第27話 彼の名は。


「あなたは他に、何を知っているんですか?」



 ムーンじいさんの名前をフルで呼ぶのは面倒なので、「あなた」と呼ぶことにした。



「ワシは……そこまで詳しく知らんのじゃ……。申し訳ないが……」


「いや、あの場にいたようなものでしょう?」


「ワシは、ただいつものようにコンピュータールームにいただけじゃった。広間が騒がしくなったと思ったら、それからしばらくして、ワシはそこを追放されたんじゃ」


「なぜ……? あなたは何もしてないでしょう」


「栞様の部下だったからじゃろう。その時広間で何が起こっていたのか、詳しくは分からん。じゃが、後から聞いた話によれば、……その時、栞様が咎められ、この世界から消されていたらしいのじゃ」


「近くにいたあなたでさえ、その時のことは分からないのか……」


「ワシは、栞様に、別れの挨拶さえできんかったのじゃ。まさか消されてしまうとはのう……。栞様はこの世界に大きく貢献していたのじゃ。だから、こんなことになるとは思ってもみなかったのじゃ」


「僕もそこは、引っかかるところなんだ。クーデターを起こしたのはユーリらしいのに……」


「そうらしいのう。その時ユーリが連れていた仲間は、今も幽閉されておる。そして、栞様の関係者も軒並み処分されたのじゃ……。全く無関係な栞様の妹や、仲の良かった者たちがのう……。ユーリと栞様に近い存在の者は次々と閉じ込められていったわい」


「少しでも疑わしいと思った人は全員捕らえてしまったのか……。じゃあ、あなたはなぜこんなところに?」


「……ワシがモンスターということは、お忘れかのう? ワシはモンスター。言われたことしかできんからのう。エンジニアの仕事も、栞様に言われてやっていたことじゃ。自分の意思は無いんじゃよ」


「栞さんといつも一緒にいたのに、それだけで済んだのか……」


「ワシは所詮心の無いモンスターじゃ。言われたことしかできんのじゃよ。だから……今はワシにとって栞様は敵……なのじゃ……」


「敵? ずっと一緒にこのゲームのシステムなんかを作ってきた間柄でしょう?」


「ワシは、ハイパーアルティメットキングドラゴン様に、そう思うよう指示されたのじゃ。どれだけ栞様がこのゲームを破壊しようとしていたかを知らされて……」



 ズズズズズン…………。



 何かが破壊される音。

 遠くで爆発が起こっているらしい。

 ただ、微妙に床が揺れていることからして、この塔で起こっている爆発のようだ。



「派手に……やっておるわい」


「派手に……? あ、そうだ! xo魔梨亜oxたちは……」



 僕がコンピューターにうつるモニターをくまなく探すと、消えかかったモニターに、何人かの人影が映っていた。

 そのモニターの映りが悪いのは、今の爆発のせいだろう。


 これは、……xo魔梨亜oxたちだ。

 それと……大量のザコモンスター。 



 なぜ、xo魔梨亜oxたちは逃げない?

 なぜ、戦っているんだ?

 死んだら終わりだろう。



「ザ・クレーター……マン・ムーンさん! このザコモンスターの数は変えられるんですか?」


「ここからでは……無理じゃ」


「コンピュータールームはここにはないんですか?」


「全ては、最後の塔のエンジニアルームから操作するしかないのじゃよ。あそこがこの世界の中枢じゃ。ザコモンスターの数を変えるには、あそこに戻る以外にはない……」


「他にやり方はないんですか?」


「残念ながら、無いのじゃ」


「今から最後の塔に……。そんなの間に合わない!」




ズズズズズン…………!!!!




 もう一度爆発音。

 そして、モニターの中から悲鳴が聞こえる。

 xo魔梨亜oxのものだろう。


 そこを映していた映像は、激しいノイズと共に、消えた。



 何てことだ。

 どうして逃げなかったんだ?



「じいさん! あのエレベーター、使いますよ?」


「ワシは……ザ・クレー……」


「ちょうど10階に止まることってできるんですか? 僕が乗った時は何か勝手に動いてましたが……」


「あのエレベーターは、そこの小さなコンピューターで制御しているのじゃ。勝手には動かん。中から操作はできんのじゃ。つまり、誰かがここにいないとあれは動かせん」


「じいさん! じゃあそれを10階まで動かしてくれませんか? 大至急!」


「ワシの名はのう、ザ・クレーターマ……」



「ラスボスの命令だ! あのエレベーターを10階に止まるように操作してくれ!」



 僕は彼の返事を聞かず、広間の方に駆け出した。

 無視したわけじゃない。

 本当に時間がなかったのだ。

 そして、ドアが開いたままのエレベーターに乗り込む。



 それに乗った瞬間、エレベーターがゆっくりと下に動き出した。

 ムーンじいさんが上手くやってくれているんだ。



 エレベーターはどんどん加速していく。


 

 だいぶ速くなったなと思った瞬間、ガクンとそれは止まった。

 両側にドアが開く。 


 僕は、10階らしき場所に降り立った。


 そこはだいぶ煙に満ちている。

 ということは、ここは10階で正しいのだろう。


 人の気配はない。

 スーパーゴブリンたちだけが、そのあたりを徘徊していた。

 結構な数いるぞ。



 ……何かが、落ちている。



 近づいてみると、剣が二本、床に落ちていた。

 彼らの……ものかもしれない。

 そうでないことを願うが。



 僕の近くに落ちていた方の剣を手に取る。

 大剣だ。



 辺りは暗いのに、その剣の柄の部分は金色にキラキラと光った。



 これは……、さっき僕が見た剣だ。


 あの、瀕死だった剣士が持っていた剣。



 ………………。



 何てことだ。

 二本落ちている、ということは……。

 二人も……。



 床に落ちている、もう一本の剣の方に目をやる。



 ……よく見ると剣じゃない。

 日本刀だ。


 日本刀……? 

 彼らは全員大剣だったはずだぞ。



 ……そうか、鈴木君のか……。



 鈴木君…………。



 ………………。



 ガラガラガラ…………!!!!


 ミシミシミシ…………!!!!


 ミシ、ミシミシ……!!!!




 天井から何かが落ちてくる。

 何か……というか、天井の一部だ。

 爆発で、このフロア自体が崩れかかっているのだ。



 危険だ。

 もうこれ以上、ここにいることはできない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る