第4話 しばしの離別

 ラプラスの案内で、最小限の戦闘を行いつつ、ついにラプラスの想区の中心であり、カオステラーの居場所へと辿り着いた一行。

 しかし、そこには大量のヴィランが待ち構えていた。一行は、ある程度それは

予測していたので、それ自体には動じることはなかったのだが

 とはいえ、あれだけのヴィランを相手に無策で強行突破するのは、流石に無茶なのではないかと思えた。


エクス「あそこに、カオステラーのラプラスさんがいるんですか」

ラプラス「そうだよ。ここにこうしてヴィランを集中させているのが、その証拠でもある」

ラプラス「なにせ私がいるんだ。本来ならいくらヴィランを集中させたところで、それをかいくぐってしまえば問題ない」

ラプラス「だが、ヴィランが集中しているのが本拠地なら話は別だ。こちらはそこに乗り込む必要があるのだから。正しい判断ではあるだろう」

ラプラス「ちなみに、ここは学者が集中している想区と前に話しただろう? あそこがカオステラーの中枢にして、この想区の象徴」

ラプラス「通称、ラプラスの学び舎だよ。そこに陣取っているのがラプラスの悪魔のカオステラーなのだから、」

ラプラス「相応しいというべきなのか、それとも皮肉に過ぎるというべきなのか」

ラプラス「ちなみに、この想区の名前にもなっているラプラスは、学者の名前なんだ。シェイン君は知っているようだが」

シェイン「それはもう、よく知ってますよ。確率論の著者、ラプラスは有名ですから」

タオ「確率論?」

エクス「僕たちは、そういうのはあんまり……」

ラプラス「まあそれはそれとして。私は、彼が提唱した存在としての能力を与えられ、ストーリーテラーの物語を管理する存在として誕生した」

ラプラス「一方で、学者の方のラプラスはその偉業を讃えられて、今はああして学び舎の名前に冠されているんだ」

ラプラス「この想区の由来である、学者の方のラプラスが生まれるのは、この想区が循環する時だから、まだ先のことになるね」

ラプラス「過去に戻るのに、先の話というは奇妙な感覚もするけどね」

エクス「だから、ここはラプラスの想区というんですか」

シェイン「てっきり、あなたがいるからだと思ってましたけど」

レイナ「確かにそうね。てっきり、あなたが想区の主人公だと思っていたわよ」

タオ「俺もそうだ。なんだ、この想区の主人公は今は不在なのか?」

ラプラス「実はそうなんだ。で、その学者が提唱した能力を与えられた私は、それによってラプラスの悪魔と名付けられた」

ラプラス「その能力で、あの学び舎の最上階に調律すべきカオステラーがいることまでは分かっている」

ラプラス「ちなみに、見た目は私と私と寸分違わずといったところだ。流石に姿形で演算能力に違いは生じないはずだが……」

ラプラス「向こうには向こうで、自分が本物だという自負があるということなんだろう」

レイナ「カオステラーについては分かったけど、このヴィランの警備網を最上階まで強行突破しないといけない、というわけ……?」

エクス「無策で突っ込むには、あまりにも数が多いね……」

タオ「分が悪いと分かってはいるが、だからこそ腕がなるぜ!」

シェイン「いえ、ちょっとどころではないです。無策で突っ込むべきではないです」


 ラプラスは苦笑する。そして、強行突破に挑もうとする巫女一行をラプラスが止める。


ラプラス「シェイン君の言う通りだよ。単純に強行突破するには、あまりにもこの戦力差は大きい」

ラプラス「それにこの想区のカオステラーは、もはや不完全だが未来を演算出来るということを、忘れないでくれ」

レイナ「……どういうこと?」

ラプラス「強行突破という選択肢を選ぼうとしていることは、連中に演算されている。作戦が筒抜けだということだ」

ラプラス「そうでなくても、向こうは調律の巫女がいることを演算で知っている。どのみち待ち構えていれば、こちらから出向くより他にないからね」

ラプラス「ただ強行突破しようとすれば、そのルートにヴィランを集中的に配置されるだけだ。あまりにも無謀だろう」

エクス「じゃあ、どうすれば……?」

タオ「このまま、指を加えて見てろっていうのか!?」

シェイン「相手の演算能力が徐々に弱まっているのなら、それも一つの手だと思いますが」

レイナ「ただ、それだとかなり時間がかかるわね……」

ラプラス「その心配は要らない。それに君たちも待つのは嫌だろうが、あまり長くこのままではいられない」

ラプラス「あまりこのままでいると、この想区の他の者までカオステラーに成りかねないしね」

ラプラス「なにせ、今の私はストーリーテラーからの自浄作用としての任務を、意図的に無視しているのでね」

ラプラス「火急の任務こそないからまだ猶予はあるが、こちらもあまり時間をかけたくないのが実情だ」

エクス「じゃあ、どうするんですか? なにか考えがあるんでしょう?」

タオ「そりゃそうか。あんたは未来が見えるんだしな」

ラプラス「無論、無策では来ないよ。私に作戦がある。向こうも乗ってくるだろうさ」

ラプラス「だがその前に、少しこの想区のカオステラーとなった前任者について語っておこう。君たちにはそれが必要だと思う」

ラプラス「運命は時に残酷だ。いくら助けたくとも、運命の書にそう記されているだけで、決して干渉してはならない」

ラプラス「運命の書に従うことで、何も成果をあげられることもなく、死んでいく人々も大勢いる」

ラプラス「そういった運命を拒もうとあがく者さえ、『私たちラプラスの悪魔』は排除しなくてはならない」

ラプラス「分かっていながら助けることが許されないということは、実に歯がゆいことだ」

ラプラス「あそこにいるラプラスの悪魔の前任者にとっては、特にそうだったんだろう。カオステラーに身をやつすほどに……ね」

