れることが出来る」

ラプラス「さて、それで私はそれから逃れることが、果たして可能かな?」

シェイン「無理でしょうね」

タオ「それは流石に、無理だろうな」

ラプラス「そうだろう? まあ、本来ならそういった出来事は全て事前に分かるから、実際にはその場所自体を避けて通るだけなんだが」

ラプラス「ただ、身体能力が伴わないと分かっていても回避は不能、ということの一例だね」

ラプラス「例外は他にもある。運命の書に関することがそれだ。起こることが分かっても、それが運命の書に記載された内容であれば、干渉は出来ない」

ラプラス「助けなければ死ぬと分かっている者だろうと、助けることが運命を捻じ曲げることなら、干渉は決して許されない」

巫女一行「「……!」」

ラプラス「干渉すれば、それによってカオステラーが発生する。分かっていても、干渉が禁じられていれば見て見ぬ振りをするだけだ」

ラプラス「今回のカオステラーの発生も、元はといえばそれが原因だ。分かっていても助けることが出来ないというのは、相当な苦痛だったらしい」

シェイン「今、少し妙な言い回しをしませんでしたか?」

タオ「ああ。最後の言葉はまるで、他人事のような言い方だったな」

ラプラス「まあ。本当に他人事でもあるからね。厳密には完全には他人ではないというのが、奇妙というか厄介というか……」

エクス「それってどういう……」

シェイン「まさか、この想区のカオステラーは……」

エクス「シェインは、カオステラーが誰なのか分かったの?」

ラプラス「シェイン君には分かったようだね。そうだよ。だからこそ、今回のカオステラーの発生は、私では決して止められなかった」

ラプラス「この想区のカオステラーはね、昔ラプラス=デモンと呼ばれていた者なんだよ」

シェイン「……」

シェイン以外の調律の巫女一行「「……!?」」

ラプラス「私は、私の前任者がカオステラーになったことによって誕生した、イレギュラーな運命の代行者なんだよ」

ラプラス「だから、実のところ私自身が体験したカオステラーの発生を防ぐ事例なんかは、まだそれほど多いわけではないんだ」

シェイン「それって……つまるところ、カオステラーの方も『ラプラスの悪魔』というわけですか? 未来の演算が可能な」

タオ「そいつは、相当厄介だな」

エクス「未来が見える相手を、どうやって出し抜けっていうんです?」

ラプラス「その件については安心してほしい。そのことも話すつもりだった。相手の方は実のところ、万全の状態ではないんだ」

ラプラス「ただ私だけではどの道、この事態は処理できなかった。相手が前任者では、私が処理するのに大層時間がかかった」

ラプラス「なにせ仲間がいなければ、未来を演算できる者同士だろう? 調律以前の問題として、長々と追いかけっこをするはめになる」

巫女一行「「……」」

ラプラス「だが、安心してくれたまえ。君たちが来たことで、向こうは逃げることは無意味だと判断している」

エクス「どうしてですか?」

タオ「確かにな……向こうにも未来を知る能力があるのなら、俺達が固まって動いているんだから、逃げればいいだけだろう」

レイナ「それもそうね……」

シェイン「タオ兄が、珍しく鋭いことを……」

タオ「おい、シェイン。それはどういう意味だ!」

シェイン「そのまんまですが」

ラプラス「その疑問はもっともなんだが。とはいえ、今や前任者は『元ラプラスの悪魔』だ。今はカオステラーになってしまったが」

ラプラス「どうやらこの『ラプラスの悪魔』としての能力は、あくまでストーリーテラーからの授かり物らしくてね」

ラプラス「本来ならカオステラーは、ある程度は自分の思い通りに運命を操作出来るらしいが、カオステラーとなって逆に演算能力は弱まっている」

エクス「そうなんですか?」

タオ「そいつは、こっちにとっては実に好都合だな」

ラプラス「運命の代行者たる、私の誕生も影響しているようだ。逃げてばかりでは、元々劣化してしまった演算能力がいずれ完全に消失してしまう」

ラプラス「それに実は、君たちの登場も影響しているんだ。元々の予定では、相手の能力が尽きるまでは、私は向こうを追えない状況だった」

ラプラス「私一人では、ヴィランをかいくぐって進むのにも限界があるし、第一戦闘になった場合の体力の消耗が激しい」

ラプラス「だから、正直なところ一対一では双方ともに攻めあぐねていたというのが、本当のところだ」

ラプラス「ただ、君たちがいれば話は別なんだ。ヴィランを広範囲に配置された場合は、君たちと一緒なら簡単に一点突破出来てしまうし」

ラプラス「反対にこちらを倒せるほどの戦力を集中させてくるなら、こちらの演算で戦力が集中した箇所自体を避けて通れてしまう」

シェイン「なるほど……だから、向こうとしては、逃げるために戦力を使うよりは……」

ラプラス「そう、逃げ回るよりは迎撃すべきと判断したようだね。こちらも、持久戦だといずれ向こうが自滅すると演算結果で出ていた」

ラプラス「とはいえ、向こうの演算能力は、完全にストーリーテラーから取り上げられたわけではないようだ」

ラプラス「徐々に失われているとはいえ、僅かに能力として残っている。だから、厄介な相手ではある」

エクス「戦闘中に動きを読まれるとなると、大変ですね」

タオ「厄介な相手になりそうだな」

ラプラス「とはいえ、君たちのように信頼出来る仲間がいれば、状況は異なってくる」

レイナ「どういうこと……?」

ラプラス「いくら演算できようが、この人数で袋叩きにすれば、どうということはないんだよ」

ラプラス「カオステラーとなった前任者とて、演算した未来に身体能力がついていけなくなるということさ」

シェイン「なるほど。ラプラスの悪魔といえど、身体は一つだから、戦闘に関してはやれることには、自ずと限界があると」

ラプラス「うむ。まあ、奴もそれを知っているからヴィランをけしかけて、こちらを少しでも消耗させようとしているわけだ」

ラプラス「あまりこちらを、簡単に休息させたくはないらしい。とはいえ、今は私の演算能力の方が上だ」

ラプラス「だから、合間をぬってしばしの休憩をするくらいは、十分に可能だよ」

ラプラス「あまりに急いで、カオステラーのもとに到着した頃には、力尽きていました、では結局意味がないからね」

ラプラス「さて、あそこで食事としよう。あそこなら、食事が終わるまではヴィランには襲われることはない」


 そうして、しばし食事を楽しむ一行。だが、ヴィランは確実に忍び寄っていた。

 ラプラスはそのことに気付いていたが、そのことは敢えて口に出してはいなかった。

 だから、巫女一行は気兼ねなく談笑までしながら、休憩をとることが出来たわけなのだが……


ラプラス「では、食事も終わったことだし、そろそろヴィラン退治といこうか」

タオ「おい、ここならヴィランに襲われないんじゃなかったのかよ!」

ラプラス「食事が終わるまで、といったよ。食事が終わるまで、だ。嘘はいってないし、ここを切り抜ければ、もうすぐだ」

レイナ「なにそれ……! それって詐欺師の論法でしょう!」

エクス「文句を言っている暇は、どうやらないみたいだ!」


 ヴィランたちが見えてくる。そして彼らの戦いが始まる(ゲストキャラとして、ラプラス=デモンを選択可能)

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