第31話 二度目の別れと0013

「『墓場』の座標をコンピューター上に表示させるためには、『0013』という四ケタの数字が必要なんじゃ」


「0013……。ナツメグ、覚えとけよ! あたしは忘れるかもしれねぇからな!」


「それくらいなら覚えられるでしょ……」


「モンスター、ちなみに何で0013なんだ?」


「何でも良かったんじゃが、13という数字はあまり人間に好かれてないということでのう。あまり好かれていない数字にしておけば良いのではと、……その程度の理由じゃ。あのコンピューターに0013と打ち込めば、座標がマップ上に表示される。そしてそこへ行くと、入口でもまたその四ケタの数字を要求されるんじゃ。そこでも同じように0013と入力すれば、扉は開かれるんじゃ」


「一回最後の塔に帰らなくても、お前が今、座標を教えてくれればここから直接行けるじゃねぇか。そうすれば手間がちょっと省けるだろ」


「ワシも正確な座標は思い出せん。山だとか川だとか目立つものがあればいいんじゃが、如何せんまだ開発されていない場所じゃからのう……」


「開発されてない区域にあるのか……?」


「そうじゃ。まだ、プレイヤーが入れない領域じゃ」


「……なるほど、まあ想定の範囲内だ。プレイヤーがいるところにそんなの作ったらバレちまうしな。よし、じゃあナツメグ。早速最後の塔に戻るぞ」


「ムーンじい……。いや、ザ・クレーター……マン……ムーン? ……さん。 ……教えてくれてありがとう」


「ワシも、『墓場』に囚われている者たちが解放されることは嬉しいと思っておる。何しろ、クーデターにほぼ関係のない者もそこにいるでのう……。特に……」


「ナツメグ、はやく行くぞ!」



 もうちょっとムーンじいさんと話していたかったのに……。

 しょうがない。


 ムーンじいさんのフルネームは、多分僕の言った名前で合っていたのだろう。

 特にツッコまれなかったから。



 ムーンじいさんに別れを告げ(今回は軽めに)、僕はユーリのドラゴンの後ろに乗った。





 ボウケンクエスト -最後の塔-




 僕らはバタバタとコンピュータールームに到着する。

 僕らは……というか、僕は比較的普通に到着したのだが、ユーリはやけにはしゃいでいた。

 確かに、ずっと探していたものがやっと見つかったのだから、テンションが上がるのも頷ける。

 かく言う僕も、ちょっとワクワクしていた。

 ユーリは、マザーコンピューターの前に座る。



「ナツメグ、何だっけ、数字」


「0013だよ」


「そうだったな」


「いや、流石にこれくらいは覚えておけるでしょ。しかもちゃんとそうなった理由まで教えてくれたんだから……」


「うるせぇな、ごちゃごちゃと……。……って、そうだ。あたしはこれを操作できないんだった。おい、ナツメグ、はやく打ち込んでくれよ」



 そう言い、ユーリは席を立つ。

 入れ替わる形で、僕はそこに座った。

 青いドラゴンは部屋の隅でこっちの方を見ている。



「……それが人に物を頼む態度なのかよ……まあいいけどさ……」



 僕がマップに0013と打ち込むと、すぐにある座標が表示された。

 ユーリは画面を食い入るように見つめている。

 これが……探していた場所……。



「この座標は……、縦がここで、横がここだから……。この地点じゃねぇか……?」



 そこに示されていた場所は、ムーンじいさんが言った通り、プレイヤーは立ち入ることのできないところだった。

 当然、そこに僕は行ったことはない。

 紗彩さんが、そこはいじらなくていいと言っていたところでもある。



「すげぇぞ……ナツメグ! あたしが探してた場所だ……。このあたりは、とにかく岩しかないところだ。このあたりに行ったことはあるが、入口なんてあったかな……。まあいいや、ナツメグ、今すぐ行くぞ! さっさと座標を覚えろ!」


「それが人にものを頼む態度なのか……まあいいけど……」



 僕らはまた青いドラゴンに乗った。

 ユーリの後ろにしがみつきながら、最後の塔を後にする。

 悪い気はしなかった。

 何がとは言わないが。



 しばらく飛んでいくと、高い柵が見えてくる。

 プレイヤーはこの柵を越えることができないのだ。

 だから少し、興奮した。

 行ったことのない空間に、初めて入るのだ。


 ドラゴンとユーリは、何の気なしにその境界を越えていく。

 ユーリ達にとっては至って普通のことなのだろう。





 ボウケンクエスト -禁止区域-




 僕らはプレイヤー立ち入り禁止区域に入った。


 左手には木がたくさん見える。

 木がたくさんあるということは、森なのか。

 いや、林なのか?

