修行と称されたもの


「突然ですがお願いです。この王国、いやこの世界を救ってください!」


「言ったこと合ってたよ…」

「合ってたわね…」


何を仰るのでしょうか、この王女さんは。

いきなり拉致しといて救ってくださいねぇ〜。冗談ってのにも程があるわボケェ!

どうせ魔王のところに行かせて死んでこいみたいなこと言うんだろ。


「何が世界を救えだ!」

「元の場所に帰して!」

「何よあの子…。私より胸大きいじゃない…」

「ヒヒッ!ようやく僕の時代がやって来た…」


ああ、分かるぞ皆。世界を救え?世界を救って何があるってんだ?元の世界に帰して欲しいわマジで。

あと胸のことを気にしている人とと頭が逝っている人は放って置く。


「皆様方がそう仰るのも、無理はありません。しかし!私達には出来ないことを皆様は出来るのです。どうか、その力で私達をお救いください…」

「まあ、話でも聞こうじゃないか」


そう返したのが学級委員の菅原すがわら君。名前は知らん。憶えていない。

見た目はイケメン。そして人望が厚い。勉強運動も出来る。そう、完璧人間だ。

まあ?予想出来ますよ?あの人が勇者って職業なんでしょ?しかも色んな精霊とかにも恵まれている系の人間でしょ?分かってますよ。


まことが言うなら仕方ねえな」

「ま、しょうがないっか」

「有難うございます…」


ほら。でしょ?勇者召喚系なら男学級委員はイケメンで人望が良いってのは常識なんだから。

で、あの学級委員の下の名前って誠って言うんだ。初めて知ったわ。


「実は…」


話の内容は簡単だった。

100年前に勇者が倒した魔王が復活しましたー。倒しきれてないじゃん。何してんだよ、先代勇者。

復活により、魔物が爆発的に増えましたー。冒険者ハッピー。金払う人アンハッピー。

と言う訳で魔王を倒してきてくださいー。面倒ごとを押し付けられる俺たち。可哀想だな…。

倒した暁には元の世界に帰れる…筈です。←ココ重要テストに出るよ!要するに=帰れないってこと。

という内容。


「そうですか…。災難でしたね」


ああ、そうですね。僕たちが災難ですね、ある意味!なんで俺たちに頼むかね?お前らの世界の人を集めて魔王城に突れば良いじゃん。


「では微力ながら僕達も手伝いをしましょう。皆も出来るか?出来る人は拍手をしてくれ!」


何言ってんだよこのイケメンは。そんな死にに行くようなことを皆がやる訳が…


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!


「おいおい嘘だろ…」


皆やるの?出来ちゃうの?死にに行くようなのに?皆さん自殺志望者かなにかなの?

俺は周りを見渡したら、楓を含む、2〜3人の人が拍手していなかった。


「楓なんで拍手しないの?」


俺は皆に聞こえないように小さな声で楓に尋ねた。


「だって面倒くさいじゃない。しかも倒した暁には帰れるかもよ?大体そう言うのは帰れないって言ってるようなもんじゃない」

「だってそう言ってるじゃん。帰れないですよー俺たち」


はあ。マジで最悪だ。まだやりたいゲームがあったのに…。読みたい漫画や見たいアニメもあったのに…。

最悪だ…。おうち帰りたい。あ、帰れないんだったわ。


「では私について来てください」


王女さんは俺たちを連れて、玉座の前まで来させられた。

玉座にはおっさん…いやおじいちゃんかな?そんな人がふんぞり返って座っていた。ムカムカ。


「此度はお主達に申し訳ないことをした。この国の王、儂が詫びよう」


そう言って王さんは座ったまま頭を下げた。王冠被ってんのによく落ちないな。不思議だな。


「いえ、頭を上げてください。むしろ僕達がお世話になるのですから、僕達が頭を下げる方です」


学級委員もといイケメン君がそう言った。

むしろこの王さんにはもっと頭を下げてほしい。何してくれてんですか全く。

俺の天国を軽々ぶち壊してくれましたよね?どうするんですか?


「ではこれから勇者様方のステータスを確認したいと思います。皆様方、この水晶玉に触れてください」


そう王女さんが言って、どこから現れたのかは知らないが、メイドさんが水晶玉を机に置いた。

あのメイドさん綺麗だな。


「分かりました。それじゃ、僕から触れてみるから後から触れる人は僕の後ろに並んでくれ」


イケメン君がそう言い、他の生徒達は次々に並び、列を作った。

俺は列の真ん中よりちょいと後ろぐらい。楓は俺より4人分前だった。


「よし、並んだね?じゃあ触れるよ?」


そう言ってイケメン君は水晶玉玉に触れた。そしたらイケメン君の目の前に文字が浮かび上がってきた。


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名前 マコト・スガワラ


職業 勇者 Lv 1


体力 341/341


魔力177/177


攻撃力 129


防御力 92


俊敏力 114


器用力 56


称号 聖剣使い


スキル 限界突破 聖剣使用 言語理解 火、水、風、土、光属性魔法


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というものだった。うん、高いのか低いのか分からん!

でもRPGでこのステータスは強い方に入るのかな?


