第2話 最終決戦
最後の塔、最上階にて。
王座に座る謎の男は、居眠りをしている。
一体こいつは誰なんだ……。
僕みたいなプレイヤーがここまで来て、疲れてあそこで眠ってしまったのだろうか?
……と思っていた矢先、空中に文字が浮かび上がる。
そこには、
「ハイパーアルティメットキングドラゴン」
と、表示された。
ということは……
この男がラスボス……?
どう見てもドラゴンじゃないだろう。
何なんだよ。
…………なるほど、分かった。
あれが第一形態か。
強いボスによくあるパターンだ。
最初は人間とか老人の姿をしていて、第三形態くらいまで進化していくのだ。
……で、寝てるけど、この人を倒しちゃっていいのか?
いや、人じゃなかった。
ハイパーアルティメットキングドラゴン第一形態を……。
……まぁ、しょうがない。
倒してしまうか。
せっかくここまで来たんだし。
早速僕は彼の元まで走っていき、両手で持った大剣を思いっきり振り下ろす。
ズシャア!!
一撃必殺。
そのドラゴン(第一形態)はその場に倒れ、消えていった。
全く達成感も感動もないラストバトルの幕開けだ。
さあ、これからが本番。
第二形態が……。
………………。
…………。
……。
……現れない。
もしや、これで終わりなのか……?
静まり返る広間。
すると、広間の壁の向こうから、ボソボソと人の話し声が聞こえてきた。
この壁の向こうに何か部屋でもあるのだろうか。
結構な人数の声である。
まさか、この壁が壊れて、何十人も一気に攻めてくるのか……?
このゲームのことだから、そういう理不尽な展開も有り得る。
などと思っていると、壁の一部分が急に開く。
僕は身構えた。
そこには、長い黒髪の女の子と、黒いドラゴンが立っていた。
さっき飛んでいた女の子とドラゴンだ。
黒いドラゴン……。
……もしや、こいつがハイパーアルティメットキングドラゴン第二形態……?
……という感じでもなさそうだ。
女の子の方は、白のワイシャツに黒いジャケット、黒いタイトのミニスカートをかっこよく着こなしている。
そして、黒い短めのソックス。
僕はニーソが作り出す絶対領域が至高だと思っているが、これはこれでたまらない。
年上っぽい風格で、スタイルもよく、美しい。
胸はまな板状態ではあるが、個人的には最高だ。
彼女は何も武器を持っていなかった。
ドラゴンも攻撃してきそうな雰囲気はないし……。
どうやら、この人たちは敵ではなさそうだ。
僕はとりあえず剣を鞘に収める。
その人たちは、ゆっくりとこっちに歩いてきた。
彼女はプレイヤーなのか?
いや、でもドラゴンを従えるプレイヤーなんていないはずだ。
「あ、あなたは、GM?」
僕は、恐る恐る聞いた。
ちなみに、GMというのは運営側の人間のことだ。
「私の名前は紗彩です。詳しく話すと長くなってしまうのですけれど、GM……のようなものですね。こちら側の人間、つまり、モンスター側の人間といったところでしょうか」
モンスター側の人間?
モンスター側に人間がいたのか。
……でありながらGM?
