第19話 Reach for the sky


「この町で……、PvPするのは危ないっていうのに……!! 魔梨亜たち、暗くなる前にこの町を出た方が良いよね?? もうこのゲームの時間で言うなら夕方くらいだし……」


「xo魔梨亜ox、何か用事あるの?」


「違うよ……!! 魔梨亜たちだって危ないんだよ、この町は!! 回復アイテムは尽きたし、鈴木を置いてはいけないし!! 死ぬとどうなるか知ってか知らずか、どんどん荒くれ者が集まってくるし!!」



……こんな形での大盛況は望んでいなかった。



「はるかぜ街に帰れれば……、魔梨亜、倉庫にいくつか回復アイテムがあるから鈴木にそれをあげられる。……てかロメオ何とかは? ロメオ何とかにもらえばいいんじゃない?」


「今は俺は修行中なんだ、一人前になって帰ってこいって言われている最中だから……。最近はロメオ様と会っていないんだ」


「まあ、鈴木、足手まといっぽいもんな!!」


「…………」



 黙る鈴木君。

 何だか少しだけ可哀想になってきた。

 先ほどはイケメンな部分もあったのに……。 



「この町さえ抜けられれば……、この町を抜けて、そこから歩けば何とかはるかぜ街まで辿りつける!! その間鈴木が持ってくれればだけど……。まずこの街を安全に抜ける方法がない……!! ナツメグ、車持ってないの??」


「だから僕は免許も……」



 待てよ。

 円盤がある。

 それに乗って何とか三人でこの町を飛び出せば……。


 ……でも、そんな乗り物に乗っていたら、僕がプレイヤーじゃなくなったことが……。

 第一、UFOはどこにあるんだ?



「xo魔梨亜ox、僕が倒れていた場所ってどこ?」


「この宿屋の隣の建物あたりだよ!! 多分その時の衝撃からか、この宿屋も、多少穴開いたけど……」


「やけに朝の光が入ってきてたと思ったらそういうことか……。皆……、乗り物なら、多分ある」


「マジ!?」


「今、音が止んでいる。これはチャンスだ。ここで待っててくれ」



 後ろでxo魔梨亜oxが何か言っていたような気がしたが、僕は外へ走り出した。

 もう何がバレたって構うものか。



 宿屋の隣の建物は、半壊していた。

 きっとこの建物に突っ込んだんだろう。

 ……よく僕は生きていたな。


 その建物の反対側にまわりこむと、大量のレンガにまみれたUFOが、建物の中にあった。

 良かった、まだあった。


 だけど……動くのか……?

 とりあえず、ここで試すわけにもいかないので、僕はそれを両手で抱えながら宿屋に帰ってくる。

 その間も遠くで爆発音が聞こえていた。

 早くこの町から逃げ出さなければ……。



「ただいま……」


「ナツメグ、それ……フザけてんの??」



 xo魔梨亜oxは、僕が持っているUFOを指差してそう言った。

 そう言うのも無理はない。

 僕だってこんな胡散臭い乗り物に好きで乗っているわけじゃない。



 「ナツメグ。……確かにそれは面白いけどさ!! 危険を冒してまで笑いを取りにいかなくてもいいよ??」


「多分、僕が乗っていればまだ動くと思う。でも試しにボタンを押すことはできないんだ。まだ運転に自信がないから……、また暴走してしまうかもしれない」


「待って、ナツメグ。それ、マジで言ってんの?? それに乗って本当に脱出するつもりなの??」


「僕はこのUFOで、この町に飛んできたんだ」


「……ナツメグは宇宙人だったってこと??」


「まぁ、そういうことだよ。詳しくは後で話すから、とりあえず暗くなる前に皆でこの町を出よう。流れ弾がこの宿屋に飛んでこない保証はない」


「ナツメグは爆発でおかしくなったの?? これ、どこまでがギャグなの??」


「いや、全部本気だよ」


「…………どうやら、本当みたいだね。こんな状況で嘘つくようなヤツじゃないし……。ちょっとまだ信じられないけど……」



ドガァァァァァン!!!!



 宿屋の壁が爆発した。

 言ってるそばから何かが着弾したようだ。

 早くしなければ……。



「もう時間がないよ、僕を信じてくれ」


「鈴木はどうするの??」


「僕が抱えていく。xo魔梨亜oxは、掴まることに専念して」


「この魔梨亜様でもUFOに乗ったことはないよ……!!」


「普通、ないよ。僕もこの前初めて乗った」



 僕は鈴木とUFOを抱きかかえながら宿屋の外に出る。

 xo魔梨亜oxをUFOの一番左に乗せ、その真ん中に鈴木、右側に僕が乗った。

 乗ったというか、しがみついているだけだが。



「これ、いきなり150km/hくらい出るけど大丈夫?」


「……それは嘘でしょ?? 嘘でしょ??」


「それは嘘。じゃあ飛ぶよ! しっかり掴まって!」



 僕はUFOのボタンを思いっきり押した。

 UFOが30cmほど浮き上がる。

 今このUFOがバグって、変な動きをしてきたら命に関わる。



「ナ、ナツメグ……。本当に浮いた……!! 浮いた……!!」



 そしてUFOは、早歩き程度の速さでゆっくりと進んでいった。

 ……何で今日に限って、こんなに遅いんだ。

 安全運転なのか。



「ナツメグ君……、これじゃあ的じゃないか……」


「この魔梨亜様、的に当てるのは得意だよ!!」



 僕はバンバンとUFOを叩く。

 古いテレビとUFOは叩けば直るのだ。

 コンピューターもそうだ。

 何でも直る。



「ナツメグ、何か飛んでくる!! 何か!!」



 僕とxo魔梨亜oxは思いっきり伏せる。

 鈴木君は最初から伏せていたが。

 何かが近くをかすめていく音。

 そして、轟音。



ドゴォォォォォォォォン!!!!



 それは近くにあった怪しい魔王の像に着弾し、その像の首を吹き飛ばした。

 何だこの威力は……。

 ていうか何だよこの武器。

 こんなん当たったら……



 叩いたからか、UFOは徐々に加速を始める。

 えぐるようにそのボタンを強く押した。



 ギュウウウーーーーーーーン!!!!



 UFOに力が戻ってきた。

 どんどん速度を上げていく。



「ナツメグ、また何か飛んで……くる…………!!」



 ドゴォォォーン!!!!!!



 近くにあった建物に何かが当たり爆発した。

 もうこの速度になってしまっては、目視で攻撃をかわすことなどできないだろう。

 運を天に任せるしかない。



「ナツメグー!! 前!! 前ーー!!」



 前を見てみると、ものすごい速さで建物の壁が近づいてくるではないか。

 万事休すか。

 何とか方向を変えられるか……?



「ナツメグ、これ、前の建物に……!!」


「知ってる!!」



ギュウウウーーーーーーーーン!!!!



 僕は思いっきり円盤の角度を上に向ける。

 ギリギリで建物をかわし、僕らはもう暗くなった空に飛び出していった。


 何とかなった……。

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