第34話 真相
「紗彩さん、この部屋にザコキャラを500体配置するとかどうだろう……! そうすればクーデターなんて……」
「この場所には配置できないでしょう……。コンピュータールームですよ、ここは。……ナツメグさん、私が非戦闘員で、申し訳ないです」
「……そう謝られると……。僕自身がコンピューターを叩いておかしくしてしまったかもしれないわけだし、紗彩さんはそんなことを言わないでほしい……」
「私は、ナツメグさんがラスボスになるように、ちょっと仕組んでいたのです。実は私が、ナツメグさんをゲーム内に残して、最後の塔に来るよう誘導したんです。……プレイヤーが本当に消えてしまったんだとしたら、私の責任です。私が、責任を取ります」
「責任を取るって……」
僕は修復システムを起動させようとしてみたのだが、それを上回る壊れ具合のようで、一切操作を受け付けてくれなかった。
修復システムですら使えないのか……。
これは本当にヤバいのでは……。
「もうそこまでコンピューターはダメになっていたんですね……」
すると、背中に大きな弓をしょった青い髪の女性が、コンピュータールームに颯爽と現れる。
それはユーリだった。
まさか……恐れていたことが……。
「紗彩、……久しぶりじゃねぇか」
「ユーリ……。話は色々聞かせてもらいましたが……、あの場所を見つけてしまったんですね」
「そうだな、やっとだ。まさかプレイヤー立ち入り禁止区域の、岩場の中にあるとはな……。岩の下にあったんだ。見つかるわけねぇよな」
「そこから、どうやってここまで一瞬で……?」
「いい質問だな、紗彩。どうやってだと思う?」
「皆を敢えて瀕死にしてエマージェンシーテレポートを使うくらいしか……、思いつかないですね。それか、全く別の新しい方法でしょうか」
「いくらあたしだって、全員瀕死にするほど悪魔じゃねぇよ……。そうだな、全く別の新しい方法、ってやつだ」
「遥が開発したんですか……?」
「よく分かってるな。正解だ。閉じ込められてる間、遥がずっとこのテレポートの開発にあたってたらしいんだ……。栞が成し遂げられなかった、『瀕死の時じゃなくても使える人間用のテレポート』が完成していたんだ。とは言え、好きなところに飛べるわけじゃないけどな。ここにしか来れない」
「遥……すごい……。……遥は……元気なんですか……?」
「元気だったぞ。もうすぐここに来るはずだ」
「遥まで味方につけて……、ナツメグさんを倒しに来たんですね? そのために彼らを解放して……、また悲劇の連鎖を……」
「考えすぎだぞ、紗彩。あたしは、クーデターを起こす気はねぇよ」
「そんな都合のいい言葉に、私が騙されるとでも?」
「あたしは単に、あたしに協力してくれたヤツらを助けたかっただけだ。ラスボスになるつもりもねぇよ。ナツメグは意外と良いヤツだ。何も不満はねぇよ」
「信用できないです」
ユーリと紗彩さんが話しているところに、コンピュータールームの入口のところから、女の子がひょこっと顔を出した。
その子は、赤っぽい茶髪のショートカットヘアに、赤い花の髪飾りをつけていた。
初めて見る女の子だ。
「紗彩姉ちゃん……!」
その子はそう叫ぶと、長めの赤茶色のストールを引きずりながら、紗彩さんのところへ走っていく。
彼女が着ているミニスカートのドレスも赤茶色だ。
相当、赤茶色が好きな子なのだろう。
もしや、この子が……。
「遥……? 遥……! 無事で、良かったです……」
紗彩さんはそう言い、走ってきた遥さんと熱い抱擁を交わした。
この子が遥さん……。
その子供っぽさから、「遥さん」と言うより、「遥ちゃん」と言った方が良さそうだった。
遥ちゃんと紗彩さんの感動の再会を特に気にせず、ユーリは言う。
「紗彩、お前は何かあたしのこと誤解してるみたいだから、言っておきたいことがある。あの、クーデターの時のことだ」
「言い訳でもするつもりなんですか……?」
「クーデターの時……というか、正確にはクーデター未遂の時だが。クーデター計画が失敗して、皆が捕らえられて、あの大広間に並ばされたその時の話だ」
「その時何があったか……教えてくれるんですか?」
「そうだ。紗彩は人伝えにしか、その時のことを聞いてないだろ。ちゃんと聞けよ」
「ユーリが栞をハメて、栞が消された……。それ以上のことがあるんですか?」
「栞が消された……のは事実だが、あたしは栞をハメてなんかいない」
「栞はユーリを庇って、それにユーリが乗っかって、栞は死んだんですよね?」
「大筋はそんなに間違ってないな……」
遥ちゃんが、紗彩さんからゆっくりと離れ、ユーリの方を向く。
遥ちゃんに、「とりあえずコンピューターを直してくれ」と言える雰囲気でもなかった。
……遥ちゃんは中学生くらいだろう。
この子がプログラマーとは……想像できない……。
ユーリは続ける。
「あたしは、栞を死なせたかったわけじゃないんだ。確かに、栞は私のことを庇った。急に、『私がこのクーデターを計画した』って言い出したんだ。あたしは驚いた。あたしの仲間たちも皆驚いたと思う」
「それは本当なんですか?」
「本当だ。あたしが嘘を言っているわけじゃない。なんならそこの大広間にいるあたしの仲間たちに聞けばいい」
「口裏を合わせているんじゃないですか……?」
「紗彩は疑り深いな……。あたしはもう、嘘はつかないと決めたんだ。信じてほしい」
「栞がユーリを庇ったその時、ユーリは何て言ったんですか?」
「『そうだ』と言った。栞の意図は全く分からなかったけどな……。彼女なりに、何か考えがあったんだろう。あたしは死にたくなかったから、つい、栞の言葉に乗ってそう言ってしまった。最初から栞をハメようとしたわけじゃないんだ。……結果的には、そう思われても仕方ないんだけどな……」
「やっぱり、ユーリが栞を…………」
「でもあたしは、少し落ち着いて、これは違うなって思った。このまま栞が死んだら、あたしは嫌な気持ちになる。そんな気持ちを背負ったままこのゲームで生きていくのは、辛いことだと思ったんだ」
「ユーリにも人の心があったんですね」
「ハイパーアルティメットキングドラゴンは、栞とあたしの言ったことを信じた。栞は『削除』されることになった。……あのラスボスは怒りに任せて、すぐに栞を削除しようとした。すると、栞が、あたしの近くに来たんだ。あたしは小さい声で『何でだ……?』と聞いた。何で『私がやった』と自ら言い出したのか知りたかったからだ」
「栞は……何て答えたんですか……?」
「『こうなってしまったのも全部私のせいだから』って、言った」
「栞が……、本当にそう言ったんですか?」
「本当だ、ハッキリと覚えてる」
「信じられないです…………」
「その言葉があたしの心にずっと、引っかかってるんだ」
ユーリは、嘘は言っていない。
何か根拠があるわけではないが、僕はそう思う。
遥ちゃんは、何か話したげな表情のまま、ユーリと紗彩さんの会話を聞いていた。
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