……よく分からないが、とりあえず……、
とても綺麗な人だ。
「何でメンテ中なのに、プレイヤーがいるダニ? おかしいダニ!」
と、黒いドラゴンが急に喋った。
こいつ、喋るのか。
しかも何だ、この不快な喋り方は……。
「プレイヤーは全員ログアウトしてるはずダニ。お前は何者ダニ……」
……そうだったのか。
何だか、気まずいぞ。
メンテ中で、皆ログアウトしているところだったのか……。
うっかりモンスターがいない状態で最上階まで来てしまって、ラスボスを倒してしまったこの展開。
メンテ中だったから、ラスボスもきっと油断して寝ていたんだろう。
やらかしてしまった。
とりあえず、謝っておこう……。
「ご、ごめんなさい……。誰もいなかったものでつい……。ラスボスを……倒してしまったようで……。あの、では、僕は街に……」
「そうもいかないんです。ナツメグさん」
なぜ僕の名前を……
って、運営側だから知っているか。
……どうやら本当に、運営サイドの人のようだ。
紗彩さんの長い黒髪がサラサラと揺れる。
ウザいドラゴンは僕の方をじっと見ていた。
「ナツメグさんは今、このゲームのラスボスである、ハイパーアルティメットキングドラゴンを倒しました」
「あぁ……、やっぱり僕が倒してしまったんだ……」
「メンテ中ということもあって、少々ここに来やすくなってしまっていたようですが」
「……少々どころじゃない。そのラスボス以外誰もいなかったよ」
「今、この瞬間、世界が大きく変わってしまったのです。ハイパーアルティメットキングドラゴンが倒されたことによって」
「僕は街に帰るから、メンテ後にラスボス、復活させておいてくれよ」
「そうはいかないのです……。もう、ハイパーアルティメットキングドラゴンは復活することはできないのです」
「何だって……?」
「そこで、ナツメグさんにお願いがあるのです。あなたに、このゲームのラスボスになって欲しいのです!」
……?
……唐突過ぎて全然話が分からないのだが……。
このゲームの新しいラスボスが僕!?
何がなんだか分からない。
でも紗彩さんの頼みならいいかな……。
なんちゃって……。
「実は、このゲーム……、モンスター側の者たちが、運営を任されているのです。あの壁の向こうに、このゲームを運営している者たちがいます」
ゲーム内で運営していたのか……。
それは初めて知った。
だから、運営でもありモンスター側でもあると紗彩さんは言ったのか。
「そして、このゲーム内でできることの全ての決定権は、ナツメグさんが先ほど倒した、ハイパーアルティメットキングドラゴンにあったのです」
「……それを倒してしまったということは……。……僕はかなり危険なことをしてしまったってこと?」
「元々ハイパーアルティメットキングドラゴンは、全てが適当な人でした。彼の一存で全てが決まるようになっていて……。このゲームの難易度の高さは異常だったわけですが、それも彼が決めたことなのです。この塔にプレイヤーを登らせたくない一心で」
「良く分からないけど、そのラスボスの独裁政権みたいになっていたっていうことなのか」
「簡単に言えば、そういうことなのです。ハイパーアルティメットキングドラゴンが適当だったことで、モンスターたちの反感も高まっていたところでした。ハイパーアルティメットキングドラゴンは『自分のためならモンスターたちはいくら死んでも良い』というような考えでしたから」
「モンスターたちの反感……? モンスターに感情があるの?」
「モンスター側の者たち同士では喋ったりできます。私のような人間はもちろん話せますし、モンスターの形をしている者でも中ボスクラスのモンスターからは話すことができます。ザコモンスターは喋ることはできないのですが……」
「へえ……。そうだったんだ……」
「喋ることができると言っても、プレイヤーと喋ってしまうと色々問題になりそうなので、プレイヤーとの意思疎通は禁止していますが」
「なるほど……。初めて知った」
「ということで私は、今こうしてせっかくここまで来てくださったナツメグさんに、ぜひ、ラスボスになって頂きたいのです」
「それはめっちゃ面白そうだけど、それって気軽になっていいものなの?」
「今まではハイパーアルティメットキングドラゴンがこのゲームを好きなように支配していました。でも、廃人であるあなたのようなプレイヤー視点で、このゲームを改革していってほしいのです。今はまだ、物珍しさでプレイヤーがそれなりにいてくれていますが、もしこのままメチャクチャな状態が続けば、そう遠くない未来にサービス終了してしまうでしょう」
