第14話 ガラクタ置き場で見たもの

 僕は会議室で皆に謝り、緊急メンテはもう明けるという旨を伝えた。

 皆が持ち場に帰っていくのを尻目に、コンピュータールームに戻ってくる。



 それにしてもこのドア……。

 完全に壊されちゃってるんだけど。

 あの樹は何なんだよ……。

 とりあえず、そこらへんに散乱した木片を片づける。



 ガラクタ置き場に、都合良くドアとかないかな。

 UFOがあるくらいだ。

 ドアがそのまま捨てられていてもおかしくない。


 まぁ、ドアはなくとも、その代わりになるものならあるかもしれない。

 真面目に探してみるか……。



 って、まずはメンテを終了させなきゃ。

 危なかった。



 会議室の方からの声や物音は、全くしなくなっていた。

 皆持ち場に行ったのだろう。

 僕は緊急メンテを終了させる。 



 さて、ドアの代わりになる板でも探そう。

 よく分からない金属片やパイプや書類のようなものならいくらでもあるのだが。

 っていうか、もうちょっと分別しておいてくれよ。

 ガラクタ置き場からドアの代わりになる板を探す人のために。



 ガサゴソ……。

 ガサゴソ……。



 探しても探しても、ゴミみたいなものしか出てこない。

 ゴミ置き場かよ、ここは。


 ……でもそうか、ガラクタってゴミのことだもんな。



 このコンピュータールームのガラクタ置き場はここだけじゃない。

 机と机の合間や、部屋の隅など、この部屋の至る所にガラクタ置き場はある。

 ……いや、もしかしたらガラクタ置き場に見えるだけで、実際はそうではないのかもしれない。

 中には重要なものもあるのかもしれないが……。

 とにかく、色々なものが置かれている部屋なのである。


 どんな形でもいいから板みたいなものさえあればな……。

 そうすれば僕はあの壊れたドアを修復できると思う。

 「技術」とかいう授業で僕は本棚を作ったことがあるからだ。

 本棚とドアなんて本質的には一緒だろう。

 全然関係ないが、「技術」と「美術」って発音が似すぎていて間違えやすいから、もうちょっと違った呼称にするべきだと思う。



 僕はコンピュータールームの隅の方にある、長いこと誰も手をつけてないであろうガラクタ置き場に行き、そこに手をつけ始める。

 ここの方が何かありそうな気がしたからだ。 


 何かこう……紗彩さんのプライベートなものとか出てこないだろうか。

 日記みたいなものとか。

 そうすればきっとこの世界のことがもっと分かると思うんだ。

 決して不純な動機などではない。



 ガサゴソ……。 

 ガサゴソ……。



 色々なものをどけると、怪しげな真っ黒い金庫が出てきた。

 この世界のお金でも入っているのだろうか。

 ……後で開けてみよう。


 どかしたものの中に、掃除機のようなものがある。

 この機械は何だ? 

