第16話 戦争の始まり

 クーデター未遂事件の時、あの広間で何が起こっていたのか。



 紗彩さんは、ユーリが栞さんを削除したと言う。

 しかし、栞さんだって、そんなにすぐ消されてしまうほどの人ではないとは思うんだ。

 仮にユーリが「栞がクーデターの首謀者だ」と言ったところで、栞さんも「はいそうです」と受け入れてしまうものだろうか?

 栞さんだって、紗彩さんと同じく運営から来た人だから、きっと紗彩さんと同じくらいの地位にいた人だ。

 それが簡単にそうなってしまうなんて……。


 ユーリのせいで栞さんが削除された というのが本当であるとするなら、ユーリはよほど卑怯な方法を使ってハメたに違いない。

 そこで何が起きていたのか知るためには、そこにいた者に聞くしかないのだ。



 ユーリは、この理不尽な世界に不満があるようなことを言っていた。

 確かに、言われてみればそうなのだ。

 プレイヤーからモンスター側に入り、気がついたら「死んだらこの世界からも出られない」というようなトンデモルールを押しつけられたわけだ。

 ユーリも、僕と同じ境遇。

 僕は特に気にしていなかったけれど、このルールは改めて考えてみると結構ヤバい。


 紗彩さんや栞さんなどのゲーム側の人間に対して、ユーリが敵意を持っているのは明らかだ。

 そこに、頼りないハイパーアルティメットキングドラゴンもいた。

 あのラスボスについていったら自分は死ぬのでは と思ったのかもしれない。

 その気持ちも分かる。

 それで不満がたまり、ユーリ自身が生きていけるように、自分がトップに立とうと、クーデターを計画したのだ。



 僕はどっちにつくべきなのだろうか……?

 しかし、どちらかについたら、どちらかは死ぬかもしれないんだ。

 誰も死なずに仲良くやってくれるのが一番いい。

「この世界で死にたくない」という気持ちは二人とも同じだろう。



 僕は、今まで通り、紗彩さんと共にこのゲームを運営していった方が平和であるとは思う。



 しかしそうすると、いつかユーリがクーデターを起こすかもしれない。

 戦闘能力のない僕は、集団でかかってこられたら負ける可能性は濃厚だ。


 ユーリは捕まっている仲間たちを探していると聞く。

 その仲間たちが出てきてしまったらまずいだろう。

 彼女を野放しにしてしまっていた期間はそれなりにあった。

 もしもう見つけてしまっていたとしたら……?

 いや、このままユーリを最後の塔に配置しておけば、クーデターが起こることはないか。


 でも、本当はユーリが正しいんだとしたら……。

 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。

 しかし、このあたりはゲームの存続を左右するくらいの問題だ。

 無視することはできない。



 今、この世界は夜だ。

 明日の夜、またここに来るとユーリは言っていたな。

 彼女が来たら、協力はできないと言わなきゃ。

 でもそうしたらユーリは怒るだろうな……。


 そんなことを考えながら、はるかぜ街が映るモニターをぼんやり眺めていた。

 僕がこんなに悩んでいることも知らず、プレイヤーたちは楽しくやっている。

 ……それで良いのだ。


 皆が楽しめていれば良い。

 モンスター側の者たちもこのゲームを楽しめていれば、なお良いのだが……。

 ……そうできるかは分からない。

 でも僕はラスボスとして、そしてボウケンクエストを愛する者として、できる限りのことはやらなければいけないのだ。



 そういえば、ウニュ町はどうなっているかな。


 僕はウニュ町をモニターに映す。

 すると、ウニュ町に大量の人がいるではないか。

 何だか分からないけど、町は賑わっている。

 おかしいな。

 イベントを始めたわけでもないし、ダンジョンを配置したわけでもない。

 目立ったコンテンツはないはずだぞ……。



 すると、ウニュ町の一角で爆発が起こる。

 そこを駆け抜けていく大勢の人。

 手には武器を持っている。



 ……!?



 ……え?



 七色の光線が横切り、モニターの近くで爆発が起こった。

 映像にノイズが走る。


 七色の光線?

 xo魔梨亜ox……!?


 場面を切り替えまくり、町の色々なところを映す。

 至るところで一騎打ちや爆発が起こっていた。

 ……戦争じゃないか。

 どうなってるんだよ。


 すると、xo魔梨亜oxを見つけた。

 彼女は屋根の上から、何かを狙撃している。


 これが、あの綺麗だった港町。

 見ているそばから、爆発が起こり民家の壁に大穴が開いていく。 

 マジかよ……。



 戦争が起こる理由なんてあるのか?

 ……まさか、クーデターで捕まっていた者たちか。


 そいつらが脱獄し、一般人と戦争になっているのか?

 いやいや、それを解放できるのは僕だけなんだろう。

 このコンピュータールームに来ない限り、それはできないはずだ。



 ……さっきユーリがここに来たな。

 まさか、彼女がここに来たのは、何らかの操作をするため……?



 xo魔梨亜oxの足元の屋根が爆発する。

 彼女は崩れる屋根と共に落下していった。



「xo魔梨亜ox!!」



 これは見ていられない。

 とにかく、何とかしなければ。



 僕は広間の方へ走る。

 無造作に転がっていたUFOにまたがった。

 すると、ちょうど横の壁が開く。

 僕は思いっきり、UFOについているよく分からないボタンを押す。



 ギュウウウウウウーーーーン!!



 僕は最高加速で空に飛び出した。

 こんな音鳴ってたっけ……?

 離陸から最高加速を出すとこういう音が鳴るのか。



 確かウニュ町はこっちの方角だった気がする。

 海が見えるから、きっと合っている。


 紗彩さんが「良い町だね」みたいなことを言ってくれたのを思い出す。

 今や戦場だ。

 あそこを作ったのは僕だ。

 僕のせいで誰かが死んだりしたら……。



 ものすごい速さで風を切り、飛んでいく。

 高い所が苦手だとか、今はそんなことを考えている暇はなかった。



 町が見えてきた。

 夜だが、遠くからでも、何かが起こっていることが分かる。

 街の至る所が、ピカピカ光っているからだ。


 もっと時間がかかるかと思ったが、この加速で飛べば意外とすぐだった。

 僕はUFOの角度を少し下に向ける。



 すると、UFOはものすごい速さになる。

 いや、加速したわけじゃない。

 同じ速度で飛んでいても、高いところを飛んでいればゆっくりに感じ、地面が近くなるとやけに速く感じる現象だ。


 ……減速ってどうやるんだっけ?



 ギュウウウウウウーーーーーーーーン!!!!



 ものすごい速さで町は近づいてくる。





ボウケンクエスト -ウニュ町-




 町の時計塔が迫ってきた。

 何でこんなところに時計塔が…………!


 前回はどうやって着陸したんだっけ?


 目の前にはもう、時計塔が。



「ヤバい!!!!!」



 僕は全身全霊でUFOを右に傾けた。



 ギュイオオオオーーーーーン!!



 曲がった。

 ものすごい速さで、時計塔が僕の近くを通り抜けていく。



 間一髪。



 視線を前に戻すと、目の前には大きな建物。

 再度、思いっきりUFOを傾ける。


 しかし、それはもう間に合わなかった。



「あっ!!!!!」



 ズゴォォォォォォォォォォォン!!!!




 轟音の中、僕は意識を失った。






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