第8話 再会

 ガラクタ置き場を漁っていると、そこには円盤があった。

 人が一人乗れそうなサイズの、銀色の小型のUFO。

 UFO程度ではもう驚かなくなっている自分がいた。



 ……これで飛べるのかな……。


 ちょっとまたがってみる。

 それはとてもホコリっぽかった。

 スイッチらしきものがあったので、それを押してみる。



 ブブブブブ……。



 不気味な音を立ててそのUFOは上昇し始める。

 僕は急いでスイッチを切った。


 ドサッ!!


 UFOと共に僕は着地する。

 着地というか、墜落かもしれないが。

 ……何だこれ、怖すぎだろう。



 でも、飛べそうだぞこれ……。

 ちょっと試し運転してみよう。

 いきなり外に飛び出していったら終わりだ。

 慎重にいかなければ。


 とは言ってもどこで試すかな……。

 広い場所がいいな。


 あ、そうだ。

 隣に広間があったじゃないか。


 僕は円盤を持って、そこへ行く。

 自分でも何してるんだろうと思いながら、そのUFOの上に乗った。

 誰もいない広間で不気味なUFOにまたがっている僕。

 急にモンスターがここに帰ってきたりしたら嫌だな。


 スイッチを押す。



 ブブブブブ……。



 高度50cmほどだろうか。

 UFOはその位置を保っていた。


 超低空飛行・超低速で、広間内を飛んでみる。

 傾けた方向に上昇下降、左右に動くことが分かった。

 案外面白いなこれ。

 オモチャとしては素晴らしい出来だ。


 とは言え、これで飛び出すのはやはり危険なので、もっとちゃんと飛べそうなものを再度ガラクタ置き場から探そう。


 ……と思いながら広間内を飛びまわっていると、突然広間の壁が開いた。

 どうやらここは自動ドアらしい。

 急に開いたので、流石にビックリした。



 ……外が見える。



 まずい。

 そして怖い。


 ここは20階である。

 この円盤が墜落したら、いくらラスボスでも……。

 ラスボスが事故によっていなくなったら、ある意味伝説のゲームになりそうだ。

 とにかく、落ち着こう。



 ……というかこれ、どうやって着陸するんだ。

 再度スイッチを押せば、多分さっきみたいに無理やり落ちるけど……。

 あれは正しい着陸の仕方じゃないだろう。 


 試行錯誤していると、右手のところにさらにボタンがあることに気がつく。

 多分この小さいボタンが着陸ボタンなんだろうと、僕はそれを押した。



 フィィィィーン!!



 ……!!



 ものすごい急加速。

 僕はそのまま開いた壁から、塔の外へと思いっきり飛び出した。



 やばい!



 僕は変な円盤にしっかりと掴まった。

 すると、急に緩やかな飛行になる。


 どうやらもう一度そのボタンを押したらしい。



 何だこのクソボタンは。



 危うく僕が再起不能になってゲーム自体が終わるところだった。

 とりあえず、僕は生きている……。



 ……しかし気は抜けない。

 下を少し見ると、目が眩む。

 そこには魔境平原が広がっていた。


 どれだけの高さなんだこれ。

 何でこんな目に……。


 ……いや、あの加速のまま壁にぶつからなくてよかったとポジティブに考えることにしよう。

 ネガティブになってイイことなんてない。

 ポジティブにいこう、ポジティブに。



 僕は20階の高さのまま、地面と平行に飛んでいた。

 高い所は苦手なんだ……。

 はやくもっと高度を下げないと。


 そのクソボタンを押さないように、ゆっくりゆっくりと下降していった。

 地面に向いたベクトルの時にそのボタンを押したら、間違いなく地面に突き刺さる。

 そこに刺さった円盤が、そのまま僕の墓標となるだろう。



 僕は地上3mくらいのところまで下降することに成功した。

 その高さのまま、フワフワと魔境平原を移動する。

 これでひとまず安心か……。



 魔境平原は、最後の塔を囲むように存在する平原だ。


 今日はプレイヤーが誰もいない。

 僕がプレイヤーだった時代は、誰かしらいたものだが。

 一気にユーザーが減ってしまったのか?


 ……そうか。

 僕が月の塔にまず行くように仕向けたんだった。

 何も無い時は、皆、最後の塔に挑戦するくらいしかやることがなかったからな。



 その時、魔境平原を高速で移動する物体を見つける。


 何だ。


 モンスターか……?

 いや、モンスターにしては速すぎる。

 プレイヤーにしてもおかしいだろう。





ボウケンクエスト  -魔境平原-




 僕は魔境平原に着陸する。


 ……って、何だよ。

 地面にかなり近づければ、自動的に着陸できるじゃないかこれ……。



 その加速する物体に目を凝らす。 

 どうやら高速で動く人間のようだ。


 それを眺めていると、そいつが僕の目の前にいきなり止まった。


 全身迷彩柄のスーツを着た怪しい長身の剣士だ。

 サングラスをかけている。

 明らかに不審者じゃないか。


 迷彩のスーツなんて初めて見たぞ。

 この目立つ恰好は、ウケ狙いなのか?


