第22話 牙を抜かれたGMと


ボウケンクエスト -平野-




 ギュゥゥゥゥ……ン…………。



 聞き慣れた音がする。 

 それは空から聞こえてくるようだった。


 しかも、だんだん大きくなってくる。

 音のする方を見てみると、



 ……僕らの乗ってきた円盤が、勝手に空を飛んでいるではないか。



「あ、あれ……? あれって、僕の円盤じゃ…………」


「あ、ナツメグのUFOじゃん!! UFO!!」



 UFOは高速で空を横切り、今僕らが向かっている月の塔の最上階へと吸い込まれていった。



 あの円盤…………、傍から見たらあんなに速く飛んでいたのか。



 って、そんなことを呑気に考えている場合じゃない。

 なぜ月の塔に……?


 鈴木君とxo魔梨亜oxもただ茫然とそれを見ていた。



「……何で、ナツメグのUFOが月の塔に……入ってったの……??」


「いや、僕も分かんないんだけど…………。……何なんだよ…………。マジかよ…………。……自転車が盗まれるみたいなノリで、円盤がパクられたっぽい」


「あのUFOって、自動運転あるの?? 自動運転!!」


「……誰かが乗ってないと動かないと思うよ……。実はあのUFOのこと、僕もよく分かってないんだけど……」


「分かってないのによく乗れたね!!」


「試行錯誤の末、飛べるようになったんだよ。ON/OFFっぽいボタンと急加速ボタンくらいしかないけど……。説明書もないし、誰もあれの乗り方を教えてくれなかったから、僕は頑張ったよ」


「……勝手に動くことがないとすると、ナツメグの言う通り、誰かにパクられたのかもね」


「うーん……。でもあれはそのへんのプレイヤーが運転できるのかな……? できないと思うけど……。いや、分かんないな……どうなんだろ……」


「愛車が盗まれたのに……いや、愛円盤か、……愛円盤が盗まれたのに、やけにナツメグは落ち着いてるね!!」


「……今焦ったって、別に取り返せるものでもないじゃん。『待ってくれ!』って慌てて叫んでアレが戻ってきてくれるなら既に叫んでるよ」


「あとは、行き先が問題だよね!! あそこに用事があるって……。何なんだろうね。ナツメグと同じようなGMかな??」


「僕に逆らえるようなやつはいないはずなんだけど…………。多分ビビってそんな大それたことは誰もできないと思うんだけどな」


「ナツメグってそんなに偉かったの??」


「……あ、いや、ま、まあね。ちょっとだけ偉いというか……。ちょっとね」


「流石だなー!! 流石ナツメグ!! ていうかあたしもそれ、入れるの?? あたしもナツメグみたいにGMになって、チート野郎たちを撲滅したいんだけど!!」



「……ナツメグ君、GM……だったのかい!? 」



 鈴木君は驚いた顔をしてこっちを向いた。

 彼にもバレちゃったじゃないか……。

 僕は鈴木君の、その全身赤の和服にサングラスという恰好にいまだに驚いているが。



「ナツメグ君、何で君がGMに……?」


「僕はこのゲームの廃人だったからさ、運営側が、プレイヤーとしての意見が聞きたいとかって言ってきて……」


「ナツメグ君。GMって、そういう役割もあるのかい? 運営に意見できるような」


「あ……、まあそうかな。結構その、運営の手伝いって感じのことも……してなくもないかな……」



「面白い、この俺を……アカウント停止処分にしようって、わけだな?」



「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。別に、しないよ」


「GMは、不正利用者などを撲滅するためのものだろう? なぜしない? 俺はここにいるんだぞ?」



 何でこんな妙に強気なんだ……。

 本当にアカウント停止されたら困る癖に。

 鈴木君の白髪(本人曰く銀に染めた)が風に揺れた。


 そういえばかつて、ゴーストの森にてロメオαとの取引があった。

 しかし「僕がGMであることを黙っている」というこちらから出した条件は、破綻してしまったのだ。



「鈴木君と、ロメオαは、様子見なんだ。加速器しか使ってないでしょ? 僕はもっと酷いのを取り締まっているんだ」


「確かに……そうだ。ロメオ様は加速器しか使わない。ナツメグ君たちとゴーストの森で戦った日、ロメオ様はもう加速器しか使わないと俺に言っていた。……しかし……加速器はいいのか?」


「今は、それはそこまで皆に影響を与えてないから。比較的ゲームバランスを大きく壊していくものではないからね」


「ゲームバランスを大きく崩すものと言ったら、例えば何があるんだい?」


「最近あったケースでは、アイテム増殖とかかな。少年がやってたのを見つけてアカウント停止にしたよ」


「ふむ……。なるほどな。つまり、俺たちをアカウント停止処分にはできない……ってわけだ」


「できないんじゃなくて、しないって言ってるじゃないか……」


「ナツメグ君、張り合いがないな。君は、もう牙を抜かれてしまったのかい?」


「牙が抜かれたって言いたかっただけだろ……。僕は何でもかんでもアカウント停止にしたいわけじゃないんだ。なるべくなら、それをやめて健全なプレイヤーに戻ってほしいと思ってる。プレイヤー自体を減らしたくはないんだよ」


「俺はいつでも、ナツメグ君と戦う覚悟はできているからな?」


「……はいはい……」



 僕とxo魔梨亜oxは笑っていた。



 それにしても……一体何なんだこの展開は。

 まさか円盤が乗っ取られるなんて……。


 UFOに勝手に乗ってったやつは誰なんだろう。

 ここから見る限りでは誰も乗っていないように見えたけど……。

 ……まさか、かなり小さなモンスターか何かが運転していたのか……?


 いや、思考を持って自ら動ける中ボスクラスのモンスターはちゃんと塔に配置したはずだ。

 しかも、モンスターは、ラスボスの乗り物に乗って移動するほどの度胸はない。



 では一体なぜ……。

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