「確かに……。物好きしかプレイしないゲームだよ、これは」
「だからこそ、プレイヤーのことを一番分かっているナツメグさんに、ラスボスになって欲しいのです。もしこのゲームが終わってしまったら、私たちモンスター側は、ゲームごと消えてしまう。だから、私たちのためにも……」
「本当に僕がやっても大丈夫なのかな……?」
「ハイパーキングアルティメットドラゴンでもできていたのですから、大丈夫です」
「いや、でもやっぱり僕にそんな大役が……」
「ナツメグさん、メンテ終了まで時間がないのです。もうすぐメンテが明けてしまいます。メンテ中はラスボスがいなくなっていても大丈夫なのですけれど、メンテが明けてラスボスがいない状態ですと、このゲームのシステムがバグってしまうかもしれないのです。そんな致命的なことが起こったら、ここにいる皆が消えてしまうかもしれないのですよ。私も。ナツメグさんも」
「……まぁ、いいか。分かった。こんな面白そうな機会は滅多にないし、僕、ラスボスになるよ」
「ありがとうございます!」
紗彩さんは、僕の右手を、両手で包み込む。
えへ……。
えへへ……。
こんな素晴らしいことってあるのだろうか。
ラスボスになって良かったかもしれない。
彼女の手は温かかった。
「じゃあ、ナツメグさん、こっちに来てください。あまり時間がないので、急ぎ気味で」
先ほど紗彩さんたちが出てきた壁の中へと、導かれる。
紗彩さん、僕、ドラゴンの順番でそこに入っていった。
そのドラゴンは、彼女のしもべのようだった。
紗彩さんの後ろを歩いていると、彼女のいい香りに包まれる。
僕は大きく空気を吸い込んだ。
狭い通路を通り、奥の部屋に到着する。
そこはコンピュータールームがあった。
たくさんの机や椅子、コンピューターがある。
床には色々なものが散乱していた。
ここでゲームの色々な設定なんかをしているのだろう。
紗彩さんはそこに着くなり、一番大きなコンピューターを何やら操作し始める。
黒いドラゴンも、僕の後ろで彼女のことを見ていた。
「じゃ、ナツメグさん、この『認証』っていうところを押してください。『認証されました』と言われるまで、そこから指を離さないでくださいね」
「う、うん!」
僕は言われた通り、「認証」を押した。
指先に妙な感触を感じる。
これがラスボスになる儀式……。
「認証完了しました」
という文字が、画面の中に現れる。
思ったよりも簡単に、僕はこのゲームのラスボスとなった。
「ナツメグさん、これであなたが今からこのゲーム『ボウケンクエスト』のラスボスです。でも、心配はしなくていいですよ。分からないことがあったら何でも私に聞いてください」
「何だかワクワクしてきたな……」
「では、皆さんに紹介するので、こちらの方へ来てください」
「皆さん……?」
紗彩さんに導かれ、そこからまた通路を進むと、会議室のような所に出た。
そこには、二十ほどの人がいた。
いや、人……ではない。
ほとんどはモンスターだ。
人間は一人だけで、その他全員異形の者だ。
こんな空間がこのゲームにあったのか……。
先ほどの話し声は、ここから聞こえたものだったのだろう。
「皆さん、ご静粛にお願いします。ここにいらっしゃるのが、このゲームの新しいラスボス、ナツメグさんです!」
そこにいた者たちは全員黙り、こっちを見ている。
僕の人生でこんなに人に見られたことがあっただろうか……。
すると、そこにいた大多数の者が、拍手した。
きっと、大体の者は受け入れてくれたということなのだろう。
しかし、こんな、ぽっと出の僕が特に批判もなく受け入れられてしまうなんて、よほど前のラスボスが酷かったんだろうなとも思えた。
と、その時、
バン!!!!!!
「反対に決まってんだろ、そんなの!」
青い髪の女性が机を叩いて立ち上がり、そう叫んだ。
それは、そこにいた唯一の人間だった。
肩にかかるくらいの、鮮やかな青色の髪。
背中に大きな弓をしょっている。
かなり肌の露出度が高く、常夏の国から来たというような出で立ちだった。
「ユーリ。私が許可したことです」
「……ったく……うるせぇな……」
ユーリと呼ばれる青髪の女性は、不機嫌そうではあったが、素直に座った。
ガコッ!!
ユーリは、そこに置いてあったゴミ箱を蹴飛ばす。
僕はそのゴミ箱よりも、彼女の短すぎるスカートから伸びる太ももに目がいっていた。
……いきなり険悪な雰囲気だ。
どうなってしまうのだろう。
本当に僕がラスボスになって良かったのだろうか……?
ユーリは僕の方を一度も見なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます