第5話 鈴木君に誘われて
鈴木君じゃないか。
鈴木君は、僕をこのゲームに誘ってくれた学校の友達。
いわゆるリア友というやつだ。
でも僕の方がレベルが高くなってしまい、それが原因で疎遠になってしまった。
彼は異様な負けず嫌いなのだ。
僕は主に「狩り」、鈴木君は「対人戦」をやっていたから、なかなか会うこともなかった。
ゲーム内で見たのは久しぶりである。
ここは、何とか事情を説明して鈴木君たちにお引き取り願うか……?
いや、僕が敵側についたなんてことはバレちゃダメだろう。
ドラゴンの着ぐるみでも着て、僕が鈴木君たちを倒しにいくか……?
いや、僕の方がレベルこそ高いが、彼は対人戦が上手い。
まともに戦うのは避けた方がいいだろう。
というか、対人ステータスでよくその階まで上がってきたものだ。
残りの2人も強さは未知数だし、僕が倒しにいくのは得策ではない。
その階に中ボスを送りこむことも不可能だ。
ユーリはこの塔に配置こそできそうだが人間なわけだし、モンスターたちに関しては、さっき配置してしまったことで今すぐこの塔に再配置できないみたいだし。
さっき配置したばっかのやつは再配置できないって、一体どんな仕様なんだよ。
僕が配置しなかった中ボスクラスのモンスターなんて、もういないだろうし……。
最後の塔に中ボスを増員する計画は不可能のようだ。
実質、もうこの塔には僕しかいないじゃないか。
そのことを知らない鈴木君たちは、呑気に12階でまだ休憩している。
前のラスボスはもっとちゃんと色々整えておけよ……!
……いや、ラスボスの立場から言えば、整っていたのか。
こうなってしまったのは僕のせいだ。
回復アイテム+中ボスの分散。
これで一気にゲームバランスは崩壊した。
次からもっとしっかり考えてやろう。
……次があればの話だが……。
トラップみたいなものはないのだろうか?
それにハメて終わらせるとか……。
それか、急に迷路みたいなマップにするとか、階段を封鎖するとかどうだろう。
物理的に上がってこれなくする作戦だ。
…………ダメだろうな。
やり方が分からない。
そんな簡単にマップを変えたりできないだろうし。
モニターの中で、鈴木君たちが立ち上がった。
これから上に来るのだろう。
紗彩さん、すみません……。
と、思ったその時、
鈴木君たちが戦闘を始めた。
もう中ボスはいないはずだろう。
彼らはゴブリンみたいなモンスター2体と戦っている。
どういうことだ……?
……、そうか、あれはザコモンスターか。
そうだ!
中ボスの配置はできなくとも、やつらのいる12階に、ザコモンスターを配置すればいい。
レベルMAXで、出来る限りの数を投入しよう。
いけそうだぞ。
ここのボタンを押して……。
レベルは200までいけるらしい。
よし、じゃあレベル200の……。
何体までいけるんだ。
500体までいける……?
よし、じゃあこのフロアに、レベル200のザコモンスターを500体投入だ。
キャラはこの「サイキョウプリーン」とかいうやつで。
よく知らないけど、強そうだからいいだろう。
よし、行け!
鈴木君たちの周りに突然500体のサイキョウプリーンが現れ(モニター内には数十体しか映らなかったが)、30秒ほどで鈴木パーティーは全滅した。
勝った。
やったぞ……。
会議室の方に歩いていくと、サンダーバード君がまだいた。
負った傷の治療が長引いているようだった。
簡単に回復しない場合もあるのだろう。
僕はこの感動を誰かと分かち合いたくて、サンダーバード君に話しかけた。
「サンダーバード君。やつらを12階でくいとめることに成功したぞ!」
「それは、良かったですね……」
「…………」
サンダーバード君との会話は続かなかった。
まぁ、そうだよな……。
初対面みたいなもんだし。
電気を帯びた鳥と共通の話題なんてないよな。
僕は会議室の椅子に座る。
一件落着だ……。
すると、倒れているゴミ箱のようなものが目に入る。
あれはユーリが蹴飛ばして倒したやつだ。
幸いなことに元々ゴミは入っていなかったようで、あたりには何も散らかっていなかった。
それを起こしておく。
顔を上げると、壁の上の方に、モニターのようなものがずらりと並んでいることに気づいた。
そうだ、ここにもモニターがあったんだった。
前に来た時にはそのモニターに何も映っていなかったが、今はそこに色々な街の様子が映し出されていた。
誰かがつけたのか、コンピュータールームの何らかの操作によって勝手についたのかは分からないが。
モニターの中には見慣れた町並み。
あれは、はるかぜ街の大きな広場だ。
砂漠の街は相変わらず人がいないな……。
色々なところがいっぺんに見られて面白い。
そこに一つ、見慣れない街があった。
何だこの街は……?