巫女一行「「……」」

ラプラス「だからこそ……エクス君たちに1つ助言をしたいと思う」

エクス「なんですか?」

シェイン「その前に、私からも質問いいですか?」

ラプラス「シェイン君。その質問の答えは、どちらでもない……だ。私には性別がないからね。強いて言うなら中性なんだよ、私も奴も」

シェイン「なんですと!?」

レイナ「今ここで聞こうとしたことが、性別の話って……」

ラプラス「いいじゃないか。調律が終われば、君たちのことが記憶から無くなってしまう。今しか聞く機会はない、と思ってのことだろう?」

ラプラス「私の未来を知る能力は、厳密には今の事象から未来を演算する能力だ。要するに、知りたいと考えられることしか分からない」

ラプラス「君たちの記憶がなくなってしまうと、君たちの居場所を把握するのは、おそらく困難になってしまう。調律後は、しばしのお別れだ」

タオ「たしかに、本格的に戦闘をおっぱじめちまうと、もう聞けないことかもしれないからな」

エクス「やっぱり、聞かれることが事前に分かるんですね。しかも、調律後に自分がどうなるかも分かっているなんて」

レイナ「その……なんていえばいいのか分からないけど……」

ラプラス「いいさ。なにも気に病む必要など無い。調律は、この想区に必要なことなのだから」

ラプラス「それはともかく……君たちが『空白の書』について、どう思っているのかは、敢えて聞かないし言わない」

エクス「……」

ラプラス「ただね、『空白の書』というのはそれほど悪いことばかりではないんじゃないかと、私は考えている」

巫女一行「「……」」

ラプラス「確かに、運命に従う生き方の方が容易い。運命を自分で決めることは難しく、そして何より後悔もつきまとうだろう」

ラプラス「自分で決めたことの責任は、自分で取るしかないからね。それが運命で決まっていることだから、などという言い訳も出来ない」

ラプラス「私のような存在とも違ってね」

ラプラス「ま、あそこにいる奴のように、運命通りの生き方に疑問や葛藤を感じる者もいる」

ラプラス「運命通りに生きるというのも、それはそれで色々あるんだろうが。それは単に、運命にどう向き合うかという、心の持ちようの問題だ」

ラプラス「君たちのように、運命そのものを一から十まで考える必要は、どこにもないわけだ。ある意味では、楽とも取れるだろう?」

巫女一行「「……」」

ラプラス「だからこそ、君たちは自らが決めた運命を、自らの手で掴み取ることを、最後まで決して止めないで欲しいんだ」

エクス「運命を……掴み取る?」

ラプラス「そうだとも。運命に逆らうことが許されないこの世界で、運命を記述されていない君たちだけが、運命を自らで決めることが出来る」

ラプラス「運命を自らで決めて、それを自らの力で掴み取る。そのチャンスが与えられているのは、君たちだけだ」

ラプラス「……私から言えるのはそれだけさ。所詮私も運命に従うものでしかないからね。君たちと同じ苦労を分かち合うことは、決して出来ない」

エクス「ラプラスさん……」

ラプラス「それから、これからの作戦だが。君たちは強行突破を考えているようだが、それだけでは屋上までで体力が尽きてしまう」

ラプラス「そこでだ。私の方で陽動を行うから、戦力が分散したのを見計らって、一気に屋上まで攻め入って欲しい」

タオ「……その陽動、連中に通用するのか? 連中だって未来が見えるんだろう?」

ラプラス「まず間違いなく通用する。奴にとって自分と同じ能力を持つ私は、そもそも最大の懸念要素なのだし」

ラプラス「それに、運命の代行者である私という存在は、奴にとって実に目障りに映っているだろう」

ラプラス「本来は全てを演算出来るはずだというのに、私の存在もあって能力が低下し続けている」

ラプラス「排除出来そうなら、理性で分かっていても、衝動が抑えられないのさ。それになにより、私には調律が出来ない」

ラプラス「カオステラーの調律については、『調律の巫女』一行である君たちの特権というやつさ」

ラプラス「それに、一度くらいここは任せて先にいけ! ということを仲間に言ってみたかったのさ。普段は完全に独りだからね」

タオ「分かった……あんたの覚悟は無駄にはしねぇ!」

エクス「死なないでくださいね」

ラプラス「その点は大丈夫だな。奴の演算能力より、こちらの演算能力の方が上だからね」

ラプラス「奴の裏をかきつつ、立ちまわりきって見せるさ」


 きっとその言葉は、事実というよりは、こちらを安心させるための言葉なのだろう。

 とはいえ、他に陽動が可能な人物がいないのも確かだったし、ラプラスの言う通り陽動に徹していれば、逃げきれる算段は無いわけでもなさそうだ。

 なにより、他に作戦を思いつかなかった。僕たちは、ラプラスさんの言葉に従うことを選んだ。


 そうしてラプラスは、陽動のためにあえて、目立つように学び舎に侵攻を始めた。

 とびっきり派手に立ちまわっているようで、だんだん警備が手薄になっていくのが分かる。

 逃走を優先してはいるが、最低限必要なヴィランの排除も行っているようだった。そうして、だんだん戦闘の気配は遠のいていく。


エクス「そろそろ、僕達もいこう!」

レイナ「ええ! そして、この想区を元に戻すのよ!」

シェイン「ラプラスの悪魔さんの覚悟、無駄にするわけにはいきません」

タオ「おうよ、こうなりゃタオファミリーの面目躍如ってやつだ!」


 若干手薄になったとはいえ、ヴィランとの戦闘は完全には避けられるわけもなかった。エクスらは、一気に警備網の突破を図る。

(ここでヴィランとの戦闘)

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