第18話 サングラスは加速器の夢を見るか

 鈴木君が、息も絶え絶えにハンブンポーションを渡してくる。

 そのハンブンポーション、まずは鈴木君自身が使うべきなんじゃないのか?



「いいから……! あいつに……! 使ってくれ……!」



 ……いいのか?


 ……そこまで言うなら、分かった。 



 僕がxo魔梨亜oxにハンブンポーションを使うと、彼女はすぐに蘇る。

 ベッドの上で、ゆっくりと起き上がった。



「……お、ナツメグ、ありがとう!! 変質者は無事??」


「無事……かどうか分からないけど、あそこに寝てるよ」


「良かった……!!


「ていうか、xo魔梨亜oxは何で自爆したの?」


「魔法銃であいつらのうちの一人を狙ってたら、その銃に思いっきり振り下ろしてきた長槍が当たってさ~……、それで真下にガンって!! 撃つ直前くらいに!! それで銃口が下向いちゃって……!! ドォーーンって!! 結果的にあいつらの真ん中くらいに当たったけど!! 魔梨亜にも当たったけど!!」


「まぁ……、何にせよ、助かって良かったよ」


「でも……ここで死んだプレイヤーって……、どうなるのかな……??」


「…………さあね…………。でもきっとどっかからひょっこり出てくるよ」



 本当にそうであってほしい。

 ……何が起こっているんだこの町は。

 神隠しが実装されてしまったのか。



「ていうかナツメグも回復薬持ってたの?? 魔梨亜様に使ってくれるなんて……。もしかしてさっきあげたやつ??」


「いや、さっきxo魔梨亜oxにもらったやつは、僕が使ったよ。じゃなきゃxo魔梨亜oxたちをここまで運べない」


「確かに!! じゃあどこから?? 回復薬はもう店に売ってないよね……」


「鈴木君がくれたんだ」


「……あの、ゴーストの森で戦った人!? その人がくれたの??」


「うん……。意外とイイ奴だよね」


「ゴーストの森のロビーで、ナツメグとロメオ何とかが出てくるまで話してたんだけどさ、1対1で喋ると、全然普通の良い人だったんだよね。ナツメグが来た時は何か強くなるけど……」


「まぁ……そういうところはあるよね……」


「え、本当に嬉しい!! で、その鈴木はどこ?? お礼言わなきゃ!! 今どこにいるの?? どこ??」


「そこに寝てるけど……」



 僕は赤い羽織に赤い袴のサングラスマンを指差した。

 彼はそれが聞こえたようで、若干こっちを向いた。

 ……改めて、何なんだその服装は。



「…………で、鈴木はどこにいるの??」


「いや、だからそこにいるのが鈴木君なんだけど……」


「マジ……?? 全部白髪になってるじゃん……」



「xo魔梨亜ox君……、これは白髪ではなくて……銀に染め…………ハァハァ……」



 鈴木君は息も絶え絶えに、そう言った。

 そこまで力を振り絞って言うことでもないだろう。

 僕は将来ハゲることを極度に恐れているから、髪を染めたいとは思わない。



「鈴木じゃん……。本当にありがとう……!! イケメン!!」



 全身赤の銀髪男は、サングラスの下で照れたような笑いを見せた。

 彼の服装には、どんなにシリアスな場面であってもそれを壊してしまいそうな勢いはある。 

 高級な料理店などには入れなさそうだ。



「でも何で……、この魔梨亜にくれたの??」


「俺を助けようとしてそうなってしまったからじゃないか……? そして結果的に、助かった。命拾いした……。礼を言おう……」



 今までで鈴木君が一番カッコよく見える瞬間だった。

 イケメン以外の何者でもない。

 イケメンの中のイケメンだ。



「鈴木君はもう持ってないの? 回復薬……」


「今のが最後だ……」


「この前まであんなにマンタンポーションがあったのにー!! 何で全部消えちゃったの?? おかしいよね??」



 僕がコンピュータールームでちょっとアイテムを消したりするだけで、世界はかなり影響を受けてしまうんだ。

 アイテムの値段ひとつ変えるだけでも、そこで色々なことが起こってしまう。


 この町もそうだ。

 もしこの町で死んだ人はバグで帰ってこられなくなるなんてことになっていたら……。



 僕がラスボスになって、本当に良かったのだろうか。



 最後の塔に帰れば、ユーリと紗彩さんの争いを嫌でも考えなきゃいけなくなる。

 それこそ、ゲーム自体を大きく変えていく出来事だ。

 ライオンだって樹だって、文句ばっかり言ってくるし……。


 紗彩さんだって、補佐すると言いつつも何も手伝ってくれないじゃないか。

 ユーリと協力でもしていた方が、結果的に良いゲームになるような気さえする。

 このままだと、僕は全部一人で抱え込まなきゃいけないんだ。 



「てか、鈴木!! そもそも何で襲われてたわけ??」


「……最近調子に乗り始めた『ペガさス』を……ちょっとシメてやろうと思ったのさ」


「誰それ……」


「長槍のやつが三人いただろ……? その中で、全身鎧を着てたやつさ」


「最近調子に乗り始めたのは鈴木の方じゃ……?? 鈴木が仕掛けたってこと??」


「い、いや……。まぁ……、その……」



 喧嘩を売られて負けてただけじゃないか。

 完全にブーメランでは……。



「たまたま、俺の体調が今日は悪かっただけだ。次会ったら、あいつらは容赦しない。どんな手を使ってでも勝つ。もうすぐ俺は加速できるようになるからな」


「まだロメオ何とかの手下やってんのかよ……!! っていうかチートで勝とうとするのダサい……!!」


「世の中にはな、勝つか負けるかしか、ないんだ。今のこの町を見てみるといい。真面目に戦って死んだ奴と、チートを使ってでも生き延びた奴、どっちがいいんだ?」


「チートを使わないで勝った人ー!!」


「俺の話を聞いていたかい……!?」



 xo魔梨亜oxに真面目な話は無理だ。

 気づけば、鈴木君は少し喋れるようになってきていた。 



 ……でも確かに鈴木君の言うことも一理あるのだ。

 死んだら終わりなのだとすると……。

 いや、しかし……チートが偉いなんてことはあってはならない……。



 外から、銃声や武器同士がぶつかり合う音がしてくる。



 僕が目指していたのはこんな世界なのだろうか。

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