第八のページ

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 貴方は手記を読む手を止めた。

 止めざるを得ないと表現する方が正しいだろう。


 そのページはぐしゃぐしゃに書きなぐられており、判別が不可能だったからだ。

 今までの文字は読みづらい箇所はあったものの、なんとかその意味を判断することができた。

 だがこのページだけは、まるで怒りと悲しみに任せたように荒れた線が無秩序に舞っている。


 さてどうしたものか……。

 集中していた視線を上げ、眉間を揉みながら軽く肩を回して気持ちを落ち着かせる。


 ふいに何かの唸り声が聞こえた気がしたが、気のせいだと判断する。

 寒い。

 今は夏場のはずだ。

 冷房もつけていないのにこんなに冷えることなどあるのだろうか?

 そもそも自分はなぜこの手記を読み始めたのだろうか。

 どうにも記憶があいまいで、自分がなぜこの手記をこれほどまで真剣に読んでいるかすら理解できない。

 すっと背筋をなでる感覚がした。

 背後は……振り返らない方がいいだろう。


 これは本当に、ただの記録なのだろうか?

 もしかしたら、自分は恐ろしい過ちを犯してしまったのではないだろうか?


 だがふわりと香る黴びた紙の香りになぜか気持ちが落ち着き、続きへの興味がむくむくと湧いてくる。

 目の疲れでぼやけていた視界も戻ってきた。


 ふと、滲んだ文字の中でもかろうじて読み取れる文章があることに気づく。

 その短い一文は、周りとは違ってややはっきりとしており、貴方に読ませようとする意図すら感じてしまう。

 不思議な感覚に包まれながらも貴方はその文を読むことを止められない。

 手記の人物、梔無暁人にどのような出来事が起こったのか。

 好奇心は膨れ上がり、もはや貴方の支配下を離れつつある。


『もう嫌だ』


 読み取れたのはこの一文のみだった。

 貴方は突き動かされるように次のページへと手を伸ばした。

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