第29話 禁忌の技を使う時
朝の光に包まれながらUFOに掴まる僕。
目的地は、最後の塔最上階。
心なしか、UFOの操作性が良くなっている。
ムーンじいさんのおかげだ。
もうメンテはできないな、と思う。
メンテをすれば、中ボスたちが最後の塔に集合することになるからだ。
つまり、またあのムーンじいさんと顔を合わせることになる。
それが若干気まずい……。
何で僕は、もう会えないみたいな雰囲気を出してしまったのだろう。
「最後に、あなたみたいなモンスターと会えて良かった」とか……。
無駄にクサいセリフを言ってしまった。
仮に僕がユーリの味方についたとしたって、ムーンじいさんとまた会う機会もあるだろうに……。
そんなことを考えていると、あっと言う間に最後の塔に着いた。
ボウケンクエスト -最後の塔-
最上階に大きく開いた入口。
UFOが来たから開いたのか、最初から開いていたのかはよく分からない。
ずっと開いてるんだとすると、ちょっと不用心な気もしてくる。
中に入るとそこは、水を打ったように静かだった。
誰もいないのだろう。
……誰かいると言っても、傷ついたモンスターか紗彩さんかユーリくらいだが。
僕は大広間にUFOを停め、というか置いて、コンピュータールームへと向かう。
ユーリはここに来てずっと待っていたのだろうか。
コンピュータールームのドアを開け……ようとするが、ドアはまだないままだった。
誰か勝手に直しておいてくれるとか、ないんだな……。
ゲームなんだし、画面を切り替えて戻ってきたら平然と復活していても良さそうなものだが。
「遅かったじゃねぇか、ナツメグ」
「あ、ユ、ユーリ……。遅れて申し訳ない。ちょっと色々あって……」
ユーリが、僕がいつもいるマザーコンピューターのところに足を組んで座っている。
一晩中待っていてくれたに違いない。
しかし、彼女はそこまで怒ってはいないようだった。
「……で、答えは決まったのか?」
「決まったよ」
「お、おう。……お前のことだから、『まだ悩んでる』とか言うと思ってたぞ。で、どうなんだ?」
「僕はユーリの言うことを信じることにしたんだ。このゲームは、謎が多すぎるし、理不尽だ。やっぱりユーリの言う通り、僕は紗彩さんに利用されている気がする」
「やっとその気になってくれたか」
「僕がこのゲーム側の言いなりになっていたから、多くの人を酷い目にあわせてしまった。このままでは、負の連鎖は続くと思う。だから……、僕はユーリの言うことを聞くことにした」
「お前、意外と物分かりのいい奴だな。じゃあこれで決まりだな。あたしと、このゲームをイイものにしていっちまおう。で、まずお願いなんだが」
「お願い……?」
「あたしも、紗彩やナツメグと同じように、配置無しでいきたいんだ。その方がお前も楽だろう。色々と手伝ってやるよ」
「あ、そういえばそうか。ユーリはこの塔に配置されていたんだった」
ユーリを配置から外すと大変なことになる、とかつて紗彩さんが言っていたことが、ふと頭をよぎった。
……そんなことはない。
その紗彩さんに従っていたら、こんなことになってしまったんだ。
ゲーム側の言いなりになっていた方が、大変なことになる。
「お前、何、変な顔してんだよ」
「この顔は元々だ」
「別に、あたしの配置を外したからって、お前を殺したりはしねぇぞ?」
「……物騒なことを……。まあ、そうだと信じてるけど」
ユーリは椅子から立ち上がる。
僕はマザーコンピューターの方に向かい、その温かくなった椅子に座った。
さて、ユーリの配置を最後の塔から外すぞ。
……あれ、できない……。
おかしい、そんなはずは……。
「お前、何やってんだ?」
「いや、機械が僕の言うことを聞いてくれなくなった。この決定ボタンが押せないんだ」
「……それはメンテに入ってないからだろ」
「そ、そっか……。……じゃあ、僕が禁忌の技を使うしかないね」
「何だ? それ」
「一瞬だけ緊急メンテを入れて、すぐ元に戻す禁忌の技だ。僕はかつてそれを使って皆に迷惑をちょっとかけた」
「別に、事前に告知してもいいんじゃねぇのか?」
「中ボスたちがここに戻ってくるのは……諸事情でダメなんだ。一瞬メンテ入れてすぐ戻せば問題ないよ」
「一瞬だけメンテ入れます、っていう告知にしておけば、プレイヤーも分かるし、中ボスも戻ってこないんじゃないのか?」
「確かに、それはそうかも……。ユーリは意外とまともな考え方をしてるんだね」
「そうか? 普通のことを言っただけだが」
「『今から一瞬だけ緊急メンテ入れます』……と……。この世界全体に告知しておこう。よし、じゃあ緊急メンテボタンを……」
僕は緊急メンテボタンを押し、世界は緊急メンテに突入した。
そしてマザーコンピューターを操作し、ユーリの配置を外すことに成功する。
もう一度緊急メンテボタンを押して、緊急メンテを解除した。
これでムーンじいさんに会わなくてすむ……。
「これであたしも自由の身か……。お前がラスボスになった当初は自由にさせてもらってたのにな。急に最後の塔から出られなくなって……。まあいいや。これからは自由だ。ナツメグ、元プレイヤー同士、仲良くやろうや」
ユーリがポンと肩を叩いてきた。
ポン、というか バン! に近いかもしれない。
なかなかの痛さだ。
「このマザーコンピューターを動かせること以外は、あたしとお前は大体同じだよな? ラスボスの特権って何かあるのか?」
「何だろうな……。このコンピューターを動かせるくらいかな。あ、でも……違いと言えば、他の人間が使える「瀕死になった時にできるテレポート」は僕には使えなかったな」
「エマージェンシーテレポートか。まあ、プレイヤーはそこまで力はねぇし、あたしたちが死ぬこともねぇだろう。お前が変なもんを配布しまくったりしなければな」
「これからは気をつけるよ……」
「そこでもう一つ、お前に頼みたいことがあるんだ」
ユーリは少し笑みを浮かべながら、そう言った。
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