ずっとこのゲームをやっている僕でさえ知らない街が……?
よく見ると、さっき僕が作った町だった。
えーっと、名前は……「ウニュ町」だ。
早速、その町を一人の少年が歩いている。
何だか嬉しい。
できたばかりの町を早速訪れるなんて、ミーハーな少年だ。
まだ告知すらしてないのに。
まぁ、そのうち誰かがゲーム内掲示板で話題にしてくれるだろう。
その少年は、雑貨屋の看板がある建物の中に入っていった。
雑貨屋内部をモニタリングすることはできるのだろうか……?
ダメ元でモニターのところへ行き、画面をタッチしてみる。
すると、雑貨屋内部の映像が映し出された。
その雑貨店内部には店員NPCもしっかり配置されていた。
流石他のゲームからパクってきた町だ。
細かいところを設定しなくても全然いける。
……そうだ。
雑貨屋のラインナップからマンタンポーションを消さないと!
あれはチートレベルだ。
僕は急いでコンピュータールームへ走り、雑貨屋のラインナップからマンタンポーションを削除しようとする。
が、
消えない……。
どうなってるんだ、これ。
もう嫌だ……。
散々格闘したあげく何も変わらないので、とりあえず会議室に戻ってくる。
すると、モニターに映る先ほどの少年が不審な動きをしていた。
装備を地面に置いたり拾ったりをひたすら繰り返している。
装備の仕方が分からず四苦八苦しているのかもしれない。
とは言っても、別に特殊な操作が必要というわけではなく、ただ自分につければいいだけの話なのだが。
ゲームによっては、装備するために色々な操作を要するものもあるから、多分別ゲームから来た子なのだろう。
次の瞬間、その少年が地面に置いた装備が、二つに増えた。
……え?
偶然バグってしまったのだろうか。
しかし、その少年は持っているものを次々に増やしていく。
これは増殖バグ技だ。
これははやく止めなきゃいけない。
ゲームバランスが崩壊してしまう。
こういうことを放っておくと、ずぐにゲームはめちゃくちゃになってしまうんだ。
ウニュ町に行って、直接この少年を止めよう。
……しかしウニュ町というのは、どこにあるんだ。
どうやって行けばいいんだそこに……。
自分で作った町なのに住所が分からないぞ。
その時、回復を終えたサンダーバード君が目に入った。
彼(?)は、ワープ装置の方へと向かっていく。
持ち場に帰るのだろう。
僕はサンダーバード君を呼び止めた。
「サンダーバード君、この街まで、飛べる?」
僕はモニターを指差して尋ねる。
サンダーバード君に乗ってそこまで行こうと思ったからだ。
しかしバチバチと電撃が走っているその身体を改めて見て、不安な気持ちが募ってゆく。
「ナツメグ様の命令でありましたら、可能です。持ち場を離れることにはなりますけど……」
「12階以上は登ってこられなくしたから大丈夫だ。……ラスボス命令だ。持ち場を離れてくれ」
「それなら大丈夫です。行きましょう。……ですが、これはどこにある町ですか?」
「分からない」
「…………」
「あ、でもこのモニターに座標が書いてある。ここ。ここまで僕を乗せて至急飛んでくれないか」
「……なるほど。分かりました。すぐ行きましょう」
僕はサンダーバード君の背中にしがみつく。
サンダーバード君はすぐに最後の塔の最上階から飛び出した。
こんな恐怖体験があっていいのかというくらいの高さだ。
「これ、僕がこのバチバチしてる電撃をくらうことはないよね?」
「仲間に危害を加えることは“基本的に”できないので、ダメージはゼロです」
「良かった……。謀反を起こされる心配がないね。……ってあれ? そういえばかつてクーデターがあったとか……」
「モンスター側の者たちは、基本的に相討ちはできません。ただ個別に何らかの設定をしますと、味方への攻撃は可能になるようです」
「なるほど……。特殊な設定ね……」
「そういう特殊な設定をした場合を除いては、ダメージを受けることはないといったところです」
「わかった、ありがとう」
