第23話 裏切り、嵐の前の騒がしさ


「ナツメグ。まぁ、月の塔には、あたしたち元々行くつもりだったから良いじゃん!! 一石二鳥!! 一石二鳥!!」



 これで行かざるを得なくなったじゃないか……。

 断ろうと思っていたのに……。


 もしこれがモンスターの仕業だったらマジで最悪だ。

 勝手に円盤に乗っていきやがって……。

 プレイヤーの仕業でも最悪だが。


 何て事をしてくれたんだ。

 そいつはもう囚われの身決定だろう。


 ……ってのはやりすぎか。

 そんなことをしたらクーデターを起こされてしまう。



 もしモンスターのうちの誰かが僕に反抗してそういうことをしたんだとしても、僕は何も言えないなと思う。

 僕だってあのモンスターたちに酷いことをしてしまっているからだ。



 ……誰かを処罰するなどしなくてもいいが、しっかり彼らと話し合う機会があったっていい。

 僕は中ボスクラスのモンスターとちょっとしか話したことはないし、向こうもこっちがどういう人なのか分かっていないだろう。


 そうだ、今度メンテで皆が集まった時に、ちょっと話し合ってみよう。

 いくら僕が勝手に色々決められると言っても、皆の意見を参考にした方がいいに決まってる。

 いつだったか、モンスターたちに建設的な意見を求めた時は無視されたけど……。

 でも、もう一回尋ねてみよう。

 今度は真面目な感じで。


 まぁ、僕は既に嫌われてるかもしれないが……。

 特に樹とかに。 



 とりあえず今は、月の塔最上階に行ってUFOを取り返さなければいけないのだ。

 あの円盤に一体何が起こったんだろう……。



「ナツメグ、月の塔の最上階って、何があるの??」


「……何だろうね。僕がいくらGMになったからって、ダンジョンがどうなってるかは分からないよ」



 すっかり自分がGMだという気になってきた。

 本当にGMだったらどんなに楽だったか。

 ……いや、GMはGMで辛いんだろうな。

 誰か適当なやつがラスボスになってて、僕がその命令を聞いてGMをやっているという展開もまた面倒かもしれない。

 そう考えると、これで良かったのかもしれないな。



「あ、でも、xo魔梨亜ox。ボスが一人いるよ」


「まぁ、いないと張り合いないよね!! 何てやつ?? 強い??」


「誰だろ……。きっとそこまで強くないような気もするけど……。多分月にちなんだ何かがいると思われるよ」



 月の塔の中ボスは誰だっけ……。

 しかし、待てよ。

 最上階に行ったところでどうする……?

「ナツメグ様! どうしてここに?」なんて言われたら終わりじゃないか。

 ナツメグ様ってまずいだろう。



「やっぱり……僕は行くのやめようかな……。なんて……ハハハ…………」


「ナツメグ君。ビビっているのかい? 君らしくもないね」



 仮に鈴木君やxo魔梨亜oxと最上階に行って、「ナツメグ様」とか呼ばれないで無事に中ボスを倒したとする。



 ……倒したらどうなるんだ?



 僕がプレイヤーと一緒に、モンスターを倒すわけだ。


 完全にラスボスが裏切っているわけだ。

 僕がヤケになってモンスターを倒し始めたとか思われたらどうするんだ?

 やっぱり行かない方がいいよな……。


 あの樹がいたら嫌だな……。

 怒鳴られるんだろうな。

 いや、あれは木の塔か。


 あと誰いたかな……。

 サンダーバード君なら、サンダーバード君なら分かってくれるはずだ……!

 でもあれは最後の塔だよな……。

 ていうかサンダーバード君も言うほど仲良くないしな……。



 僕が色々考えている間に、鈴木君とxo魔梨亜oxはどんどん前を歩いていく。

 何だか楽しそうに会話をしているではないか。


 まぁでも、何とか攻撃しなければいいか。

 僕は防御に徹して……。

 でも一回も攻撃しないのは……。

 でも裏切りだと思われるし……。



 もう色々考えるのが面倒になってきた。



 分からないことだらけである。



 もう今はUFOもないし、最後の塔に帰ることだってできない。

 彼らと一緒に月の塔を登るしかないのだ。


 そこでどんな展開が待っているか分からない。

 でもそこにいるのは僕の部下たちなわけだ。

 きっと僕が危機に陥ることはないし、頭の良いモンスターならこの展開を理解してくれる……だろう。

 そう信じたい。





 僕らは、月の塔の入口に着いた。

 あたりには他プレイヤーが集まっている。

 これから塔に挑戦しようとする者、駄弁りに来た者、色々いるんだろう。

 かなりの人数だ。


 今度時間のある時に、ここにロビー的な何かを作った方がいい気さえしてきた。

 街に人が減ったような気がする分、こういうところにたまっていたんだな。

 恐らく中にも人は多いだろう。



「ナツメグ、鈴木、準備はできたー??」



「俺は如何なる時でもモンスターの挑戦を受けて立つつもりではいるさ」



「鈴木はいいや、ナツメグは??」


「うん……いいよ……」



 まさかの、ラスボスがプレイヤーに同伴する展開。

 ……まあ、きっとモンスターたちも分かってくれるだろう。


 プレイヤーたちの気持ちになって一緒に登ってみた……とか後で言い訳しよう。

 ……っていうかそれ、いいな。

 プレイヤーの視点に立って見ないとわからないとか言って……。


 そもそもUFOのせいなのだ。

 行かざるを得ないのは……。



「じゃあ、ナツメグ!! 行こう!! ついでに鈴木も」



 ワイワイ騒がしいプレイヤーたちを尻目に、僕らは塔に入る。

 xo魔梨亜oxが先頭だ。



 僕が中ボスやザコモンスターを配置した塔に、自ら入っていくとは思わなかった。

 しかもこんな形で。


 ここだけ見たら、明らかにラスボスが皆に反旗をひるがえしている光景だ。



 ……まぁ、何とかなるだろう。

 僕はまだ、どこか楽観的な気分でいた。



 まだ。

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