「な、なんてことだ…!さすが勇者様!器が違います!普通の人間だったらこんな数値は出ません!」


強いのか弱いのかどっちだか分からん。


「高いのですか?」

「高いに決まっています!」


高いようだ。もしかしたら俺にも見込みがあるかもしれないな。…いや、ないかもな。

だって俺だもん。


とまあ色々あって俺の番が来た。

…なんか無茶苦茶緊張するんだけど。やべえ心臓がバクバク言ってるわ。

俺はうるさい心臓の音を無視して水晶玉に触れてみた。


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名前 ヨミ・ツキヨ


職業 料理人 Lv 1


体力 70(+3000)/70(+3000)


魔力 59(+2200)/59(+2200)


攻撃力 34(+1630)


防御力 479(+7890)


俊敏力 62(+980)


器用力 1599


称号 最果ての料理人


スキル 料理 (硬質化)(鋼鉄化)(神晶オリハルコン化)(全属性耐性)(空間魔法)(鑑定)言語理解


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ナンガコレハ

何この化け物数値は。普通のステータスはそこそこなんかな?でも何だ?このカッコは。

なんか無茶苦茶強いんですけど。ハッ!?もしや楓の顔面潰しのお陰か?マジ感謝だな楓。


「どうですか?」

「こ、これはぁ…」


メイドさん?顔が引き攣っていますよ?


「すみません。こちらに来てもらえませんか?貴方様はもの凄くお強い方なのでもっと強くなるために修行に行ってもらいます」


メイドさんもこのステータスの異常性に気付いたようだな。


「え?急じゃありません?ちょっと楓に話してきてもいいですか?」

「駄目です。さあついてきてください」


ちょっと、待ってよ。このメイドさん無茶苦茶強いんですけど!?どうなってんですか?


「夜弥どうしたの?メイドに連れてかれて」

「助けてくれ楓!この人めっちゃ力強いんだけど!」


俺は抵抗も虚しく、魔方陣的なところに放り投げられ、


「それでは頑張ってくださいね。無能さん?」


とメイドに告げられた。

は?何言ってんだよオイ!俺が無能だと?どう見ても化け物じゃんかよ!自分で言うのもなんだけどさぁ!


「おい嘘だろ!?なんで出れないんだ!?助けてくれ楓!」


見えない壁に遮られるような感じだった。楓が走って俺の方にやってきた。声は聞こえているようだ。

楓は俺に触れようとしたが、


バチィッ!


「いたっ!」


何故か弾かれてしまった。

なんだよ。外でも中でも何も出来ないのかよ。クソッタレが!


「なんで!?なんでなのよ!?なんで夜弥だけがこんなことに!?」


楓が大きな声で叫び、弾かれてながらも、見えない壁にぶち当たった。

俺は何も出来ないまま、何故か意識が保てなくなってきた。


意識がぼんやりする中、楓の後ろにメイドが近づき、耳元で呟いた気がした。


ーあの人が無能で役立たずだからですよ。


と、呟いたように見えた。楓は目を見開き、涙を流した。


「嫌よ!行かないで夜弥!側にいてよ!!!」


楓がそう泣き叫んだ後、俺は意識を手放した。


◇楓

夜弥がいなくなった。正確に言えば何処かに飛ばされた。

理由は単純で、無能だからだそうだ。


「なんで…。なんでよ!無能だから何よ!役立たずだから何よ!ここにいていいじゃない…」


私は今思っていることを吐き出した。


「王様は無能な勇者を処分するように、と仰りました。ただそれだけに従ったまでです」


私の後ろにいたメイドは、冷たい言葉で言い放った。

夜弥がいなくなったことで、夜弥がいた時のことを思い出し、自然と涙が出た。

何で何で何で何で何で何で何で何でなの?たったそれだけでいなくなっちゃうの?

私の頭の中で、そんな考えばっかりが回った。


「ああ?ここどこだ?」


俺は森の中に寝っ転がっていたみたいだ。何故かと言うと理由は簡単。無能だからそうだ。無能のお陰で魔方陣的なところに放り投げられ、ここに転移させられたって訳だ。クソだなオイ。


何?何だ?何ですかァ?無能ってどういう事だ?防御力8000超えてんじゃん!何でや!?


しかしあのステータスのカッコって何だったんだ?もしかして俺だけにしか見えないとか?

もしあのカッコのステータスが本当だったらどうなるんだ?試してみようかな。

俺はその場から立ち、木に近づき、


「痛そうだけど、試しにこのステータスが本物か、確かめてみないとな」


俺は拳を握りしめ、目の前にある木を思いっきり殴った。


バァン!…ギギギギギ、ドスゥゥゥン!!!


「へ?」


変な声が出た。

何これ。無能じゃないじゃん。有能じゃん。化け物じゃん。

しかも拳が痛くない。うんおかしい!何も見ていないふりをしよう!

うん!俺は自分で木を倒した覚えはない!自分は無能、そう無能なんだ!


「それよりどうしよう。この森危険そうなんだよな…」


薄暗いし、動物の鳴き声がうるさい。ギャアギャアとな!

森は速攻出て、街を目指そう。転移?んなもん知るか!こっちはこっちで切り抜けさせてもらうわボケェ!


そう心の中で叫んだ後、俺は何も考えずに森の中を適当に進んだ。


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