「我々モンスターは、人間と違って何度も生き返ることができます。ですがそれなりの痛みを伴うものなので……ひたすら使い捨てにされると困るんですよね。先代のラスボスであったハイパーアルティメットキングドラゴン様は、我々をボロボロになるまで使い続けました。機械が回復してくれるので、肉体的にボロボロであり続けることはないのですが、精神的にはボロボロになっていきました。ナツメグ様が、そうでないことを祈ります」
「さっきはごめん……」
「ナツメグ様はこれからです。頑張ってください」
電撃を帯びた良く分からない鳥に励まされる僕。
……正直、嬉しかった。
海が近づいてきたところで、かなりの速度で飛んでいたサンダーバード君は着陸態勢に入る。
小さく見えていた町が、どんどん大きくなってきた。
ボウケンクエスト -ウニュ町-
僕らはウニュ町へと到着した。
潮の香りがする。
何ともリアルなゲームである。
「ありがとう、サンダーバード君。ここでいいよ。君は持ち場に戻ってくれ」
「わかりました、お気をつけてください」
サンダーバード君は最後の塔の方へ帰っていった。
今度何か買ってあげよう。
彼(?)は、一体何が好きなんだろう……。
……今はとりあえず、雑貨屋だ。
雑貨屋はどこだ?
その店の前で降ろしてもらえば良かったと、今になって思う。
しばらく走りまわっていると、不気味な石像があった。
それはゲームによくいる大魔王のような石像だった。
何だこの魔王は……。
勝手に他のゲームからパクってきた町だから、こういうこともあるのか。
こんな魔王みたいなやつはこのゲームにいないぞ……。
でもまあ、そんなの気にするやつはいないか。
その石像の近くで、雑貨屋を発見した。
急いでそこに入ると、その少年はまだいた。
少年は少し驚いたような素振りを見せる。
が、こちらに背を向けてその増殖行為を続行した。
「少年、そういうことは良くないぞ」
僕はいきなりそう言った。
大剣を背負ったその少年は、顔だけをこちらに向ける。
見た感じ、そこまで強くはなさそうだ。
「……誰ですか……?」
「あー……えっと……通りすがりの者だ」
「ふーん……」
「そういうのは良くないぞ、少年」
「うるさいな……。何してるかも分からないくせに」
「少年、マジでそれはやめろ。このゲームがおかしくなっちゃうだろ」
「あんたに関係ないだろ、何なんだよあんた。最近は頭おかしいヤツが増えたな……」
……ここは我慢だ。
力でねじ伏せてしまいたいところだが、ラスボスがこんなところで戦闘開始してはダメだ。
落ち着こう……。
「とにかくそれはルール違反だろう、やめような」
「このゲームの規約にどこにも書いてないから大丈夫、うるさいんでどっか行ってくれますか」
「名前は何て言うんだ」
「瀬津那」
「中二病みたいな名前だな。僕だったら小五あたりで卒業してる名前だ」
「本名なんだよ。あと僕は中三だ」
「実年齢の問題を言っているのではなく……」
「もういいだろ! 邪魔しないでくれる?」
「そういうことをやられると、こっちは死活問題なんだ。やめてくれ」
「これとお前に何の関係があるんだよ」
「こっちは生活、いや、人生がかかってるんだよ! だからやめてくれ!」
「こんなゲームに人生かけてるって、かなりヤバい人なんだね」
「お前! いいか! それ次やったらアカウント消すからな!」
「今時、そんな偏差値の低い煽りするヤツ、いないよ……」
「本当だからな! 次やったら容赦しないぞ!」
「……はいはい。うるさいな……」
瀬津那少年は面倒くさそうにログアウトした。
なかなか素直なやつじゃないか……。
これでひとつ、この世界の平和を守れたのかもしれない……。
雑貨屋を出ると、夜になっていた。
……どうやってあの塔に戻ろうか……。
サンダーバード君は帰してしまったし。
いつも後先考えずに行動してしまう。
今度はラスボスが行方不明になったとか言われてなければいいな……。
完全に僕はトラブルメイカーと化しているじゃないか。
一難去ってまた一難。
この状況、どうすればいいんだ……。
僕は誰もいない町をぶらぶら歩いていた。
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