第37話 『 遥 』


 マザーコンピューターの画面は、激しく点滅していた。

 そこに表示されている文字も、大きく乱れている。

 誰が見てもヤバい状況だ。

 それを見ながら、遥は言う。



「しばらく見ないうちに……大変なことになってたんだな…………。これは……どうなってんだろ……?」


「ナツメグさんがバンバンと叩いたら、そうなりました」



 紗彩さんは、ハッキリとそう言った。

 ちょっと、紗彩さん……。

 それは黙っていて欲しかったのに……。

 


「ナツメグ……? ホントやってくれるな……。中の接触が悪くなってるかも。一旦開いて、確認する」



 遥ちゃんは、コンピュータールームの隅の方に歩いていった。

 そこにあった色々なものが詰まれた山から、彼女は工具を拾い上げて戻ってくる。

 そしてドライバーで手際良くコンピューターを開けた。



「あー……やっぱりちょっとダメになってる。……ナツメグは、何で叩いたわけ?」


「えっ、ぼ、僕はちょっと……。映りが悪くなったから、動けという意味を込めて叩いたんだけど……」


「これが壊れたら、世界が変わるんだけど? ラスボスだからって、何でもしていいわけじゃないから」


「す、すみません……」


「繊細なんだから、この機械は……」



 遥ちゃんに怒られている僕。

 でも僕はそう言われても仕方ないことをしたのは事実だ。

 申し訳ない。

 


「でも、紗彩姉ちゃんとユーリが普通に話せるようになってて、良かった」



 遥ちゃんはコンピューターを直しながらそう言う。

 ユーリだけ呼び捨てなのがちょっと面白い。

 ……いや、ユーリだけじゃなくて、僕もだった。



「あたしはそんなでもなかったけどな……? 紗彩の方があたしのことを嫌ってたよな」


「そうですか……? ユーリの方が私を嫌っていたでしょ?」


「あたしは別に……」


「何急に平和ぶってるんですか? 私に対してかなり冷たい態度を取っていたでしょう?」


「お前は、あたしがクーデターの……!」



「うるさいな! 気が散るから静かにして!」



 遥ちゃんがキレた。

 ユーリと紗彩さんは静かになる。

 この中では遥ちゃんが最強なのではないだろうか。


 それにしても、ユーリと紗彩さんの仲が少し良くなったみたいで嬉しい。

 これからは、そこに遥ちゃんも加えた皆で、このゲームを良いものにしていくのだ。

 


「とりあえずは直ったけど……。部品が摩耗しちゃってて、そのうち新しいのを探してつけないとダメだね……」


「では、今はもう、プレイヤーはログアウトできる状態に戻ったってことですね?」


「うん。そこは直ったはず。ナツメグは、もうこれ叩くなよ。次叩いたら本当に戻らなくなるから。今度こそプレイヤーがゲームに永遠に閉じ込められちゃうかもしれないから、優しく扱って」


「き、気をつけるよ……。あ、そうだ。僕が作ったウニュ町というのがあるんだけど……、そこがPvPエリアになっててさ。そこで死んだ人が、ゲーム内から消えてしまってるみたいなんだ。もうその人たちは……」


「そいつらなら、今、大広間にいると思う」


「本当? え、どうして?」


「理由は分かんないけど、あたしたちが0013に閉じ込められてる時、武器を持ったプレイヤーがどんどん現れたんだ。テレポートしてきたみたいでさ。そっから人が妙に増えてくもんだから、また大規模なクーデターでもあったのかなって思ったんだけど……、でもそいつらに話を聞いたらPvPで死んだだけだって言う。だから、そいつらのことじゃないかな? 人間をそこに転送するプログラムが誤作動して、そうなってたのかもしれない。後で調べとく」


「そこに飛ばされてたのか……。消えていなくて良かった……」


「そん中に友達でもいたのか? でもナツメグ、友達いなさそうだよな。……いや、ゲームの中にだけは、たくさんいそうだな」


「さっきから思ってたんだけど、遥ちゃんは僕に対してだけ当たりが強くない? 気のせいかな?」


「それはきっと友好の証ですよ、ナツメグさん……。遥は仲が良い人にはフランクに接するので……」


「本当かよ……」



 紗彩さんがそう言うなら……。

 僕は遥ちゃんと上手くやっていけるのだろうか。

 少々不安だ。



「さて。コンピューターはさしあたり大丈夫。でももう少し色々調整しなきゃいけないから……。あたしはもう少しここにいて、引き続きその作業をやってく。そういや、ナツメグは町作ったとか言ってたけど……。他に何か面白いもの、作ったのか?」


「いや、……それくらいかな……」


「せっかくなんだから、もっと楽しいコンテンツをいっぱい作んなよ。でもそういうのは、あたしは思いつかないから……。ナツメグが何か考えろ」



 皆が一斉に僕の方を見た。

 提案しといて僕頼みなのかよ。


 楽しいコンテンツか……。

 


「あのPvPエリアを、まずはもっと整備することかな……? 僕はまずそれが思いつくけど」


「整備……って、どういうことですか?」


「そ、そうだね……。多人数対戦のルールを作るとか……。あ、陣取りみたいなのがいいかもしれない。例えば何十人vs何十人で戦って、相手の陣地にある石を破壊したら勝ちみたいな。あの町でやるんじゃなくて、ちゃんとそういうマップを作って」


「確かにそれは面白そうだな!」



 ユーリが目を輝かせた。

 ちゃんとルールを作って多人数対戦ができたら、本当に面白いと思う。

 ゲームシステム的に、モンスター側であるユーリがそこに参加できるかは分からないが……。 



「私は、もう少し平和なコンテンツがあるといいな……って思います。どうでしょう……?」


「平和なコンテンツ……って、どういうものだろう?」


「もっと、小さな子供から大人まで楽しめるような場所ということです。ナツメグさんは、小さい時、どういうところに行って楽しかったですか?」


「恐竜博」


「では、恐竜のコンテンツを作りましょう。恐竜が出てくる……泉ですとか」


「いや、紗彩さん、それはセンスなさすぎでしょ。恐竜が出てくれば喜ぶとかいう発想も短絡的だし、泉から恐竜が出てきて一体何が楽しいの?」


「それ、面白そうだな!」



 ユーリがそう言った。

 遥ちゃんも頷く。


 マジかよ。

 皆、そんなに恐竜大好きなのか。



「他には何があるかな? このゲームに必要なこと」



 遥ちゃんがそう言って僕の顔を見る。

 ……何かあるかな……。

 もう思いつかないぞ……。



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