 ……目立つ恰好に気を取られていたが、こいつは、加速器使用者だ。

 加速器とは、チートの一種。

 普通の人よりも速く移動することができる。


 チートは、放っておくことはできない。



「そのスーツの君、ちょっと来て」


「はい。何デスか……?」



 やっぱりヤバい人だ。

 喋り方で分かる。

 一体どんな環境で育った人なんだろう。


 サングラスを直しながら、彼はこっちに歩いてくる。

 彼の逆立つ黒髪が、風に揺れた。 

 こんなにハードな髪型をしていたら、加速時にだいぶ空気抵抗を受けそうだ。



「君が使っているのは加速器だよね?」


「違いマスよ」


「違うことはない。君、名前は?」



 僕がそう聞くと、迷彩加速剣士は目にもとまらぬ速さでどこかへ消えていった。



 …………。



 増殖バグ坊やといい、加速器迷彩野郎といい、どんどん治安が悪くなっていく。

 ああいうのを根絶やしにしないとな……。

 これから魔境平原をモニターで監視するしかないな。


 はぁ……。

 また仕事が増えた。

 ……まぁ、やることが増えていいか。


 平原の草木がわずかに揺れる。

 これは加速剣士が通ったからではない。

 風が吹いているのだ。


 天気や風さえも思いのまま。

 まるでこの世界が僕の手の中にあるようだ。



 そうだ。

 このまま塔に戻るのもつまらないから、ここから近いはるかぜ街の様子でも見にいこう。


 僕は円盤を操作しながら、はるかぜ街に向かう。

 明らかに空を飛んでいると怪しまれるので、地面から30cmくらい浮かせた状態でゆっくりと町へと飛んでいった。





ボウケンクエスト -はるかぜ街-




 途中何度かプレイヤーに見つかりそうになったが、何とかはるかぜ街の入り口に到着した。

 円盤を持ったまま街に入れないので、町の入り口の樹の陰に隠しておくことにする。


 はるかぜ街。

 懐かしい。


 多くの人々が行き交うこの街。


 僕は設定ひとつで世界を色々変えてしまえる。

 ここにいるプレイヤーたちを生かすも殺すも……と言っては大げさだが、僕の采配は直接プレイヤーひとりひとりに影響するんだ。

 そこはしっかり自覚しなければいけない。

 適当なことはできないなと、改めて思う。



「ナツメグじゃん!! ナツメグ!!」



 この声は……、xo魔梨亜oxだ。

 赤く長い髪を左右に揺らしながら、彼女がこっちに走ってくる。

 灰色のプリーツスカートとニーハイの絶妙な領域。

 相変わらず素晴らしい。


 xo魔梨亜oxはこっちに走ってくるなり、僕の顔をじろじろ見た。

 何か顔についてるんだろうか?


 まさか、知らないうちに顔にタトゥーのようなラスボスの刻印(?)でも現れていて、僕の外見が変わってしまったとか?

 確かにあれから鏡を一度も見ていない。



「ナツメグ、痩せた?? 痩せたかな??」


「いや、分かんないけど……」



 ……どうでもいいことで良かった。

 ……っていうか、別に隠さなくてもいいよな……。

 僕がラスボスだっていうのは。


 でも今までの関係が変わってしまったら嫌だから、敢えて言い出さなくてもいいところはあった。



「ナツメグ、この前最後の塔行こうって約束してたけどさ、何か行けなくなっちゃったよね?? ルール変わっちゃってさ。楽しみにしてたけど残念だね!! 残念!!」


「……ざ、残念? そうかな……。いや、でも最後の塔へは行けなくなったわけじゃないよ。『月の塔』『火の塔』『水の塔』『木の塔』『金の塔』の順で全てクリアすれば、最後の塔に入れるんだよ」