 森と林って、実際どう違うんだろう。


 右手は岩場だ。

 ひたすら岩がある。

 本当に何も開発されていない場所っぽい。


 ドラゴンは右手の方へ飛んでいき、地上には岩しかなくなってきた。



 今、どこらへんなんだろう。

 僕はバーチャルな文字盤を出して、座標を確認してみた。

 日の光が反射して眩しい。



 ……って、ちょうどここじゃないか。



「ユーリ、ちょっと!」


「……何だよ。催したのか?」


「いや、座標的に、ちょうどこのあたりなんだけど……」


「何だと、お前、はやく言えよ!」


「ごめん……。……って、僕が謝るところなの?」



 ドラゴンは座標をズラさないようにゆっくりと降りていく。

 僕が気づかなかったら普通に迷子になるところだったんじゃないのか……?



 着陸。

 ユーリはすぐに地面に降り立つ。

 続いて僕もドラゴンから降りる。

 僕は、ドラゴンの乗り降りが少し上手になったかもしれない。



「……お前、本当にここなのか?」


「座標上では……このへんなんだけど……」



 あたりには岩しかなかった。

 遠くにはさっきの森だか林だかが見える。

 境界線である高い柵もぼんやりと見えた。



「……マジで、岩しかないじゃねぇか」


「間違いないね」


「まさか……岩の下か……?」


「『墓場』は、見つかってはまずいところだから、岩の下に隠したというのは十分考えられるよ。見てすぐ分かるレベルのものなら、紗彩さんかユーリに既に見つかってるだろうし」


「正確には、どの岩の下なんだ?」


「うーんと……。……今ユーリが立ってるところの下だ」


「これか……。本当に座標的にはそうなのか?」


「そうだね。そこからちょっと動くと座標は変わっちゃうから」


「このバカでかい岩をどかそうっていうのかよ……。あたしと、ナツメグと、ドラゴンの三人で、何とかなるか……?」


「大きさ的に厳しそうだけど……。でもせっかくここまで来たんだから、やってみよう」


「じゃああたしはこのあたりを持って……って、わああああっ!!」



 ユーリは少し可愛い声で叫び、思いっきり後ろにひっくり返った。

 それと同時に、巨大な岩がポーンと宙に投げ出される。

 ミニスカートのユーリがあられもない姿になったのがどうでもよくなるくらい、ユーリの怪力に驚いた。

 いや、……どうでもよくなってないな。

 ユーリはやっぱり青が好きなようだ。



「おい……お前……。この岩……軽いぞ……」


「そうなの?」



 僕は試しに足元にあった岩を持ち上げてみる。

 それは発泡スチロールのような感触と重さであった。

 ……何だこれ……。

 ユーリはゆっくりと立ち上がる。



「見た目だけの岩だったようだな……。流石未開発の場所だ。まあ、所詮ゲーム内の岩だしな。……でも、見てみろよ。ナツメグ。マジで……あったぞ」


「……本当だ……」



 その岩をどかした場所には、大きな入口があった。

 そして、予想していた通り、数字でロックが解除できるようになっている。

 ユーリはすぐさま数字を入力しようとする。



「お前、数字いくつだっけ?」


「0013」



 ユーリがそれを素早く打ち込むと、重そうな扉はあっけなく開いた。

 中を少し見た感じだと、奥に多くの部屋が存在するようだ。

 ユーリはいきなり中へと入っていく。



「あたしはこの時を待ってたんだ……。ありがとな、ナツメグ」



 その時、何かの鼓動を身体で感じた。

 ……これは着信だ。

 バーチャルな文字盤を空中に出して見てみると、それは紗彩さんからのものだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る