 ……これは……。



 ただの掃除機だ。



 ていうか、掃除機がこんなに埋もれている時点で、ずっと掃除やってないってことじゃないか。

 この汚い部屋、まず掃除機をかけるべきだ。


 ここで掃除機が発掘されたということ。

 それは掃除をしろという天からのお告げに違いない。 

 コンピュータールームはもっと整理整頓しなきゃダメだ。


 僕は掃除機を引っ張り出して、床に置いた。

 後でこれを使って、床が見える部分だけでも綺麗にしよう。

 動けばの話だが。



 今ガサゴソやっているガラクタの山は、先ほど金庫や掃除機は出てきたものの、書類の割合が8割くらいを占めている。

 ガラクタ置き場にも、それぞれガラクタの傾向があるようだ。


 この書類たちも全部意味が分かったら面白そうなんだけど。

 パッと見、難しすぎて意味不明なものばかりだ。

 いつか僕にも分かるようになるのかな。



 なんてことを考えながら、僕はとても汚れた一枚の紙を手に取った。

 そこには「新機能の解説」と書いてある。

 全然新しい感じはしないが、当時は新しい機能だったんだろう。

 「プレイヤーの感情を損なわずに既に配布してしまったアイテムを削除してしまう方法」だったりしたらいいんだけど。

 ……そういえばマンタンポーションとアップアップルを強制的に消してしまったわけだけど、プレイヤーの皆は大丈夫かな……。

 あとで掲示板でも見てみよう。



 その紙では「エマージェンシー・テレポーテーション」なる新機能を説明していた。

 何だかヤバそうだ。


 そういえば街から街へのテレポートシステムがこのゲームにはない。

 大体どのゲームにもテレポートくらいあるものだ。

 このゲームは徒歩で街に行くしかないもんな。


 もしかして、それに関するものなんじゃないかこれは。

 実は昔、街の間をテレポートするシステムがあったけれども、何らかの事情で今はなくなってしまったとか。

 プレイヤーがそんな効率的に移動できてしまったら、レベル上げなどが簡単になってしまうから。

 それでハイパーアルティメットキングドラゴンが怒ってしまい、この案はボツになってここに捨てられているのだ。

 そうに違いない。


 ……と思って読んでいたが、全然違うもののようだった。

 「そうに違いない」などと軽々しく思わない方が良い。



「私たち人間が、対プレイヤー戦などでHPが0になることを回避するテレポート」



 という、緊急事態に行えるテレポートの話のようだ。

 ……って、これ、紗彩さんから聞いたやつじゃないか?

 私たち人間……か。


 これは、難しい説明を省いて分かりやすく一枚の紙にまとめたもののようだ。

 誰かに説明するような文体で書いてある。

 このあたりは個人的に詳しく知りたかったところでもあるので、ありがたかった。



「次のアップデートでは、それを自動化するシステムにしたい」



 というようなことも書いてある。

 紗彩さんの話からすると、今現在、まだ手動で瀕死テレポートを使っているという感じだった。


 いまだにそれができていないということは、それを自動化するのはとても難しいことなんだろう。

 この理不尽な世界と戦っていた人もいるんだと、少し嬉しくもなった。



「将来的には、瀕死にならなくてもテレポートを使えるようにしたい」



 と、展望も書いてあった。

 このテレポートは、そもそもモンスター側の人間が瀕死になった際に起こる若干のバグを利用したテレポートらしい。

 だから通常時にポンポンとテレポートするのは現状ではできないとのこと。

 ということはプレイヤーのテレポートも厳しいかな……。



 しかし、こんな技術者がいるんだな。

 この部屋には僕が使っているマザーコンピューター以外にもコンピューターがあるし、机や椅子もある。

 かつてはここで色んな人が働いていたのかもしれない。

 このガラクタの量からも、何となくそんな感じがする。


 こういう面白そうな紙も出てくるから、紙類は全部捨てたらダメだ。

 何でも取っておこうとする片づけられない人のようになっているが、仕方ない。

 紙は紙でこの机のあたりにまとめておくか。



 と、手に持っていたその「エマージェンシー・テレポーテーション」の説明の紙を机に置こうとした時、その紙の右下に書かれた「 栞 」という文字が目に入ってきた。



「栞……?」



 僕は思わずそう口にする。

 あの、紗彩さんが言っていた栞さんか。

 プログラマーだったという話だし。


 「瀕死テレポートの自動化」や「テレポートを瀕死じゃない時でも使用できるようにする」など、研究の展望はあったものの、彼女がこの世界から削除されたことで、潰えてしまっていたことだったのだ。

 志半ばで……。



「おい、お前。ちょっといいか?」



 急に僕の後ろで女性の声がして驚く。

 振り返るとそこには、ユーリがいた。



 ユーリ……?

 なぜここに。

 僕は彼女をちゃんと配置したはずでは。



 一体何の用なのだろう。

 もしや、クーデター?

 決闘……?


 いや、しかしこのゲームで一番の権限を持つのは僕だ。

 ここでビビったりしてはいけない。

 ラスボスとしての威厳を見せつけなければ。



「……ユーリ。ノックくらい、してくれよ」


「ドア、ねぇぞ」



 ……そうだ。

 随分開放的な部屋になっていたんだった。



「ナツメグ、ちょっと話がある」



 ユーリの背中には大きな弓。

 彼女の鮮やかな青い髪が揺れる。

 そして、青いドラゴンがゆっくりと部屋に入ってきた。



 これは、良い話ではなさそうだ。 


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