「流石ナツメグ、詳しいね!! 詳しい!!」


「ま、まあね……。伊達にこのゲーム長くやってないよ」



 その時、はるかぜ街に、風が吹いた。

 xo魔梨亜oxの、綺麗にセットされているであろう前髪が乱れる。

 彼女は前髪を両手で押さえた。


 その瞬間、ふんわりと灰色のプリーツスカートがまくれ上がる。

 彼女は前髪に夢中で、それには気づかなかった。

 …………。



 ラスボスになって良かった。



「あ~!! ちゃんとしっかり触覚作ってるのに~!!」


「触覚って何……?」


「これのこと!! これ!!」



 xo魔梨亜oxが、目の横を真っすぐ垂らした髪を掴んで見せる。

 これが触覚っていうのか……。

 僕は結構好きだ。



「ていうか、ナツメグは今何してんの??」


「何もしてないよ。ただ、街をブラブラしてるだけ」


「新しくできた、ウニュ町に行ってみない?? ウニュ町!!」


「いいけど……。でもあそこは結構遠いよ」


「何があるの?? ウニュ町って!!」


「何もないな……。海が見える景色が綺麗だよ」


「じゃあナツメグ!! 行ってみようよ!! 行ってみよう!!」


「そうだね。……でも歩いたら結構な時間かかるよ……」


「車とか持ってないの??」


「いや、持ってないし免許もないよ。……そもそもこの世界に車ってあるの?」


「あ、そうだ。ナツメグ聞いてよ。さっき魔梨亜のとこにね、運営から連絡があったんだ。『こんにちは』って。ヤバくない?? ヤバいよね??」


「それは……ヤバいな」


「多分、運営の中の人がプライベートな連絡とかを誤爆したんだよ。魔梨亜のチャットに!! ナツメグにも見せてあげたかったな……。何か勝手に消えちゃったんだよね」


「そっか……。珍しいこともあるもんだね………………」


「じゃあ早速ウニュ町行こうよ!! まぁ何時間か歩けば着くでしょ!!」


「いいけど……」


「ナツメグはマンタンポーション持ってる?? あれ今市場でめっちゃ安く買えるんだよ!!」



 市場とはプレイヤー同士で売買ができる場所だ。

 プレイヤーはそこに露店を出しておくことができる。

 NPCなどを介さず直接プレイヤーに売ることができるので、そのアイテムや装備がどのくらい出回っているかによって、値段は日々変動する。



「市場……? 安く買えるの……?」


「そうだよ!! 何か今回のメンテでマンタンポーションが高くなっちゃったじゃん?? だから前に大量に買ってたというか無料でもらってた人達が、今大量に転売し始めてるんだよ!! 魔梨亜はその時全然もらってなくて……。いつでももらえると思ってたからもらわなかったんだ。そしたら今回のメンテでこの値段。あの時もらっておけば良かったな~!! 悔しいけど転売マンたちから買うしかないの!! 言うてショップよりは安いからね~!!」


「マジか……。そうか……。なるほどね……」


「ウニュ町への道中何があるか分からないから、今からそこの市場に行くけど、ナツメグも来る??」


「うん。僕も行くよ。久しぶりに市場の様子も見てみたいしね」



 僕らははるかぜ街の市場へと来た。

 そこにはプレイヤーが出している露店が所狭しと並んでいる。

 この露店はログインしている人しか出せないから、この店が多いほど、今ログインしている人が多いということにもなる。



「ナツメグ、ほら、ここも、ここもマンタンポーション売ってるよ!! 一番安いとこ探そう!!」


「そ、そうだね……!」



 くそ……。

 こんなことになってたのか。

 どうにかした方がいいよな……。

 しかし、どうすればいいんだ……。



「ナツメグ、この銃のパラメータすごくない??」


「銃ね……。僕はよく分からないけど……」



 そう言いながらもそれを見てみる。

 その銃のパラメータは、その銃が通常持っているパラメータの二倍近くもある不自然なものであった。

 どういうことだ、まさか……。



「さっき実装された、アップアップルってやつかな?? 魔梨亜もアップアップル買おうかな~??」



 いや、アップアップルでこんなにはならないだろう……。

 なるとしても、こんなパラメータを出すためにどれだけのアップアップルを使わなきゃいけないんだ。

 ……まさか、アップアップルも無料で配布していたりとか?



「xo魔梨亜ox、アップアップルって、ショップで売ってるよね? それっていくらくらい?」


「うーん、めっちゃ高かったよ?? だから相当効くのかなって思ってる!! ナツメグは持ってる??」


「いや、僕はそんなの買えないよ……」



 めっちゃ高い値段だと言うのに、どうしてこんなにパラメータを上昇させられるのか。

 パラメータ上昇のケタでも間違えたかな……。

 いや、でもそんなはずはない。



「ナツメグ、こっちにもヤバい剣あるよ~!! この露店ヤバい!!」


「本当だ……。これ、僕のヤツより強いんじゃ……」


「アップアップルが出る前は、こんなのなかったよ?? まぁ、魔梨亜様の魔法銃に勝てる銃は売ってないみたいだけどね!!」



 確かに、xo魔梨亜oxの魔法銃は廃人レベルに鍛え上げられたものだ。

 そこらへんの武器が二倍になったところで、xo魔梨亜oxのには勝てない。


 しかし、何でこんなインフレ状態になっているんだ……?

 また僕は、何か間違えてしまったのだろうか。

 こんなに武器が強化されているなんて……。



 嫌な予感がした。


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